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ヤンデレ伯爵様VSドSアウトロー牧師!?
第7話(挿絵有)
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ーーガチャッと戸が開く音と共に、クリオスが部屋に姿を現した。
「どりゃあああ!」
「なっ……」
扉の真横に身を隠していた私はレディーらしからぬ雄叫びと共に窓辺にあった大きな空の花瓶を振るい、クリオスに襲い掛かった。
不意打ちなんて卑怯だけど、いくら元騎士のアンナに護身術を習ったり鉄バット素振りを毎日してたって男性相手に敵うはずもない。
それに私はヒロインちゃんじゃなくて元々悪役令嬢だ。汚い手上等。
これくらい許されるでしょう?ゲス笑いをする私。
花瓶はクリオスの頭に直撃し、彼は気を失って床に倒れ込んだ。
ーー脳震とうだろう、そんなに強くは殴ってないわ。多分……。
「……ごっゴメンね、でもあんたが悪いのよ?」
彼が起きる前に脱出しよう。
でも今の私は薄い下着一枚だし、着ていたはずのワンピースや靴も見当たらない。
裸同然のような格好で外に出るわけには行かず、仕方なくクリオスが着ていたシャツを剥がし身に付けた。
男物のシャツは大きくて太ももあたりまですっぽり覆ってくれた。
念の為に部屋にあった縄でクリオスを拘束した。
逃げてる最中に追い掛けられては困るもの……。
「う……う~ん、こうかな?」
縄の扱い方もさらっとアンナから習っていた。
確かこうで、こうだったと手順を思い出しながらクリオスの身体を締めていく。
「げっ……」
はじめてにしては上手く出来た亀甲縛りを目にして、私は思わず冷や汗をかいた。
「まあ、でも……簡単には解けなさそう」
彼を拘束した後、私はすぐに扉へ向かうがーー内鍵が掛かっていた。
「え……?」
ガチャガチャとドアノブを回すが開かない。
クリオスが部屋に入ってきた時、彼は内側からも鍵を掛けていたっけ……。
「……うっ……」
クリオスの唸る声が背後に聞こえ、振り返った。
脳震盪で倒れていたクリオスが目を覚ましてしまった。ーー額には血が垂れている。
「……お前っ……」
私は後退り、開かない扉に背をくっ付けた。
クリオスは怒った表情を私に向けている。だが、拘束されていて身動きが取れない。
形勢逆転、でもここから出られなければ意味がない。
「鍵を渡しなさい!」
「フン」
強気に叫ぶがクリオスはおかしそうに笑って、そっ方を向いた。
「いいわ!私がとるから!」
私はクリオスの身体をベタベタ触り鍵を探した。
クリオスは涼しい顔をしてる。
「な、無い……鍵はどこ?」
(いつの間に隠しちゃったの?…そんな素振りは)
「教えるものか!ハンッ、鍵が無ければお前も出れないな」
クリオスは小馬鹿にするように笑ってる。
私はカチンと来て、ベッドの上に転がっていた鞭を手に取ると威嚇するように床を激しく打った。
「打たれたくなかったら、おとなしく鍵を渡しなさい!」
声を凄めすぎて、巻き舌になってしまう。
前世で観たVシネマに出てくる極道を意識して声を出したが、すごい迫力だわ。
鏡に映って見える悪役っぽい笑顔が様になっている……さすが悪女クローディア。不名誉なことだけれど、鞭がよく似合ってる。
「渡すもんか、打つならば打てばいい」
「……!」
私は鞭をクリオスの太ももに打ち付けた。
一応ズボンは履いてるからそんなに痛くないはずよね?私なんて素肌をコイツに打たれたのよ。
思い出したらムカムカして、もう一発くらわせた。
「ぐっ……!」
こめかみにたらりと汗が垂れる。
クリオスの額にも汗が滲んでいるのが確認できた。
「……ここを出たとして何処へ帰るつもりだ?オスワルドへはお前が私の元へいると伝えてある。それでもお前を迎えに来ないではないか。ハハ。今頃 お前が私と蒸発したんだと、あいつは思い込んでいるぞ。お前はあいつに見捨てられたんだ!」
ハハハッと渇いた笑いを浮かべて、私を睨んだクリオス。
私は毅然とした態度で彼に叫んだ。
「オスワルド様のしつこさを舐めるんじゃないよ!」
バシンッーーと激しく床を打ち込む。
クリオスは笑うのをやめてさらに私を睨み続けた。
「あのねっ、あの人の執念深さを甘く見てたら絶対に後悔するわよ?あんたの一言で引き下がるほどおとなしくないのよ!そんなんで済むなら、私だって死亡フラグにビクビクしないわ!」
