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オーギュスト国へご訪問〜猫神様の祟り!?もふもふパンデミック大パニック
道中〜ユハの楽しい動物型サブレ
しおりを挟む「それでは、行ってきますわね!後はよろしくお願いします」
シャルロットやユハが遠出している間の食堂の運営は料理長マーヤに託された。
マーヤは笑顔で送り出してくれた。
大きなつばの麦稈帽子にアイスブルー色で総レースの涼やかなワンピースを着たシャルロット。
以前グレース皇子からプレゼントしてもらった衣装だ。
リボンが可愛らしい白いサンダルは特注品。動きやすくて長時間履いていても蒸れないし、疲れないようにローヒールで柔らかい素材で出来ている。
アラン令嬢に頼んで作ってもらったものだ。
「お姫ちゃん、お手をどうぞ」
名前を呼ばれて顔を上げると、すでに馬車に乗っていたユハが手を差し出してきた。
ユハにエスコートされて、シャルロットも馬車の中に入った。
赤いベルベット生地の座席にはリリースやアルハンゲルが同乗している。
ゲーテ王子は黒馬に乗り、護衛の騎士達と共に馬車の周りを走っていた。
「では、シャルルさん達、出発しますね!」
御者を務めるのはオーギュスト国出身の第二騎士団の団長コハンだった。
「ええ、よろしくお願いします!」
こうしてクライシア大国の城を出発した。
オーギュスト国へは片道二~三日掛かるそうだ。道のりは遠い。
魔人であれば転移魔法も簡単。だが、転移魔法にも色々と国の間でややこしい制約があるようで、移動はシンプルに馬車だ。
「……」
可愛らしいピンクのワンピースを着たリリースは馬車の小窓から外で馬に乗っているユーシンの横顔をうっとりと見つめていた。
今回の外出の護衛にはユーシンが立候補したのだ。
シャルロットの護衛の騎士キャロルやアダムの二人、コハン、他には第一騎士団の騎士シンとイベルも同行している。
火の精霊ウェスタと幻狼グレイはそれぞれカラスとハトに化けて空中から馬車を追っている。
「うーん、一日中馬車の中ってのは暇だなぁ~☆」
「そうね、いつもなら食堂でお昼の仕込みをしてる時間帯ですわよね」
「あたしは連勤明けで疲れてるわ、足腰が痛いのに馬車よ?」
「………」
アルハンゲルは窓の外を見つめたまま黙っている。
「恋話する?☆」
ユハが思いついたまま口に出した。
リリースはギョッとしたような顔をしている。
「恋話って……ではユハがしてください…言い出しっぺですわよ?」
シャルロットが呆れたような顔で言うとユハは困ったように眉尻を下げる。
「ええ~俺っちが働き詰めなの知ってるでしょ~?彼女作る時間なんてないよぉ~。あ!貴族界隈のスキャンダルなら色々知ってるよ?」
「例のユハ様の閻魔帳ですか?」
「アルは?何かないの春めいた恋話は」
「さあな。私の妻はとうの昔に死んでいるからな」
「どいつもこいつも枯れてるわね~」
リリースは苦笑した。
「ええ~、それじゃリリースはどうなのさ。意中の人はいるの?」
「あたし!?い……いるわよ!好きな人くらい!」
「え!?誰?貴族の令息か?それとも執事とか……騎士か?」
詮索するユハの頭をリリースはポシェットで殴った。
「あんたには教えないわ!」
「痛いなあ。暴力的な女の子はモテないよ~?」
リリースはまた怒ってユハの頭をもう一度殴った。
「ふふふ、良いわね。恋って」
シャルロットが笑うとリリースは首を傾げた。
「シャルロットにはグレース皇子とクロウがいるじゃない」
「ううん……、グレース皇子とはそもそも始まりが政略結婚でしたし、クロウとは腐れ縁だったから。なんだか恋愛とは違うわよ」
「じゃ☆お姫ちゃん、俺を愛人にしてラブしちゃおう!オフィスに不倫は付き物っしょ!ドロドロ修羅場は俺っち好物だよ☆」
意味不明なことを言ってふざけるユハをリリースは睨んだ。
「ノーサンキューですわ」
シャルロットも冷たくユハを睨む。
「つれないなあ☆あ、サブレを焼いてきたんだ。はい、レディー達、アルも」
ユハはカバンの中からお菓子の入った包みを取り出した。
「わあ、動物?の形だわ」
動物を模った少し大きめのサブレ。
「んとねー、これがキャロルのウサギちゃん、アルの猫ちゃん、クロウのオオカミとチワワとポメラニアン☆」
焼き菓子の型もユハが作ったようだ。
いい加減な性格だが、手先がとても器用だ。
「うふふ、そっくりね。面白いわ」
「可愛いじゃない!バターの香りが良くて美味しいわ」
「ねえ、美味しいだけじゃなくて楽しいでしょ!ねえ、リリース、その小窓を開けてユーシン達にもサブレを渡してあげてよ」
「えっ?」
リリースは顔を赤くして固まった。
ユハはニッコリと笑顔を見せながら、リリースにサブレの入った包みを押し付けた。
「なんであたしが!あんたが作ったんだからあんたが渡しなさい」
「ええ~せっかく気の利く俺っちが、お話しする機会をあげたのに~仕方ないなあ、なら俺っちが……」
「馬車の中で立たないで!危ないでしょ!仕方ないわね!あたしが渡すわよ!仕方ないわね!」
リリースは小窓を開くとユハから預かった包みを馬に乗り並走していたユーシンに突き出した。
「え?」
ユーシンは驚いている。
リリースの顔は真っ赤で、しかし しかめっ面で、緊張しているのか身体をガチガチにしながら包みを手をずいっと窓の外に伸ばしている。
「ユハが焼いたサブレよ、騎士達にも配ってみんなで食べなさい!」
「ああ、ありがとうございます。いただくっす!リリースさん」
「あたしは渡しただけよ?感謝ならユハにしなさい」
包みを受け取ったユーシンの白い歯がキラリと輝く爽やかな笑顔に驚いたリリースは窓を思い切り閉めた。
ユーシンは首を傾げている。
二人の様子を見たシャルロットはようやく状況を理解したようだ。
「ま……まあ、リリースが…ユーシンを?…まあ……!」
人様の恋愛沙汰はどうしてこんなにワクワクするんだろう。
「何見てんのよ!」
リリースは顔を真っ赤にしながら、ジロジロと見てくるユハやシャルロットに向かって怒鳴った。
「クリスティ姉さんと騎士のシモンも秋に結婚するらしいから、リリースも頑張れ!」
「頑張れって何を!?意味がわかんないわ!馬鹿ユハ!シャルロットも!変な想像しないでちょうだい!そんなんじゃないんだから!」
馬車の中はとても賑やかで、これなら長旅も楽しそうだ。
シャルロットはニコニコ笑いながらサブレを食べていた。
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