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番外編・スピンオフ集
(前世編)寒い日にはぶらりと豚まんを
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バレンタインデー前日の女子は忙しい。
少女もまた同じ。仲の良い女友達数人と誰かの家に集まって一緒にお菓子作りをするのが恒例だ。
幼稚園の頃からそうなのだが中学二年生になった今は事情が違う。
みんなチョコをあげるのは親兄弟から好きな人、または気になる男子にシフトしている。
「里緒は蒼介にあげるの?」
「うん、あとお兄ちゃん達とお父さんと剣道部のみんなかな」
毎年大量生産できるスクエアケーキやクッキーを作って、父と年子の兄と隣の家に住む幼馴染、兄が主将をしている剣道部の仲間たちにあげていた。
「里緒は今年も義理チョコか~お子ちゃまだな」
「志保は先輩にあげるんだよね、告白うまくいくといいね」
少女は笑って応援を送った。
「美味しそう~!バレンタインのチョコ?」
少女の自宅の台所の窓から学生服を着た少年が顔を出した。
焼き上がったばかりの量産した市松模様のアイスボックスクッキーを物欲しげに見つめている。
「蒼ちゃん、ダメだよ。明日ちゃんとあげるから!」
「え~……、隣のお菓子は何?マフィン?」
「ケークサレだよ。塩味のケーキ、隣のクラスの鈴木君にあげるの。この間委員会の仕事一人で任せちゃったからそのお礼に。甘いもの苦手だって言ってたから皆んなの分とは別に作ったの」
「僕もそれがいい」
「どうして?蒼ちゃんがクッキーが食べたいって言ったんじゃない、ほんと気まぐれなんだから。それに余ったケークサレはもうお母さんとおばあちゃんが食べちゃったから無いよ」
「ふんっ」
ほっぺたを膨らませ八の字眉の不満げな顔で少女を見つめる少年は、やがて拗ねて何も言わずに去って行ってしまった。
少女は怪訝そうな顔で少年が去った後の窓を見つめていた。
*
翌朝。
学校へ向かおうと玄関で靴を履いていた少女の前に緑色のマフラーを巻いた少年が笑顔で現れた。
「蒼ちゃん、お早う」
機嫌直ったかな?少女は軽く考えていた。
いつも通り少年と肩を並べて通学路を歩いていると、バス停の前で突然少年が蹲り腹を押さえて痛がりだした。
「痛い痛い」
「蒼ちゃん?大丈夫?家に引き返す?それとも救急車?」
オロオロとテンパっている内に、学校へ向かうバスがバス停に近付いて来た。
「あの、私、学校……」
少年は少女の手首を掴んで離さない。
そうこうしているうちにバスはバス停に停まり、すぐに発車した。
乗り過ごしてしまった。
呆然としていると、次のバスが停車した。
少年は少女の手を引っ張り、そのバスに乗り込んだ。
「なっ!?なんなの?学校はどうするの!?」
「どうせ土曜で午前授業だし、作文発表会でしょ?サボろうよ」
「サボるなら一人でサボりなさい!お腹が痛いんじゃなかったの!?もう!」
「嘘だもん」
悪びれる様子もなく無邪気に少年は笑う。
走り出したバスの中どうしようもなく少女はため息をついて外を見つめていた。
二十分走ったところでまた少年に手を引かれてバスを下車する。
海浜公園だ。
「なんで海なの?寒いわよ」
「売店のフードコートの中は暖房きいてるでしょ。行こ」
少年は少女の手を握って離さない。
困り顔の少女のことなど我関せず、満足げにおかしな鼻唄を歌ってる。
売店の中は温かい。
少年は二人分のホットジンジャーエールと豚まんを買ってフードコートの奥の席に着いた。
