上 下
7 / 19

第6話

しおりを挟む


「こ、ここは…?」

 潮の香りに、船の汽笛。
 麻袋から解放された私は手足を拘束されたまま地面に転がった。
 ふ頭の倉庫?なんてベタな……お約束な……もっとひねりはないの?ありがちな展開に、ネットの書籍レビューに文句書いちゃうレベルよ。

 顔を上げると見知った顔がいた。
 私を無表情で見下ろしている男。

「ケビン!?」

「ハハハハハ!いい気味だ!クローディア!」

「何の真似よ!」

 強気に睨んで見た。
 ケビンは私の髪を荒っぽく引っ張ると顔を間近に近付けた。

「子供の頃からお前には奴隷のように扱われていたからな!復讐だ!こうでもしないと気が治らない!」

「あんたが雇ったのね?あのチンピラ!?」

「こんな時でも気が強い女だなあ、もっと泣きじゃくりながら命乞いするかと思ったぜ」

「そうだな生きたまま海に沈めてやるとして、今まで虐げられて来た分お返ししないとな。性格はクソみたいでも顔と身体はなかなかの上玉だし、俺らを楽しませてくれよ」

「乱暴する気!?最低!」

 ゾロゾロと周りにおっかないナイフを持ったチンピラが集まって来て、怖くて手が震えた。
 それでも負けじと男らを睨む。

 ああ、神様、仏様、オスワルド様……っ

 目をギュッと閉じ心の中で叫んだ。
 するとすぐ目の前にナイフが転がって来た。ギョッとして顔を上げると、チンピラが何故かケビンにナイフを突き付けガッチリと取り押さえていた。あっという間に縄で身体を拘束されて形勢逆転していた。
 もう1人のチンピラは私の背後に回り、拘束していた縄を解いて身体を丁重に起こしてくれた。

「え?……」

「お前ら!何故、俺を……っ」

「あんな端た金で俺たちを従わせられるとでも思ったか?」

「裏切るつもりか!?」

「裏切る?もともと俺らの雇い主はお前じゃねえからな」

 そして倉庫の扉が開き、外の光が薄暗い庫内に差し込んだ。
 逆光の中颯爽と登場したのは伯爵様だった。

「え……!?オスワルド様?」

「ご苦労だった。お前たちは下がっていいぞ。伯爵家の従士がそれの回収に来るからな」

「へへ、毎度毎度。領主様はやっぱ羽振りが良くていいや。またのご利用お待ちしております~」

 チンピラどもはニッと笑うと倉庫を出て行った。
 伯爵様が雇い主だったのか?

「怖い思いをさせたな、クローディア。僕が来たからもう大丈夫だよ」

「い、いいえ……っ」

 涙がポロポロと溢れていた。
 伯爵様は私をギュッと優しく抱きしめてくれた。

「……な!お前……っ、俺の計画を知ってたのか?」

「本当に馬鹿な男だな。計画とも言えない杜撰なものでしたよ。あれで成功すると思ってたのか?」

 伯爵様は私を横抱きにし、歯をギリギリさせて睨んでいるケビンを見下ろした。

「け、ケビン、今までごめんね。許してもらえるわけないけど、ごめん!」

「……クローディアが謝った?」

 以前の私なら例え100パーセント自分に非があっても絶対に謝らなかったろう。
 彼をこうしてしまったのは私にも原因があった。
 そして小説の中で伯爵様が私を殺したのだって、同じようなものよね。勿論殺したり、暴力なんてどんな理由があっても許されないけれど、私にも非があった。

「ねえ、オスワルド様、ケビンをどうにか許してあげられない?ほら、未遂だし……」

 伯爵様の腕の中で必死に彼に懇願する。

「……ああ、そうだな」

 伯爵様が頷くとケビンは心底ホッとしたような顔をした。
 私も安堵した。

 伯爵様は倉庫の前の馬車の中に私を押し込んだ。
 馬子席には金髪の若い男がいる。

「クリス、彼女を伯爵家の屋敷へ。私は彼の処理をして従士団と共に帰ります」

「ええ、わかりました。“ほどほど”に」

 意味深な事を言うクリスに伯爵様はニッコリと笑顔を向けた。
 馬車の中から伯爵様を見ていた私はゾッとした。
 不気味な笑顔、手には鞭を持っている。そんな物騒な物が何故かよく手に馴染んでいる。

「ギャアアアアアア」

 走ってる馬車の中、倉庫の方角から痛ましい悲鳴が微かに聞こえたような気がしたが、気のせいだろう。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?

陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。 この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。 執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め...... 剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。 本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。 小説家になろう様でも掲載中です。

異世界転生したら悪役令嬢じゃなくイケメン達に囲まれちゃいましたっ!!

杏仁豆腐
恋愛
17歳の女子高生が交通事故で即死。その後女神に天国か地獄か、それとも異世界に転生するかの選択肢を与えられたので、異世界を選択したら……イケメンだらけの世界に来ちゃいました。それも私って悪役令嬢!? いやそれはバッドエンドになるから勘弁してほしいわっ! 逆ハーレム生活をエンジョイしたいのっ!! ※不定期更新で申し訳ないです。順調に進めばアップしていく予定です。設定めちゃめちゃかもしれません……本当に御免なさい。とにかく考え付いたお話を書いていくつもりです。宜しくお願い致します。 ※タイトル変更しました。3/31

転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました

市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。 ……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。 それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?! 上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる? このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!! ※小説家になろう様でも投稿しています

朝方の婚約破棄 ~寝起きが悪いせいで偏屈な辺境伯に嫁ぎます!?~

有木珠乃
恋愛
メイベル・ブレイズ公爵令嬢は寝起きが悪い。 それなのに朝方、突然やって来た婚約者、バードランド皇子に婚約破棄を言い渡されて……迷わず枕を投げた。 しかし、これは全てバードランド皇子の罠だった。 「今朝の件を不敬罪とし、婚約破棄を免罪符とする」 お陰でメイベルは牢屋の中へ入れられてしまう。 そこに現れたのは、偏屈で有名なアリスター・エヴァレット辺境伯だった。 話をしている内に、実は罠を仕掛けたのはバードランド皇子ではなく、アリスターの方だと知る。 「ここから出たければ、俺と契約結婚をしろ」 もしかして、私と結婚したいがために、こんな回りくどいことをしたんですか? ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

処理中です...