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ミレンハン国のトド王妃と赤獅子シモンのダイエット大作戦!?〜美しい公爵令嬢と獣人騎士の身分差恋愛の行方
ケーキドーナツが繋ぐ絆(中編)
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本殿内の中庭を歩く第二騎士団の騎士リッキーとマイクは2人肩を並ばせ一緒に大欠伸をしていた。
「シモンさんに書類渡せたし、食堂行って飲むか~」
「直帰して良いって言われたしねえ!明日は非番だし、飲むか飲むか!アルハンゲルさんが新しく仕入れたエールがめっちゃ美味しんだって!」
「おいおい、まだ昼間だぞ?」
二人で笑い合っていた本殿の長廊下を金髪碧眼の初老の男と見覚えのある顔をした青年、それからクライシア大国の宰相が通り掛かった。
「あれ?左王様?ご旅行中じゃ?」
思わずマイクは声を出した。
国王と遠出中のはずの左王が目の前に居た。目の前の青年はポカンと口を開けて、首を傾げている。
「お前たち、このお方はオリヴィア小国の右王様と上王様だ、挨拶も無しにいきなり声を掛けるなど無礼だぞ」
宰相の怒号が飛んできた。
右王は怒る宰相を善い人そうな顔でヘラヘラと笑って宥めた。
「騎士団の子かな。私の弟と妹がとてもお世話になってるようだね」
優しい顔でまたニコニコと微笑まれた。
「シャルルさんのお兄さん!?とお父さん!?」
「シャリー」
右王の隣に立っていた上王がゴホンと咳払いをして、右王の腕を引っ張った。
右王はハッとした顔をして自分の両頬を手のひらでパンパンと叩いて、眉尻を上げて顔を強張らせた。
怒ったような表情をすると益々左王と瓜二つだ。
「ーーあ!もしかして、シャルルさんに赤ちゃんが出来たから、会いに来たの~?」
リッキーはふと思い付いて、そのまま声に出した。
「赤ちゃん!??」
右王と上王は顎が外れでもしたかのように口を大きく開け、目を大きく見開きリッキーに食い付いた。
この驚きようは、どうやら全然知らなかったようだ。
「え……、じゃあ、シャルルさんが怪我したからお見舞いかな」
「け、怪我っ!?シャルロットが怪我!?何故だ!」
右王も上王も軽くパニックに陥ってる。宰相は顔を青くしながら2人を必死に落ち着かせている。
呆然と立っていた騎士2人の頭をゴツンと一発ずつ殴り、怒鳴った。
「馬鹿者!センシティブな話題を口滑らせてからに!これから皇子がちゃんとお二人にご説明するはずだったのに!」
延期された婚約の話、シャルロットが幻狼の子を身籠った事について話すためにわざわざオリヴィア小国から2人を招いたのだが、思わぬところでややこしくこじれかかっている。
「婚約も定まっていないのに妊娠させただと!?ゆ、許さん!!シャルロットは何処だ!?こんな所に嫁がせてたまるか!国に連れ帰る!」
「グレース殿下は何処にいる!?一発殴ってやらねば気が済まんわ!」
国賓は二人とも顔を真っ赤にさせていた。
もう宰相の声は届かない。
銀の間に殴り込みにかかりそうな二人をリッキーとマイクはたまたま通りかかっていた執事や侍女達と共に必死で取り押さえた。
銀の間ではミレンハン国の宰相グリムとナージャ王妃がグレース皇子と共に紅茶を飲んでいた。
これからオリヴィア小国の王も交えての会食を予定しており待機していたのだが、そこに気が高ぶった闘牛の如く右王と上王が突撃した。
バアン!っと大きな音を立てて扉が開く。
銀の間の隅にある檻の中で眠っていた黒チワワもその音に反応して起きた。
「上王様、右王様……」
挨拶をしようと立ち上がったグレース皇子の胸ぐらを右王が掴む。
それを後ろに控えていた親衛隊がすかさず取り押さえた。
