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ワガママ王子様の更生プログラム〜ミレンハン国の俺様王子、騎士団で職業体験する
更正プログラム
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ミレンハン国の宰相室で男は窓の外を眺めていた。
国を出てふらふらと遊び回っていたゲーテ王子がやっと帰国したようだ。
「ふむ」
「グリムさん、その……」
慌ただしく部屋に入ってきたお抱えの秘書より耳打ちで何かを伝えられた男は険しい顔をした。
「矢張りなぁ。そうだと思ってゲーテ王子を泳がせておいたんですが……僕の読みは当たったんですね。さすがは僕」
緑色の短く清楚に切りそろえられた髪に丸メガネの男はニッコリと人の良さそうな笑顔を見せた。
だが顔は陰っておりとても穏やかでは無い。
「そうですねえ、それでは“邪魔者”には消えてもらいましょうか」
*
ーー早朝。
珍しくクライシア王とグレース皇子とバルキリー夫人が朝餉の間に揃っていた。
シャルロットは戸惑いながらも平静を装って同席した。
幻狼のコボルトも人間の姿でバルキリー夫人の隣に物静かに座ってる。
グレース皇子の膝の上にはチワワ姿のクロウがちょこんっと座っていた。
「シャルロットさん、おはようございます。久しぶりに城へ来たから、みんなで食事でも~って思って貴女も誘ったの、良かったかしら?」
「はい。お招きいただきありがとうございます」
「後2人招いているのだが……」
昨夜、夜も更けた頃に、突然バルキリー夫人が城へ訪ねて来た。
シャルロットがそれを知ったのは今朝起床してすぐ、唐突に侍女を経由して朝食に誘われたのだ。
こうして王を交えてみんなで朝の食事、というのは城に来て初めてでは無いか?
シャルロットは少し緊張していた。
「遅れて申し訳ありません、クライシア王。この度はお食事にお招き預かりありがとうございます」
弾むような少し高めの声がして、颯爽と緑色の髪を揺らし、グレーのジレを着た丸メガネの痩身の男が現れた。
そしてその男に腕を引っ張られながら喧しく登場したのはミレンハン国のゲーテ王子。
「ゲーテ王子!?」
シャルロットは驚愕するが、国王を含めグレース皇子たちは驚いた様子はない。
先日の夜バルキリー夫人の馬車に同乗してひっそりと入国したそうだ。
「離せ!グリム!何なんだっ、朝食はいらんと言っただろ!」
「ゲーテ王子、クライシア王の前ですよ。駄々をこねてないでさっさと挨拶なさい」
グリムという男はミレンハン国の若き宰相で、ミレンハン国王に替わり当国にやってきたそうだ。
グリムはゲーテ王子の後頭部を鷲掴みし強制的に最敬礼させる。
自国の王子様相手に扱いが雑だなぁ……、シャルロットが苦笑している。
「うむ、そこに座れ」
クライシア王はゲーテとグリムをシャルロットの隣に座らせた。
そしてつつがなく朝食を終えて、午前の公務を控えた王が執事に連れられて一足先に退室した。
ゴホン、グリムは咳払いをして椅子から立ち上がると、食後のコーヒーを飲んでいるシャルロットたちに向かって言った。
「実はかくかくしかじかでーー、ゲーテ王子の廃太子がこの度仮決定いたしました」
ゲーテ王子は手に負えない不良王子らしく、ミレンハン国内外で相当なヤンチャしまくっていたそうな。
それでついに父である国王がお怒りになったのだとグリムは淡々と説明した。
「だからっ、それは……、廃太子なんぞ俺は知らない!認めていない!」
「だから、人の話を最後までちゃんと聞きなさい。これはミレンハン国王より言い渡された処分です、王のお達しです」
この話にもシャルロット以外は動じない。
事前に知っていたようだ。
「本日よりゲーテ王子、いやゲーテには、更生プログラムの一環としてクライシア大国の第二騎士団で騎士として働いてもらいます。騎士団での働きに応じて廃太子案を廃止することも可能です。どうですか?受けますか?それとも大人しく国外追放されて没落し庶民に成り下がりますか?」
第二騎士団に……ゲーテ王子が?シャルロットはますます驚いた。
「なぜ王子である俺が騎士など……!」
「第二騎士団にはグレース皇子もおられますから、グレース皇子の爪の垢でも煎じて飲ませてもらって立派な王子になって帰ってこられますよう、グリムは祈っております」
「何だ、このカードは」
グリムはゲーテ王子にカードを渡した。
クロウが使ってるあのラジオ体操の出席カードのようなものと全く同じだ。
「出席カードです。ちゃんと働いたら1日に1個そこにグレース皇子がハンコを押してくれます。サボったり怠けたらハンコは押しません!そのマスが全部埋まるまで、僕も国王もあなたの交渉には応じません、帰国も許しません。せいぜい頑張ってください」
「んだと!俺を舐めてるのか!?お前なんか父上に申して宰相をクビにしてやる!」
「今のゲーテ王子、あっ失礼しました、ゲーテには身分や権限などございません☆そんなパワハラも全然怖くないでーすーよ、ザマァ☆」
グリムはプププっと煽るように笑う。
「では、僕は一人で帰国させていただきます。お騒がせして申し訳ありませんでした。何卒、うちのゲーテをよろしくお願いします」
