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東大陸へーー幻狼エステル誕生。シャルロット、オオカミの精霊のママになる
いざ東大陸へ
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いよいよ出発の日。
よく晴れた正午前。騎士服に身を包んだクロウとグレイ、フクシア、それからオリヴィア小国から招集された左王が食堂にやってきた。
第2騎士団の黒色の騎士服を着たクロウとフクシア、第1騎士団の白色の騎士服を着たグレイと左王。
モデルのように美形でスタイルも良いのでよく似合っていた。
早番の仕事を終えたばかりのユハもお仕着せから第1騎士団の騎士服に着替えていた。
腕には国のシンボルが描かれた腕章がある。
「まあ」
驚いているシャルロットに、クロウは思い切りハグをした。
そしてシャルロットの目の前でくるっと一回転した。
「シャルロット~!どう?似合ってる??カッコいい?」
「ええ、カッコいいわ。とてもよく似合ってる……けど、どうしたの?」
「オレたちも紅国へ行くんだぜ!護衛の騎士のフリをしてな!」
フクシアが元気に答えた。
そしてグレイにベタベタくっ付いて鬱陶しがられている。
「トロイの木馬大作戦だよ~!私が考案したのっ」
クロウは楽しげに話した。
「えっと、……クロウ達がわざと捕虜になるってこと?危険じゃないの?」
「うふふ~。私たちは幻狼だよ。例え1万人の軍隊がかかってきたって負けないよ」
クロウは自信たっぷりだ。
使節を兼ねた調印式にはオーギュスト国で縁のあった鳳太子より、グレース皇子と連名でシャルロットも招待されていた。
シャルロットも外行きのワンピースに着替えて出発の時間まで食堂で待機していた。
「エステルはアーサーさんとお留守番ね」
「やだ~ママ~ぼくも行きたい~」
エステルはアーサーに抱っこされながらクゥーンと寂しげに鳴いていた。
シャルロットはエステルの頭を撫でてなだめる。
「ごめんね、それはできないの。とても危ない場所なのよ」
「ママぁ……」
上目遣いでウルウルと目に涙を溜めて悲しげに喉を鳴らされても頷けない。
シャルロット達が東の大陸へ行っている間、エステルは第1騎士団で面倒を見ることになった。
「よろしくね、アーサーさん」
「はい、姫様」
「パパもエステルと離れ離れになるのは寂しいよ~」
クロウは子狼のエステルをアーサーから受け取るとギュッと優しく抱き締めた。
エステルはそれでもクロウの胸の中でグスグス泣いてる。
精霊の子供は人間の子供とは比べ物にならないくらい知能や身体の成長も早いが、それでもまだ産まれて間もない赤ちゃんだ。
離れるのは不安で仕方なかった。
「俺っち達が居ない間はアルとリリース、食堂をお願いね」
ユハはアルの肩を抱いた。
それをアルは邪険に払い除ける。
「ユハ、シャルロット。これを持って行け、オーギュスト国で流行ってる栄養剤を混ぜたパンを焼いてみた。魔人に合わない添加物は除いてある。船旅は栄養失調に陥りやすいからな。これなら日持ちもするだろう」
「ハードタックか~、ありがとう!アル!愛してる!」
ユハは喜んだ。
ハードタックは携帯食・保存食用の堅いパン。
パンと言うよりビスケットに近いかもしれない。
アルが焼いたハードタックにはレーズンが練りこまれてあり、とても美味しそうだった。
「シャルロット、色々調合しといたから薬草も持って行きなさい」
「ありがとう、リリース」
「食堂のことは任せなさい!健闘を祈ってるわ!」
リリースの快活な笑顔に励まされる。
シャルロットは薬草や茶葉の入った包みを受け取り、大事に抱えた。
「グレース皇子、姫様、馬車の用意ができました」
東大陸の紅国へはシャルロットの護衛のキャロル、アダム。グレース皇子付きの騎士や執事、皇室付きの親衛隊から2人のベテラン騎士たちに、侍女数人が同行する。
「シーズお兄様は馬でくるの?」