宰相はただただ部屋の隅の観葉植物の如く血の気のない顔で棒立ちするしかなかった。
「落ち着きなさい。なんなの、貴方達突然に……」
ナージャ王妃は呆然としている。
少し我に返った上王はグレース皇子の襟ぐりを掴む右王の腕を引っ張り、それから礼をした。
「取り乱してすまなかった」
「お久しぶりでございます!上王様、右王様。使節の際は良くしていただき誠にありがとうございます」
グリムは座っていた椅子から立ち上がると、飄々とした笑顔でオリヴィア小国の二人の前までやって来て頭を下げた。
「ああ、ミレンハン国グリム卿か。騒がしくしてしまってすまない」
右王はギロッとグレース皇子を睨みながら、冷めた声色で叫んだ。
「暗殺事件の次は……まだ成人もしていない妹を孕ませて怪我を負わせただと!?妹の意志を尊重して了承したが間違いだったようだ。私は妹を傷付けるために嫁がせたんじゃない!」
「右王様……それは……」
「早急に、シャルロットをお返しいただきたい!……もともと我が国に侵略して来た貴国が和平条約の条件に一方的に取り付けてきた婚約だ。最悪、貴国と戦争になってもうちは構わない!」
目の前の彼らは大変 立腹だ。
グレース皇子は言葉も詰まったまま、立ち竦んでいた。
張り詰めた空気が流れる銀の間に城下に降りていたシャルロットやゲーテ王子が現れた。
手に持っているバスケットにはアヴィの屋敷で作っていたドーナツが詰まっている。
会食で食べてもらおうと用意していたのだ。
「お、お兄様……グレース様?どうなさったの?」
険悪な雰囲気にシャルロットの顔が曇る。
シャルロットの手首に巻かれた包帯を目にした右王は泣きそうな顔をして妹に抱き着く。
「お兄様?」
「シャルロット~!辛い思いをさせてごめんよ~!今すぐ、お兄ちゃんと家に帰ろう!」
「えっ!?」
兄に力強く抱きしめられ、思わずバスケットを絨毯の上に落としてしまった。
わけがわからず抵抗をしても離してくれない。
右王は妹の身体をヒョイっと軽やかに抱き上げ、グレース皇子に背を向けた。
「離してください!お兄様!」
ジタバタと暴れるシャルロット。だが、運動や武道はからっきしだが畑仕事で腕力を鍛えられている大男の右王の力には敵わない。
「グレース様……!」
シャルロットの悲痛な叫びが部屋に響いた。
「姫様!」
目の前にいるのは一国の王だ。護衛のキャロルは手出しするのを躊躇っている。
グレース皇子も目配せで、騎士や親衛隊たちに今は静観しろと指示を出している。
ミレンハン国はただ傍観している。
この騒動に対し動じている様子はない。それどころかグリムはひっそりとほくそ笑んでいた。
全てはミレンハン国のグリムが裏で扇動していたことか。
左王とクライシア大国の王が不在のタイミングで、密かにオリヴィア小国と接触し、有る事無い事を吹聴して回り、2人の感情を逆撫でし温度感を高め、こうやって婚約を破棄するように仕向けていた。
何としてもシャルロットを手に入れるために。
グレース皇子は察し、彼を睨んだ。
「お兄様!離して!」
右王の腕の中で必死にもがくシャルロット。
「私と一緒に帰るんだ!シャルロット」
「どうして!?私は帰りたくないわ!」
「目を覚ませ、シャルロット!」
「目を覚ますのはお兄様の方でしょ」
「ひぎ!」
シャルロットは兄の腕に噛み付いた。
右王は驚きと痛みで悲鳴を上げた。右王が怯んだ隙にシャルロットはその腕から逃れた。
「きゃっ……」
バランスを崩してしまいそのまま絨毯の上に落ち、思い切り尻餅をついてしまった。
身体に衝撃を与えてしまった事に気付き、ハッとして思わずお腹に手を添えて身籠っている幻狼の子が無事かと心配をする。
異常はないようで、一先ずホッとした。
バキバキバキバキッ
背後で何かが壊れるような大きな音がして一同は振り返る。