呆然とするシャルロット達に挨拶と一礼をして部屋をスキップしながら出て行った。
ゲーテ王子は唖然としながら顔の筋肉を引攣らせ棒立ちしている。
「なんだか面白いことになりそうね~」
バルキリー夫人がクスクスと扇で口元を覆い可笑しそうに笑っていた。
国を出てふらふらと遊び回っていたゲーテ王子がやっと帰国したようだ。
「ふむ」
「グリムさん、その……」
慌ただしく部屋に入ってきたお抱えの秘書より耳打ちで何かを伝えられた男は険しい顔をした。
「矢張りなぁ。そうだと思ってゲーテ王子を泳がせておいたんですが……僕の読みは当たったんですね。さすがは僕」
緑色の短く清楚に切りそろえられた髪に丸メガネの男はニッコリと人の良さそうな笑顔を見せた。
だが顔は陰っておりとても穏やかでは無い。
「そうですねえ、それでは“邪魔者”には消えてもらいましょうか」
*
ーー早朝。
珍しくクライシア王とグレース皇子とバルキリー夫人が朝餉の間に揃っていた。
シャルロットは戸惑いながらも平静を装って同席した。
幻狼のコボルトも人間の姿でバルキリー夫人の隣に物静かに座ってる。
グレース皇子の膝の上にはチワワ姿のクロウがちょこんっと座っていた。
「シャルロットさん、おはようございます。久しぶりに城へ来たから、みんなで食事でも~って思って貴女も誘ったの、良かったかしら?」
「はい。お招きいただきありがとうございます」
「後2人招いているのだが……」
昨夜、夜も更けた頃に、突然バルキリー夫人が城へ訪ねて来た。
シャルロットがそれを知ったのは今朝起床してすぐ、唐突に侍女を経由して朝食に誘われたのだ。
こうして王を交えてみんなで朝の食事、というのは城に来て初めてでは無いか?
シャルロットは少し緊張していた。
「遅れて申し訳ありません、クライシア王。この度はお食事にお招き預かりありがとうございます」
弾むような少し高めの声がして、颯爽と緑色の髪を揺らし、グレーのジレを着た丸メガネの痩身の男が現れた。
そしてその男に腕を引っ張られながら喧しく登場したのはミレンハン国のゲーテ王子。
「ゲーテ王子!?」
シャルロットは驚愕するが、国王を含めグレース皇子たちは驚いた様子はない。
先日の夜バルキリー夫人の馬車に同乗してひっそりと入国したそうだ。
「離せ!グリム!何なんだっ、朝食はいらんと言っただろ!」
「ゲーテ王子、クライシア王の前ですよ。駄々をこねてないでさっさと挨拶なさい」
グリムという男はミレンハン国の若き宰相で、ミレンハン国王に替わり当国にやってきたそうだ。
グリムはゲーテ王子の後頭部を鷲掴みし強制的に最敬礼させる。
自国の王子様相手に扱いが雑だなぁ……、シャルロットが苦笑している。
「うむ、そこに座れ」
クライシア王はゲーテとグリムをシャルロットの隣に座らせた。
そしてつつがなく朝食を終えて、午前の公務を控えた王が執事に連れられて一足先に退室した。
ゴホン、グリムは咳払いをして椅子から立ち上がると、食後のコーヒーを飲んでいるシャルロットたちに向かって言った。
「実はかくかくしかじかでーー、ゲーテ王子の廃太子がこの度仮決定いたしました」
ゲーテ王子は手に負えない不良王子らしく、ミレンハン国内外で相当なヤンチャしまくっていたそうな。
それでついに父である国王がお怒りになったのだとグリムは淡々と説明した。
「だからっ、それは……、廃太子なんぞ俺は知らない!認めていない!」
「だから、人の話を最後までちゃんと聞きなさい。これはミレンハン国王より言い渡された処分です、王のお達しです」
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「本日よりゲーテ王子、いやゲーテには、更生プログラムの一環としてクライシア大国の第二騎士団で騎士として働いてもらいます。騎士団での働きに応じて廃太子案を廃止することも可能です。どうですか?受けますか?それとも大人しく国外追放されて没落し庶民に成り下がりますか?」
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「第二騎士団にはグレース皇子もおられますから、グレース皇子の爪の垢でも煎じて飲ませてもらって立派な王子になって帰ってこられますよう、グリムは祈っております」
「何だ、このカードは」
グリムはゲーテ王子にカードを渡した。
クロウが使ってるあのラジオ体操の出席カードのようなものと全く同じだ。
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「今のゲーテ王子、あっ失礼しました、ゲーテには身分や権限などございません☆そんなパワハラも全然怖くないでーすーよ、ザマァ☆」
グリムはプププっと煽るように笑う。
「では、僕は一人で帰国させていただきます。お騒がせして申し訳ありませんでした。何卒、うちのゲーテをよろしくお願いします」
呆然とするシャルロット達に挨拶と一礼をして部屋をスキップしながら出て行った。
ゲーテ王子は唖然としながら顔の筋肉を引攣らせ棒立ちしている。
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