シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

文字の大きさ
上 下
115 / 262
ミレンハン国のトド王妃と赤獅子シモンのダイエット大作戦!?〜美しい公爵令嬢と獣人騎士の身分差恋愛の行方

ごちそうバラ寿司にゲーテ王子の誓い

しおりを挟む
 本殿の大広間。
 普段は王族や貴族達、または外国からの重要な賓客にしか開放しない特別なホールに騎士達は招集された。
 同じくシャルロットを含む食堂のメンバーたちもお招きされた。

 異国の雰囲気のある料理人達が集い、長テーブルの上にいくつも並べられた大きな飯台の中に入ったご飯をせっせと扇片手に冷ましたり、魚や野菜などをカットしていた。

 シャルロットと共にホールにやって来ていたゲーテ王子は料理人達に混ざり大きな魚を華麗な手捌きで捌いている人物を見つけ、驚いたように声を出した。

「トーマだ!」

 ゲーテ王子よりも筋肉質で少し背が高く、浅黒い肌に空色のベリーショートヘアにシャープな目や唇をした青年だ。

「トーマ?」

「俺様の弟だ」

 ゲーテ王子の弟らしい彼はシャルロット達に気付き、調理の手を止めてエプロン姿のままこちらにやって来た。
 隣にはグリムがいる。

「お久しぶりです、兄上。それから……シャルロット姫様、お初にお目にかかります。いつも兄がお世話になっています。弟のトーマと申します」

 高飛車な兄とは違い、大人びた雰囲気で礼儀正しい弟。

「何しに来たんだ?お前」

「父上の命を受け、母上とグリムを迎えに来ました。王令により、こちらの国に迷惑を掛けたお詫びに食事会を開かせていただいております」

「まあ。何を作っていらっしゃるの?」

「私が作ってるのは白甘鯛のお造りです。向こうで料理人達が作っているのがバラ寿司と吸い物です」

 美味しそうな海鮮メニューにシャルロットは目を輝かせた。

「まあ、すごいわ!」

「ミレンハン国の地酒のウイスキーもありますよ」

 グリムは楽しそうに酒瓶を掲げた。

「太っ腹な王様ね」

「ミレンハン国の王様ね、家出した王妃様にラブレター送ってきたみたいだよ?何だかんだラブラブな夫婦だね☆」

 ユハは笑った。
 それで朝からナージャ王妃はかなりご機嫌だったのか、シャルロットは思い出していた。

「王妃様もすごく綺麗になったし、きっと惚れ直しちゃうわね」

 リリースはシャルロットの隣でクスッと笑った。
 酒好きのアルハンゲルは立ったままウイスキーをニートで飲み始めた。

「アルってばまだ王子様に挨拶の途中ですわよ?お行儀が悪いわ」

「………」

 窘めるシャルロットの頭をアルハンゲルは真顔で、からかうように鷲掴みして髪を乱した。
 怒るシャルロットを無視して酒を飲み続ける。

「や、やめて!ちょっと……聞いてるの?」

 ーーどうして私にはいつも意地悪なのかしら?
 シャルロットは不満たっぷりな視線を彼に送りつつ、すっかり乱れた髪を手櫛で整えた。

「姫様、気にしないで。騎士が集うと椅子も足りないので今日は立食式ですよ。交流会のようなものなので気楽に楽しんでください」

 グリムはそう言うと出来上がったばかりのバラ寿司を小皿に取り分けてくれた。

「幻狼のクロウさんが教えてくれた料理です。シャルロット姫様が好きな料理だとお聞きしました」

「クロウが?ええ、大好きですわ!」

 酢飯には細かく切った海の幸や炒り卵、野菜が混ぜ込まれていた。

「残念です。我が国へ嫁いで来てくだされば毎日食べ放題ですのに」

 グリムは大袈裟な泣き真似をした。

「お前はまだそれを言うのか!……と、そうだな、騎士団やミレンハン国の輩もみんな揃ってる所だし、ちょうどいい」

 ゲーテ王子はキョロキョロと辺りを見渡す。
 大勢の騎士達はグラスを片手に酒を飲んだりご馳走を食べ賑やかに談笑をし、大広間に連なる奥の間にはナージャ王妃やオリヴィア小国の王達、グレース皇子やクライシア大国の王などの王族が座っていた。

 ゲーテ王子はシャルロットの前に立ち、ホールに響くような大きな声を出した。

「おい、シャルル。いや、シャルロット姫」

「………はい?」

 ゲーテ王子の声に、騎士達はおしゃべりを止めて一斉にこちらを見た。
 奥の間にいるグレース皇子達もこちらを見ている。

 急に真剣な顔をして、どうしたんだろう?
 シャルロットは目を丸くしながら、自分の目の前に立ったゲーテ王子の顔を仰ぎ見た。

「先日は溺れて瀕死の俺様を救ってくれた事に、先ずは礼を言おう。お前が居なければ俺は今頃死んでいただろう」

「………大袈裟ですわ。当たり前の事をしたまでよ。ゲーテ王子がご無事で何よりですわ」

「ふん、俺様がせっかく感謝を述べているんだ。素直に受け取れ」

 踏ん反り返りながらゲーテ王子は意気揚々と言い放つと、今度はシャルロットの前に片膝をついて彼女の手のひらを取り、そして手の甲にキスをした。
 これにはシャルロットも声を出して驚いた。