「はぁ?」
「もし、あんたの言うことを真に受けたならーー地獄の果てまで追いかけてきて、私を殺しにやってくるはずだわ。きっと私もあんたも五体満足で極楽浄土へ行けないわよ」
胸を張って断言した。
クリオスは目を点にして呆然としてる。
「……いいえ、違う」
少し目頭が熱くなる。
『小説の中』の伯爵様じゃない。
出会って結婚した伯爵様との思い出や彼の笑った顔が頭に浮かんでは消えていった。
小説の伯爵様じゃない。
「私が実際に出会って恋をして結婚した彼ーーカレンドラ・オスワルド様なら……、絶対に私を信じてくれるわ!」
なんでも話し合えて、信じ合える夫婦になろうって約束したのよ。
死の恐怖から、先に控えた死亡フラグばかりに気を取られて、私、目の前の伯爵様としっかり向き合っていなかったわ。
「……馬鹿みたいに信じて……、信じれば容易く裏切られるものだぞ」
クリオスは唇を噛み締めた。
私はフッと力を抜くように息を吐き、優しく笑った。
「ーー良いのよ。そうね、信じて裏切られるよりも、人を疑う方がずっと辛いもの。……あなたもずっと辛かったのよね?」
「……!」
「あなたが言うように人は容易く裏切るかもしれない。でもね、だからこそ心が通って信じ合えることって、希少で尊いことなのよ。信じられないじゃない、信じるのよ。それで裏切られたんなら、その時は怒ってぶん殴れば良いのよ」
私は少しふざけるように無邪気に笑った。
クリオスは黙ったまま、心底驚いたような顔を私に向けた。
言葉はない……だけど唇が微かに震え、泣きそうな顔をしている。
彼の顔を見ていたらフッと知らない記憶が頭を過ぎった。
(この感覚は……デジャブ?)
同じではないけれど、私はいつかどこかでクリオスと似たようなシチュエーションになったことがあるーー?
『私を信じて』と何度も冷たい表情を浮かべる彼に縋り、喉が枯れるまで彼に愛を囁き続けた。彼の容赦ない鞭で全身ボロボロになった私を最後にクリオスは今みたいな泣きそうな表情で優しく抱きしめるのだ。
そして彼は教会の戒律を破って、私と深くみだらに愛し合っーー。
「んん!?…」
この記憶はなんだろう?一瞬背筋がゾクゾクした。
「ハァ、ハァ」
嫌な呼吸音が耳に入る。
顔面蒼白しながらゆっくり振り返ると、そこには息を荒くして上気した顔のクリオスが居た。
「ヒィッ……!?」
悲鳴が漏れる。
上半身裸で亀甲縛りにされた美青年が興奮しながら、そしてウットリとした顔で、ジィッと懇願するような表情を私に向けてくる。
「クローディア様……!ああ!私の女神様!どうか…罪深い私に…女神の罰を…!」
「………え?」
全身の鳥肌がスタンディングオベーション。
「その女神の慈悲の鞭で……!罪に濡れた私の薄汚い身体に罰を……!裁きをください……!」
「とりあえず鍵を渡しなさい…!」
「鍵は扉の脇にくくりつけてあります…、クローディア様!」
「あ、あそこね……」
「ああっ!クローディア様、罰は?」
「……っ」
クリオスが唐突に雄豚化ーー 一体どうなってるのか。
全身がぞわぞわするので一刻も早くここを退散したかった。
手に入れた鍵で扉を開ける……。
一応 クリオスの高速も手首の縄以外は外してあげた。
クリオスは頬をポッと染めて、もじもじしていた。
「……ああ、どうして縄を解くのですか?罪人の私にはこれが正装なのに…!」
「キャラが崩壊してるわ……頭の打ち所が悪かったのかしら……?」
部屋を出ると、他の部屋にいた飼い犬のバイオレットが駆け寄ってきた。
私はその顔に安堵して、彼女をギュッと抱きしめる。
「帰ろう、バイオレット。オスワルド様の元へ……」
「クゥン」
バイオレットが鳴いて、首をコクっと傾けた。
「……ディア!!」
建物の外から伯爵様の叫び声がした。
私はすぐに立ち上がると廊下の窓の向かって走る。
「オスワルド様っ!」
塔の真下には何故かシスター服で女装をした伯爵様とクリス、それから騎士服姿のアンナが居てこっちを見上げていた。
「……君の言った通りだ。オスワルドは君を迎えに来たようだ」
背後からクリオスの柔らかい声がした。
私は振り返ると白い歯を見せて笑う。
「ね、言ったでしょう?」
クリオスとバイオレットと共に、私は塔の下へ降りた。
伯爵様の胸の中に私は飛び込む。
「……ど、どうしてシスターの格好をしてるの?」
そもそも、よくここがわかったわね?
