シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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ワガママ王子様の更生プログラム〜ミレンハン国の俺様王子、騎士団で職業体験する

パンプキンプリンタルトと賑やかなアフタヌーンティー

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 足早に向かった庭園のガゼボには先客がいた。

「ゲーテ王子!」

 深緑色のベルベットの生地に金色の差し色が入った、高級そうな燕尾服を着たゲーテ王子がベンチの上で昼寝をしている。

「あ?」

 ゲーテ王子は不機嫌そうだ。

「グレース皇子と本殿で来賓客の応対中では?」

「知るか。廃太子で騎士団送りにしといてこういう時だけ王子の仕事を押し付けてくんじゃねークソが」

 すぐにリディがお茶やお菓子を用意してガゼボにやってきた。
 シャルロットにクロウにキャロル、そしてリディ、ついでにゲーテ王子全員に紅茶が行き届いた。

「侍女も騎士も一緒に食うのか?カオスだな」

 ゲーテ王子が怪訝そうな顔をした。
 シャルロットはその隣で淡々と言った。

「前にも言いましたでしょう?身分なんて関係ありませんわ、みんなで食べた方が美味しいわ。堅苦しい舞踏会ではこんな風にいただけませんもの、いいでしょう?」

 本日の茶請けはパンプキンプリンタルト。
 以前シャルロットが城の料理人にプリンの作り方を教えたのだが、そのプリンのレシピに手を加えて料理人が試作してくれたケーキだ。
 今夜の舞踏会でも客に振舞われるそうだ。

「プリン!」

 キャロルの目が輝いた。

「カボチャをこのように甘味でいただくなんて摩訶不思議ですね」

 リディはタルトを凝視していた。
 この国ではカボチャはスープや炒め物に使われる野菜だが、前世のシャルロットが住んでいた世界で言う所の西洋カボチャに近い品種なので甘みも強く、むしろ菓子の材料に合うはずだ。

「美味しいですわ。タルト生地に少し塩気があるのもまたアクセントになって良いですわね」

「野菜は嫌いだが……これは甘くて悪くないな」

 ゲーテ王子は2個目を食べ始める。

「姫様のたまごプリンも絶品ですが、このパンプキンプリンも最高です」

 キャロルが興奮気味に言った。

「あ~キャロルがシャルロットの護衛に必死に志願してたのって~もしかしてプリンが食べられるから~?」

 キャロルの膝の上にちょこんと座っていたクロウが呆れ顔でキャロルの顔を見上げた。
 キャロルはギクっと体を震わせ、作り笑いをする。

「ひ、姫様、違います、立候補したのは本当ですがっ、私は心から姫様のことをお守りしたく……」

「ふふ、わかってますわ。私も護衛がキャロルさんとアダムさんなら安心だし、心安くて良いですわ。それと、キャロルさんは食べっぷりが良くて作り甲斐もあるもの」

「うん?プリンとはなんだ?食いもんか?うまいのか?俺様にも作れ」

 賑やかな茶会は小一時間ほど続いた。

 *

「ギャアア」

 クライシア大国の城下で初老の男の悲鳴が響いた。
 巨大な脚の生えた白い蛇の姿をした魔物が、初老の男を前脚で踏みつけ牙を剥いていたのだ。
 男は絶体絶命の危機に腰を抜かして悲鳴をあげるしかなかった。

 その時だ、遠方から弓矢が飛んできた。
 矢は魔物の目に命中。その瞬間紫色の光が放たれ魔法陣のような模様のように浮かび、大蛇は苦しそうにもがき、初老の男から身を離した。

「大丈夫っすか~!?」

「あわわわわっ、ありがとうございます!助かりました!」

「駄目っすよ~魔力も持たない人間が魔物避けも身に着けず出歩いちゃ不用心だ」

 黒い騎士服を着た青年が赤毛の馬から飛び降り、倒れていた初老の男に駆け寄る。
 その背後で、ぞろぞろと馬に乗りやってきた同じ騎士服を着た男たちが手際よく魔物の後始末を始めていた。

「あれ?貴方は……確かミレンハン国の……」

「そうです!ミレンハン国のゲーテ王子の執事をしております!わたくし、ヨリャと申します!火急の用で、取り急ぎ王子と会わせてもらいたく参りました!」

 ヨリャという自称執事は慌てた様子だった。
 黒いスリーピースのスーツを着ていて確かに胸にはミレンハン国の紋章がある。
 しかしその執事が徒歩で一人きりでアポも無しに何故クライシア大国の城門の前にいるのか……

「すみません、グリム卿からミレンハン国の者を誰1人として王子と接見させるなと言われてますので」

「ぐっ……グリム卿の話を信じないでください!あいつはとんでもない悪魔です!王に毒を盛り弱らせ、王子も国から追出し、挙句ミレンハン国を乗っ取るおつもりなのです!今すぐ王子に会わせてください!王子はグリム卿に言い包められているのです!目を覚まさせないと!」

 早口で捲したてるように話す彼を、ユーシンは困ったような顔で見ていた。
 ふと視線をコハン団長に移すと、コハン団長は険しい顔をしながらコクリと頷いた。
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