シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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*シャルロット姫と食卓外交

前世の夫との再会?

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 グレース皇子が部屋に戻った時にはクロウの姿はなかった。
 座椅子の隣にはワゴン、空の皿と手付かずのフルーツサンドが乗った皿。

 今朝はシャルロットが朝食を部屋に届けにきてくれるはずだが……
 バルコニーのドアが開いたままで爽やかな朝の風が部屋中に吹き渡っているだけだった。

*
 どれくらい空を飛んでいたのだろうか。
 王有林のあの向日葵畑の前に聳え立つ芸術的な美しい外観の高い塔。
   その最上にある部屋の中に、クロウはシャルロットを連れてきた。
 パッと見渡す限り階段もない。

 古びた塔だが中は清潔感があってだだ広い。
 キングサイズの大きなベッドには真っ黒なシーツに毛布、沢山の本が並ぶ本棚、壁には銀色の額縁に飾られた押し花、ドライフラワーに猿梨の蔓、観葉植物、天窓、飾り棚には小さな鉢に入った多肉植物、綺麗な石が几帳面に並べられている。

 たった今2人が入ってきた唯一の出入り口のルーフテラスは、まるでベランダガーデニングのように沢山の花や背の低い木が植えられている。

 前世で植物を愛していたコレクター癖のある夫の部屋によく酷似していた。

 クロウはご機嫌に鼻歌を歌いながら宝物を扱うかのように大事にそっとベッドにシャルロットを寝かせた。

「私の部屋だよ。普段はグレースの部屋で生活してるから、趣味部屋みたいなものかな」

「なんで私を連れてきたのかしら?」

「侍女なんかやめてここで暮らせば良い。必要なものはなんでも私が用意するから不自由なんてさせないよ。ドレスでも宝石でも君が欲しいものはなんだってあげるよ」

「勝手に決めないでちょうだい。急にいなくなったらみんなが心配するわ!」

 むくりとシャルロットは身体を起こしベッドから立ち上がった。

 出入り口を探したがやはりさっき入ってきたルーフテラスしか出口はないらしい。
 手すりを掴んで下を見るがビル十数階分くらいの高さだろうか、あまりの高さに目眩を覚えた。

「ねえ、階段は?」

「私は飛べるからそんなもの必要ない」

「早く降ろしてちょうだい、グレース皇子に朝食を渡さないと!約束してるの。それに午後からは騎士団で……」

「里緒がさっきから冷たい」

 むうっとクロウは拗ねた。

「あなたが突拍子も無いことするからよ。私もまた会えて嬉しいですわ、でも感動の再会に浸ってる時間なんてなかったもの」

「私も嬉しいよ」

 明るく無邪気な笑顔を見せるクロウにシャルロットは頭を抱えた。

「ああ……話が通じない……」

 油断していると背中から抱き締められてまたベッドに連れ戻された。
 ぎゅっとシャルロットを抱き締めて、「愛してる」と囁かれた。

「この世界で生まれ変わってから長い年月ずっと前の世界に残して来た君と陽太のことばかり思って生きていた。幻狼の不老長寿の命をもらったけれど、私にはただの生き地獄だった」


「寂しかった」

   すぐ後ろで震える声にシャルロットの目頭は熱くなった。
 ポロポロと涙が溢れ出る。

「あなたは本当にいつもいつも勝手だし急すぎるのよ。わたしのことなんか全然考えてくれなかったわ!死ぬ時までずっと。どれだけ悲しかったか……!」

 幼なじみで小さい頃からずっと一緒だった彼はマイペースでとても自由な人だった。
 ずっと隣で振り回されていたが屈折したところがなく自由な彼がとても好きだった。

 シーツがシャルロットの涙で濡れる。
 クロウは優しくシャルロットのこめかみにキスをした。

「ごめんね、里緒」

 *

ーー空はすっかり夕陽で赤く染まっている。

「ねえ、クロウ、そろそろわたし帰りたいの」

 ルーフテラスで二人きりのお茶会。
 木目調の味わい深いテーブルの上には紅茶とクロウがどこからか調達して来たボーロ・デ・メルという蜂蜜のケーキ。
 それを食べるシャルロットの顔をさっきから飽きることもなくニコニコ見つめていた。

「あはは、それ二十一回目」

「笑い事じゃ無いわ!これは誘拐よ?立派な犯罪だわ!わたし、十五歳よ!未成年者誘拐よ!ロリコン幻狼って呼ばれるわよ!!」

「構わないよ。私は里緒がおばあさんでも幼女でも愛してるよ。それに里緒も会えて嬉しいって言ってたじゃないか、これって合意だよね?後、幻狼を裁く法律なんてこの国には無いから安心してね」

 クロウはニッコリと笑う。

「里緒が寂しいって言うなら、ユーシンもここに連れてくるよ。そうだ、また親子三人で暮らそうじゃないか」

 良いことを思いついた!とでも言いたげな表情で声を上げた。
 シャルロットは唖然とした。

「ユーシンのことも知ってるの?」

「うん、城の外で小ちゃいユーシンが捨てられているのを私が見つけてね。すぐに陽太の生まれ変わりだって気付いたよ。だから城に連れて来たんだ。向こうは知らないけれどね」

 捨て子だったユーシンは子供のいない使用人夫婦に引き取られ城で育ち、やがて第二騎士団に入ったらしい。
 クロウは陰ながらずっとユーシンを見守っていたそうだ。
 楽しそうに語るクロウに絆されそうになったが、違う。

「ユーシンには迷惑をかけないで!騎士団の仕事もあるんだから監禁は良く無いわ」

 ……監禁生活は暫し続きそうだ。
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