「ここは男子禁制の、シスターたちの寮舎の敷地内だからね」
流石 イケメンと美少年、女装も違和感がない。
「クリオス……」
「……」
伯爵様とクリオスは睨み合ってる。
「あのね……オスワルド様……」
ーー突然、上から爆発音がした。
「え!?」
さっきまで居た部屋の窓が割れ、炎が上がってる……。
部屋にあったロウソク立て、もしかしたら暴れた衝撃で倒れて転がってしまったのかも……?
それが寝具に燃え移ったの?
「クリス!教会の人を呼ぶぞ!早く消火しなければ」
「は、はい!」
アンナとクリスは隣の寮舎に向かって走った。
バイオレットも慌てた様子でワンワン吠えながら人を呼びに向かう。
クリオスは目を大きく見張る。
そしてすぐに塔の中へ戻ろうとした、私は彼の腕を掴み、止めた。
「何してるの!?危ないわ!」
「……中には……、まだピーが!」
「ピーちゃん?」
クリオスが飼ってる犬。
教会の前に捨てられていたのを彼が拾ったそうだ。
さっき鞭で打っちゃって足を負傷してるし、頭だって打ったから……。
とても助けに行ける身体ではーー。
「ピーって言うのは?」
伯爵様は聞いた。
「子犬よ、豆柴の……クリオスの犬なの」
「……」
伯爵様はシスターの帽子や服を脱ぐと下に着ていた軽装姿になり、私に脱いだ服を渡し、迷う事なく塔の扉へ向かって走った。
「大丈夫だ、私は元騎士だぞ。必ずクリオスの犬を連れて戻ってくるよ」
彼は笑って塔の中へと消えた。
「オスワルド様!」
「どりゃあああ!」
「なっ……」
扉の真横に身を隠していた私はレディーらしからぬ雄叫びと共に窓辺にあった大きな空の花瓶を振るい、クリオスに襲い掛かった。
不意打ちなんて卑怯だけど、いくら元騎士のアンナに護身術を習ったり鉄バット素振りを毎日してたって男性相手に敵うはずもない。
それに私はヒロインちゃんじゃなくて元々悪役令嬢だ。汚い手上等。
これくらい許されるでしょう?ゲス笑いをする私。
花瓶はクリオスの頭に直撃し、彼は気を失って床に倒れ込んだ。
ーー脳震とうだろう、そんなに強くは殴ってないわ。多分……。
「……ごっゴメンね、でもあんたが悪いのよ?」
彼が起きる前に脱出しよう。
でも今の私は薄い下着一枚だし、着ていたはずのワンピースや靴も見当たらない。
裸同然のような格好で外に出るわけには行かず、仕方なくクリオスが着ていたシャツを剥がし身に付けた。
男物のシャツは大きくて太ももあたりまですっぽり覆ってくれた。
念の為に部屋にあった縄でクリオスを拘束した。
逃げてる最中に追い掛けられては困るもの……。
「う……う~ん、こうかな?」
縄の扱い方もさらっとアンナから習っていた。
確かこうで、こうだったと手順を思い出しながらクリオスの身体を締めていく。
「げっ……」
はじめてにしては上手く出来た亀甲縛りを目にして、私は思わず冷や汗をかいた。
「まあ、でも……簡単には解けなさそう」
彼を拘束した後、私はすぐに扉へ向かうがーー内鍵が掛かっていた。
「え……?」
ガチャガチャとドアノブを回すが開かない。
クリオスが部屋に入ってきた時、彼は内側からも鍵を掛けていたっけ……。
「……うっ……」
クリオスの唸る声が背後に聞こえ、振り返った。
脳震盪で倒れていたクリオスが目を覚ましてしまった。ーー額には血が垂れている。
「……お前っ……」
私は後退り、開かない扉に背をくっ付けた。
クリオスは怒った表情を私に向けている。だが、拘束されていて身動きが取れない。
形勢逆転、でもここから出られなければ意味がない。
「鍵を渡しなさい!」
「フン」
強気に叫ぶがクリオスはおかしそうに笑って、そっ方を向いた。
「いいわ!私がとるから!」