左王は顔半分を仮面で隠して、白馬の背に乗った。
「私は今回ただの騎士として同行する。外ではシンと呼んでくれ」
シンとは、シーズが外で身分を偽っている時に名乗る名前だ。
オリヴィア小国はソレイユ国の支系。その大公爵である左王という立場では表立って動くことができない。
内戦が続くソレイユ国だ、今余計なことをして明帝国を刺激するのは避けるべきだろう。
上王や母から反対されたものの、正体を伏せて参加することを条件に渋々了承してくれた。
「わかったわ、シン」
アーサーの腕の中でぐずっているエステルにシャルロットは笑いかける。
「それじゃあ、エステル。行ってくるわね。魔法のお勉強もちゃんとするのよ?良い子で待っててね」
「ママ~!」
エステルはボロボロと大粒の涙を流して暴れた。
アーサーが必死に取り押さえている。
「ママ~!ママ~~!」
エステルは泣き叫ぶ。
後ろ髪を引かれながらも、シャルロットはエステルに背中を向けたまま一度も振り帰らなかった。
*
本殿の前に停まっていた複数台の馬車。
一番先頭に停まっていた白色の塗装がされた王族専用の豪華な馬車の中にシャルロットはグレース皇子と一緒に乗り込む。
「じゃあ、グレース、シャルロット。私はユハやコハン達と一緒に行くから、また船の中でね!」
「ええ、クロウ、グレイも、道中気を付けてね」
クロウは馬車の中に乗り出しシャルロットの腕をぐいっと引っ張ると、顔を寄せて軽くキスをした。
「ウヘヘ、またねーシャルロット」
「こ……こら」
シャルロットが困ったように笑っていると、向かいにいたグレース皇子がクロウの頭に手刀を落とす。
「痛い~~グレース~~」
「姫にキスをする騎士がいるか!外では慎め!」
「うう~行ってらっしゃいのチューだもん、ちょっとくらいいいじゃん~ケチ~」
「さっさと騎士団へ戻れ」
「私もシャルロットとこっちに乗りたい~」
「この馬車は王族や特別な賓客しか乗れないぞ」
「ふえ~、グレースばっかりずるい~」
クロウは涙目になりながら騎士団が待機している場所へ戻って行った。
東大陸へ向けて、長い旅が始まる。
よく晴れた正午前。騎士服に身を包んだクロウとグレイ、フクシア、それからオリヴィア小国から招集された左王が食堂にやってきた。
第2騎士団の黒色の騎士服を着たクロウとフクシア、第1騎士団の白色の騎士服を着たグレイと左王。
モデルのように美形でスタイルも良いのでよく似合っていた。
早番の仕事を終えたばかりのユハもお仕着せから第1騎士団の騎士服に着替えていた。
腕には国のシンボルが描かれた腕章がある。
「まあ」
驚いているシャルロットに、クロウは思い切りハグをした。
そしてシャルロットの目の前でくるっと一回転した。
「シャルロット~!どう?似合ってる??カッコいい?」
「ええ、カッコいいわ。とてもよく似合ってる……けど、どうしたの?」
「オレたちも紅国へ行くんだぜ!護衛の騎士のフリをしてな!」
フクシアが元気に答えた。
そしてグレイにベタベタくっ付いて鬱陶しがられている。
「トロイの木馬大作戦だよ~!私が考案したのっ」
クロウは楽しげに話した。
「えっと、……クロウ達がわざと捕虜になるってこと?危険じゃないの?」
「うふふ~。私たちは幻狼だよ。例え1万人の軍隊がかかってきたって負けないよ」
クロウは自信たっぷりだ。
使節を兼ねた調印式にはオーギュスト国で縁のあった鳳太子より、グレース皇子と連名でシャルロットも招待されていた。
シャルロットも外行きのワンピースに着替えて出発の時間まで食堂で待機していた。
「エステルはアーサーさんとお留守番ね」
「やだ~ママ~ぼくも行きたい~」
エステルはアーサーに抱っこされながらクゥーンと寂しげに鳴いていた。
シャルロットはエステルの頭を撫でてなだめる。
「ごめんね、それはできないの。とても危ない場所なのよ」
「ママぁ……」
上目遣いでウルウルと目に涙を溜めて悲しげに喉を鳴らされても頷けない。
