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ミレンハン国のトド王妃と赤獅子シモンのダイエット大作戦!?〜美しい公爵令嬢と獣人騎士の身分差恋愛の行方
幸せへの追い風
しおりを挟む「おはようございます!ゲーテ王子、朝ですわよ!」
窓から強烈な朝陽が漏れる。逆光の中、窓の前に立つ女性のシルエット。同室のユーシンは部屋に居ない。
今日は非番だったゲーテ王子は早朝の訓練の後部屋に戻ってきて二度寝をしていた。
それをこの女性は平然と叩き起こす。
「んあ?」
目をこすりながら体を起こし顔を上げると、そこには食堂の制服姿のクリスティが居た。
「な、なんで、テメェが俺の部屋に?」
「朝ごはんをお持ち致しました。ミルクリゾットとコーヒーと温野菜のサラダよ」
「はぁ?」
無理やり連れてこられた詰め所のミーティングルームの机上には据え膳が置かれてあった。
休憩中の騎士らが奇妙そうな顔でゲーテ王子とクリスティに注目している。
クリスティはベタベタとゲーテ王子の身体に触れ、ニコニコと笑ってる。
視界の隅で、グシャッと読んでいた新聞を握り潰し震えながらゲーテ王子を睨む赤獅子の姿が目に入った。
おっかないオーラを纏っているが何も言ってこない。
無理やり据え膳の前に座らされ、そして当たり前のようにクリスティはゲーテ王子の隣に座った。
「ゲーテ王子、はい、あーん」
「なっ……」
クリスティはリゾットをスプーンで掬い、ふうふうと息を吹きかけ熱を冷ましゲーテ王子に差し出した。
ゲーテ王子は顔面を蒼白させた。
赤獅子が歯をギリギリさせながらこっちを視線で殺せるくらいの恐ろしい目で見てくるからだ。
もはや化け物のようだ。
化け物は深呼吸をすると立ち上がり、ゲーテ王子の前までやって来た。
周りの騎士達もビクビクしている。
「クリスティ様、何の真似ですか?騎士の詰め所に押し掛けて……」
「あら。シモンには関係ないわ。ちゃんとグレース殿下に許可をいただきましたもの。ゲーテ王子の側妃に内定したのよ?お世話をして当然じゃない」
「側妃!?……だと?」
赤獅子は殺意のこもった目で椅子に座ってるゲーテ王子を見下ろした。
ゲーテ王子は何も言えず、ブンブンと首を横に激しく振る。
「私、最近失恋してすごく落ち込んでいたんですけど、そんな時に優しいゲーテ王子に慰めていただいたのよ……。そう、身体で」
「……か、身体で!?」
クリスティは態とらしく泣き真似をしている。
語弊がある、とゲーテ王子は異議を申し立てたかったが鬼のような形相の赤獅子の顔を見て萎縮するばかりであった。
最近城下町へ遊びに出掛けた際に買ったお菓子を食堂の従業員達に労いの意味で差し入れしてあげたまでだ。
修羅場が繰り広げるミーティングルームに、ナージャ王妃が午前のランニングを終え戻ってきた。
汗だくで、でも運動後ですっきりとした顔をしている。
「あら、ゲーテ、お早う」
息子の姿を見つけて声を掛けた。
「おい、ババァ!一体……っ」
側妃とはどういうことだと文句を言おうと立ち上がると、それを阻止するようにクリスティはゲーテ王子の腕にぎゅっと抱き着いた。
「ナージャ王妃、一体どういうつもりですか?クリスティ様をゲーテ王子の側妃に迎えるなど……」
「だって、長くお付き合いしていた恋人に捨てられたそうよ。もう結婚適齢期も過ぎていらっしゃるのに、無責任なクズ男よね。こんなに美しくて良い子なのに…。だからゲーテの側妃にならないかとスカウトしたのよ。公爵家のご令嬢よ、身分も悪くないしね」
「クリスティ様。お言葉ですが、そんな捨て鉢で嫁いでも良いことなんてありません。どうかご一考を……」
「あら。シモンには関係ないじゃ無い」
「私は貴女がちゃんとした立派な殿方と結ばれて真っ当な幸せを手に入れることを願って……っ」
「私が幸せになろうが不幸になろうが貴方の知ったことではないでしょう?」
