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奪われたお城と皇子の愛を取り戻せ!?〜シャルロットの幸せウエディングパレード
レイナの独白
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少女レイナは平民だったが大きな商家の次女として、裕福な家庭で蝶よ花よと育てられた。
黒くて艶やかな美しい髪に大きな紫色の瞳に白い肌の可憐な少女。
田舎では有名な美少女で、ちょっとした町のアイドルとして周りの大人たちから可愛がられて育った。
少女の何不自由ない幸せに満ちた半生は ある日 突然終わりを迎える。
当時領地の不況により傾き掛けていた父の商会。
それを立て直すために躍起になっていた父は詐欺師にまんまと騙され多額の負債を背負ってしまう。
住んでいた住居や土地も差し押さえられ、一家は路頭に迷った。
父は心労で倒れそのまま病死、母も後を追うように流行りの病に罹りあっけなく死んだ。
そうして幼いレイナは当時十五歳を迎えたばかりの姉ジュディと孤児院に入った。
貴族が管理する孤児院はこの世の地獄だった。
まるで廃墟のような住居で食事もまともに与えられず、強欲で横暴な院長からの度重なる暴力や暴言。
姉と二人で孤児院を飛び出して、貴族の屋敷で住み込みの下女として働き出した。
堅実で働き者の姉はコツコツと屋敷で長く真面目に働いて、衣食住も最低限守られた中慎ましく暮らしていた。
姉はやがて平民の男性と結婚し、その姉夫婦の庇護下に居たレイナは十六を迎えると自分の境遇に不満が爆発しーー姉と喧嘩別れをしたまま身一つで蒸発した。
(あたしは……姉さんとはちがうの!)
姉は容姿も性格も昔からいまいちパッとしなくて地味で野暮ったい女だった。
優しくて面倒見も良くて賢い人だったけれど、それだけ。
同じ屋敷で働いていた同じくパッとしない平民の庭師の男と平凡な恋愛結婚をし、子供をもうけ細々とのんきな暮らしをしている。それで満足しているようだった。
(あたしは姉のような、つまらない人間にはなりたくない)
小さい頃、絵本の中のお姫様に憧れていたーー。
(あたしはあの絵本のお姫様と遜色ないくらい こんなに華やかで美しいじゃない。今は苦しい生活をしていたって、きっと、いつかはあの絵本のお姫様のように、ステキな王子様があたしを見つけてくれて、助けに来てくれるはず……!)
信じて疑わなかった。
何も考えず、金なんて無く行く宛ても無いレイナはすぐに路頭に迷うことになった。
秋の長い雨に濡れて一人で街を彷徨いながら震えているレイナの前に、突然 貴族の馬車が停まった。
ーーゴルソン侯爵という、父親くらい年の離れた六十後半の、白髪混じりで寂れた容姿の男がレイナに手を差し伸べた。
レイナは、彼の愛人として拾われた。
ゴルソン侯爵はレイナのために侯爵家の屋敷の近くに別邸を建て、高価なドレスに宝石に食事を提供してくれた。
彼は既に妻にも先立たれていて、後に養女として引き取られたレイナは、実質ゴルソン侯爵家の女主人だった。
夢にまで見たお姫様のような貴族の暮らし、でもゴルソン侯爵との恋人のような関係は苦痛でしかなかったし、愛情のかけらなんかなかった。
彼は衣食住を保証してくれるパトロン。
それに、貴族である彼を通じて、ほかの貴族の男性と知り合えるかもしれない。あわよくば王族の人間とーー打算的な気持ちで彼と何年も関わって悠々自適な暮らしをしていた。
(それがーー突然お城へ行って侍女をやれ、なんて)
派手好きな彼女の趣味に合わない地味なお仕着せを着て、侍女の寮の姿見の前で一回転してみた。
「はぁ~、ださ~い」
全然、可愛くない機能性や清潔感重視の侍女の制服に不満を漏らした。
「でも、グレース皇子様……想像していたよりずっとカッコよかったわ。しかもこの国の皇子よ。まさか王族と関わり合いになれるなんて!……」
境遇には恵まれなかったが、運だけは良かった。
