シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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東大陸へーー幻狼エステル誕生。シャルロット、オオカミの精霊のママになる

ユハと風の精霊

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「幕僚長?え~?ヤダ、めんどくさい」

 夜、第一騎士団の詰め所にはグレース皇子やユーシン、シャルロット、ユハが集まっていた。
 グレース皇子より幕僚長の打診があったものの、ユハは乗り気では無かった。
 しかし、ユハが幕僚長を務めることが、陛下から出された明帝国への出向の条件だった。引き下がるわけにはいかない。

「俺っち、武官じゃないし~料理人だもん。お料理する時間がなくなるじゃん」

「陛下の指名だぞ、お前に拒否権はない。それに成果次第では国から褒美が貰えるぞ。悪い話ではないだろう」

「要らな~い。猫神様から貰った小遣いを投資に回したら予想外に儲かっちゃって、一生贅沢して遊べるくらいにはお財布潤ってんだあ。それに俺っち公爵家の人間よ。お金にも地位にも困ってません。兄ちゃん達みたいに野心もないし、俺っちは堅実に平凡に生きるの」

 グレース皇子はユハの顔を見つめていた。
 軽い口調とは対照的にユハは真面目な顔をしていた。

 ユハは普段素行も悪くて常におちゃらけていて飄々としている。
 だが、それは演技だとグレース皇子は昔から勘付いていた。
 ずば抜けて能力が高く頭も良い、魔力も強くて高位魔法も扱える、それに頭の回転も速い。グレース皇子の父、クライシア王とは昔から茶飲み友達だが、王が内密に彼に国策や戦略などのアドバイスを貰っているのは知っている。

 グレース皇子が王に即位した際には、ユハに宰相を任せたいと何度か王が言っていた。
 だがユハは断ったそうだ。

『俺は世界一の料理人になるんだ』と、子供の頃から言っていた。
 王が城内に社員食堂を開くことを認めたのも、料理人ごっこでもさせておけば満足するのだと思っているからに違いない。彼を手元に置きたいのだろう。

