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ミレンハン国のトド王妃と赤獅子シモンのダイエット大作戦!?〜美しい公爵令嬢と獣人騎士の身分差恋愛の行方
赤獅子シモン帰還!キャロットラペサンド
しおりを挟む銀の間にはいつもの華やかなドレスを脱いで黒尽くめのスーツ姿のバルキリーとグレース皇子が居た。
バルキリーはグレース皇子が座っている王の机の前に立ち仁王立ちしていた。
「貴族院のリストは憶えました?今度は憲章の書写ね。本来ならば幼少期に済ませてあるはずですけれど、グレース皇子は社交界にもあまりお出にならないし、皇子のお勉強をサボりがちでしたから。レイメイも、王としてはご立派でも子育てには甘かったものね。私は甘やかさないわよ?」
ふふふ、とバルキリーは笑いグレース皇子の隣の椅子に座った。
王代理の仕事に加えて、バルキリーによって帝王学を叩き込む厳しいスパルタ教育が始まっていた。
「皇子、シモン様がお見えです」
「ああ、通してくれ」
銀の間に姿を現したのは十年ぶりに会う獣人騎士シモンだった。
深い茶色の髪に灰色の瞳だが、戦場で獅子のように暴れ、敵の返り血で真っ赤に染まる姿から赤獅子と呼ばれていた。
2代前の王に仕えていたが、前王時代に愚王と悪名高いグレース皇子の祖父にあたる王が暴政を働いていた時代、現王レイメイと共に貴族や騎士を集めて徒党を組み反逆を起こし、王の権力を制御する憲章を作成した逸話を持っている。
「シモン、久しぶりだな」
「グレースか、大きくなったなあ」
グレース皇子はシモンの姿を見てギョッとした。
昔は獅子のように大きく逞しい益荒男であったが、今の彼は年齢以上に老け込んで見え、目の下にはクマ、乾燥した肌、髪も毛並みが悪くボサボサだ、やつれた顔をしている。
身体も一回り小さくやせ細って見えた。
病人のような風貌だ。
「シモン、どうしたんだ?どこか悪いのか?」
「いや……寄る年波には勝てないものですよ」
性格も物静かになって別人のようだ。
「目のご病気だとか噂には聞きましたけれど、大丈夫なの?」
「バルキリーか、ああ、昼間は大丈夫なんだ。夜目が利かなくてな」
「うう~」
シモンの後から口に大きな紙袋を加えた黒チワワが小走りで現れた。
「クロウ」
「ぷは」
クロウはグレース皇子の前まで来ると紙袋を彼の手の上に落とした。
席を外せないグレース皇子のお使いでケータリングの昼飯を運んできたようだ。
「わ、シモンだ!久しぶり~」
「お前、クロウなのか?なんだ?その犬の姿は。また悪さをしたのか」
「ちょっとね~。シモンもサンドウィッチ食べる?私の奥さんが作ったの」
「ああ、結婚したんだってな?グレース坊ちゃん」
「まだ婚約の段階だが……」
グレース皇子達は部屋の窓辺にあるソファーへ移動しランチを取る事にした。
ライ麦の入った丸いブランロールにキャロットラペや炒り卵とハム、クリームチーズが挟まっているサンドウィッチだ。
それから、バルキリーが淹れたコーヒー。
「黒パンのようだがフワフワしてて城で食べるパンよりも美味いな」
「パンはね、オーギュスト国のアルハンゲルが作ってるの。黒パンには栄養がいっぱいあるんだよ!人参は私の畑で採れた人参だよ」
クロウはグレース皇子の膝の上にちょこんと座り、グレース皇子の手ずからパンを一口食べていた。
「オーギュストのアルハンゲル王配殿下か?オーギュストは王弟殿下が成人するまで聖竜が摂政するとは耳に入っていたが、何故またパン作りなど……」
「色々あったんだ。アルハンゲル大公と公爵家のユハと私の婚約者が使用人の食堂を作ったんだ。美味しくて身体にも良いと、使用人達からも好評だよ。シモンもそこで食事を摂ると良い」
「カオスな事になってるじゃないか、面白い。食堂を覗いてみるさ」
*
一方、第二騎士団の詰め所。
つい先程本殿に使える事務官から直々に書簡を受け取ったゲーテ王子は荒ぶっていた。
「なんだと!?」
声を上げたゲーテ王子に詰め所内の騎士達はびっくりして注目する。
「どうしたんすか?ゲーテ王子」
ユーシンは恐る恐る声を掛ける。
「いや…グリムとクソババァがこっちに来るらしい」
「くそばばぁ?」
「俺の母上だ」
「ゲーテ王子のお母さん?ミレンハン国の王妃様がなんで?」
「さあな」
ゲーテ王子は書簡をポイっとクズ入れに投げ込む。
それから数分も経たない間に、騎士アヴィに案内され、伝説の赤獅子シモンが姿を見せた。
詰め所内はどよめいた。
「男臭い詰め所だな」
生で見る伝説の赤獅子に騎士達のテンションは上がった。
雄叫びが上がる。
赤獅子は毅然とした態度で野獣どもの前に立った。
「静粛に!今日からアヴィと共にコハン団長及び第一騎士団のメリー団長の代理を務めるシモンだ。よろしく頼む」
「シモンさんって第二騎士団のOBなんすよね!?」
「そうだ。コハンとメリーは私の後輩だ」
「あの二人って昔からああなの?」
「まあ、そうだな。……この数年ソレイユ国とも冷戦中で、戦争もほとんどなかったからお前達もすっかり腑抜けているな。そんなお前らに特訓メニューを考案してきたぞ」
アヴィは黒板に大きな紙を広げた。
過酷な特訓内容が箇条書きされてある。
城外周十周だの筋トレだの剣術だの肉弾戦に備えた武道だの体力勝負な内容だ。
「第一騎士団にも同じメニューを言い渡した」
「肉体派の俺たちは兎も角、普段魔法中心の第一騎士団の貧弱モヤシ達にはキッツいメニューだなぁ」
「他所の心配してる余裕なんかないぞ。お前達には対魔法の特訓も受けてもらうぞ」
「魔力なら少しあるけど、俺たち獣人だから魔法は使えないぜ?」
「魔法を使えとは言っていない。魔法に対抗する術を身につけるのだ。敵が人間だけだとは限らないだろう?」
「しかし……」
「聖獣一匹くらい余裕で倒せるようになってもらわないと」
「無茶っすよ!魔人でも倒せないのに……」
「やる前から根を上げるな!やれないじゃない、やれ!」
赤獅子は険しい顔をして吠えた。
第二騎士団の騎士達の悲鳴が建物中に響く。
ーー数時間前、第一騎士団の詰め所でも赤獅子により特訓メニューが発表された。
第一騎士団の騎士は沈黙したまま揃って顔面蒼白していた。
ただ1人、憧れの赤獅子を見つめるキャロルの目はキラキラと輝いていた。隣に立っていたアダムも流石に苦笑していた。
「キャロルは真っ先にぶっ倒れそうな特訓内容だよね」
「なんだと!俺はそんな貧弱な男じゃない!バカにするな!」
ミーティングに何となく参加していたユハはなにかを考えていた。
「う~ん、こりゃ食堂のメニューも改善しなきゃだね」
「食堂と何の関係があるんだ?」
キャロルが問う。
ユハは笑って答えた。
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「そうなのか?」
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「うん☆」
「よかったね、キャロル」
キャロルの頭をポンポン撫でて穏やかに笑うアダムを、キャロルは睨む。
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キャロルは憤怒した。
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