ゴルソン侯爵と出会えたこともそうだしーー。
「グレース皇子と結婚すればレイナ様が将来クライシア大国の王妃って事だよなあ!」
同じくゴルソン侯爵が手配した手下、今は庭師に扮している男がガハハと笑った。
レイナは不敵に笑う。
「そうよ、そのつもりで来たの」
ゴルソン侯爵に、グレース皇子と接近して懇ろになるようにと指示された。
レイナにとっては満更でもないことだし、ゴルソン侯爵にとってもレイナを通じてグレース皇子ーー次期国王を陰で意のままに操れる利点がある。
「でも、シャルロット姫様……彼女は邪魔ね」
ゴルソン侯爵にとってもシャルロット姫は邪魔な存在だろう。
彼女の存在により、放蕩していたグレース皇子は、今まで無関心だった政治に公務や関心を示すようになり、クライシア王の下について王になるための研修を始めるようになった。
何より厄介なのはクライシア王とシャルロット姫の価値観が合っているということだ、グレース皇子も姫の言いなりのようだ。
「シャルロット姫……」
金髪碧眼の可愛らしい少女だった。
何の苦労もしたことがないような純粋な笑顔、本物のお姫様。
きっと何不自由なくぬくぬくと育てられて立派なお城で贅沢な暮らし、あんなにステキな皇子様と結婚ーー不幸や苦労なんて一ミリも知らないだろう。
冷たくて硬くて腐りかけたパンやスープの味だとか、隙間風が冷たいボロボロの家屋の硬い床の上で毛布もなく寝なきゃいけないとか、突然 父や母が死んでいなくなってしまう悲しさとか……想像すらできないだろう。
ただの八つ当たりだが、レイナは腹を立てる。
「お姫様ーー産まれてから今まで全てに恵まれてるんだから、今回は不幸なあたしに譲ってくれてもいいじゃない」
あたしにとっては、またと無いチャンスなの。
「あたしは姉さんとは違う」
平凡な人生で満足しない。
王子様は待っててもやってこない。
幸せなお姫様になりたいならーーその座を奪うしかない。
あたしは幸せに生きたいーーそれだけなんだ。
黒くて艶やかな美しい髪に大きな紫色の瞳に白い肌の可憐な少女。
田舎では有名な美少女で、ちょっとした町のアイドルとして周りの大人たちから可愛がられて育った。
少女の何不自由ない幸せに満ちた半生は ある日 突然終わりを迎える。
当時領地の不況により傾き掛けていた父の商会。
それを立て直すために躍起になっていた父は詐欺師にまんまと騙され多額の負債を背負ってしまう。
住んでいた住居や土地も差し押さえられ、一家は路頭に迷った。
父は心労で倒れそのまま病死、母も後を追うように流行りの病に罹りあっけなく死んだ。
そうして幼いレイナは当時十五歳を迎えたばかりの姉ジュディと孤児院に入った。
貴族が管理する孤児院はこの世の地獄だった。
まるで廃墟のような住居で食事もまともに与えられず、強欲で横暴な院長からの度重なる暴力や暴言。
姉と二人で孤児院を飛び出して、貴族の屋敷で住み込みの下女として働き出した。
堅実で働き者の姉はコツコツと屋敷で長く真面目に働いて、衣食住も最低限守られた中慎ましく暮らしていた。
姉はやがて平民の男性と結婚し、その姉夫婦の庇護下に居たレイナは十六を迎えると自分の境遇に不満が爆発しーー姉と喧嘩別れをしたまま身一つで蒸発した。
(あたしは……姉さんとはちがうの!)
姉は容姿も性格も昔からいまいちパッとしなくて地味で野暮ったい女だった。
優しくて面倒見も良くて賢い人だったけれど、それだけ。
同じ屋敷で働いていた同じくパッとしない平民の庭師の男と平凡な恋愛結婚をし、子供をもうけ細々とのんきな暮らしをしている。それで満足しているようだった。
(あたしは姉のような、つまらない人間にはなりたくない)
小さい頃、絵本の中のお姫様に憧れていたーー。
(あたしはあの絵本のお姫様と遜色ないくらい こんなに華やかで美しいじゃない。今は苦しい生活をしていたって、きっと、いつかはあの絵本のお姫様のように、ステキな王子様があたしを見つけてくれて、助けに来てくれるはず……!)
