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ミレンハン国のトド王妃と赤獅子シモンのダイエット大作戦!?〜美しい公爵令嬢と獣人騎士の身分差恋愛の行方
赤獅子とトド王妃のダイエット大作戦
しおりを挟む今日は食堂での仕事も休みだ。
シャルロットは朝からアランに貴族の令嬢達が揃うサロンに誘われていた。今までは顔見知りも居らず なんだか敷居が高くて敬遠していたが、いざ参加してみれば前世でよくあった女子会となんら変わりない。
みんな若い娘らしく流行のドレスや宝飾品に興味津々だし、美味しいスイーツに夢中だし、音楽に小説、それから意中の殿方の話で盛り上がった。
「久しぶりにちゃんとしたドレスを着ました。コルセットが苦しいですわ」
苦しいお腹を手のひらで撫でた。
この春らしい柔らかなベビーイエローのドレスはアランが見立ててくれた。
シャルロットの膝の上に座るポメラニアンのグレイもお揃いのベビーイエローのスカーフをしている。
「グレース様の隣に並ぶのだからちゃんとしたドレスを着ないとダメよ。今度のお休みはいつかしら?リリースも誘って城下町へ新しいドレスを仕立てに行きましょう」
シャルロットの隣で、アランは呆れたようにため息をついていた。
サロンの時間も終わり、外で待機していた護衛のアダムと合流し、回廊を渡って本殿の中へと入った。
「アダムさん、グレース様の部屋へ寄っても良いかしら?」
「ええ、どうぞ。今の時間でしたら銀の間ではないですか?」
実は先日ミレンハン国より使節団がクライシア大国にやって来た。
宰相のグリムに官僚複数人、ゲーテ王子の母で王妃様のナージャ、侍女や騎士複数人と大所帯で本殿に勤務する使用人達は朝からバタバタしていた。
今日グレース皇子は王代理として使節団とクライシア大国にある工場や美術館などの視察へ出ていた。
夜は晩餐会を共にするそうだ。
今夜もお渡りはないだろう。
「どうぞ、ごゆっくり」
「ええ、しばらくここにいますから、アダムさんも小一時間ほど休憩してください」
銀の間の扉の前に着くと、ポメラニアンを胸に抱いたアダムとはそこで別れた。
「ぐ、グレース様?」
ノックと共に扉に向かって名前を呼ぶと、中から黒いスーツ姿の男が出て来た。
グレースの執事だ。
「これは、シャルロット様」
「ごきげんよう、グレース様はいらっしゃる?」
「ええ、おりますよ。休憩中でございます」
執事はシャルロットを室内に案内すると、部屋を出て行った。
銀の間の長椅子にグレース皇子は一人腰掛けて紅茶を飲んでいた。
「姫……」
シャルロットの顔を見るなり嬉しそうな笑顔を見せた。
「今、お時間は大丈夫ですか?」
「ああ、晩餐会の時間まで暫し休憩をもらったよ」
グレース皇子の向かい側に座ろうとしたシャルロットの腕をグレース皇子は掴んで引っ張った。
何故かグレース皇子の膝の上に座らされ、その上 腰に腕を回され抱きしめられている。
「あの……グレース様?重たいですわよ?」
「重くない、今日のドレスよく似合ってる。可愛いな」
「ありがとうございます……。さっきまでアラン様達とお茶をしていたの」
「そうか……」
優しい眼差しを向けられ、そして後ろから抱きしめられた。
「……」
無言になったグレース皇子の頭を先日シャルロットがゲーテ王子にした人工呼吸をしていたのを思い出して胸の奥がチクチクした。
人命救助、シャルロットがそう言うならそうなんだ。
頭ではわかっているし、自分がシャルロットと同じ立場でも同じ行動をしたはずだ。
グレース皇子はシャルロットの唇に口付けた。
数回唇が触れ合うようなキスをして、お互いに照れたように笑い合った。
「これでチャラだ」
「え?」
「なんでもない」
なかなか会えないけれど、こうして触れ合っただけですぐに心が満たされる。
「あ、あの、ゲーテ王子のことなんですけど……」
グレース皇子の胸にもたれながらシャルロットは口を開く。
ピクリとグレース皇子の肩が動き、そして大きな手のひらでシャルロットの肩を掴み強く抱きしめた。
「大丈夫だ。姫の事は誰にも渡さない」
「私も!私が好きなのはグレース様とクロウだけよ!」
シャルロットが必死な顔で言うと、グレース皇子は優しく頭を撫でた。
間近で彼の顔を見上げると、目の下が青かった。
