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第3話
しおりを挟むーー日曜日。
賑やかな街の中にある貴族や中産階級の若い娘たちに人気のある宝飾店に、私は伯爵様と2人でやって来た。
女性ばかりの店内に伯爵様は異質な存在で、視線をかっさらっていた。
彼は真剣な眼差しでガラスケースに並べられたアクセサリーを吟味していた。
姪っ子さんのこと本当に可愛がってるのね……。
私は微笑ましくなってクスリと笑った。
やがて伯爵様が手に取ったのは伯爵様と同じ青い色をした水晶に、金箔を散らしたかのようなキラキラとしたラメ加工が施されている可愛らしいバレッタだ。
「わぁ、素敵。星空を凝縮したみたい」
「最近流通したばかりのストーンですのよ」
「じゃあ、それをいただこう。あとこの琥珀のブレスレットも欲しいんだが」
伯爵様は値段も見ずに迷うことなく即決でそれをお買い上げになった。
姪っ子さんへのブレスレットには私がオススメした石と伯爵様指定の琥珀の石を選び、その場で店主さんがブレスレットにしてくれた。
商品を渡す時、やけに店主さんがニマニマしていたのが気掛かりだった。
「お互いの瞳の色のアクセサリーを購入されるなんて、微笑ましいカップルですこと」
「へ!?違います!違います!カップルなんかじゃ」
「“まだ”、違いますよ」
「あらぁ、そうでしたか」
そういえば、私の瞳も琥珀色だ。でも偶然よね?
店を出て、迎えに来た伯爵家の馬車に乗ると彼と対面する形で馬車に乗った。
「今日はありがとう、良い買い物が出来た。姪も喜ぶだろう」
「私も素敵なバレッタを買っていただいてありがとうございます」
「気に入ったようで私も嬉しいよ。お礼に、明後日の夜 食事にでも出掛けないか?」
「え?いえ、とんでもないです。こんな高価なバレッタも買っていただいたのに、お礼なんて」
「それは私が壊してしまった弁償で買っただけだろう、私が一緒に食事をしたいんだが……ダメか?」
「ぐっ……」
分かった。私は伯爵様のその捨て犬のような目に弱いんだ。
彼はそれを知ってか、ここぞという時に必殺技のように巧みに使ってくる。
「婚約したのだから気を遣わなくて結構だ」
『婚約』
「婚約……!?してないです、オスワルド様と婚約なんか」
「初めて会った時から結婚をしきりに所望してたのは君の方ではないか、気が変わったのか」
ああ、確かに。
私としての意識が入る前のクローディアは必死にオスワルド様の心を射止めようと攻めまくっていたっけ。
その中で結婚をチラつかせたりもしていた。
伯爵様はそんな彼女に対して始終淡々としていたけど。
「嫌ですわ、オスワルド様。楽しいお食事に席のちょっとした軽口?のようなものですよ。うふふふ」
適当な言い訳も思いつかず笑って茶化した。
失礼なのかもしれないけれど、いっそ嫌ってもらっても構わない。
しん……と馬車の中が静まり返る。
緊張して額に冷や汗が滲む、もしかして怒っちゃった?伯爵様はずっと目の前で俯いたままだから顔色が窺えない。
「……君はああいうようなことを他の男にも言ってるのか?」
「……オスワルド様?」
ギロリと彼の鋭い視線が刺さる。
私は呼吸さえ止まったかのようにフリーズしてしまった。
伯爵様はスッと物音も立てずに立ち上がると私の前にやってきて仏頂面で見下ろしてきた。
ゾワッと恐怖で全身の毛穴が開く、
ま、まさか、今まさに……予定よりもだいぶ早く、あっけなく、この場で、殺される!?
膠着状態のまま馬車が屋敷の前に到着した。
「----てもいいか?」
「エッ、ハイーー……?」
放心状態になってしまって伯爵様の言葉の前半が聞き取れなかった。
けれど条件反射でハイなんて言ってしまう。
「オスワルド様、到着いたし……」
外から馬子が馬車の扉を開けた。
その瞬間、伯爵様は私の肩に手を置いて、フリーズ状態の私の唇にキスをした。
「わわわ!ごめんなさい……」
馬子の青年が顔を真っ赤にして馬車の扉を締めた。
私も時間差でみるみる顔が真っ赤になる。
伯爵様が涼しい顔をして馬車を降りたところでやっと叫んだ。
「お、オスワルド様!?」
「ちゃんと確認はとったろ?キスしていいかと訊いたら君は了承してではないか」
何が起こった?
アゴが外れてしまった猫のように間抜けに口をあんぐりと開けて白けていた。
ああ、ここは私の実家の屋敷の前か。
伯爵様に手を引かれて放心状態のまま馬車から降りた。
「それではレディー、おやすみなさい。明後日の夜迎えに来るよ」
「えっ?オスワルド様……!」
有無も聞かずに馬車は走り出してしまった。
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