信じて疑わなかった。
何も考えず、金なんて無く行く宛ても無いレイナはすぐに路頭に迷うことになった。
秋の長い雨に濡れて一人で街を彷徨いながら震えているレイナの前に、突然 貴族の馬車が停まった。
ーーゴルソン侯爵という、父親くらい年の離れた六十後半の、白髪混じりで寂れた容姿の男がレイナに手を差し伸べた。
レイナは、彼の愛人として拾われた。
ゴルソン侯爵はレイナのために侯爵家の屋敷の近くに別邸を建て、高価なドレスに宝石に食事を提供してくれた。
彼は既に妻にも先立たれていて、後に養女として引き取られたレイナは、実質ゴルソン侯爵家の女主人だった。
夢にまで見たお姫様のような貴族の暮らし、でもゴルソン侯爵との恋人のような関係は苦痛でしかなかったし、愛情のかけらなんかなかった。
彼は衣食住を保証してくれるパトロン。
それに、貴族である彼を通じて、ほかの貴族の男性と知り合えるかもしれない。あわよくば王族の人間とーー打算的な気持ちで彼と何年も関わって悠々自適な暮らしをしていた。
(それがーー突然お城へ行って侍女をやれ、なんて)
派手好きな彼女の趣味に合わない地味なお仕着せを着て、侍女の寮の姿見の前で一回転してみた。
「はぁ~、ださ~い」
全然、可愛くない機能性や清潔感重視の侍女の制服に不満を漏らした。
「でも、グレース皇子様……想像していたよりずっとカッコよかったわ。しかもこの国の皇子よ。まさか王族と関わり合いになれるなんて!……」
境遇には恵まれなかったが、運だけは良かった。
ゴルソン侯爵と出会えたこともそうだしーー。
「グレース皇子と結婚すればレイナ様が将来クライシア大国の王妃って事だよなあ!」
同じくゴルソン侯爵が手配した手下、今は庭師に扮している男がガハハと笑った。
レイナは不敵に笑う。
「そうよ、そのつもりで来たの」
ゴルソン侯爵に、グレース皇子と接近して懇ろになるようにと指示された。
レイナにとっては満更でもないことだし、ゴルソン侯爵にとってもレイナを通じてグレース皇子ーー次期国王を陰で意のままに操れる利点がある。
「でも、シャルロット姫様……彼女は邪魔ね」
ゴルソン侯爵にとってもシャルロット姫は邪魔な存在だろう。
彼女の存在により、放蕩していたグレース皇子は、今まで無関心だった政治に公務や関心を示すようになり、クライシア王の下について王になるための研修を始めるようになった。
何より厄介なのはクライシア王とシャルロット姫の価値観が合っているということだ、グレース皇子も姫の言いなりのようだ。
「シャルロット姫……」
金髪碧眼の可愛らしい少女だった。
何の苦労もしたことがないような純粋な笑顔、本物のお姫様。
きっと何不自由なくぬくぬくと育てられて立派なお城で贅沢な暮らし、あんなにステキな皇子様と結婚ーー不幸や苦労なんて一ミリも知らないだろう。
冷たくて硬くて腐りかけたパンやスープの味だとか、隙間風が冷たいボロボロの家屋の硬い床の上で毛布もなく寝なきゃいけないとか、突然 父や母が死んでいなくなってしまう悲しさとか……想像すらできないだろう。
ただの八つ当たりだが、レイナは腹を立てる。
「お姫様ーー産まれてから今まで全てに恵まれてるんだから、今回は不幸なあたしに譲ってくれてもいいじゃない」
あたしにとっては、またと無いチャンスなの。
「あたしは姉さんとは違う」
平凡な人生で満足しない。
王子様は待っててもやってこない。
幸せなお姫様になりたいならーーその座を奪うしかない。
あたしは幸せに生きたいーーそれだけなんだ。
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