「…グレース様、目の下にクマができてるわ、眠ってないの?」
「ああ、少し。……王の仕事って思ったよりも大変なんだな。それでも、お父様はいつも涼しい顔をしているからすごいよな、……今まで気付かなかった」
「誰だって最初は大変ですわ」
シャルロットはグレース皇子の膝から降りると長椅子の端に座り直し、自分の膝をポンポンと叩いた。
「膝をお貸しします。少し仮眠を取ってください」
呆然としているグレース皇子の後頭部を自分の膝の上に乗せ膝枕をした。
上から見下ろすグレース皇子の顔は新鮮だった。
「姫は……」
「私のことは気になさらないで、時間が来たら起こしますから」
にっこりと笑うと、グレース皇子は少しはにかみ目を閉じた。
「シャルロット!」
黒チワワのクロウが尻尾を振りながら窓から部屋に入って来た。
小走りで駆けて来て、横になって寝付いたばかりのグレース皇子のお腹に飛び乗った。
「静かにして、グレース様が眠ってるわ」
「私も寝る~シャルロット、私も撫でて撫でて」
「はいはい」
クロウはグレース皇子の腹の上で丸まった。
シャルロットは微笑みながら黒チワワの背中をさすった。
シャルロットは二人の顔を微笑みながら見つめる。
開けっ放しの窓からは春のさわやかな風が吹いて、グレース皇子の前髪を揺らした。
シャルロットは彼の髪を撫でていた。
「あら、ま、大きい子供ね」
ソファーの背後で突然姿を現した火の精霊ウェスタ。
彼女は上から眠っている二人を観察するように覗き込んでいた。
「ウェスタさん、食堂はどうしたの?」
「休憩よ~。朝から働いてたからねぇ」
ウェスタは向かいのソファーに座った。
「ぐっすり眠ってるわ。よっぽど疲れていたのね」
「そうねぇ。グレースは小さい頃から少し神経質な子だったからこうやって人前で寝るなんて珍しいわ。シャルロットちゃんには心を許してるのね」
「そうだといいのだけれど……」
シャルロットは少しの沈黙の後、ウェスタの目を見て言った。
「わたしにできることってないかな」
「もう十分役に立ってるわ。シャルロットちゃんに感化されて、今まで逃げてきた自分の役目をちゃんと全うしようと頑張ってるわ」
ウェスタは優しい眼差しをグレース皇子に向ける。
「……ウェスタさん、あの、私にも魔法を教えて欲しいの!ダメかしら?」
「もちろん、いいわよ!」
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「有事の際の護身術に教わりたいの。グレース様や幻狼や立派な騎士の護衛がついてるけど、私自身も強くならなきゃ。それに、強くなればお父様やお兄様を安心させられるし……」
火の魔法は魔法の中でも高位の魔法らしい。
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魔法のことはよく分からないシャルロットだったが、きっと生易しいものではないのだろう。
それでも、
「もしグレース様に危険なことがあれば、グレース様をお守りすることができるわ」
「……シャルロットちゃん。でも、魔法は便利だけど、人を傷付ける武器にもなるのよ?それでもいい?」
「なんでも使い用ですわ。ナイフだって危険なものだけれど、お料理には欠かせない道具です。魔法が暴走して人を傷付けてしまわないようにマスターしておきたいの」
「シャルロットちゃん……」
ウェスタは感涙していた。
火の精霊として生きていて、復讐、戦争で人を傷付ける兵器として、または己の欲望のために火の精霊の力を欲したり利用しようとする人間なら幾らでもいた。
火は恐ろしい力、とてつもない脅威だ。だから人間たちはウェスタを恐れる。
でもシャルロットのように誰かのために魔法が使いたいと願う人間は初めてだ。
*
ーー第二騎士団・詰め所ではミレンハン国の侍女たちが顔を真っ青にしていた。
そこには腕を組みで勝気な笑みを浮かべ堂々と立つナージャ王妃が居た。
彼女の前には苦笑を漏らす赤獅子の姿があった。
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「そうでなくちゃ!頑張るわよ!」
こうして赤獅子とナージャ王妃のダイエット大作戦が始めった。
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