「ガルルルル……ッ」
部屋中に強い風が吹き渡り家具をなぎ倒し、銀の間の窓やシャンデリアが一斉に割れる。
グレース皇子は咄嗟にシャルロットを庇うように抱きしめながら風の魔法を使い、降ってくるガラスの破片から皆を守った。
「ぐっ……」
咄嗟に身を乗り出したせいで、ガラスの破片の一部で腕を負傷していた。
「グレース様!?」
「俺は大丈夫だ……、クロウが……!」
どこからか獣が唸る声は聞こえるが、生粋の人間であるミレンハン国やオリヴィア小国の彼らには無残に壊された檻しか見えない。
しかし魔力を持つ他の者たちの目には巨大化して牙を剥くどう猛になった恐ろしい幻狼の姿がハッキリと見えていた。
騎士たちはすぐさま、呆然としているナージャ王妃達の手を掴むと引っ張り銀の間から退避した。
「何事ですか!?」
異常を察して赤獅子シモンが駆け付けた。
既にバケモノと化した幻狼クロウを見て、言葉を失う。
ふわっとシャルロットの身体が宙に浮き、幻狼の背に乗せられた。
「クロウ!?びっくりさせてごめんなさい!私なら大丈夫よ?ねえ、お願い!落ち着いて?」
必死で呼び掛けるがシャルロットの言葉は届かない、すっかり正気を失っている。
黄金の瞳も妖しく真っ赤に光り、背中の毛は尻尾の先まで逆立って牙を剥いている。
大切な子供と番に危害を加えられたと思い、本能的に今この場にいる全ての人を敵だと思い込み威嚇をしているようだ。
クロウは背中にシャルロットを背負ったままガラスが大破して剥き出しとなった窓に向かってゆっくり歩き出した。
「クロウ!待て!どこへ行く気だ!」
グレース皇子の声もクロウには届かない。
グレース皇子が窓に結界を張るが、容易く結界を破壊した。
赤獅子シモンはハムスターの姿に変化してガラスの破片が散乱する絨毯の上を駆け、幻狼の尻尾にしがみ付いた。
クロウは小さな獣の気配には気付いていないようだ。。
「……赤獅子……!」
その様子を見ていたキャロルは赤獅子の後に続き、白うさぎへと変化し同じように幻狼の脚に飛び付いた。
クロウは一度も振り返ることもなく窓から飛び出した。
「シモンさんに書類渡せたし、食堂行って飲むか~」
「直帰して良いって言われたしねえ!明日は非番だし、飲むか飲むか!アルハンゲルさんが新しく仕入れたエールがめっちゃ美味しんだって!」
「おいおい、まだ昼間だぞ?」
二人で笑い合っていた本殿の長廊下を金髪碧眼の初老の男と見覚えのある顔をした青年、それからクライシア大国の宰相が通り掛かった。
「あれ?左王様?ご旅行中じゃ?」
思わずマイクは声を出した。
国王と遠出中のはずの左王が目の前に居た。目の前の青年はポカンと口を開けて、首を傾げている。
「お前たち、このお方はオリヴィア小国の右王様と上王様だ、挨拶も無しにいきなり声を掛けるなど無礼だぞ」
宰相の怒号が飛んできた。
右王は怒る宰相を善い人そうな顔でヘラヘラと笑って宥めた。
「騎士団の子かな。私の弟と妹がとてもお世話になってるようだね」
優しい顔でまたニコニコと微笑まれた。
「シャルルさんのお兄さん!?とお父さん!?」
「シャリー」
右王の隣に立っていた上王がゴホンと咳払いをして、右王の腕を引っ張った。
右王はハッとした顔をして自分の両頬を手のひらでパンパンと叩いて、眉尻を上げて顔を強張らせた。
怒ったような表情をすると益々左王と瓜二つだ。
「ーーあ!もしかして、シャルルさんに赤ちゃんが出来たから、会いに来たの~?」
リッキーはふと思い付いて、そのまま声に出した。
「赤ちゃん!??」
右王と上王は顎が外れでもしたかのように口を大きく開け、目を大きく見開きリッキーに食い付いた。
この驚きようは、どうやら全然知らなかったようだ。
「え……、じゃあ、シャルルさんが怪我したからお見舞いかな」
