シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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シャルロットと双子の王様〜結婚は認めない?シャルロットの兄とグレース皇子の決闘

乙女椿と片恋令嬢のベイクドチーズケーキ

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「聞きまして?オリヴィア小国からシーズ王子がいらしてるんですって!」
「あら、今は王位を継いで左王様ではありませんでした?」
「今犬薔薇祭りでしょう、お菓子用意しておくべきだったわ!」
「わたくし、隣国の菓子職人を呼んで焼き菓子を作ってもらいましたの。受け取ってくれるかしら」

 城の中で囀る小鳥のように令嬢たちがキャッキャッと頬を染めておしゃべりをしていた。

「シーズ様……」

 令嬢たちを遠目で見ていた薄紅色の長い髪の少女が呟く。
 紺碧のドレスに、首まで覆う真っ黒な厚手のケープと同色の手袋を身に付けている。
 少女に気付き、令嬢たちが一斉に振り返って邪険に見つめた。

「まあ、ビオラ様、お久しぶりです」

「ずっと屋敷に引きこもっていらっしゃるってお聞きしましたけど」

 表向きには穏やかに憐憫を掛ける振りをしながらも棘を含む口調で声を掛けられて、
 ビオラ伯爵令嬢は顔面蒼白して脚をガクガクさせた。

「ごきげんよう、それでは……」

 震える唇と声でなんとか返して、慌ててその場を離れた。
 震える手には今朝屋敷で焼いた手作りのクッキーの入った紙袋。
 うつむき小走りしながらポロポロと涙が溢れ出る。

「……きゃっ」

「あっ……」

 回廊の曲がり角でビオラは金糸のような美しい髪をポニーテールにまとめた侍女服姿の少女と思いきりぶつかった。
 ぶつかった拍子で少女は尻餅をついた。

「姫様!」

 その少女の後ろを歩いていた第一騎士団のアダムが少女に手を伸ばし、起こす。

「申し訳ございません!あの……大丈夫ですか……!?」

 ビオラの顔は真っ青だ。
 侍女服姿の少女はヘラッと笑って「こちらこそ、ごめんなさい」と返答した。
 お互い怪我は無い。

「姫って……」

「はじめまして、わたしはオリヴィア小国のシャルロットですわ。貴女は?」

「私は二ヒール伯爵家の末娘ビオラです、えっと、オリヴィア小国のシャルロット姫……もしかしてシーズ様の妹君ですか?」

「ええ、シーズは私の2番目の兄です。ご存知ですのね?」

「有名ですよ。我が国では人気があるんですよ!貴族に令嬢の間でも肖像画がよく売れてます。ゾイサイトの勇者!!昔、城下町を魔物の集団が襲い掛かった時にたまたまお忍びで滞在していたシーズ様が颯爽と現れて民を救ったとか!その美貌と剣さばきたるや……(割愛)」

「へっ、へえ……」

 引っ込み思案で内気そうな雰囲気の令嬢だと思っていたが、
 急に目をギラギラ輝かせて早口気味に鼻息荒く熱弁されてシャルロットは思わず後退りした。

「お城にいらっしゃてるって聞いて、どうしてもお会いしたくて。今週は犬薔薇祭りでしょう?クッキーを焼いたからお菓子を渡したくって……ああ!」

 ビオラは手に持ってたはずのお菓子の袋が床に落ちているのに気付き声をあげた。
 シャルロットが拾っても渡す。
 中身を確認するとクッキーが派手に割れていた。
 ビオラはドバッと滝のように涙を流した。
 シャルロットは驚く。

「ビオラ様!?」

「……やっぱり…身の程知らずだったかしら……っ、私なんかがシーズ様にお菓子を渡すなんて……私なんか……」

 目の前でメソメソ泣かれてシャルロットは慌てて彼女の肩を掴んだ。

「渡しましょう!お菓子!」

「でもクッキーが割れて……」

「大丈夫ですわ、さあいらして」
 シャルロットはビオラの手を引っ張って廊下を駆けた。


城の厨房には既にエプロン姿の仲良し令嬢3人娘リサ・アルー・レイが各々お菓子作りをしていた。
 突然やってきたビオラを見て驚いていた。
 ビオラも顔を青くしている。

「……やっぱり、私……っ」

 ガクガクと膝が震える。
 シャルロットは首を傾げた。

「あの、ビオラ様も一緒にお菓子作りよろしいでしょうか?」

「ええ、いいわよ」
「はじめまして!ビオラ様」

 三人娘は気さくに話し掛けてくれた。
 ビオラは恐る恐る顔を上げた。

「……よっ、よろしくお願いします」
 ペコリと頭を深く下げた。

 シャルロットは のし板の上にビオラのクッキーが入った袋を置き、めん棒で叩いた。
 ビオラはギョッとする。

「あの……!?シャルロット様!?」

「このクッキーをボトムに、ベイクドチーズケーキを作りましょう」

「えっ!……」
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