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シャルロットと双子の王様〜結婚は認めない?シャルロットの兄とグレース皇子の決闘
epilogue 母直伝ダッチアップルパイ
しおりを挟むーー小春日の昼下がり。
入れ替わりを解いた右王と左王の姿が庭園にあった。
太陽が真上で照り、ポカポカとした陽気の中 庭園のガゼボで兄弟三人水入らずでブランチを食べている。
兄達がリクエストしたエルテンスープにクロケット(コロッケ)にダッチアップルパイ。
この世界に転生して最初に母から教わったオリヴィア小国の郷土料理だ。
パイ生地でリンゴを包むアップルパイなら前世で作ったことがあるがーー母のアップルパイはサクサクで厚めのビスケット生地で包まれていて、パイというよりリンゴのタルトだ。
焦がし砂糖でほんのりキャラメル風味、アクセントに干し葡萄が入ってて兄や父達も私も大好きな母の味だ。
(今度グレース様にも作ってあげよう)
シャルロットは楽しそうに笑いながらケーキを切り分けた。
「遅れてしまって申し訳ございません」
ガゼボにビオラが現れた。
淡いスミレ色のワンピースを着て、長い髪を上品にまとめている。
いつも厚手のケープで上半身を全て覆っていたが、今日は首元には透かし編みの可愛らしい羽織もの。
やはり暗色系よりもブルー系のパステルカラーがよく似合う。
「ビオラ様!?」
右王がもう一人食事に誘ったと言っていたが、ビオラだとは…。
「お食事にお招きいただきありがとうございます。シャリー様。シャルロット様やシーズ様もご機嫌麗しゅうございます」
ぺこりと控えめに笑って頭を下げた。
「シャリーお兄様が誘ったの?どうして?」
「この前…、犬薔薇祭りでお菓子をもらったろう。それから懇意にしてるんだ」
(そういえばあの時点ではもう入れ替わっていたのよね…)
シャルロットは思い出していた。
「でも、シーズお兄様じゃなくてシャリーお兄様なの?」
「たったしかにシーズ様にはずっと憧れておりました。でも、私が愛しているのはシャリー様なんです」
「ビオラ……」
「シャリー様……」
うっとりと頬染めて見つめ合う二人。
太陽よりもお熱いバカップルはすっかり自分たちの世界に入ってしまってる。
シャルロットは苦笑した。
「シーズお兄様、いいの?」
「二人が結婚でもなんでもしてくれれば、母様から結婚しろだの跡取りだのーー会うたびに小言をいわれないし、干渉されなくて済むから良い」
左王は淡々と言った。
「それから、シャルロット、シャリー。私はしばらくこの国に残るぞ」
「えええ!?」
「じゃ、じゃあ、私も……、ビオラと遠距離恋愛は辛いしっ」
右王はデレデレと鬱陶しい顔をしながら言った。
それを左王は一蹴した。
「一国の王が長らく国を空けるな」
「お前も王だろうが!!」
「先月、お前が流行りの熱病にかかった時ーー先々月は お前が私用で外国に長期旅行していたな?その間、左王である私が一人で執務をしていたんだぞ。夏の嵐に米の収穫期やなんやで繁忙期にお前は休めて良かったな?私も今から休暇をもらうぞ。双子の王はこんな時便利だな」
「待て、来月は超ッ忙しい新年祭だぞ!?お前が欠けては余計にビオラと会えなくなるではないか!」
「恋愛にうつつを抜かすな、働け」
左王がクライシア大国に滞在する。
シャルロットは疑問を投げかけた。
「シーズお兄様、この国に残るって……何か予定でも?」
「グレースから騎士団の総監督を頼まれたのだ、しばらくは騎士団に所属しようと思う」
「騎士団でアルバイトってこと?他国の王様が……騎士団に入れるの?」
ミレンハン国のゲーテ王子に続き、オリヴィア小国の左王、騎士団がカオスなことに…。
「妹の嫁ぎ先の家業の手伝いのようなものだろう、問題ない」
「そうかしら?…でも、まあ、グレース様は喜びそうね」
*
クライシア大国の国境付近に第一騎士団の騎士やグレース皇子の姿があった。
城を中心に城下町を覆うようにドーム状に張られた結界の一部が破損していた。
外部から何か大きな岩石でも降ってきたかのような穴がぽっかりと空いていた。
「メリー、修繕にはどの程度掛かるんだ?」
「一週間程度でしょう」
「クロウやコボルトが張った結界を打ち破るなんて只者じゃないですね」
「ここ十数年は内外で大きな戦争もないし、魔物による被害もなかった。単に結界の老朽化だろう。……もしくは、」
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「聖獣か?」
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「聖獣なら害はないですね、気まぐれな生き物ですから勝手に入ってきただけでしょう」
「……念のため、引き続き調査を続けてくれ」
「わかりました、皇子」
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