「け、怪我っ!?シャルロットが怪我!?何故だ!」
右王も上王も軽くパニックに陥ってる。宰相は顔を青くしながら2人を必死に落ち着かせている。
呆然と立っていた騎士2人の頭をゴツンと一発ずつ殴り、怒鳴った。
「馬鹿者!センシティブな話題を口滑らせてからに!これから皇子がちゃんとお二人にご説明するはずだったのに!」
延期された婚約の話、シャルロットが幻狼の子を身籠った事について話すためにわざわざオリヴィア小国から2人を招いたのだが、思わぬところでややこしくこじれかかっている。
「婚約も定まっていないのに妊娠させただと!?ゆ、許さん!!シャルロットは何処だ!?こんな所に嫁がせてたまるか!国に連れ帰る!」
「グレース殿下は何処にいる!?一発殴ってやらねば気が済まんわ!」
国賓は二人とも顔を真っ赤にさせていた。
もう宰相の声は届かない。
銀の間に殴り込みにかかりそうな二人をリッキーとマイクはたまたま通りかかっていた執事や侍女達と共に必死で取り押さえた。
銀の間ではミレンハン国の宰相グリムとナージャ王妃がグレース皇子と共に紅茶を飲んでいた。
これからオリヴィア小国の王も交えての会食を予定しており待機していたのだが、そこに気が高ぶった闘牛の如く右王と上王が突撃した。
バアン!っと大きな音を立てて扉が開く。
銀の間の隅にある檻の中で眠っていた黒チワワもその音に反応して起きた。
「上王様、右王様……」
挨拶をしようと立ち上がったグレース皇子の胸ぐらを右王が掴む。
それを後ろに控えていた親衛隊がすかさず取り押さえた。
宰相はただただ部屋の隅の観葉植物の如く血の気のない顔で棒立ちするしかなかった。
「落ち着きなさい。なんなの、貴方達突然に……」
ナージャ王妃は呆然としている。
少し我に返った上王はグレース皇子の襟ぐりを掴む右王の腕を引っ張り、それから礼をした。
「取り乱してすまなかった」
「お久しぶりでございます!上王様、右王様。使節の際は良くしていただき誠にありがとうございます」
グリムは座っていた椅子から立ち上がると、飄々とした笑顔でオリヴィア小国の二人の前までやって来て頭を下げた。
「ああ、ミレンハン国グリム卿か。騒がしくしてしまってすまない」
右王はギロッとグレース皇子を睨みながら、冷めた声色で叫んだ。
「暗殺事件の次は……まだ成人もしていない妹を孕ませて怪我を負わせただと!?妹の意志を尊重して了承したが間違いだったようだ。私は妹を傷付けるために嫁がせたんじゃない!」
「右王様……それは……」
「早急に、シャルロットをお返しいただきたい!……もともと我が国に侵略して来た貴国が和平条約の条件に一方的に取り付けてきた婚約だ。最悪、貴国と戦争になってもうちは構わない!」
目の前の彼らは大変 立腹だ。
グレース皇子は言葉も詰まったまま、立ち竦んでいた。
張り詰めた空気が流れる銀の間に城下に降りていたシャルロットやゲーテ王子が現れた。
手に持っているバスケットにはアヴィの屋敷で作っていたドーナツが詰まっている。
会食で食べてもらおうと用意していたのだ。
「お、お兄様……グレース様?どうなさったの?」
険悪な雰囲気にシャルロットの顔が曇る。
シャルロットの手首に巻かれた包帯を目にした右王は泣きそうな顔をして妹に抱き着く。
「お兄様?」
「シャルロット~!辛い思いをさせてごめんよ~!今すぐ、お兄ちゃんと家に帰ろう!」
「えっ!?」
兄に力強く抱きしめられ、思わずバスケットを絨毯の上に落としてしまった。
わけがわからず抵抗をしても離してくれない。
右王は妹の身体をヒョイっと軽やかに抱き上げ、グレース皇子に背を向けた。
「離してください!お兄様!」
ジタバタと暴れるシャルロット。だが、運動や武道はからっきしだが畑仕事で腕力を鍛えられている大男の右王の力には敵わない。
「グレース様……!」