ホカホカの豚まんに少女はようやく明るい顔になった。
「ここの豚まんってやっぱり最高」
「小さい頃はよく来て食べてたよね」
「そうだね。蒼ちゃん、お祖父ちゃんに、豚まんに勝手にカラシをつけられて泣いて怒ってたわ」
「僕はカラシ嫌いだしソース派だもの」
まったりと食べ進めていると、先に豚まんを食べ終えた少年がニコニコ笑いながら何かを訴えかけるかのように期待に満ちた目で少女の顔を見つめていた。
ご飯を待ちわびる大型犬のようだ、少女は苦笑した。
「はい、どうぞ」
少女はやれやれと、バレンタインのお菓子を少年に手渡す。
少年はパァーッと明るく笑った。
「ありがと~!あれ?昨日のクッキーじゃない」
「昨日のクッキーを砕いてボトムにしてエッグタルトにしてみたの。志保が、蒼ちゃんはお兄ちゃん達と同じクッキーなのが不満で怒ったんだろうって言うから」
「エヘヘ………」
少年は幸せそうな顔をして隣に座る少女の肩にもたれかかる。
「ありがとう、里緒、大好きだよ」
「はいはい、調子良いんだから」
いつものようにベタベタ甘えてくる手のかかる幼馴染を少女は軽くあしらった。
「そーだ、里緒、これあげる!」
「狼のストラップ?」
「この前の休みに狼ミュージアムに行った時に買ったの、僕とお揃いだよ。僕たち彼氏彼女みたいだね」
「これ、うちのお兄ちゃんも持ってるよ。校外学習で行ったんだって。それで、子供の頃に山で見たっていう狼はわかったの?」
「うーん、わかんない。それより、彼氏彼女の部分スルーしないでよ!」
鈍感な幼なじみの少女にやきもきする少年。
「あの狼に会ってからなんだか身体が丈夫になった気がするんだよね。病気一つしないし、怪我してもすぐ治るし~。神さまだったのかも!」
「バカは風邪引かないっていうし、蒼ちゃんのはそれじゃないの?」
「酷い~」
少女はピンク色をしたゆるい顔の狼のストラップをゆらゆら揺らして、微笑んでいた。
☆☆
少女もまた同じ。仲の良い女友達数人と誰かの家に集まって一緒にお菓子作りをするのが恒例だ。
幼稚園の頃からそうなのだが中学二年生になった今は事情が違う。
みんなチョコをあげるのは親兄弟から好きな人、または気になる男子にシフトしている。
「里緒は蒼介にあげるの?」
「うん、あとお兄ちゃん達とお父さんと剣道部のみんなかな」
毎年大量生産できるスクエアケーキやクッキーを作って、父と年子の兄と隣の家に住む幼馴染、兄が主将をしている剣道部の仲間たちにあげていた。
「里緒は今年も義理チョコか~お子ちゃまだな」
「志保は先輩にあげるんだよね、告白うまくいくといいね」
少女は笑って応援を送った。
「美味しそう~!バレンタインのチョコ?」
少女の自宅の台所の窓から学生服を着た少年が顔を出した。
焼き上がったばかりの量産した市松模様のアイスボックスクッキーを物欲しげに見つめている。
「蒼ちゃん、ダメだよ。明日ちゃんとあげるから!」
「え~……、隣のお菓子は何?マフィン?」
「ケークサレだよ。塩味のケーキ、隣のクラスの鈴木君にあげるの。この間委員会の仕事一人で任せちゃったからそのお礼に。甘いもの苦手だって言ってたから皆んなの分とは別に作ったの」
「僕もそれがいい」
「どうして?蒼ちゃんがクッキーが食べたいって言ったんじゃない、ほんと気まぐれなんだから。それに余ったケークサレはもうお母さんとおばあちゃんが食べちゃったから無いよ」
「ふんっ」
ほっぺたを膨らませ八の字眉の不満げな顔で少女を見つめる少年は、やがて拗ねて何も言わずに去って行ってしまった。
少女は怪訝そうな顔で少年が去った後の窓を見つめていた。
*