シャルロット達が東の大陸へ行っている間、エステルは第1騎士団で面倒を見ることになった。
「よろしくね、アーサーさん」
「はい、姫様」
「パパもエステルと離れ離れになるのは寂しいよ~」
クロウは子狼のエステルをアーサーから受け取るとギュッと優しく抱き締めた。
エステルはそれでもクロウの胸の中でグスグス泣いてる。
精霊の子供は人間の子供とは比べ物にならないくらい知能や身体の成長も早いが、それでもまだ産まれて間もない赤ちゃんだ。
離れるのは不安で仕方なかった。
「俺っち達が居ない間はアルとリリース、食堂をお願いね」
ユハはアルの肩を抱いた。
それをアルは邪険に払い除ける。
「ユハ、シャルロット。これを持って行け、オーギュスト国で流行ってる栄養剤を混ぜたパンを焼いてみた。魔人に合わない添加物は除いてある。船旅は栄養失調に陥りやすいからな。これなら日持ちもするだろう」
「ハードタックか~、ありがとう!アル!愛してる!」
ユハは喜んだ。
ハードタックは携帯食・保存食用の堅いパン。
パンと言うよりビスケットに近いかもしれない。
アルが焼いたハードタックにはレーズンが練りこまれてあり、とても美味しそうだった。
「シャルロット、色々調合しといたから薬草も持って行きなさい」
「ありがとう、リリース」
「食堂のことは任せなさい!健闘を祈ってるわ!」
リリースの快活な笑顔に励まされる。
シャルロットは薬草や茶葉の入った包みを受け取り、大事に抱えた。
「グレース皇子、姫様、馬車の用意ができました」
東大陸の紅国へはシャルロットの護衛のキャロル、アダム。グレース皇子付きの騎士や執事、皇室付きの親衛隊から2人のベテラン騎士たちに、侍女数人が同行する。
「シーズお兄様は馬でくるの?」
左王は顔半分を仮面で隠して、白馬の背に乗った。
「私は今回ただの騎士として同行する。外ではシンと呼んでくれ」
シンとは、シーズが外で身分を偽っている時に名乗る名前だ。
オリヴィア小国はソレイユ国の支系。その大公爵である左王という立場では表立って動くことができない。
内戦が続くソレイユ国だ、今余計なことをして明帝国を刺激するのは避けるべきだろう。
上王や母から反対されたものの、正体を伏せて参加することを条件に渋々了承してくれた。
「わかったわ、シン」
アーサーの腕の中でぐずっているエステルにシャルロットは笑いかける。
「それじゃあ、エステル。行ってくるわね。魔法のお勉強もちゃんとするのよ?良い子で待っててね」
「ママ~!」
エステルはボロボロと大粒の涙を流して暴れた。
アーサーが必死に取り押さえている。
「ママ~!ママ~~!」
エステルは泣き叫ぶ。
後ろ髪を引かれながらも、シャルロットはエステルに背中を向けたまま一度も振り帰らなかった。
*
本殿の前に停まっていた複数台の馬車。
一番先頭に停まっていた白色の塗装がされた王族専用の豪華な馬車の中にシャルロットはグレース皇子と一緒に乗り込む。
「じゃあ、グレース、シャルロット。私はユハやコハン達と一緒に行くから、また船の中でね!」
「ええ、クロウ、グレイも、道中気を付けてね」
クロウは馬車の中に乗り出しシャルロットの腕をぐいっと引っ張ると、顔を寄せて軽くキスをした。
「ウヘヘ、またねーシャルロット」
「こ……こら」
シャルロットが困ったように笑っていると、向かいにいたグレース皇子がクロウの頭に手刀を落とす。
「痛い~~グレース~~」
「姫にキスをする騎士がいるか!外では慎め!」
「うう~行ってらっしゃいのチューだもん、ちょっとくらいいいじゃん~ケチ~」
「さっさと騎士団へ戻れ」
「私もシャルロットとこっちに乗りたい~」
「この馬車は王族や特別な賓客しか乗れないぞ」
「ふえ~、グレースばっかりずるい~」
クロウは涙目になりながら騎士団が待機している場所へ戻って行った。
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