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*シャルロット姫と食卓外交
シャルロットとクライシア大国(イラスト有)
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大陸の北にある小さな公国・オリヴィア小国。
シャルロット・オリヴァー=トゥエルフスナイトは、十五歳の元気で明るいお姫様だ。
由緒正しい王族の娘ではあるが、平和で穏やかなど田舎で彼女は伸び伸びと健やかに育てられた。
オリヴィア小国の王族のモットーは『働かざる者食うべからず』であり、これは先祖であるオリヴァー大公爵が決めた家訓。
毎朝太陽よりも早起きして、城の中にある鶏舎に卵を採りに向かい、畑仕事のお手伝いをしたり、おさんどんや洗濯をしている。
実は、彼女には『前世の記憶』があった。
シャルロットの前世は四十代のシングルマザーで、夫とは早くに死に別れ、女手一つで息子を育てていた。
そんな前世のシャルロットも夏休みが始まる前日、飛び出してきたトラックにはねられて死んでしまったのだがーー気付けば、この不思議な異世界へ転生していたのだった。
もちろん大変なことも多いが、シャルロットにはこのド田舎のスローライフが性に合っていたので、楽しく暮らしていた。
「……ごめんね!シャルロットちゃん!」
「え?お父様……?どうしたの?」
「うう……」
早朝の畑仕事を終えて城へ戻ると、突如父がすっ飛んできて、頭を深く下げた。
目を丸くして呆然とするシャルロット。
ふと父の背後に目をやると、そこにはグレーのスーツに身を包んだ初老の紳士が椅子に腰を掛けており、その背後には騎士らしき大男が控えていた。
ふと窓の外を覗くと、城の前には少人数だが軍人の姿も見えて、シャルロットはギョッとした。
夜明け前に他国から客人がやって来たと母が言っていたがーー。
「君が、シャルロット姫か」
「……はい、シャルロット・オリヴァー=トゥエルフスナイトでございます」
「そうか、大きくなったなあ」
「……はぁ」
同じ大陸にあるクライシア大国という、かつては覇権国家と恐れられていた国の国王陛下だ。
オリヴィア小国の先代の王であるシャルロットの父とは、昔から個人的な付き合いがあることは知っていた。
着ている服や護衛の数などを見ると、完全にプライベートかお忍びで来たんだろうか……?
「単刀直入に言おう。シャルロット姫、私の息子と結婚してくれないか?」
「結婚!?ですか……?」
思いがけない言葉に驚いたシャルロットは、顔を真っ青にさせながら横に立っている父の顔を見た。
シャルロットは何も聞いていなかった。
「何度も何度も、正式に縁談を持ち掛けているんだが…、君の父や兄がすぐに突っぱねてしまうのだ。だから、私がこうして君に直接頼みに来たんだ」
たかが縁談の交渉に、軍隊まで連れてくるのはただことではない。
シャルロットは冷や汗をどっとかいた。
「どうして私なんですか?……ええっと、姫と言ってもこんな所帯染みた平凡な田舎娘ですし、クライシア大国の王子様相手では、とても釣り合いが取れないわ」
シャルロットが首を横にブンブン振ると、クライシア王は静かに笑った。
「私の息子はずっと城の中で蝶よ花よと、何不自由なく育ててきた。それでも私や周囲が与えられなかった幸せをーーシャルロット姫ならば必ず息子に与えられると思ったのだ」
「……え?それはどういう……」
彼はそれ以上何も語らずにニヤッと黒い笑みを浮かべた。
「私の息子は、なかなかの美形だ。剣の腕前もすごいのだ。きっと姫も気に入るだろう」
「アハハ……もし、お断りしたら……」
「姫を諦める代わりに、オリヴィア小国の領土や領海を貰って帰ろうか?仮にも強国の王が、他国へ侵略して手ぶらでは帰れないからなぁ」
「これって侵略だったんですか?」
「はは、ブラックジョークだ」
「笑えないです……」
親バカ炸裂で、シャルロットは苦笑するしかなかった。
『結婚』ーー。
前世の世界ではまだ中学生くらいの年齢だけれど、この世界では既に結婚適齢期に入っている。
政略結婚が当然の世界だが、オリヴィア小国の王族は『(常識の範囲内に限り)恋愛自由、結婚も自由』という家訓がある。
『いつかシャルロットも素敵な人と恋をして、その人としあわせな結婚しなさい』ーー小さい頃から父母に言われて育った。
(蒼介……)
ふと、元旦那の顔が頭に浮かぶが、すぐに消えた。
ドジでヘタレだった彼は素敵な人とは程遠いけれど、後にも先にも、恋をしたのは彼1人だけだった。
前世はもう遠い世界の記憶のカケラ、未練なんてものはなくてーーけれど捨てることのできない宝物のような想い出。
この先、また違う人を好きになれるのかわからないけれど、生まれ変わってもやっぱり子供が欲しいと考えていた。
「分かりました。私、皇子とお見合いします」
シャルロットが告げると、父の顔はますます青くなり、クライシア王の顔は逆に晴れやかになった。
「お会いするだけです。そこで、お互いに結婚する意志があれば、結婚いたしましょう」
