シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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東大陸へーー幻狼エステル誕生。シャルロット、オオカミの精霊のママになる

幼妻のふんわりセイロ蒸しパン

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「グレース様、はい、お薬と白湯ですわ」

 瑞鳥城の客間に早朝一番に現れたシャルロット。
 その手にはリリースに持たされていた解熱作用のある薬草を煎じたものと、人肌に温められたお湯が入った湯のみが握られてあった。

 明帝国から帰城してすぐにグレース皇子は微熱を出した。
 それに、少しだけ咳き込んでいたのだ。

「シャルロット姫……薬など俺には必要はない!魔人の身体は普通の人間よりは丈夫なんだ」

「過信は良くないわ、ちゃんと飲んでいただけるまでここに居ますよ。風邪は引く前が肝心なんですから」

「風邪なんか引いていない!もう、放って置いてくれないか、姫。これから会談があるんだ」

「グレース様ってば……お薬が嫌いなだけでしょう?甘味を足して白湯に溶かせば少しは飲みやすくなるわ、はいどうぞ」

「シャルロット姫、しつこいぞ!」

「しつこいと言われても構いません。グレース様の体調管理は婚約者である私の仕事です。グレース様が風邪を召されるよりマシですもの。お仕事にも障りますから、早く飲んでください」

「むう……っ」

 渋々 薬草を溶かした白湯を飲み干したグレース様の頭をシャルロットは笑って撫でた。

「全部飲めました。良い子良い子」

「ひ、姫!俺を子供扱いしないでくれ!」

 グレース様は顔を耳まで真っ赤にして抗議した。

「嫌でしたら、今度から言われなくても自分で飲んでください。具合が良くなければ医師にちゃんと申し出てくださいね。今日は暑いですけど、念のためもう少し厚着して出掛けてください!侍女に用意させるわね」

 シャルロットの護衛をしていたアダムはおかしそうに吹き出していた。
 グレイとクロウはぼんやりとグレース皇子を見ていた。

 グレース皇子は恥ずかしくなってアダムを睨む。

「グレース皇子、シャルル様、おはようございます……」

 大瑠璃姫が客間に現れた。
 袖を捲った着物の上から白い割烹着を着ている。
 とても可愛らしい。

 今日は大瑠璃姫とユハと料理をする日程になっていた。

 ユハが待っている瑞鳥城の厨房へ向かう途中で大瑠璃姫はボソッと呟いた。

「シャルル様はグレース皇子と本当に仲が睦じいのね、羨ましいわ」

「あら、瑠璃様と鳳太子も仲が良いではありませんか」

 シャルロットが何気なく言うと、大瑠璃姫は廊下に立ち止まり何故かボロボロ泣きだした。

「る、瑠璃様?」

「わたくしと鳳さまは結婚して5年も経つのに、いまだに一度もわたくしの奥御殿にもいらしてくれません。指一本触れません。それどころか……結婚は親が勝手に決めたことだから、わたくしが望むならいつでも離縁に応じると……!それに……鳳さま、新しい側室を迎えることを検討していらっしゃるみたいなの」

 紅国は一夫多妻制らしい。
 皇帝は後宮に20人もの側室を抱えていると、鳳太子が話していた。

「最近はクライシア大国のリリースという女性の貴族の方と手紙のやり取りをしてるそうですわ、それだけじゃないわ、同じ大陸のいくつかの国の若いお姫様たちとも会談なんて言って頻繁にお会いしてるもの!最近は外交のお仕事ばかりで国外へ出ているわ」

 大瑠璃姫は眉尻を上げて怒りながら泣いていた。

「リリース?それはないんじゃないかしら……」

 リリースはユーシンに片思いをしている様子だし、鳳太子も誠実そうな男性だ。
 誠実で紳士な鳳太子だから、まだ幼い大瑠璃姫の寝室を訪ねるなんて行動は敢えて謹んでいるはず。
 シャルロットはそう思った。

 大瑠璃姫はシャルロットが鳳太子とおしゃべりしているだけで、ほっぺたを膨らませてムッと不満そうな顔をしていた。
 シャルロットはそれに気付いていたが、鳳太子は全然気付いていなかった。

(瑠璃様って意外と焼き餅焼きなのね。可愛いわ)

 シャルロットは微笑んだ。

「鳳さまは きっとお料理ができる女性が好みだと思うの。シャルル様やリリース様をよく褒めていらっしゃるし……。この前 鳳さまが会談した隣国のお姫様も菓子作りに長けていらっしゃったわ。ーーわたくしは料理なんてしたことがありませんから、ぜひ教えていただきたいの」

「まあ、良いですわよ」

 大好きな旦那様を振り向かせたいなんて、健気だわ。

 城の大きな厨房には既にユハがスタンバイしていた。
 紅国の城付きの料理人も数人居た。
 ユハは既に彼らと打ち解けているようだ。

 紅国のお城の料理は芸術作品のようにビジュアルも美しく、かなり凝っていた。
 味も繊細で、出汁を重視する食文化のようだ。
 食べ物で験担ぎをする習慣もあって、シャルロットが前世で住んでいた日本の食文化に近いかもしれない。
 城下には味噌や醤油、酢などを古くから作っている醸造元もあって先日視察してきた。