「………な!なに?」

「何ってこれが忠誠の儀式だろう?喜べ。命を救ってくれた礼に、俺様がお前の騎士になって一生護ってやろう!有り難く思え」

「どうして騎士が、そんなにも偉そうな態度なんですか」

 グリムがやれやれと言いながら苦笑している。

「ゲーテ王子、姫様の護衛は私です!必要ありません」

 遠くからシャルロットを見守っていた騎士のキャロルが慌ててすっ飛んで来た。

「こんなチビで貧相な男に騎士が務まるかよ?」

「チビじゃないし!貧相じゃない!」

 怒髪天のキャロルを無視してゲーテ王子は続けた。

「…他国の王子がこの国の騎士なんて……」

「俺様はクライシア大国の騎士じゃなく、お前個人に仕える騎士になるんだ」

「……えっと、救助のことでしたら……そんなに負い目に捉えなくてもいいのよ?」

「負い目になんて思っていないし、あれだけが理由じゃない」

 ゲーテ王子はシャルロットの手を握ったまま、真剣な目で見つめてきた。

「シャルル、俺はお前が好きだ」

 躊躇う様子もなく断言するように、はっきりとした口調で述べられた愛の言葉にシャルロットは驚き後退りしてしまう。

「ごめんなさい。嬉しいけれど、答えられないわ」

 シャルロットは呆然としたまま、だがすぐに迷うことなくそう言い渡した。
 ゲーテ王子は苦笑しながら優しい瞳でシャルロットをまた見つめる。

「俺様を振るなんて本当に生意気な女だな!」

 ケラケラ笑うと、また強気な顔をして言った。

「別に気持ちに答えて欲しいわけじゃない。好きだから側にいてお前を守りたいと思った。俺様が、俺のためにそうしたいと思ったのだ。断るなど許さん!頷くまで飯は食わさんぞ!」

「ふふ、いつもながら強引ね。貴方って人は」

 半ば押し売りのようだわ。シャルロットは思わず笑ってしまった。

「…分かったわ、よろしくお願いします。私のやんちゃな騎士(ナイト)様」

「ふん、やんちゃは余計だ」

 シャルロットはゲーテ王子と握手を交わす。
 周りにいた騎士達が祝福するように一斉に拍手をした。


 その様子をヤキモチを妬いたようにムッとした表情で見つめるグレース皇子と、立派になった息子の姿を目を細め微笑ましそうな母親の顔をして見守るナージャ王妃。

「良いのですか?王妃様、大事な息子さんが騎士なんて……」

 右王の問いを、ナージャ王妃は笑い飛ばす。

「良いのよ~。宮殿にいてもウドの大木だし、いい就職先が見つかってよかったわ」

「まぁ、良いじゃないか。私もあの年の頃は国を渡り歩きながら傭兵をやっていた。良い経験になるだろう」

 左王は酒を飲みながら呟いていた。
 交流会はすっかりゲーテ王子の騎士就任パーティーと化し、どんちゃん騒ぎは深夜まで続いた。

 花冷えの時期も過ぎてすっかり暖かくなった頃、ナージャ王妃はグリムやトーマ王子と共に帰国することになった。
 オリヴィア小国の双子の王と上王も同様に。

 左王との別れを惜しみ男泣きしている騎士もいる。特に左王と仲の良かった騎士イルカルは大号泣だった。

「では、シャルロット、また顔を見に来るぞ」

 兄達は妹の頭を優しく撫でると馬車に乗り込んだ。
 父親である上王もそれに続いた。

 2つの国の馬車は城の門をくぐり旅立ってしまった。


「………急に人が引けると寂しくなるわね」

「ああ……」

 シャルロットの隣で、グレース皇子も寂しげな表情をしていた。
 幻狼姿のクロウはグレース皇子に寄り添っていた。

「あの…。グレース様、クロウ。今日はもうご予定はないんでしょう?私も暇をもらったの。これから3人でピクニックへ行きませんか?」

 シャルロットは笑顔で言った。

「わあい!久しぶりのデートだ~!」

 クロウは飛び跳ね、尻尾を振りながらシャルロットの周りをぐるぐる駆け回り喜んだ。

「サンドウィッチ作るわね。王有林のクロウのお花畑で食べましょうか」

「んじゃ、俺様が護衛してやるか!」

 割り込んで来たゲーテ王子をクロウは頬っぺたを膨らませながら迷惑そうに睨んだ。

「お前は要らん。護衛は俺だけで十分だ」

 グレース皇子は邪険そうにゲーテ王子を睨む。

 薄くかかっていた雲の隙間から太陽が顔を覗かせた。
 今日は一日、ピクニック日和だろう。
 シャルロットはワクワクしながら空を仰いでいた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...