「ああ、それで良い。善は急げと言うだろう、姫の気が変わらぬ内に、今すぐ姫を我が国へ連れ帰ろう。良いな?オラニエ大公?」
クライシア王は愕然としている父に問う。
父は声を上げて慌てる。
「ええっ?」
シャルロット・オリヴァー=トゥエルフスナイトは、十五歳の元気で明るいお姫様だ。
由緒正しい王族の娘ではあるが、平和で穏やかなど田舎で彼女は伸び伸びと健やかに育てられた。
オリヴィア小国の王族のモットーは『働かざる者食うべからず』であり、これは先祖であるオリヴァー大公爵が決めた家訓。
毎朝太陽よりも早起きして、城の中にある鶏舎に卵を採りに向かい、畑仕事のお手伝いをしたり、おさんどんや洗濯をしている。
実は、彼女には『前世の記憶』があった。
シャルロットの前世は四十代のシングルマザーで、夫とは早くに死に別れ、女手一つで息子を育てていた。
そんな前世のシャルロットも夏休みが始まる前日、飛び出してきたトラックにはねられて死んでしまったのだがーー気付けば、この不思議な異世界へ転生していたのだった。
もちろん大変なことも多いが、シャルロットにはこのド田舎のスローライフが性に合っていたので、楽しく暮らしていた。
「……ごめんね!シャルロットちゃん!」
「え?お父様……?どうしたの?」
「うう……」
早朝の畑仕事を終えて城へ戻ると、突如父がすっ飛んできて、頭を深く下げた。
目を丸くして呆然とするシャルロット。
ふと父の背後に目をやると、そこにはグレーのスーツに身を包んだ初老の紳士が椅子に腰を掛けており、その背後には騎士らしき大男が控えていた。
ふと窓の外を覗くと、城の前には少人数だが軍人の姿も見えて、シャルロットはギョッとした。
夜明け前に他国から客人がやって来たと母が言っていたがーー。
「君が、シャルロット姫か」
「……はい、シャルロット・オリヴァー=トゥエルフスナイトでございます」
「そうか、大きくなったなあ」
「……はぁ」
同じ大陸にあるクライシア大国という、かつては覇権国家と恐れられていた国の国王陛下だ。
オリヴィア小国の先代の王であるシャルロットの父とは、昔から個人的な付き合いがあることは知っていた。
着ている服や護衛の数などを見ると、完全にプライベートかお忍びで来たんだろうか……?
「単刀直入に言おう。シャルロット姫、私の息子と結婚してくれないか?」
「結婚!?ですか……?」
思いがけない言葉に驚いたシャルロットは、顔を真っ青にさせながら横に立っている父の顔を見た。
シャルロットは何も聞いていなかった。
「何度も何度も、正式に縁談を持ち掛けているんだが…、君の父や兄がすぐに突っぱねてしまうのだ。だから、私がこうして君に直接頼みに来たんだ」
たかが縁談の交渉に、軍隊まで連れてくるのはただことではない。
シャルロットは冷や汗をどっとかいた。
「どうして私なんですか?……ええっと、姫と言ってもこんな所帯染みた平凡な田舎娘ですし、クライシア大国の王子様相手では、とても釣り合いが取れないわ」
シャルロットが首を横にブンブン振ると、クライシア王は静かに笑った。
「私の息子はずっと城の中で蝶よ花よと、何不自由なく育ててきた。それでも私や周囲が与えられなかった幸せをーーシャルロット姫ならば必ず息子に与えられると思ったのだ」
「……え?それはどういう……」
彼はそれ以上何も語らずにニヤッと黒い笑みを浮かべた。
「私の息子は、なかなかの美形だ。剣の腕前もすごいのだ。きっと姫も気に入るだろう」
「アハハ……もし、お断りしたら……」
「姫を諦める代わりに、オリヴィア小国の領土や領海を貰って帰ろうか?仮にも強国の王が、他国へ侵略して手ぶらでは帰れないからなぁ」
「これって侵略だったんですか?」
「はは、ブラックジョークだ」
「笑えないです……」
親バカ炸裂で、シャルロットは苦笑するしかなかった。
『結婚』ーー。
前世の世界ではまだ中学生くらいの年齢だけれど、この世界では既に結婚適齢期に入っている。
政略結婚が当然の世界だが、オリヴィア小国の王族は『(常識の範囲内に限り)恋愛自由、結婚も自由』という家訓がある。
『いつかシャルロットも素敵な人と恋をして、その人としあわせな結婚しなさい』ーー小さい頃から父母に言われて育った。
(蒼介……)
ふと、元旦那の顔が頭に浮かぶが、すぐに消えた。
ドジでヘタレだった彼は素敵な人とは程遠いけれど、後にも先にも、恋をしたのは彼1人だけだった。
前世はもう遠い世界の記憶のカケラ、未練なんてものはなくてーーけれど捨てることのできない宝物のような想い出。
この先、また違う人を好きになれるのかわからないけれど、生まれ変わってもやっぱり子供が欲しいと考えていた。
「分かりました。私、皇子とお見合いします」
シャルロットが告げると、父の顔はますます青くなり、クライシア王の顔は逆に晴れやかになった。
「お会いするだけです。そこで、お互いに結婚する意志があれば、結婚いたしましょう」
「ああ、それで良い。善は急げと言うだろう、姫の気が変わらぬ内に、今すぐ姫を我が国へ連れ帰ろう。良いな?オラニエ大公?」
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