 誰もが羨望するチート過ぎる才能も、彼にとっては自分の夢を阻む余計なものかもしれない。
 だから敢えて人前ではピエロを演じて戯けているんだろう。

「お願い!ユハ!力を貸して!」

 シャルロットはユハに向かって頭を下げた。
 ユハは苦笑している。

「お姫ちゃん……」

「俺からもよろしくお願いします」

 ユーシンも深く頭を下げた。
 ユハはふうっとため息を吐いた。

「分かったよ。ただし、条件があります☆」

 ユハは強気な笑みを浮かべた。

「条件?」

「ご褒美は、お姫ちゃんと~ハロゲートでしっぽり不倫☆温泉旅行が良い!お姫ちゃんの膝枕付きね!」

「ハァ?」

 グレース皇子は顔をしかめた。
 ユハはフフンと笑ってる。

 ハロゲートとはクライシア大国にある温泉街だ。
 シャルロットは唖然としていた。

「あ、費用なら俺っちがお姫ちゃんの分も全額負担するよ!」

「そういう問題じゃない!何故、お前とシャルロット姫が……認められるわけないだろ!姫は俺の婚約者だ!」

「グレース、顔怖いよ~。良いじゃん!減るもんじゃないし。ね!お姫ちゃんっ、この前温泉行きたいって言ってたじゃん。行こうよ~」

 グレース皇子も以前シャルロットをハロゲートへ誘っていたが、国の大切な税金で贅沢は出来ないと即答で断られていた。

「やっぱり男は経済力だよね☆お姫ちゃん、今からでも俺っちに乗り換えなよ~」

「俺は皇子だぞ!金ならある!」

「それって親の金でしょ~!ヤダヤダ、権力をひけらかす男って~器が小さいよ~」

「ユハ!話をそらすな!」

 クスクスと可笑しそうに笑ってるユハの前で、グレース皇子は始終イライラとした様子。
 生真面目な皇子をからかって楽しんでいるようだ。

 いつもの悪ふざけだと分かっているので、シャルロットは今更いちいち間に受けない。

「私が、ユハと温泉に行けば良いのね?そうしたら力を貸してくれるのよね?」

「ひ……っ、姫はそんなことしなくて良い」

「良いわよ。それくらい。でも、その代わりに約束は守ってちょうだい!」

「わーい!俄然やる気が出ちゃった☆」

「グレース様、心配いらないわ。どうせ外出には護衛の騎士が付くのだし、ユハと2人きりにはならないわよ」

「…………じゃあ、俺ともハロゲートへ行ってくれ」

 グレース皇子は可愛らしく拗ねていた。

「ふふ、分かったわ。でも旅費は私が出しますからね!」

「分かった……」

 グレース皇子は渋々了承した。

 これも、無事に明帝国から帰って来れたらの話だが……。

「サモン」

 ユハが突然呟くと、部屋の中に光るタンポポの綿毛のようなものがポツポツと出現し宙を漂った。

「……ユハ?なに?これ」

「俺っちが契約してる風の精霊だよ☆」

「風の精霊?」

 タンポポの綿毛はやがて親指サイズの小さな羽根が生えたドールのような姿へと変化した。
 ライム色のワンピースを着たミニマムサイズのツインテールの女の子がニコニコ笑いながら宙を舞っている。

 風の精霊はそこまでレベルの高い精霊ではない。山でも街でも室内でも、どこにでも潜んでいる小さな精霊。
 だが、かなりマイペースで気まぐれで自由奔放な性格なので契約し従えるのは難しい。

「風の精霊はね~風を起こすだけじゃないんだよ☆」

 ユハが更に不思議な呪文を唱えると、風の精霊は天井や窓や壁をすり抜け拡散するように散らばっていった。

「何をしたの?」

「精霊に風の便りを運んでもらうの。ちょっとした諜報活動ね」

「え?どういうこと?」

「この城の中にいる明帝国のスパイを見付けて捕まえちゃいます!」

「え!?」

「まずは敵の具体的な狙いや状況を知らなきゃでしょ?インターネットも無いこの世界で、距離もあるから明帝国の内情なんて直接調べられないし~。身近で一番明帝国を知ってるのは、そのスパイしか居ないわけじゃん?聞いた方が早いじゃない」

 ユハの大胆な作戦にシャルロット達は面食らう。

「そんなことしたら、明帝国を刺激させちゃうんじゃ?」

「明帝国にとっては素人のユーシンを間諜に使うくらい重要度の低い調べ物なんでしょ。うちの国とは特別敵対国でもない、まあ~幻狼が欲しいかな?様子見~☆程度の動機で、遠い大陸の国に自国の重要な間諜を忍び込ませるわけないじゃん。きっとフリーランスの雇われスパイだろうねえ」

 ユハは断言する。

「簡単な話だよ。明帝国のスパイに寝返ってもらってこっちに引き込みます!スパイも商売だよ~、より儲かる方に簡単に靡いてくれるっしょ。色々と情報も持ってるだろうし」

「そ、そうね……」

「あとは~。この世界には国交憲章があるから明帝国から攻撃が無い以上先制的にうちから手出しするのは悪手だ。なので、明帝国から是非とも手を出してもらいましょう!」

「なんだと?」

「あっちから攻撃してくれたら、うちは正当防衛です!って言えるでしょう?って言っても、これはあくまで陽動だけどね~」

「陽動って……」

「敵の目を引き付けている間に、捕らわれた夫婦を救出しよう」

「どうやって?」

「うふふ~~それは一先ず捕虜になった夫婦の安否確認と居場所が特定できないと~。人質を生かして捕らえておくのも敵にとっては負担だからね。早いところ手を打たなきゃ」

「……来月、紅国で調印式がある。決行はその時で良いか?」

「うん!グレースは普通に紅国に居て、普通に調印式に参加してて☆俺っちが騎士達率いて明帝国に侵入します。王族は呼応の魔法が使えるでしょ?それで連絡するね」

 呼応の魔法が使える者同士ならば遠くに離れていても人知れず会話ができる。
 高度な魔法のため、高い魔力を持っている王族クラスの人間しか使えない魔法だ。
 グレース皇子とは傍系であるユハも使うことができた。

