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奪われたお城と皇子の愛を取り戻せ!?〜シャルロットの幸せウエディングパレード
魔王様のふわふわザルツブルガーノッケルン
しおりを挟む「いかにも。この世界では魔王と呼ばれている。俺の名前はオーエンだ。お前は精霊王オリヴァーの子孫か。お前の兄殿に会ったことがあるぞ」
シャルロットが驚いた顔をして、目の前に現れた魔王を見上げる。
彼は豪快に笑うと、名乗った。
周囲もどよめく。
「た、確か、お兄様が魔王を倒したって言ってたわね、あの魔王様?」
「その魔王だ。魔王は死なないからな」
精霊の召喚はどんな精霊が来るのか決まっていない。
下は名前のない下級精霊から、上は高位精霊までピンキリなのだがーー
まさか、一発でレアリティがスーパースペシャルレアな魔王を引き当てるとは……。シャルロットの神引きに、コボルトは苦笑していた。
幻狼のような高位精霊や世界の統括者であるコボルトより遥かに上のランクに位置する精霊だ。
「魔王様って……悪い人なの?」
シャルロットが想像していた魔王は転生前の一般的な魔王のイメージだった。
だが目の前の魔王はとても気さくで感じの良さそうな好青年。
イメージしていたものとはかけ離れている。
「俺の双子の片割れ、精霊王が精霊を統べる王ならばーー俺はこの世界の全ての魔物を統べる王だ。俺はただ存在しているだけだ。それに良いも、悪いもない」
オーエンは地に降り立ち、ニッコリと明るく笑った。
シャルロットは彼に向かって深く頭を下げた。
「オーエン様、どうか力を貸してください!」
「良かろう、俺と契約するか?姫殿」
「ええ!」
「では、対価を払ってもらおうか」
魔王の言葉にシャルロットは一瞬固まった。
「えっ……もしかして対価って、私の命とか?」
「そんなもの要らん。姫殿の事は精霊どもから噂を聞いて知っているぞ。美味い料理を作る姫らしいな」
「お料理は好きですけど……」
「お前と契約する代わりにアレを食わせてくれ。俺はアレがどうしても食べたいのだ!卵のふわふわした泡の山を焼いたやつ!あのふわふわが食べたいのだ。昔 ある国の城で食ったんだが……アレが三百年経っても忘れられないのだ!」
ざっくばらん過ぎてシャルロットは戸惑った。
「山……卵の泡……、スイーツ……?あ……!たぶん……あれね!ねえ、公爵様、お屋敷の台所を借りても良いかしら?」
シャルロットは騎士達に紛れてこちらを見ていたレイター公爵に声を掛けた。
レイター公爵は突然現れた魔王に口をポカンと開けて驚いた様子だったが、シャルロットの問いかけに呆然としながらも首を縦に振った。
*
“ザルツブルガーノッケルン”
前世で、テレビで知って食べたくなってレシピを調べ、何度か自作したことのあるメニューだ。
卵黄で作った甘い甘いなめらかなカスタードをグラタン皿に流し、その上に小麦粉やミルクを加えたメレンゲをカスタードの上にふんわり盛ってオーブンで焼いたスフレのようなお菓子。
焼き立てを早速 応接間で待機していた魔王へ振る舞った。
魔王は子供のように無邪気に笑い、はしゃぐように喜んだ。
「コレだ!コレだ!俺が食べたかったのは……!お前は天才か!」
魔王だなんてとても言わなければ分からないほど笑顔が多くて明るい性格のようだ。
もぐもぐと美味しそうに焼き立てのスフレを頬張る魔王。
「うむ、初めて食ったが……うまいな」
魔王の向かいで同じ料理を食べている王も頷いた。
「満足していただいて良かったわ」
シャルロットも緊張感がほぐれて笑顔になった。
「姫殿、お前と契約してやろう。対価として今後もこのふわふわを作ってもらうぞ!いいか?」
「ええ!ありがとうございます!よろしくお願いします」
魔王はフッと笑うとシャルロットの人差し指を手に取って、召喚時にシャルロットが自ら噛んだ部分を魔王の口に含まれ、そのままガブリと甘噛みされた。
さっきまで塞がっていた噛み跡から血が滲む、魔王はシャルロットの血をペロリと舐めた。
するとふわりと室内に風が待って、白い光が二人を包む。
シャルロットはびっくりして思わず手を振りほどいてしまう。
「契約は完了した」
「よろしくお願いします」
「ああ、ではーー姫殿にこれを授けよう」
魔王はシャルロットに大きなハリセンのような物を手渡した。
「?」
「こいつで ど突けば魔法にかかったやつも正気に戻るだろう」
ハリセンで……ど突く?
「もっ、もっと良い形はなかったのかしら?魔法のステッキみたいなものじゃダメなの?」
シャルロットは苦笑した。
「面白いからいいだろう!ガハハ」
「面白さ重視なのね…」
こうしてシャルロットと魔王オーエンの契約は締結した。
*
一夜明けて早朝から第二騎士団は、公爵家の騎士らと共に鍛錬を始めていた。
このような非常時だからこそ気を引き締めていないとーーユーシンはぐっと拳を握り、アヴィと共に不在のコハン団長に代わって騎士団をまとめていた。
魔法に掛からなかったコハン団長や一部の騎士らは城に留まり城内の様子を見回り魔鉱石の捜索に当たっている。
第一騎士団は九割ほどが魔法に掛かり すっかり洗脳されている。ゴルソン侯爵の都合の良い駒にされていた。
その騎士達の監視もしている。
「姫様、本気ですか?」
第一騎士団の騎士キャロルの声が聞こえてきた。
ユーシンら騎士達は一斉に振り返った。
「本気よ」
キャロルから借りた第一騎士団の白い騎士服を着たシャルロットが大勢の騎士らの前に立った。
その後ろには顔を青ざめたキャロルがオロオロと戸惑ったような様子で立ってる。
「シャルルさん?どうしたんですか?その格好」
「動きやすいでしょ?キャロルさんから借りたの」
「なっ!……」
「グレース様やみんなを助けに行きましょう!私も行くわ!グレース様は私の婚約者です、それにお城のみんなも大切な人たちだもの。侯爵やレイナさん達の勝手にはさせられない!」
「シャルルさん……し、しかし、姫である貴女を危険な場所へ連れて行くわけには……」
「大丈夫ですわ!私にはウェスタやグレイ、魔王様ーーそれに貴方達が付いているもの!それに、魔王様からもらったこのハリセンがあるわ!」
シャルロットは白いハリセンを空高く掲げて笑顔を見せた。
「だから お願い、みんなの力を貸してください」
シャルロットがぺこりと頭を下げて願うと、第二騎士団は互いに顔を見合わせ苦笑し、そして笑った頷いた。
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