シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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奪われたお城と皇子の愛を取り戻せ!?〜シャルロットの幸せウエディングパレード

愛を込めたテディベアと迫る不穏な影

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「ふわぁ~」

 天蓋ベッドで眠っていたチワワとレモンビーグル、二匹のワンコは大きな欠伸や伸びをしながら目を覚ました。
 まだ陽も昇りきっていない明け方、ベッドの脇の一人掛けのソファーに座っていたグレース皇子が黙々と針仕事をしていた。

「グレース?何してるの?」

「クロウ、ミモザ……。シャルロット姫に贈るぬいぐるみを作っていた。もうすぐ犬薔薇祭りがあるだろう?花と一緒に贈ろうと思ってさ」

 テディベアの頭だけが既に出来上がっている。
 上質なベビーイエローの布地に綺麗な縫い目、輝く青い目は宝石だろう。シャルロットの青い瞳に似ている。

「手縫いのぬいぐるみか……、男のくせに」

 ミモザは失笑した。

「グレース、お裁縫得意だもんねえ!上手だよ」

「これは試作したものだ」

 グレース皇子は完成品のぬいぐるみをクロウの隣に置いた。
 クロウより一回り小さなチワワのぬいぐるみ。

「うふふふ、私だ!可愛い~!」

 いつのまにかクロウのぬいぐるみを作っていたようだ。
 クロウは嬉しそうに飛び跳ねる。

「姫は金目の物は受け取ってくれないからな」

「これならよろこぶよ~!」

 “ひと針ひと針、相手を想いながら縫うと幸せの魔法が宿るの”

 グレース皇子の母の口癖だった。
 彼はそれを思い出しながら、シャルロットを想い針を動かしていた。

 クロウはグレースの膝の上に乗り、指や針の動きを観察していた。



 コンコンーー
 グレース皇子の部屋の扉がノックされる。


 そしてグレース皇子の寝室にティーセットの乗ったワゴンを押して平然とライカの侍女が入って来た。

 黒い髪に紫色の瞳の新入りの侍女レイナーー、グレース皇子は突然断りもなく寝室に立ち入って来た彼女を睨む。
 仕事中にしては、お仕着せも着ていない。
 胸元がパックリ開いた夜会帰りのような華やかなワンピースに真っ赤な口紅、きつめの香水で着飾った姿。

「お早うございます、グレース皇子。目覚めの紅茶をご用意いたしました」

「何故、お前が?朝の紅茶ならば俺の執事が用意する、退がれ」

 寝起きに紅茶を一杯飲むのが王族の習慣だが、グレース皇子の身の回りの世話は昔から決まった執事が専任している。
 それ以外の使用人はグレース皇子の私室には許可なく入ることが許されていない。

 レイナは悪びれる様子もなくニコニコ笑ってる。
 ピリついた空気が読めていないようだ。

「遠慮なんかしないでください!せっかく持って来たんですから!どうぞ飲んでください~。あたし、紅茶を淹れるの結構得意なんですよ~」

「要らない!俺はさっさと退がれと言っている!聞こえないのか?」

 グレース皇子が怒鳴ると、レイナは目を潤ませた。
 護衛の騎士がやってきて入り口でこちらの様子を伺っている。

 チワワのクロウはレイナの足元に駆け寄って、やんわりと部屋を出るように促した。

「早く出て。決まったひと以外この部屋に入っちゃダメなの、君、侍女長や上長に怒られちゃうよ?黙っててあげるから、ほら 早くお帰り」

 王族の私室に上がるなど罰を受けても仕方ない。

「可愛い~っ、チワワっ」

 レイナは興味津々にグレース皇子が作ったチワワのぬいぐるみを見ていた。

「勝手に触るな!」

「アッ…」

「出て行けと言ってるのが分からないのか!騎士を呼ぶぞ!」

 彼女は全然 自分の置かれた状況をわかってない。グレース皇子がイライラしてるのが伝わってきて、クロウは冷や冷やした。

 彼女の言動に裏は見えない。天然なのだろう。
   全く緊張感のない娘だ。尚 厄介だ。

「急に来てしまったことは謝ります……っ、で、でも…、そんなに怒らなくたっていいじゃないですか……っ」

 嗚咽混じりに訴える彼女。

「謝罪はいい、早く出て行け。立場をわきまえろ。非常識だ!ーー連れて行け」

 慌ててやってきたグレース皇子の執事や騎士に連れられてレイナは退室した。
 グレース皇子は疲れ切ったようにため息をついた。

「レイナ……ゴルソン」

 彼女のようにグレース皇子を取り入ろうとする貴族の娘は珍しくない。
 だが 彼女が、あのゴルソン侯爵の連れてきた娘だという事がどうも引っ掛かっていた。

 それもシャルロットの世話役のライカとして……。

 
「何を考えているんだ?」

  気味が悪い。
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