 鳥の獣人が多く住む国。
 鳥は他の獣に比べると大変非力。すぐに侵略され兼ねないと危惧した先代の皇帝は街全部を取り囲むように城を構えて城門を封鎖し、他国とも断交し排他的な国だった。
 そんな中、紅国と唯一交流があったのがオーギュスト国と隣の明帝国。

 それは100年余り続き、つい数年前に城門が他国へ向けて解放されるようになった。

 昔気質な上皇と皇帝は外交に訝しげなようだが、鳳太子は積極的に外国とも交流したい考えだそうだ。
 クライシア大国へ協商の打診をした意図もそれだろう。

「大瑠璃姫、何を作りましょうか?」

「ではーー菓子がいいわ。鳳さま、ふわふわとしたものや甘味が好きなの。どうせなら、シャルル様達の国のお菓子が食べてみたいわ」

 ユハとシャルロットは顔を見合わせた。

「うーん、この国にはケーキやパンを焼けるような石窯もないしね」

 つい数年前まで紅国には食肉文化も浸透しておらず、それに加えて米が主食の国。
 その影響で所謂ロースト料理が発達していない。
 大きくて立派な瑞鳥城の厨房でもケーキを焼けるような設備がなかった。

「ユハ、見て、セイロならあるわ。昨夜の晩餐はセイロ蕎麦だったものね」

 シャルロットは厨房で和蒸籠を見つけて手に取った。

「おお~、いいね。ふわふわして甘いお菓子なら、蒸しパンを作ろうか。重曹ならあるしね~」

「蒸しパン?」

「うん、まずはねー」

 真剣な顔でお料理に取り掛かる大瑠璃姫の身体を、ユハは何故かやたらとベタベタ触っていた。シャルロットは怪訝な目でそれを注意深く見ていた。

 もともと男女問わず誰にでもスキンシップの多い男ではあるが……他国の皇子妃に露骨に触りまくり、セクハラするのはーー。
 頭をポンポンしたり肩を抱いたり腰に手を回したり、まるで変態だ。
 料理に夢中の大瑠璃姫は全く気付いていない。

 ふと視線を厨房の窓に移すと、そこにはひっそりと厨房を覗いている鳳太子とクロウの姿があった。
 大瑠璃姫が心配で見物に来たんだろう。

 鳳太子は自分の妻に馴れ馴れしいユハを遠くから凄い顔で睨んでいたーー。

 シャルロットはスタスタ厨房内を歩くとユハの隣に立ち、作業台に乗っていたユハの手の甲の皮をギリリと抓った。

「痛っ~、痛いよーお姫ちゃんー」

「ユハは向こうで野菜を切ってちょうだい、瑠璃様には私が教えます」

「ええ~」

 初めての料理にしては飲み込みは早かった。
 一生懸命、失敗しないようにと手に力が入り過ぎだが、丁寧な作業ぶり。
 生地を竹で出来た紙を底に敷いた型に流すとセイロにセットして蒸したーー。

 終わった頃に、鳳太子がクロウと共に厨房に慌ただしく駆け込んできた。

「鳳さま?」

「瑠璃、火傷はしてないかい?指を切ってはないかい?」

 心配性だ。
 大瑠璃姫も苦笑している。

「平気です。シャルル様やユハ様がやさしく教えてくれましたから」

「そうか……」

 岡目八目というものか。
 シャルロットの目から見ても、鳳太子はちゃんと大瑠璃姫を心から愛している様子だ。
 本人達は両片思いのようだが。

「鳳さま、出来上がったらぜひ食べてください」

「もちろんだよ」

 紅国も喫茶文化が栄えているようだ。
 鳳太子は城の茶室にシャルロットやグレース皇子、ユハを招き、茶を点ててくれた。
 茶道なんて心得もないシャルロットとグレース皇子は戸惑っていたが、ユハは茶道が様になるどころか板についていた。

「本当になんでもできるんだな、お前は」

「俺っち 元お坊っちゃまだよ、教養として叩き込まれたもん」

 ユハは前世では日本の大財閥の御曹司だった。

「ここには我々しかいませんし、どうぞ足も崩して気楽にお茶を楽しみましょう」

「ありがとうございます、鳳太子」

 お茶請けとして大瑠璃姫と作った蒸しパンをいただくことになった。

「蒸しているから饅頭かと思ったが……大きいしふわふわしているね」

 ふっくらと膨らんだ甘めの生地にはダイスカットされたホクホクなかぼちゃが混ざっていた。
 鳳太子は一口サイズに蒸しパンを手で割ると、口に運んだ。

「美味しい」

 その言葉を聞いて大瑠璃姫の表情は明るくなった。

「本当ですか?鳳さま」

「本当に美味しいよ。また作ってくれないか?瑠璃」

「もちろんですわ」

 鳳太子は蒸しパンを食べ終えると切り出した。

「この度は協商の打診を受けていただきありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします」

「いや、こちらこそ、明帝国の件でいろいろと世話になりました」

「いえ、私共の方こそ今後は隣国である明帝国と良い関係を築けそうです。思いがけない好機でございました」

 2人は穏やかに笑っている。

「どの国を見ていても、領土を広げるために戦ばかりを続けていくような時代は終わろうとしている。民達の意識も変わりつつある。我々の世代はこれから自国をいかに発展させていくのかに重きを置かなければーー」

