上 下
21 / 262
*シャルロット姫と食卓外交

シャルロットと第二騎士団

しおりを挟む

   ーー第二騎士団 鍛錬場
 出来上がったオニギリをバスケットに詰めてリディと二人で鍛錬場まで運んだ。

「結構 遠いわね」

 シャルロットとリディの額には汗がにじむ。
 太陽が空の真上に登っている、春とは言え今日は日差しが強い。

 そんな中、鍛錬場には野太い掛け声と共に十数人の騎士達が挙って一心不乱に剣を素振りしていた。
 彼達の前にグレース皇子も混じっていた。

「運動部の朝練風景のようね」

 シャルロットはまじまじと彼らを見つめながらボソッと呟き、微笑んだ。

 鍛錬場を過ぎたところに第二騎士団の詰め所と寮、食堂があった。
 食堂の中に入ってシャルロットとリディは声をあげた。

「どうしてこんなに散らかってるのかしら?」

「酷いですね~」

 思わず扉の前で棒立ちしてしまっていたので、ついさっき閉めたはずの扉が急にガタンと音を立てて開いたのに不意を打たれて思わず小さく悲鳴をあげてしまった。

 シャルロットとリディに続いて入ってきたのはオレンジ頭のエプロン姿の青年だった。
 青年はシャルロットと目が合い目を見張っていた。

「あれ?侍女さん達がこんなところへ…一体どうしたんですか?」

「勝手に入ってしまってごめんなさい!こちらにグレース様がいらっしゃってるって聞いて…差し入れを持ってきたんです」

「はぁ?」

 オレンジ頭の君は訝しげな目でこちらを見ていた。
 そうだった、今は侍女服姿だった。シャルロットは今更気付くがどうしようもない。


「差し入れの“オニギリ”です、騎士団の皆さんの分あると思います。お納めください」

 リディは淡々とした口調でそう言い、オレンジ頭の彼にバスケットを手渡した。シャルロットも続いてバスケットを彼に預けた。

 オレンジ頭の彼は呆然と立っている。

「オニ…ギリ?」

「オリヴィア小国の郷土料理?です。お口に合うと良いのですが」

 オレンジ頭の彼は目を見開いたままだ。
 シャルロットはコクリと首を傾げた。

「…ありがとうございます!自分はユーシン・フォリア、第二騎士団所属の騎士です。えっと…かくかくしかじかで…今ここを管理する人がいないんで、俺がおさんどんしてるまでっす。差し入れ、すごくありがたいっす!」

 感じの良い笑顔を向けられ、シャルロットの緊張も解ける。

「そうだったの。騎士の皆さんが帰ってくるまでに食堂を軽く掃除しちゃいましょうか」

 シャルロットは腕まくりをし、食堂の奥から雑巾や箒を見付けて鼻息を荒くした。
 それにはユーシンも動揺する。

「そんな、申し訳ないっす!」

「こんな状況、放って置けないんですもの」

「シャルロット様は言い出したら聞きませんから、シャルロット様、私も手伝います」

「ありがとう、リディ」

 冷や汗をかき狼狽えるユーシンをよそに、せっせと掃き掃除拭き掃除を始めるシャルロットとリディ。

「お、俺も!」

 黙って立っていられないと、ユーシンもようやく動き出す。
 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...