「ネックなのは土地勘が無いことだよね~、明帝国ってめちゃくちゃ広いからなあ~」

「あ、それなら……うちのシーズお兄様があの大陸に詳しいわ。昔、紅国や明帝国でドラゴンを討伐したり傭兵に入ってみたいなの」

「よっしゃ!じゃあお姫ちゃんのお兄ちゃんに協力を要請しよう!」

 ユハは明るく笑った。
 しかしグレース皇子とユーシンは顔を見合わせて、苦笑している。

「オリヴィア小国の左王様を?他国の大公爵を連れて行くのはさすがに難しいんじゃ無いか?」

「お兄様なら性格的に喜んで引き受けてくれると思うわ。お母様には怒られそうだけど」

「じゃあ、左王様はイルカルに頼んで連れてきてもらおう☆」

 ユハは紙に羽根ペンを走らせる。
 スラスラと書かれた文字が瞬く間に消える。

「ユハ?それは何?」

「陛下へ渡す計画書だよ。王族に伝わるペンでね、上級魔人にしか書けないし読めないの」

 魔力の無いシャルロットの目に書かれた文字は見えない。

「計画が漏れないようにしなきゃね~」

「へえ」

 やがて詰め所の部屋の中に、風の精霊が戻ってきた。
 精霊の言語はシャルロットには分からなかったが、小さな親指サイズの女の子達がユハに何かを報告していた。
 ユハはふむふむと頷く。

「ーー侍女に1人、従士に1人、馬子に1人か」

「やっぱり…間諜が紛れているの?」

「…間諜って言っても、内2人は明帝国の人間にお金を積まれて買収されたって感じみたい。狙うのは明帝国と深い繋がりのあるっぽい従士の1人かな」

「従士の……ズハオか。明帝国の件で俺に接触してきたのもそいつっす」


 ズハオは東の大陸からやってきた従士の青年。
 歳はユーシンと同年代くらいだろう。

「ねえ、ウェスタ」

 シャルロットは腕の痣を見つめながら火の精霊の名を呼んだ。
 痣が発光し、お仕着せ姿のウェスタがにこやかに飛び出し、現れた。

「なあに?シャルロットちゃん!」

 シャルロットに召喚されて嬉しそうである。

「従士のズハオって人をここへ連れてくることはできないかしら?出来るだけ人目を避けて、静かに、穏便に」

 シャルロット達が呼び出したところで素直に応じないだろう。
 それどころか間諜していることがバレたと察して逃げ出すか、明帝国側へ伝えてしまうかもしれない。
 無理やり彼と接触して拘束しても、暴れたり、他の間諜に気付かれたら……。
 できれば自主的にやってきて欲しいところだ。

「そうね~、やってみるわ」

 そう言って、ウェスタは消えた。

 --20分後。

 詰め所に第一騎士団の騎士に連れられて、1人の青年が現れれた。
 黒髪黒目でガッチリとした体型の素朴な感じの青年だ。
 何故かゲッソリとした顔をしている。

「ズハオです」

 彼が室内に入ったところで再度ウェスタが出現した。
 ウェスタの顔を見るなりズハオは怯える。

「……ウェスタ、彼に何かしたの?」

「ウフフ、ちょーっと、怖がらせてみただけよ~」

 脅迫したようね。
 シャルロットは苦笑した。

「……ゆ、ユーシン!お前……」

 ズハオはユーシンを見て驚いている。
 ユーシンがいること、そしてグレース皇子が自分をここへ呼び出したことで、大方呼び出された理由にも気付いたようだ。

「単刀直入に訊く、お前が明帝国の間諜か?」

「……は、はい」

 実にあっさりと白状した。

「お前は何の為にそんな真似をしているんだ?」

「………単純に金です。故郷の、家族のためですよ。この国の従士になったのだって、単に給料と待遇が良かっただけです。更に明帝国からも金を貰えるんだからいい話じゃ無いですか」