私はクリオスの身体をベタベタ触り鍵を探した。
クリオスは涼しい顔をしてる。
「な、無い……鍵はどこ?」
(いつの間に隠しちゃったの?…そんな素振りは)
「教えるものか!ハンッ、鍵が無ければお前も出れないな」
クリオスは小馬鹿にするように笑ってる。
私はカチンと来て、ベッドの上に転がっていた鞭を手に取ると威嚇するように床を激しく打った。
「打たれたくなかったら、おとなしく鍵を渡しなさい!」
声を凄めすぎて、巻き舌になってしまう。
前世で観たVシネマに出てくる極道を意識して声を出したが、すごい迫力だわ。
鏡に映って見える悪役っぽい笑顔が様になっている……さすが悪女クローディア。不名誉なことだけれど、鞭がよく似合ってる。
「渡すもんか、打つならば打てばいい」
「……!」
私は鞭をクリオスの太ももに打ち付けた。
一応ズボンは履いてるからそんなに痛くないはずよね?私なんて素肌をコイツに打たれたのよ。
思い出したらムカムカして、もう一発くらわせた。
「ぐっ……!」
こめかみにたらりと汗が垂れる。
クリオスの額にも汗が滲んでいるのが確認できた。
「……ここを出たとして何処へ帰るつもりだ?オスワルドへはお前が私の元へいると伝えてある。それでもお前を迎えに来ないではないか。ハハ。今頃 お前が私と蒸発したんだと、あいつは思い込んでいるぞ。お前はあいつに見捨てられたんだ!」
ハハハッと渇いた笑いを浮かべて、私を睨んだクリオス。
私は毅然とした態度で彼に叫んだ。
「オスワルド様のしつこさを舐めるんじゃないよ!」
バシンッーーと激しく床を打ち込む。
クリオスは笑うのをやめてさらに私を睨み続けた。
「あのねっ、あの人の執念深さを甘く見てたら絶対に後悔するわよ?あんたの一言で引き下がるほどおとなしくないのよ!そんなんで済むなら、私だって死亡フラグにビクビクしないわ!」
「はぁ?」
「もし、あんたの言うことを真に受けたならーー地獄の果てまで追いかけてきて、私を殺しにやってくるはずだわ。きっと私もあんたも五体満足で極楽浄土へ行けないわよ」
胸を張って断言した。
クリオスは目を点にして呆然としてる。
「……いいえ、違う」
少し目頭が熱くなる。
『小説の中』の伯爵様じゃない。
出会って結婚した伯爵様との思い出や彼の笑った顔が頭に浮かんでは消えていった。
小説の伯爵様じゃない。
「私が実際に出会って恋をして結婚した彼ーーカレンドラ・オスワルド様なら……、絶対に私を信じてくれるわ!」
なんでも話し合えて、信じ合える夫婦になろうって約束したのよ。
死の恐怖から、先に控えた死亡フラグばかりに気を取られて、私、目の前の伯爵様としっかり向き合っていなかったわ。
「……馬鹿みたいに信じて……、信じれば容易く裏切られるものだぞ」
クリオスは唇を噛み締めた。
私はフッと力を抜くように息を吐き、優しく笑った。
「ーー良いのよ。そうね、信じて裏切られるよりも、人を疑う方がずっと辛いもの。……あなたもずっと辛かったのよね?」
「……!」
「あなたが言うように人は容易く裏切るかもしれない。でもね、だからこそ心が通って信じ合えることって、希少で尊いことなのよ。信じられないじゃない、信じるのよ。それで裏切られたんなら、その時は怒ってぶん殴れば良いのよ」
私は少しふざけるように無邪気に笑った。
クリオスは黙ったまま、心底驚いたような顔を私に向けた。
言葉はない……だけど唇が微かに震え、泣きそうな顔をしている。
彼の顔を見ていたらフッと知らない記憶が頭を過ぎった。
(この感覚は……デジャブ?)
同じではないけれど、私はいつかどこかでクリオスと似たようなシチュエーションになったことがあるーー?
