シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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オーギュスト国へご訪問〜猫神様の祟り!?もふもふパンデミック大パニック

精霊のお怒り

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 アール・ヌーヴォー様式の芸術的な外観の美しいオーギュスト国の宮殿。
 庭園や庭のあちこちにはサボテンやソテツ、アガベが植えられ、南国的な雰囲気がある。
 街人や宮殿の人たちの衣装も独特で、男性も女性も年齢に関係なく露出が多く派手な色味と模様入りの衣装を纏っている。

「皆さま、ようこそおいでくださいました。このような姿で誠に申し訳ございません……」

 黒ぶち猫官僚は机の上に立ち、呆然と立っているシャルロット達に頭をぺこりと下げた。
 その隣にはヴェル、人間姿の白竜が立っていた。
 その周りには大型犬の騎士達が取り囲んでいる。

 犬姿のコハンはシャルロット達の前に立ち、声を出した。

「これはどう言う事なんだ?」

「いやはや……私どもにもサッパリ。有識者に調査をしてもらっていますが……」

 ニャア……と困ったように鳴く官僚トム。

「アル…!」

 ヴェルは半泣きでアルハンゲルの腰に抱き着いた。
 アルハンゲルは優しくその頭を撫でた。

「お前は無事なようだな」

「うん、あまり宮殿から出ないせいかな?」

「御殿には結界があるからな」

「結界?じゃあ、その結界を国中に張ったらどうなの?」

 ユハが言うと、アルハンゲルは首を横に振った。

「結界は私が張ったのだ。だが、結界で国を取り囲むのは難しいだろう。結界とは外からの侵入者や攻撃を防ぐものだ。この度の病の元凶がすでに国内に入り込んでいるならば防ぎようが無いだろ」

 琥珀は淡々とした口調で言った。

「琥珀がやっつけてよ~!」

「うーむ、気配を消しているみたいだ。私の千里眼でも見つけられない。相手は私の魔力と同等か、それ以上の精霊かもしれないな」

「私もダメだわ。厄介な相手ね~」

 火の精霊ウェスタはため息をついた。

「魔物ならわかるが…精霊が民達に危害を加えているのか?

「魔力が高い精霊は弱い者イジメしないものよ?高位精霊としてのプライドもあるしね。危害を加えるとすれば、何か精霊を怒らせるようなことでもしたんじゃないの?」

「怒らせる事……?」

 シャルロットは呟いた。
 そしてヴェルと目が合った。

「え?僕たち……何もしてないよ!?」

 ヴェルは全力で否定した。

「ね、ねえ、アル?どうしたら良い?……」

 アルハンゲルに助けを求めるヴェルであったが、アルハンゲルは目を合わすこともなく冷たい口調で突き放した。

「それはお前が考えるんだ」

「アル……」

「お前はこの先この国の王になるんだろう?」

「……そっ……そうだけど~」

 ヴェルは不安げな顔でボロボロ涙を流していた。
 だが、アルハンゲルは冷たい態度を崩さない。

「泣いたって事態は変わらない。トップに立つ人間が泣いたり感情を表に出すんじゃない。下の者が余計に混乱したり不安がるだろう。どんな状況でも毅然としていろ」

「でも~~!」

「ヴェル!」

 厳しい顔と口調で、アルハンゲルはヴェルに向かっていた。

 突然バァンっと音を立てて扉が開き、ズカズカとゲーテ王子が部屋に入ってきた。
 そして泣いているヴェルを抱き上げて背負う。
 驚いたようで、ヴェルもすっかり泣き止んでいた。

「ここで泣いてたって解決しないぞ!」

「ゲーテ王子!」

 ゲーテ王子の顔を見たヴェルは笑顔になった。

「ここにいても何も分かんねえだろ。街へ行くぞ!原因を探るんだ!」

「困ります!ゲーテ王子、殿下を連れて行かれては……」

「私がお供しよう」

 床に伏せていた幻狼グレイがむくりと身体を起こして扉へ向かった。
 ヴェルは憧れの幻狼に顔を明るくさせ目を輝かせた。

「わあ~銀色の幻狼様だ!カッコいい~!」

 ヴェルはそれから、ゲーテ王子やユーシンら騎士、2匹の聖獣と一緒に部屋を出て行った。
 黒ぶち猫官僚トムは心配そうな顔で彼らが去っていくのを見守り、そして机の上から飛び降りた。

「私は晩餐会の食料を調達しなければ……。外国からたくさんお客様がいらっしゃるというのに、料理人達や使用人達も皆 獣化してしまって、猫の手も借りたい状況なのです……。まぁ、猫の姿では何もできないけれど……」

 黒ぶち猫は自分の肉球を見つめていた。
 そういえば宮殿は獣だらけだったと、シャルロットは思い出していた。

「あの、良ければ私達がおさんどんしましょうか?もともとパーティーのお料理も頼まれていましたし」

「シャルロット姫様……」

「任せてください!困った時はお互い様ですわ」

 黒ぶち猫に案内されてやって来たオーギュスト国の宮殿内の厨房は閑散としていた。
 シャルロット、ユハ、リリースにアルハンゲル四人は厨房内にある食料庫の中を物色していた。

「まあ、お魚だわ」

 生け簀には生きた魚が泳いでいた。
 見たことのない魚で、カラフルな鱗をしている虹色の不思議な魚。

「食料も乏しいわね。みんな獣化しちゃって働けないから、国の物流も滞ってるって言ってたもんね」

 リリースはガラッとした食料庫を見つめてため息をついた。

「鶏や羊や豚なら宮殿内で飼っている。野菜などは……明日街へ降りて調達しよう」

「おっ、山芋があるよ!葉野菜は全然無いけど……芋類や山菜やキノコはたくさんあるな」

 ユハは山芋を手に取るとニコニコ笑う。

「じゃあ、早速料理を始めましょう!」


 窓の外の木の枝で二羽のスズメが厨房の中を監視していた。

「ユハの奴め……オーギュスト国へ来てまで料理とは……」

「何がしたいんだ?あいつ」

 スズメは外から尾行をしていた馬車の中でのユハの言葉をふっと思い出していた。

『じゃ☆お姫ちゃん、俺を愛人にしてラブしちゃおう!オフィスに不倫は付き物っしょ!』

 スズメ二羽は顔を見合わせ考え込んだ。
 ユハのいつもの軽口だが、生来生真面目な性格の二匹には引っかかっていた。

「……あいつ……まさか……シャルロット姫の愛人になるつもりか?」

「まさか……シャルロット姫はグレース皇子と婚約しているぞ……?」

「いつだったか、馬車に乗って二人で東方の村へ遠出をしていたな……。アズがそう言っていたが。食堂の仕事だとかで常に二人は一緒にいるし……」

「………グレース皇子は姫にゾッコンだと聞いたぞ。将来王妃になるシャルロット姫の愛人となって、間接的に皇子を操り、国を乗っ取る陰謀か!?」

「いやいやまさかそれは……。姫に取り入って、自分を公爵家の当主に指名させようとでもしているのか?」

 二羽のスズメは顔を真っ青にした。
 再度厨房の中に視線を移すと、いつの間にか窓辺にユハが立っていた。
 こちらを横目で見ながら、スズメ達と目が合うと無言のままニッコリと笑った。

 スズメは慌てた様子ですぐさま空へ羽ばたいて行った。
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