翌朝。
学校へ向かおうと玄関で靴を履いていた少女の前に緑色のマフラーを巻いた少年が笑顔で現れた。
「蒼ちゃん、お早う」
機嫌直ったかな?少女は軽く考えていた。
いつも通り少年と肩を並べて通学路を歩いていると、バス停の前で突然少年が蹲り腹を押さえて痛がりだした。
「痛い痛い」
「蒼ちゃん?大丈夫?家に引き返す?それとも救急車?」
オロオロとテンパっている内に、学校へ向かうバスがバス停に近付いて来た。
「あの、私、学校……」
少年は少女の手首を掴んで離さない。
そうこうしているうちにバスはバス停に停まり、すぐに発車した。
乗り過ごしてしまった。
呆然としていると、次のバスが停車した。
少年は少女の手を引っ張り、そのバスに乗り込んだ。
「なっ!?なんなの?学校はどうするの!?」
「どうせ土曜で午前授業だし、作文発表会でしょ?サボろうよ」
「サボるなら一人でサボりなさい!お腹が痛いんじゃなかったの!?もう!」
「嘘だもん」
悪びれる様子もなく無邪気に少年は笑う。
走り出したバスの中どうしようもなく少女はため息をついて外を見つめていた。
二十分走ったところでまた少年に手を引かれてバスを下車する。
海浜公園だ。
「なんで海なの?寒いわよ」
「売店のフードコートの中は暖房きいてるでしょ。行こ」
少年は少女の手を握って離さない。
困り顔の少女のことなど我関せず、満足げにおかしな鼻唄を歌ってる。
売店の中は温かい。
少年は二人分のホットジンジャーエールと豚まんを買ってフードコートの奥の席に着いた。
ホカホカの豚まんに少女はようやく明るい顔になった。
「ここの豚まんってやっぱり最高」
「小さい頃はよく来て食べてたよね」
「そうだね。蒼ちゃん、お祖父ちゃんに、豚まんに勝手にカラシをつけられて泣いて怒ってたわ」
「僕はカラシ嫌いだしソース派だもの」
まったりと食べ進めていると、先に豚まんを食べ終えた少年がニコニコ笑いながら何かを訴えかけるかのように期待に満ちた目で少女の顔を見つめていた。
ご飯を待ちわびる大型犬のようだ、少女は苦笑した。
「はい、どうぞ」
少女はやれやれと、バレンタインのお菓子を少年に手渡す。
少年はパァーッと明るく笑った。
「ありがと~!あれ?昨日のクッキーじゃない」
「昨日のクッキーを砕いてボトムにしてエッグタルトにしてみたの。志保が、蒼ちゃんはお兄ちゃん達と同じクッキーなのが不満で怒ったんだろうって言うから」
「エヘヘ………」
少年は幸せそうな顔をして隣に座る少女の肩にもたれかかる。
「ありがとう、里緒、大好きだよ」
「はいはい、調子良いんだから」
いつものようにベタベタ甘えてくる手のかかる幼馴染を少女は軽くあしらった。
「そーだ、里緒、これあげる!」
「狼のストラップ?」
「この前の休みに狼ミュージアムに行った時に買ったの、僕とお揃いだよ。僕たち彼氏彼女みたいだね」
「これ、うちのお兄ちゃんも持ってるよ。校外学習で行ったんだって。それで、子供の頃に山で見たっていう狼はわかったの?」
「うーん、わかんない。それより、彼氏彼女の部分スルーしないでよ!」
鈍感な幼なじみの少女にやきもきする少年。
「あの狼に会ってからなんだか身体が丈夫になった気がするんだよね。病気一つしないし、怪我してもすぐ治るし~。神さまだったのかも!」
「バカは風邪引かないっていうし、蒼ちゃんのはそれじゃないの?」
「酷い~」
少女はピンク色をしたゆるい顔の狼のストラップをゆらゆら揺らして、微笑んでいた。
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