 投げやり気味に彼は吐露した。
 彼のように出稼ぎのために仕事が多くて待遇はよく景気も良いクライシア大国へやってくる外国人は多い。

「度重なる戦で男手は徴兵されて働き手が減るし税金は重くなる一方で民は貧しい暮らしを強いられる。だから出稼ぎに来たんです。更に2年前には大雨による大規模な水害で苦しい状態で、どうしてもお金が入り用だったんです。間諜を始めたのはここ1~2年の話ですよ」

 淡々と話してくれた。

「ふーん、じゃあ俺っちがポケットマネーで、明帝国が君に支払ったバイト代の5倍のお金を出してあげよう!更に、君や君の家族に危険が及ばないように手も打ってあげるアフターフォロー付き。めっちゃホワイト事業者だと思わない!?ねえ、俺っちに雇われてみない?」

 ユハは明るい笑顔で彼に尋ねた。
 彼は信じられないと言いたげな表情をしている。

「俺っちレベルの魔人だといざとなったら奴隷の魔法も使えるけどさ、俺は君と対等な立場で取引がしたい。君の意志を尊重したい。ねえ、どうだい?」

「え……」

 権力が全て、身分で人間の一生が決まるのが当たり前である明帝国では絶対あり得ない事だ。
 明帝国からの間諜の話は、金を積まれるだけでもまだマシだった。
 そもそも平民である自分には拒否権などないし、ユーシンのように家族を人質に取られていたかもしれない。

 目の前の貴族の男は自分を対等に扱うと言ってくれている。

 民を物のようにぞんざいに扱うあの国よりこの男の駒になってみたいと、ズハオは思った。
 もしかしたら罠かもしれないし、リスクも伴う条件だがーー

「……分かりました」

「イエーイ!俺たちは今日から仲間だよ!」

 少年のように無邪気に笑ってはしゃぐユハ。
 ズハオは不安半分期待半分、だが小さく笑った。

「そういえば明帝国の皇帝は病気で寝込んでいるようだね。ちらっと聞いた話だと」

 ユハは思い出したように言った。

「ええ、去年から寝込んでいて、今は第一皇子のギョウホウ皇子が代理に立っているはずです」

 ズハオは言った。

「ギョウホウ皇子か。彼が皇帝の代理で指揮を執った直近の戦で、軍隊に大きな損失を出したとか……シモンが言っていたな」

 ここ数十年で近隣国との戦は立て続けに圧勝し領土を広げ、東大陸で絶大な権力を握っていた明帝国。
 皇帝に仕えていた幻狼が姿を消してから国は段々と傾き始めていた。
 追い討ちを掛けるように大規模な水害、皇帝が病床にあり幻狼も居なくなった事を好機と捉えた従属国が武装蜂起を起こしたり、不安定な状況が続いているそうだ。

「自分の雇い主がそのギョウホウ皇子です。明帝国の皇帝は代々幻狼と契約する仕来りがあるんです。恐らく政治や戦での失態もあるので、どうしても幻狼を得たいんだと思います」

「なるほど~、ふむふむ」

 ユハは何かを考え込んでいた。
 そしてまた紙に何かを記す。

「よし、調印式に向けて色々準備しちゃおう!ズハオ君、君は対外的には俺っち達が不穏な動きを始めたから潜入調査してるって事にしといてちょうだい☆ユーシンもね!」

「明帝国から接触があれば報告してくれ、よろしく頼む」

 ユハとグレース皇子に向かって元気よく2人は返事をした。

「了解っす」

 こうして夜も深まった頃、大まかな計画を立てることができた。
 調印式に向け、まだ気の抜けない日々が続く。
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