34 / 262
*シャルロット姫と食卓外交
前世の夫との再会?
しおりを挟むグレース皇子が部屋に戻った時にはクロウの姿はなかった。
座椅子の隣にはワゴン、空の皿と手付かずのフルーツサンドが乗った皿。
今朝はシャルロットが朝食を部屋に届けにきてくれるはずだが……
バルコニーのドアが開いたままで爽やかな朝の風が部屋中に吹き渡っているだけだった。
*
どれくらい空を飛んでいたのだろうか。
王有林のあの向日葵畑の前に聳え立つ芸術的な美しい外観の高い塔。
その最上にある部屋の中に、クロウはシャルロットを連れてきた。
パッと見渡す限り階段もない。
古びた塔だが中は清潔感があってだだ広い。
キングサイズの大きなベッドには真っ黒なシーツに毛布、沢山の本が並ぶ本棚、壁には銀色の額縁に飾られた押し花、ドライフラワーに猿梨の蔓、観葉植物、天窓、飾り棚には小さな鉢に入った多肉植物、綺麗な石が几帳面に並べられている。
たった今2人が入ってきた唯一の出入り口のルーフテラスは、まるでベランダガーデニングのように沢山の花や背の低い木が植えられている。
前世で植物を愛していたコレクター癖のある夫の部屋によく酷似していた。
クロウはご機嫌に鼻歌を歌いながら宝物を扱うかのように大事にそっとベッドにシャルロットを寝かせた。
「私の部屋だよ。普段はグレースの部屋で生活してるから、趣味部屋みたいなものかな」
「なんで私を連れてきたのかしら?」
「侍女なんかやめてここで暮らせば良い。必要なものはなんでも私が用意するから不自由なんてさせないよ。ドレスでも宝石でも君が欲しいものはなんだってあげるよ」
「勝手に決めないでちょうだい。急にいなくなったらみんなが心配するわ!」
むくりとシャルロットは身体を起こしベッドから立ち上がった。
出入り口を探したがやはりさっき入ってきたルーフテラスしか出口はないらしい。
手すりを掴んで下を見るがビル十数階分くらいの高さだろうか、あまりの高さに目眩を覚えた。
「ねえ、階段は?」
「私は飛べるからそんなもの必要ない」
「早く降ろしてちょうだい、グレース皇子に朝食を渡さないと!約束してるの。それに午後からは騎士団で……」
「里緒がさっきから冷たい」
むうっとクロウは拗ねた。
「あなたが突拍子も無いことするからよ。私もまた会えて嬉しいですわ、でも感動の再会に浸ってる時間なんてなかったもの」
「私も嬉しいよ」
明るく無邪気な笑顔を見せるクロウにシャルロットは頭を抱えた。
「ああ……話が通じない……」
油断していると背中から抱き締められてまたベッドに連れ戻された。
ぎゅっとシャルロットを抱き締めて、「愛してる」と囁かれた。
「この世界で生まれ変わってから長い年月ずっと前の世界に残して来た君と陽太のことばかり思って生きていた。幻狼の不老長寿の命をもらったけれど、私にはただの生き地獄だった」
「寂しかった」
すぐ後ろで震える声にシャルロットの目頭は熱くなった。
ポロポロと涙が溢れ出る。
「あなたは本当にいつもいつも勝手だし急すぎるのよ。わたしのことなんか全然考えてくれなかったわ!死ぬ時までずっと。どれだけ悲しかったか……!」
幼なじみで小さい頃からずっと一緒だった彼はマイペースでとても自由な人だった。
ずっと隣で振り回されていたが屈折したところがなく自由な彼がとても好きだった。
シーツがシャルロットの涙で濡れる。
クロウは優しくシャルロットのこめかみにキスをした。
「ごめんね、里緒」
*
ーー空はすっかり夕陽で赤く染まっている。
「ねえ、クロウ、そろそろわたし帰りたいの」
ルーフテラスで二人きりのお茶会。
木目調の味わい深いテーブルの上には紅茶とクロウがどこからか調達して来たボーロ・デ・メルという蜂蜜のケーキ。
それを食べるシャルロットの顔をさっきから飽きることもなくニコニコ見つめていた。
「あはは、それ二十一回目」
「笑い事じゃ無いわ!これは誘拐よ?立派な犯罪だわ!わたし、十五歳よ!未成年者誘拐よ!ロリコン幻狼って呼ばれるわよ!!」
「構わないよ。私は里緒がおばあさんでも幼女でも愛してるよ。それに里緒も会えて嬉しいって言ってたじゃないか、これって合意だよね?後、幻狼を裁く法律なんてこの国には無いから安心してね」
クロウはニッコリと笑う。
「里緒が寂しいって言うなら、ユーシンもここに連れてくるよ。そうだ、また親子三人で暮らそうじゃないか」
良いことを思いついた!とでも言いたげな表情で声を上げた。
シャルロットは唖然とした。
「ユーシンのことも知ってるの?」
「うん、城の外で小ちゃいユーシンが捨てられているのを私が見つけてね。すぐに陽太の生まれ変わりだって気付いたよ。だから城に連れて来たんだ。向こうは知らないけれどね」
捨て子だったユーシンは子供のいない使用人夫婦に引き取られ城で育ち、やがて第二騎士団に入ったらしい。
クロウは陰ながらずっとユーシンを見守っていたそうだ。
楽しそうに語るクロウに絆されそうになったが、違う。
「ユーシンには迷惑をかけないで!騎士団の仕事もあるんだから監禁は良く無いわ」
……監禁生活は暫し続きそうだ。
0
お気に入りに追加
396
あなたにおすすめの小説

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。


断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる