シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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シャルロットと双子の王様〜結婚は認めない?シャルロットの兄とグレース皇子の決闘

勝負の行方①

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 赤銅色の絨毯が一面に敷き詰められた大広間には貴族達が集まって晩餐会をしている。

 年齢層高めの貴族達が集まってお酒とダンスを楽しむ催し物で、時折王や国賓も姿を見せる。毎週末このようなパーティーが城で開催されているのだ。

 シャルロットは今回が初めての参加となる。
 シャルロットは誕生日のプレゼントとして兄達から贈られた白藍色にフレア袖のついたシンプルで清楚なデザインのパーティードレスと、六芒星を模したお気に入りのイヤリングを身に付けて参加していた。

「よく似合っているよ、シャルロット」

 大広間に入るなり、兄である双子の王に声を掛けられたシャルロットはむくれてそっ方を向いた。

「ドレスありがとうございます!でも……、お兄様がたとはお話ししたくありません」

「シャルロット……」

 苦笑している左王。
 しっかり者のシャルロットも、家族を目の前にするとつい年相応の娘に戻ってしまう。

「この後、グレース様と剣の勝負でしょう?下手くそなりに、ちゃんと剣の練習したの?」

 オリヴィア小国の王族は青色の衣服を身に付ける。
 右王はタンザナイトのような青い瞳と同じ色のサーコートと銀糸の刺繍が全体に施された白い長ズボン着ている。
 隣の左王はシンプルなブルーグレーのスーツを着てる。

「大丈夫だ、安心しろ!お兄ちゃんが必ず勝ってシャルロットを祖国に連れ帰る!」

 右王は笑った。
 その自信はどこから来るのだろう。

「私は帰りません!」

「わかってるさ、反抗期だな!?」

「反抗期じゃないわ!」

「あんな地雷男はやめておけ!男は顔や金や地位じゃないぞ!」

「ええ、お兄様がまさしく体現していらっしゃるわよね!ーー激しく同意ですけど、グレース様は悪い方ではありません」

 睨みながら辛辣な言葉を兄に向けるシャルロット。

「知ってるか~シャルロット、DV被害者はみんなそんな事言うものだぞ」

「DVなんかされてません!!」

 よっぽどグレース皇子が嫌いなのか。
 悪い兄たちではないのだけどーー昔から過保護なのだ。

「……はぁ」

 シャルロットは疲れ切ってため息を吐いた。
 兄たちは顔見知りらしい貴族の夫婦に声を掛けられてどこかへ去って行った。


「シャルル、ここにいたのか」

 ブッフェスタイルの晩餐会。

 行儀悪くフォークを口に咥えながらケーキやパンが山のように盛られた皿を持つゲーテ王子がいつの間にか背後に立っていた。

 ゲーテ王子の隣には、肉を盛りに盛った皿を手に持つグレース皇子がいる。

「ゲーテ王子、食べ過ぎよ。太りますわよ?」

「俺様は毎日騎士団でランニングしてんだ、平気だ」

「デザートは最後に食べなさい!グレース様も…!お肉ばかりじゃなくて、ちゃんとバランスよくお野菜も食べて、ほら、サラダです」

 思わず小言を挟んでしまう。

「姫……」

「うるせぇ!俺様が何食べようがお前には関係ないだろ」

 しおらしく野菜を受け取るグレース皇子と反抗的なゲーテ王子。


「わぁ~!ドレス似合ってる、可愛いよ~シャルロット~」

 グレース皇子の足元にはデレデレな表情の黒チワワのクロウがいて、抱っこをねだっていた。
 シャルロットはチワワのクロウを胸に抱き上げる。

 シャルロットに抱かれて幸せそうに緩んだ顔をするチワワをゲーテ王子は蔑む目で見ていた。

「エロ犬」

「むっ」

 この二人の相性は悪そうだ。

「グレース様、あの……今日の勝負なんですけど」

「ん?」

「うちの兄はその…本当に本当に、びっくりするくらい弱っちいの!気弱でイノシシどころかウリ坊すら倒せないのよ!?だから、その……ほどほどに……手加減してもらえると幸いです」

 あんな兄でも大事な兄だ。
 怒っていても、やっぱり身を案じてしまう。

「男同志の真剣勝負だ、手加減はしない」

 グレース皇子はキッパリと断言した。

「えっ!?」

「まあ、貴族達への見せ物程度の余興だ。それに他国の王に真剣は向けられないから防具と木剣を使う。相手から一本でも取れたら勝ちってだけだ。怪我をしないように側で第一騎士団が控えてるから大丈夫だろう」

「……うん」

「心配するな、見守っていてくれ。必ず姫との結婚を認めてもらう!」

「応援してるわ」

 ーーやがて勝負の時間がやってきた。
 大広間のど真ん中。盾と木剣を手に対峙する右王シャリーとグレース皇子。

 彼らを取り囲むように遠巻きに貴族達が対戦を傍観しながらざわめいていた。
 最前列で固唾をのんで見守るシャルロット。
 その隣には左王とゲーテ王子。

 遠くで赤ワインを飲みながら優雅に見物しているクライシア王。

ーー大広間に緊張感が走る。

「手加減はいらないよ」

 右王は強気に笑う。

 ーー何 見栄を張ってるの!!?

 シャルロットは心の中で突っ込んだ。

「そのつもりだ」

 グレース皇子は語気を強めて言う。

「!」

 審判を務めるメリー団長が合図を出した。
 二人は木剣を強く握り同時に相手に飛びかかる。
 木剣が勢いよくぶつかり合う音が大広間に響く。

 シャルロットや観客は目を見張った。

 ーー互角だ!
 それどころかグレース皇子がやや劣勢…。

 グレース皇子は歯をギリっと食いしばり、一旦右王の木剣から離れると、体勢を切り替えて再度彼に向かって勢いよく剣を振った。

 目の前の右王は、さも 降ってきた小枝を手の甲で払いのけるが如く涼しい顔をして、片手に構えた剣で自分の頭に降りかかってくるグレース皇子の剣を止めた。

「どういうこと?」

 シャルロットは驚いた。

 もしかして双子の王は入れ替わってるか?
   あそこにいるのは右王じゃないーー右王になりすました剣聖の左王の方か?二人はズルをしているのか?
 でも彼の手にはクライシア王がかけた魔法の紋がしっかりと刺青のように浮かび上がってる。

 すぐさま、隣にいた左王に目をやると左王の目は泳いでいた。
 はぐらかすように口笛を吹いている。

「シャリーお兄様!?これはどういうことですの!?入れ替わってるのね?不正ですわよ?」

「知らないも~ん、この国にきた時にはシーズと入れ替わってたもん、勝手に勘違いしたのは君たちでしょ~?」

 剣で勝負なら……ストイックで体育会系かつ剣バカと有名なグレース皇子を釣れると思った。
 でも剣聖と名高い左王が相手だと負ける可能性もある。

 グレース皇子はともかくクライシア王がそんな勝負を受けるとは思わなかった。
 こんな馬鹿けた賭けに本気で賭けるわけない。

 軽くあしらうつもりで必ず安全牌の右王を指名すると計算していた。

 お互いを演じるのは容易い。
 入れ替わった双子を見分けられるのは実家の母親くらいだ。

 押し押されて互角の勝負、どちらもとても素晴らしい剣さばきと威力。
 なかなか決着がつかず観客も思わず黙り込みながら瞬きもせずに試合に見入っている。

 ずっと守りに入っていた右王に扮した左王は、ここでグレース皇子に反撃を加えた。
 グレース皇子は木剣でなんとか食い止めるも、その木剣がたった一撃で真っ二つに割れ、切っ先が無残に絨毯の上に転がった。
 凄まじい風圧にグレース皇子は後ろに押され背中から倒れかかる。
 背後に控えていた第一騎士団が風の魔法を使ってグレース皇子の身体を支えた。

 ーー戦闘不能。

 勝負はついた。
 メリー団長が叫ぶ。

 シャルロットも観客も信じられないという顔で絨毯の上に倒れたグレース皇子を凝視する。


「グレース様の負け……っ!?」

 
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