シャルロットの悲痛な叫びが部屋に響いた。
「姫様!」
目の前にいるのは一国の王だ。護衛のキャロルは手出しするのを躊躇っている。
グレース皇子も目配せで、騎士や親衛隊たちに今は静観しろと指示を出している。
ミレンハン国はただ傍観している。
この騒動に対し動じている様子はない。それどころかグリムはひっそりとほくそ笑んでいた。
全てはミレンハン国のグリムが裏で扇動していたことか。
左王とクライシア大国の王が不在のタイミングで、密かにオリヴィア小国と接触し、有る事無い事を吹聴して回り、2人の感情を逆撫でし温度感を高め、こうやって婚約を破棄するように仕向けていた。
何としてもシャルロットを手に入れるために。
グレース皇子は察し、彼を睨んだ。
「お兄様!離して!」
右王の腕の中で必死にもがくシャルロット。
「私と一緒に帰るんだ!シャルロット」
「どうして!?私は帰りたくないわ!」
「目を覚ませ、シャルロット!」
「目を覚ますのはお兄様の方でしょ」
「ひぎ!」
シャルロットは兄の腕に噛み付いた。
右王は驚きと痛みで悲鳴を上げた。右王が怯んだ隙にシャルロットはその腕から逃れた。
「きゃっ……」
バランスを崩してしまいそのまま絨毯の上に落ち、思い切り尻餅をついてしまった。
身体に衝撃を与えてしまった事に気付き、ハッとして思わずお腹に手を添えて身籠っている幻狼の子が無事かと心配をする。
異常はないようで、一先ずホッとした。
バキバキバキバキッ
背後で何かが壊れるような大きな音がして一同は振り返る。
「ガルルルル……ッ」
部屋中に強い風が吹き渡り家具をなぎ倒し、銀の間の窓やシャンデリアが一斉に割れる。
グレース皇子は咄嗟にシャルロットを庇うように抱きしめながら風の魔法を使い、降ってくるガラスの破片から皆を守った。
「ぐっ……」
咄嗟に身を乗り出したせいで、ガラスの破片の一部で腕を負傷していた。
「グレース様!?」
「俺は大丈夫だ……、クロウが……!」
どこからか獣が唸る声は聞こえるが、生粋の人間であるミレンハン国やオリヴィア小国の彼らには無残に壊された檻しか見えない。
しかし魔力を持つ他の者たちの目には巨大化して牙を剥くどう猛になった恐ろしい幻狼の姿がハッキリと見えていた。
騎士たちはすぐさま、呆然としているナージャ王妃達の手を掴むと引っ張り銀の間から退避した。
「何事ですか!?」
異常を察して赤獅子シモンが駆け付けた。
既にバケモノと化した幻狼クロウを見て、言葉を失う。
ふわっとシャルロットの身体が宙に浮き、幻狼の背に乗せられた。
「クロウ!?びっくりさせてごめんなさい!私なら大丈夫よ?ねえ、お願い!落ち着いて?」
必死で呼び掛けるがシャルロットの言葉は届かない、すっかり正気を失っている。
黄金の瞳も妖しく真っ赤に光り、背中の毛は尻尾の先まで逆立って牙を剥いている。
大切な子供と番に危害を加えられたと思い、本能的に今この場にいる全ての人を敵だと思い込み威嚇をしているようだ。
クロウは背中にシャルロットを背負ったままガラスが大破して剥き出しとなった窓に向かってゆっくり歩き出した。
「クロウ!待て!どこへ行く気だ!」
グレース皇子の声もクロウには届かない。
グレース皇子が窓に結界を張るが、容易く結界を破壊した。
赤獅子シモンはハムスターの姿に変化してガラスの破片が散乱する絨毯の上を駆け、幻狼の尻尾にしがみ付いた。
クロウは小さな獣の気配には気付いていないようだ。。
「……赤獅子……!」
その様子を見ていたキャロルは赤獅子の後に続き、白うさぎへと変化し同じように幻狼の脚に飛び付いた。
クロウは一度も振り返ることもなく窓から飛び出した。
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