 鳳太子は呟いた。

 *

「瑠璃、こんな夜遅くに申し訳無い。少し時間をいただけないか」

 夜の瑞鳥城、後宮に略装姿の鳳太子が1人で現れた。
 部屋で椅子に座り本を読んでいた大瑠璃姫は驚いて立ち上がった。
 側にいた侍女は鳳太子に向かって静かに頭を下げると、部屋をすぐに出て行った。

「えっ……?鳳さま……?」

 こんな時間にーー真剣な顔をしてどうしたのだろう?
 まさか、三行半を突けにきたのでは?大瑠璃姫は不安で仕方なかった。

「お前達は来なくていいぞ、瑠璃と2人にさせてくれ」

 当たり前のように後を付けてきた護衛に鳳太子は命令した。
 護衛は戸惑いつつも、廊下の途中で立ち止まった。

「おいで、瑠璃」

 優しい声色。
 不安半分、ドキドキが半分。

 連れてこられたのは後宮の中庭だ。
 人工的に作られた小さな川がある庭園。

 鳳太子は手燭を片手に大瑠璃姫の手を取り中庭を進んだ。

 そこにはピンク色の美しい薔薇が無数に咲いていた。

「鳳さま……この花は?」

「グレース皇子に頼んでクライシア大国から苗を持ってきてもらったんだ、そしてクロウが植えてくれたよ。栽培の仕方も教えてくれた」

「すごく綺麗ですわ」

「オーギュスト国で初めて薔薇の花を見て、瑠璃にぴったりだと思って紅国でも植えてみたくなったんだ」

「鳳さま……」

「シャルロット姫から説教されたよ、僕がはっきりしない性格だから……不安にさせてしまって申し訳ない、瑠璃」

 鳳太子は優しく大瑠璃姫の手を握った。
 2人で屈んで庭のバラを見つめている。

「隣国の姫の元を訪ねたのも、……隣国の城の庭が素晴らしいと噂で聞いたので参考にするため見せてもらったんだ。ほら、この後宮の庭はなんだか女性から見ると殺風景だろう。瑠璃のためにここに花園を造ろうかと思ってな、姫から色々と意見も貰っていた」

「………!で、では、後宮に側室を迎えるっていう話は……?」

「え!?ああ、花園を管理する使用人が必要だろう?隣国に腕のある庭師の女性がいると知って、依頼したのだ」

 大瑠璃姫は感動して鳳太子の胸に抱き着いた。

「鳳さま……瑠璃は鳳さまを愛しております」

「る、瑠璃……僕も瑠璃が好きだ、君がもう少し大人になってから伝えようと思っていたが、先を越された」

 2人は月明かりの中 抱き合っていた。

「鳳さま、瑠璃は不安でございました。鳳太子が瑠璃のこと愛していないんだと……ずっと……思って」

「僕こそ、いつか瑠璃が大人になって、本当に好きな殿方と出逢ってしまったらーー僕は捨てられてしまうのでは無いかと、……」

「そんなこと……!絶対ございません!」

 2人は見つめ合い、やがて初めてのキスを交わした。
 そして照れたように笑い合った。

 大瑠璃姫は恥ずかしそうに鳳太子の背中に顔を埋めて、そして言った。

「わたくしの前で……、どうか他の女子を褒めないでください。狭量なお願いだとは存じますが……わたくしは嫌なのです」

 鳳太子は驚いたような顔をして大瑠璃姫に振り返る。
 そして苦笑した。

「ああ、約束しよう。そのかわり、瑠璃も僕以外の男に気安く身体を触れさせないでくれ」

「?、当たり前ですわ」

 庭の小道で2人は夜風に当たりながら散歩をしていた。

 *

 ーー帰国する日。
 快晴の空の下、ふ頭にはクライシア大国の大きな船が停まっていた。
 当初予定にはなかったが大瑠璃姫の希望で、ふ頭まで鳳太子を連れて見送りにやってきたのだ。

 騎士のイルカルやアーサーも他の騎士団と共に船に乗り込んでいた。
 左王も仮面を脱いで、騎士達に混じって船の上でトランプをしている。

「それではお元気でーーシャルル様」

「ええ、瑠璃姫も」

 潮風が爽やかで気持ちいい。
 シャルロットは船に上がる前に、明帝国の方角を見つめて微笑んだ。

(エステルもーーどうか元気で)

 心の中で呟く。
 遠く離れて、もう簡単には会えなくなる我が子を思い少し目に涙をにじませた。

「シャルロット~、早く行こう」

 人間姿のクロウがシャルロットの手を握り駆け出した。

「ちょ、ちょっと、走らないで!」

 明帝国との一悶着など、怒涛の日々だったけれどーー旅は楽しかった。

 クライシア大国へ向けて、やがて船は出発した。
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