『私を信じて』と何度も冷たい表情を浮かべる彼に縋り、喉が枯れるまで彼に愛を囁き続けた。彼の容赦ない鞭で全身ボロボロになった私を最後にクリオスは今みたいな泣きそうな表情で優しく抱きしめるのだ。
そして彼は教会の戒律を破って、私と深くみだらに愛し合っーー。
「んん!?…」
この記憶はなんだろう?一瞬背筋がゾクゾクした。
「ハァ、ハァ」
嫌な呼吸音が耳に入る。
顔面蒼白しながらゆっくり振り返ると、そこには息を荒くして上気した顔のクリオスが居た。
「ヒィッ……!?」
悲鳴が漏れる。
上半身裸で亀甲縛りにされた美青年が興奮しながら、そしてウットリとした顔で、ジィッと懇願するような表情を私に向けてくる。
「クローディア様……!ああ!私の女神様!どうか…罪深い私に…女神の罰を…!」
「………え?」
全身の鳥肌がスタンディングオベーション。
「その女神の慈悲の鞭で……!罪に濡れた私の薄汚い身体に罰を……!裁きをください……!」
「とりあえず鍵を渡しなさい…!」
「鍵は扉の脇にくくりつけてあります…、クローディア様!」
「あ、あそこね……」
「ああっ!クローディア様、罰は?」
「……っ」
クリオスが唐突に雄豚化ーー 一体どうなってるのか。
全身がぞわぞわするので一刻も早くここを退散したかった。
手に入れた鍵で扉を開ける……。
一応 クリオスの高速も手首の縄以外は外してあげた。
クリオスは頬をポッと染めて、もじもじしていた。
「……ああ、どうして縄を解くのですか?罪人の私にはこれが正装なのに…!」
「キャラが崩壊してるわ……頭の打ち所が悪かったのかしら……?」
部屋を出ると、他の部屋にいた飼い犬のバイオレットが駆け寄ってきた。
私はその顔に安堵して、彼女をギュッと抱きしめる。
「帰ろう、バイオレット。オスワルド様の元へ……」
「クゥン」
バイオレットが鳴いて、首をコクっと傾けた。
「……ディア!!」
建物の外から伯爵様の叫び声がした。
私はすぐに立ち上がると廊下の窓の向かって走る。
「オスワルド様っ!」
塔の真下には何故かシスター服で女装をした伯爵様とクリス、それから騎士服姿のアンナが居てこっちを見上げていた。
「……君の言った通りだ。オスワルドは君を迎えに来たようだ」
背後からクリオスの柔らかい声がした。
私は振り返ると白い歯を見せて笑う。
「ね、言ったでしょう?」
クリオスとバイオレットと共に、私は塔の下へ降りた。
伯爵様の胸の中に私は飛び込む。
「……ど、どうしてシスターの格好をしてるの?」
そもそも、よくここがわかったわね?
「ここは男子禁制の、シスターたちの寮舎の敷地内だからね」
流石 イケメンと美少年、女装も違和感がない。
「クリオス……」
「……」
伯爵様とクリオスは睨み合ってる。
「あのね……オスワルド様……」
ーー突然、上から爆発音がした。
「え!?」
さっきまで居た部屋の窓が割れ、炎が上がってる……。
部屋にあったロウソク立て、もしかしたら暴れた衝撃で倒れて転がってしまったのかも……?
それが寝具に燃え移ったの?
「クリス!教会の人を呼ぶぞ!早く消火しなければ」
「は、はい!」
アンナとクリスは隣の寮舎に向かって走った。
バイオレットも慌てた様子でワンワン吠えながら人を呼びに向かう。
クリオスは目を大きく見張る。
そしてすぐに塔の中へ戻ろうとした、私は彼の腕を掴み、止めた。
「何してるの!?危ないわ!」
「……中には……、まだピーが!」
「ピーちゃん?」
クリオスが飼ってる犬。
教会の前に捨てられていたのを彼が拾ったそうだ。
さっき鞭で打っちゃって足を負傷してるし、頭だって打ったから……。
とても助けに行ける身体ではーー。
「ピーって言うのは?」
伯爵様は聞いた。
「子犬よ、豆柴の……クリオスの犬なの」
「……」
伯爵様はシスターの帽子や服を脱ぐと下に着ていた軽装姿になり、私に脱いだ服を渡し、迷う事なく塔の扉へ向かって走った。
「大丈夫だ、私は元騎士だぞ。必ずクリオスの犬を連れて戻ってくるよ」
彼は笑って塔の中へと消えた。
「オスワルド様!」
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