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オーギュスト国へご訪問〜猫神様の祟り!?もふもふパンデミック大パニック
旅立ちの前に、紫陽花のお茶を
しおりを挟む「ふぎゃ!」
食堂に入った途端クロウは悲鳴を上げながら人間の姿から狼の姿へと変化してしまった。
食堂の窓辺に鉢植えの紫陽花を飾ろうとしていたシャルロットはびっくりして振り返った。
クロウは気分で悪そうにうなだれて耳と尻尾を下げていた。
「シャルロット……その紫陽花はなあに?」
「実家から送られてきたのよ。オリヴィア小国ではこの時期になるとどの家も窓辺に紫陽花を飾るの。初夏のおまじないよ?金運がアップするの!」
シャルロットは楽しげに笑った。
クロウだけじゃなく、火の精霊ウェスタやグレイもシャルロットを遠巻きにして顔を青くしている。
「この国ではやめた方がいいよ。紫陽花には魔除けの効果があるの。私たち精霊が苦手な花だよ。影響は小さいけれど魔力のある魔人も気分を悪くするかも……」
「まあ、そうなの?綺麗な花なのに……。わかったわ、ごめんなさい、私の部屋に飾るわね」
綺麗なライムグリーンや青紫色の大振りの紫陽花。
昔友好国から友好の証にいただいたもので、実家の母が育てている花だ。食堂経営を始めたと聞いた母が商売繁盛のお守りにと、わざわざ母国から送ってくれたのだ。
「じゃあ、甘茶……紫陽花のお茶も飲めないのかしら?」
先刻 騎士のキャロルにもお茶を淹れたのだが、苦手だからと断られてしまっていた。
半分魔人のキャロルも飲めないようだ。
「魔人や精霊にとってはちょっとした毒だね」
「甘くて美味しいけどな」
椅子に座りシャルロットが淹れた甘茶を飲みながらアルハンゲルはボソッと呟いた。
獣人の彼にはなんともないようだ。
「美味しくてもシャルロットは飲んじゃダメだよ。シャルロットの身体には幻狼の赤ちゃんがいるんだから。赤ちゃんがびっくりしちゃう」
クロウは強く言った。
「わ、わかったわ……」
アルハンゲルはあっという間に二杯目の甘茶を飲み干した。
すっかり気に入ってしまったようだ。
「明日はオーギュスト国へ発つだろう。この茶葉をヴェルにもあげていいか?きっと、あいつも気に入るだろう」
「まあ、実家から沢山送られてきましたの。お裾分けいたしますわ」
「明日……とうとう行っちゃうんだね、シャルロット……」
クロウは耳を垂らし、寂しそうに鳴いた。
シャルロットは幻狼の頭を撫でながら笑い掛ける。
「良い子でお留守番してるのよ?陛下やグレース様の言うこともちゃんと聞いてね?」
「うん!」
グレース皇子は数日後に大切な会議を控えており一緒に行けないようだ。
会議や公務を終わらせた後で、ヴェル殿下の誕生パーティーに間に合うようにオーギュスト国へ向かうようだ。
「じゃあ…今夜はシャルロットと一緒に寝ても良い?」
「ええ、いいわ」
「わぁい」
クロウの機嫌は良くなった。
半月近くも離れ離れになるのはシャルロットも少し寂しい気分にもなった。
だが、普段城から殆ど出ることのないシャルロットにとって、知らない異国へ行くのは楽しみでもあった。
いよいよ明日だ。
*
*
ーーオーギュスト国内にある歴史ある神殿は閑散としていた。
真っ白な神殿内を一匹の三毛猫がイライラとした様子で歩いている。
小さな池の中を覗き込むと水面は黄金に輝き、オーギュスト国の街の様子を映し出した。
街の中には至る所に白竜を模したぬいぐるみや像、立派な白竜を描いた絵画が飾られてあった。
民は口々に「白竜様」「白竜様」と仰々しく連呼し、白いマントを羽織った新興宗教団の若者達が街を闊歩している。
「なんじゃ!どいつもこいつも!白竜!白竜と!気に食わん!」
幼女のような舌足らずな声が神殿内に響く。
三毛猫は荒ぶった。
だが誰も“彼女”を宥める者はいない。
途端に虚しくなる。
神殿に三日前に供えられた饅頭はカピカピに、花はすっかり枯れている。
以前であれば王配だったアルハンゲルや死んだ女王フリーシアが一日に二回欠かさず神殿を訪れて祈りを捧げていたし、お供え物も毎日替えてくれていた。
彼らに倣い、城の者や民達も“彼女”を崇め、奉っていたのに現状はこうだ。
「わしは“神”じゃぞ!」
叫んだところで返答などない。
今ではすっかり人も訪れなくなった神殿で独りぼっちの三毛猫は暇を持て余していた。
「フフン、神を怒らせたらどうなるか思い知らせてやろう!罰当たりな民どもよ!」
幼女の高笑いが神殿にこだました。
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