シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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シャルロットと双子の王様〜結婚は認めない?シャルロットの兄とグレース皇子の決闘

立冬の夜の空飛ぶエビフライ(イラスト有り)

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 夜明け前、居城。
 ベッドの中で温かい羽毛布団に包まって丸まって眠るシャルロットは雨音で目を覚ました。

「ん……?」

 雨?それとも降雹かしら?
 コツンコツン小さい石ころのようなものが地面に打ちつけられてるような音だ。
 部屋の明かりをつけてベッドから出るとバルコニーに向かい、戸を開けた。

「シャルロット~~!!」

 戸を開けた瞬間、チワワが顔面に向かって突進してきた。

「きゃあああっ!!」

「……姫様ぁ!?」

 思わず絶叫すると、居城の中を巡回中だったらしい第一騎士団のキャロルが勢いよく扉をあけてシャルロットの寝室に入ってきた。
 バルコニーにはグレース皇子の姿もあった。

「ごめんなさい、大丈夫ですわ。びっくりしただけで……」

「何をしているんですか!?皇子、クロウ!?真夜中、婦人の寝室に忍び込むなど!!」

 シャルロットの代わりに二人を問い詰めるキャロル。
 そもそも、ここは二階なのだが…。魔法で飛んできたんだろうか?

「外でエアプローンが降ってるからシャルロットに見せてあげようと思ってさ~」

 クロウは尻尾を振ってシャルロットの足元をパタパタ走り回る。

「エアプローン?」

「キャロル、暫し姫を連れて行ってもいいか?」

 グレース皇子はシャルロットの肩を抱いて、キャロルに向かった。

「今日の見回りメリー団長なんですよ!?バレたら怒られます!」

「三十分で帰ってくる」

「……十五分で戻ってきてください」

 グレース皇子はシャルロットに外套を羽織らせると軽々しく抱き上げた。
 シャルロットの腹部にチワワのクロウが大きくジャンプして乗る。
 グレース皇子は凍てつく真っ黒な空に向かって助走を付けて大きく飛び上がる。
 ふわっと冷たい空気を掻き分け、空へ空へ鳥のように飛んでいく。

 魔法を使ってるのかしら?カイロに全身を覆われてるみたいになんだかポカポカしてるわ。

 ふいにキョロキョロと辺りを見渡すと円形の結界の中にいて、結界の見えない壁にコツンコツンと何かがぶつかってる。
 暗くてよく見えないが白い塊のようだ。
 淡い白い光をチカチカと放ってて輝いている。



 綺麗だ……。

「エアプローン……?」

「空海老だよ」

「空海老?」

「普段は雲の上を飛んでるんだけど、その年初めて木枯らしが吹いた夜に仮死状態になって地上に降ってくるんだ。クライシア大国 冬の風物詩だよ」

 グレース皇子が結界の外に手を伸ばしてエアプローンを一つ掴みシャルロットに差し出した。
 真っ白な車海老のようだ。

「すごいわ、食べられるのかしら?」

 シャルロットは目を輝かせた。

「姫らしい感想だな」

 グレース皇子が噴き出すように笑い出して、シャルロットは恥ずかしさで顔を真っ赤にした。

「ごめんなさい、食い意地が張ってるもので…」

「いや、可愛いなと思って」

「兄にはいつも食いしん坊って窘められるんですけど」

 シャルロットは恥ずかしさに悶える。

「エアプローンは食べられるよ。味は海の海老と遜色ないようだ。朝になると城下の民たちがこぞりて拾ってる。俺も子供の頃はクロウとユーシンと拾ったよ」

「まあ、そうなの!拾いたいわ!」

 シャルロットの目は益々輝いた。
 そして城の敷地内にある乙女椿が可憐に咲き乱れるトピアリーガーデンに降り立った。

 あちらこちらに白いエアプローンが落ちている。

「今日のご飯はエビフライね!」

「わぁい!エビフリャー!」

 クロウが喜んで走り回る。

「ふふ、楽しみね!」

 *

「母さんも拾ったんだ」

 翌朝早速騎士団に拾ったエアプローンを持って向かうと、厨房のテーブルにはすでに大量のエアプローンが盛られた大きなボウルがあった。
 ユーシンはそれと睨めっこしていた。

「まあ、すごい量ね。消費が大変だわ」

「今朝は大変だったんですよ、使用人や騎士団や兵士たち総動員で城中のエアプローン拾い!まあでも、騎士団の奴らならペロリと食べちゃうっすよ。エビフライと、残った殻は海老のビスクにしますか。母さんが持ってきた分はすり潰して焼いてお煎餅にしようよ」

 ユーシンが言う。

「うふふ。喜ばしい事ばかりじゃないのね。良いわね、さっそく作りましょうか!」

 二人は笑いあって調理に取り掛かった。

「前世で、小さい頃よくこうやってエビの殻を剥いて母さんのお手伝いをしてたよな」

「そうね、小学校の高学年になると反抗期になっちゃってやってくれなくなったけど」

「あはは~、俺が母さん母さんって言ってたから同級生にマザコンって冷やかされて恥ずかしかったんだよ」

「そうだったのね」

 手慣れた二人が一気に取り掛かり、殻剥きは瞬く間に終わった。
 シャルロットは衣を作り、ユーシンはスープ作りに移る。

「母さん、お兄さんに婚約を反対されてるんだって聞いたけど大丈夫なの?母国に帰ったりしないっすよね?……」

 寂しげな顔をするユーシン。

「もう!なんて顔してるの!帰らないわよ!大丈夫よ、婚約を賭けた勝負だってグレース様が優勢ですもの。こんなの出来レースですわ」

「……うん」

 昔のように頭を撫でてあげた。
 ユーシンは笑った。

「腹減った~~!」

 和やかな雰囲気をぶち壊すように大きな声と共にゲーテ王子が現れた。

「ゲーテ王子、まだお昼前すよ」

「早朝から海老拾いさせられたんだ、中腰で疲労半端ないっつーのに、その後でランニングとか……鬼かよあの団長」

 シャルロットは微笑んで、殻を剥いた海老を摘んで衣をつけて揚げ始めた。
 カラッとキツネ色に揚がったエビフライを油切りして小皿に乗せると、厨房の椅子に大股を開いて座りうなだれるゲーテ王子に差し出した。
 そしてピクルスの代わりにシャキシャキの刻み玉ねぎを使って作ったタルタルソースをかけた。

「味見してくださる?エビフライですわ」

 ゲーテ王子は相当お腹が減っていたのか大口を開けて食べた。

「うまい!本当に海老だな」

「よかった!」

 ゲーテ王子の国は海産物が有名なのよね。

「ゲーテ王子の国では海老はどうやって食べてるの?」

「ん?オイルとニンニクで煮たり、そのまま揚げてるぞ」

「アヒージョと素揚げね、それも美味しそうね」

(お酒とよく合いそうだから、お兄様に作ってあげようかしら。……いけない、婚約破棄の件で喧嘩中だったわ)

 シャルロットは眉をひそめた。

 どうか、穏便に済みますように。
 熱した揚げ油を見つめながらひっそり祈っていた。
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