「クリスティ様……私は……」
意味深に見つめ合う二人をゲーテ王子は間に挟まれながら見ていた。
ゲーテ王子はフフンといつもの調子で笑うとクリスティの肩を抱き寄せ、赤獅子に向かって言った。
「……うーん、まあ、お前なぞ とうが立ち過ぎてどうせ嫁の貰い手もないだろ。この親切な俺様が、タイプでは無いが特別に妾に連れ帰ってやってもいいぞ?ただし俺様が飽きたらいつでも容赦なく花街にでも捨ててやるがな」
ガハハとゲーテ王子は大きな口を開いて笑った。
ナージャ王妃も一緒に高笑いをする。
赤獅子は奥歯を軋ませ拳を強く握るとゲーテ王子の前に立ち、その胸ぐらを勢いよく掴んだ。
衝撃で襟のボタンが飛んだ。
「……貴様っ……」
怒りで顔は真っ赤だ。
ゲーテ王子は動じる様子もなく飄々と笑う。
「お前のようなクズにクリスティ様を渡すものか!!」
「あ?お前の女じゃないだろ」
「……お前のような最低最悪のクソ野郎に渡すくらいなら……っ、私が彼女と結婚する!私が彼女を幸せにする!」
赤獅子は我を忘れて叫んでいた。
ナージャ王妃はニヤリと笑っていた。
赤獅子が正気に戻った時には時すでに遅し。
野次馬の騎士達が一斉に拍手をし、クリスティは涙を浮かべて嬉しそうな表情を浮かべていた。
ナージャ王妃は部屋いっぱいに響くような大きな声を上げた。
「皆さん、今の言葉しっかりと聴きまして?」
「バッチリ~」
リッキーが元気な声で返事をした。
外野の騎士達も頷く。
赤獅子は顔を真っ赤にしたり真っ青にしたり忙しい顔で狼狽えている。
思いがけない逆フラッシュモブプロポーズに赤獅子は混乱する。見事に当て馬役にされたゲーテ王子もおかしそうに大口開けて笑ってる。
「なっ……これは誘導尋問だ!不当だ!」
「シモン、無駄ですわよ。言質はいただきました!ここにいる騎士の皆様が証人になってくれるわ。年貢の納め時ですわよ?」
「クリスティ様……しかし……」
クリスティは赤獅子の顔の前に手の甲を差し出す。
「ほら、手の甲にキスでもして騎士らしくスマートにかしずいて誓いなさい。私を守ると、幸せにすると」
「……しかし」
「貴方がどうしようもないヘタレなのはもうとっくに知っていますわ。呆れを通り越して愛おしいくらいです。私は貴方が好きです、私の隣は貴方以外にはあり得ません。私を幸せにできるのは貴方しかおりません」
まっすぐと赤獅子の目を見てクリスティは断言する。
赤獅子は赤く染まった顔を隠すように手のひらで顔半分を覆い、深い息を吐いた。
「参りました……。クリスティ様」
赤獅子はクリスティの手のひらをそっと拾うと床に膝を折り、手の甲にキスをしてクリスティの顔を仰ぎ見た。
「貴方を愛しています、クリスティ様。どうか私と結婚していただけないか……?」
「もちろんよ!」
クリスティは瞳に涙を滲ませながら思い切り赤獅子の胸の中に飛び込んだ。
外野の騎士達が二人を祝福するように一斉に拍手をした。
「あんたがまさか人のためにそんな機転を利かせて猿芝居するなんて、成長したのね」
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「…ウゼェぜ、勝手に俺を巻き込んでおいて」
「まあ、いいじゃない。終わりよければ全て良し。カップルを見るとついお節介したくなるのよ」
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国では今でもおとぎ話として語られるほどの大恋愛の末 結ばれた夫婦のようだ。
ゲーテ王子が幼い頃から両親は夫婦喧嘩ばかりだが、二人ともサッパリとした性格なので半日も経てば喧嘩したことも忘れて仲良くご飯を食べている。
夫婦喧嘩は犬も食わないのだ。
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