177 / 262
番外編・スピンオフ集
(前世編)向日葵とエスプレッソコーヒー
しおりを挟む「蒼介!もう!予定があるなら前もって言ってよ!」
幼馴染で恋人の少年の部屋で少女は怒鳴った。
そしてソファーのクッションを思い切り少年の顔面に投げつけた。
「毎回遅刻する、ドタキャンする、いったい何回目よ?次やったら別れるって言ったよね!?」
「ごめんね~~里緒~~」
「前もって言ってくれたら私だって怒らないわよ。もういい、付き合ってられないわ!」
「里緒~~ヤダヤダ~」
よく晴れた日曜日。
久しぶりのデートの予定を当日の今しがたドタキャンされた少女は怒り心頭に発する。
少年が所属する高校の生物部で顧問の教師同伴で遠出をする予定があったらしい、少年は副部長のくせにその予定をすっかり失念していたそうだ。うっかり予定をブッキングしてしまったらしい。
半泣きでオロオロしている少年をギロッと睨んだ。
そして少年の部屋から飛び出して階段を下った。
蝉が大合唱する入道雲の下を少女はドスドスと地面を鳴らして早歩きした。
風は涼しいが日差しが強くて額が汗ばんだ。
上着のチェックの長袖のシャツをデニムのひざ丈スカートの腰部分に巻きつけて、リュックから帽子を取り出してかぶった。
一人で街に出ると、涼を求めてコーヒーショップに立ち寄った。
人もまばらで混んではいなかったがレジが詰まっていた。
不思議な黄金の瞳をした中年くらいのダンディーな雰囲気の外国人がレジのメニュー表と睨めっこしていた。
店員さんは笑顔で困惑していた。
少女は彼に話しかけた。
「日本語で大丈夫かな?あのー、どうしました?」
「…初めて飲むのでな、何を選べば良いのかわからんのだ」
流暢な日本語だ。
「苦いのは平気ですか?」
「ああ」
「エスプレッソコーヒーとかどうですか?私のお父さんがよく飲んでるよ」
「うむ、いただこう。君は何を飲むのだ?」
「私はこのクールライム……」
夏のメニューが出たので本来なら恋人である少年と一緒に飲みに来る予定だった。
ドタキャンされたが。
少女は怒りを思い出した。
「では、それもよろしく頼む」
男の言葉に店員は頷いた。会計は進む。
「えっあのっ…お金、払います」
「構わん、助けてくれた礼だ」
*
会計が終わって、少女はフードコートの一番奥の窓際の席に座った
黄金の瞳をした不思議な男も同席した。
「良い香りだ、スッキリとした苦味が良いな」
男はエスプレッソコーヒーを堪能している。
気品溢れる所作、紳士的な雰囲気、どこかのセレブのおじさん?少女は彼におごってもらったジュースを飲んだ。
「この国はこのコーヒーとやらが名産なのか?」
「へ?うちの国はどっちかと言えば緑茶とかかなぁ。コーヒーだったらイタリア?とかフランス?とかヨーロッパじゃないかなぁ。ここだって普通のチェーン店だし、本場のコーヒーはもっと美味しいと思いますよ」
「よーろっぱか、以前何度か行ったことがあるぞ、美味しいコーヒーを手に入れに今度また行ってみよう」
白人っぽいから安直にヨーロッパ辺りの人かと思ったが、一体何人なのだろう?
少女は首を傾げた。
「あの、よかったらこれ食べてください。私が作ったパニーニです」
幼馴染の少年のために朝作ったものだ。
洒落っ気もなくアルミホイルで包まれているので、目の前のお洒落で優雅でセレブっぽいおじさまにあげるには気が引けた。
「ありがとう、いただこう」
食べる仕草まで優雅だ。
「美味しい」
「よかった!」
「コーヒーとよく合うな」
談笑しながら軽食を済ませて、笑って不思議なおじさんと別れた少女。
イライラとした気分もスッキリ晴れてきた。
こんな日曜日もいいかもしれない。
本調子に戻った少女はデパートに立ち寄って一人でショッピングを楽しんだ。
新しいワンピースやアクセサリーを買って、文房具屋では切らしていた授業用のノートとシャープペンシルの芯を買った。
ぶらりと映画館に立ち寄って一人で流行りの恋愛映画を鑑賞。
そして日が暮れた頃に自宅へ帰った。
部屋のドアを開けると驚愕した。
少女の部屋中に向日葵が何本も散らばっていた。
ベッドの上には幼馴染の少年が正座をしてちょこんと座っていた。
「ごめんなさい!」
勢いよく土下座をされる。
「何してるの?私の部屋こんなに散らかして」
「里緒、向日葵好きでしょ!薔薇の花がよかったぁ?」
ウルウルと今にも泣き出しそうな目で、すがるように見つめてくる少年。
「蒼ちゃん、薔薇の花なんて買うお金ないでしょう」
「うう」
「部活はちゃんと行ったの?」
「うん」
「お母さんに叱られるから早く片付けてよね。花瓶があるから、窓辺に飾ろうか」
ニッコリと笑うと少年は少女に抱きついて向日葵が散るベッドの上にゴロッと転がった。
「里緒、好き~」
「許したわけじゃないからね!時間を守れない男なんて嫌いよ」
「わかった~守る!!」
返事だけは百点満点だけど、またやらかすな……。
少女は少年の腕の中で苦笑した。
☆☆☆
0
お気に入りに追加
396
あなたにおすすめの小説

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。


断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる