彼福私鬼 〜あちらが福ならこちらは鬼で〜

日内凛

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第二章

【各話要約】第二章:第45話〜第54話

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※ 第二章の各話要約ページになります。
 ネタバレにご注意ください。










●第45話/お昼の作戦会議

 同化後初めての登校となる月曜日の昼、三人は文芸部室に集まり昼食をとっていた。
 黒葛の変貌ぶりがクラスの話題になるかという心配事は杞憂に終わり、そして話題は「同化」に移る。この不可思議な現象についてネットで調べど空振りに終わる。他方、書籍に何かヒントがないかと黒葛は図書館に行ってみることを提案する。



●第46話/エースの退部

 放課後、美月は校長室に呼び出しを受ける。水泳部の退部の真意を問い、校長を巻き込んで翻意を促す目的のようだった。寝耳に水の実咲となぎさは美月に問いただすが、はぐらかされてしまう。二人は、昨日からどこか様子が変わった美月を案じることしかできなかった。



●第47話/閃光少女

 週末の土曜日に三人は市営のプールに来ていた。水泳部を退部した美月がけじめをつける個人的なひとり引退試合のためで、黒葛と唯はその観客だった。
 黒葛は唯の解説を受けながら初めて目にする美月の遊泳に圧倒される。唯曰く、美月が水泳を選んだのは、「宇宙の法則を感じられるから」ということだった。黒葛も個人的な体験をもとに納得をし、美月の最後の遊泳を目に焼き付けるのだった。



●第48話/鬼灯村

 昼食後、三人はプールと同じ『宝月平和の森公園』の敷地内にある図書館へ向かった。同化についての調べものをするつもりだったが、司書への説明が難しいため同じく気になっていた宝月という町の名前の由来について調べることにした。
 借りた閉架の資料の中で、かつて宝月は同じ読みの音で鬼灯村という名前だったことを知る。そして江戸時代にはこの地で先の地震と似た災害が起きていたことを知り三人は驚愕する。そして資料にあった地図が示すその罹災地域はまさしく図書館が位置する『宝月平和の森公園』その場所だった。



●第49話/地蔵公園とおいこさん

 図書館を出た三人は同じ敷地内にある緑地帯へ向かう。美月や唯が『地蔵公園』と呼んでいるその緑地帯はランニングコースとしても整備されており、木々の緑のトンネルの中を多くの人が走ったりしていた。
 そのコースを歩き、公園の最深部に至ったところで黒葛は“おいこさん”の像の集合を目にする。町の開発の過程でそこに集められたおいこさんの像はきれいにお世話され、花も供えられていたのは唯も美月も意外だった。黒葛はその誰とも知れない奇特な人物に思いを馳せ、自らも手を合わせるのだった。



●第50話/梅雨空の試験期間

 梅雨入りをして10日ほど経った日の昼休み、黒葛と唯は文芸部室で昼食を食べていた。黒葛は唯から転校生の噂を聞く。どうやら海外からの留学生のようだった。
 黒葛と唯は、間もなく始まる期末試験に向けて勉強会を企画する。しかし、黒葛は美月のことが気にかかっていた。この週末には美月が出場するはずだった水泳の大会があるのだ。



●第51話/真っ黒けっけの水

 唯はここ数日、同じ夢を見ている。内容は、どことも知れない黒い海でただ泳ぐというだけのものだった。
 目を覚ました唯は朝食をとり、小雨のなか黒葛の自宅へ勉強会に向かう。
 美月は水泳の予選会の応援に行くというので黒葛と二人だけでの勉強会だった。唯は大会に出るはずだった美月の心情に思いを馳せ、一区切りついたところで美月に会いに行くことにする。
 唯は帰路、偶然にも応援の帰りの美月に会い、近場のカフェに入る。いつもなら飲まないコーヒーを飲もうとしたりはあったが、概ね普段と変わりない調子の美月に唯はどこか安心をする。



●第52話/低調美月

 期末試験の2日目はちょうど黒葛の誕生日だった。試験後の日曜日にお祝いをすることにしているが、美月はどこか上の空だった。黒葛と唯が心配していると、実咲となぎさに絡まれ、美月の様子について問いただされる。
 放課後、勉強のため部室に移動した唯と黒葛は美月の様子について話し、土曜日に唯が本人から話を聞くことにする。



●第53話/朔

 土曜日、唯と美月はショッピングモールへ行く。目的は黒葛の誕生日プレゼントだった。珍しく寝坊し、やはり上の空にある美月。プレゼントとして白いシャツを購入した後、近くの公園にて唯は美月に心の内を問う。
 美月自身も己の不調について確たる理由を見出せずにいたが、主には肉体の強化や生理周期の停止といった身体の変化や、それに伴う様々な影響によるものだった。
 唯は美月によって抑えられていた罪の意識を自覚し、後悔に苛まれてしまう。

 夜、風呂に入りながら唯は改めて自身の変化というものについて考え、そして黒葛と美月のことも、自分自身のことも何も知らないことを思い知る。
 そしてまたこの頃毎夜見る夢を見ながら眠りにつくのだった。



●第54話_1/誕生日(前)

 黒葛の3日遅れの誕生日パーティの当日、唯を迎えにきた美月は明るく振る舞っていたが、無理をしているのは明らかだった。
 
 黒葛は二人からプレゼントを受け取り、早速シャツを着てみる。自分の趣味から外れたそれは、だからこそ自分の視野を広げてくれるものだった。人からプレゼントを選んでもらうことは、以前説かれた“誤解”の効能に近いものがあるのだと悟る。
 ケーキを食べた後、唯は美月に今の悩みを打ち明けてもらうよう請う。祝いの場ゆえはぐらかそうとする美月だが黒葛からも同様に請われ、観念する。
 美月は自身の人生の拠り所としていた“物語ストーリー”をいくつか同化によって失っていたのだった。それは水泳であり、自身の肉体であり、またいつか子どもを作るという“物語ストーリー”。
 それに対し唯は、それらを受け止めるだけの自身の覚悟のなさを省みる。そして、夢に出てくる景色に何か自身を変えるヒントを予感し、いつか潜ったことのある己の意識の深層へと向かうのだった。



●第54話_2/誕生日(中)

 ひとり自分の意識に潜り、深く潜航する唯だが途中で大きな流れに飲まれてしまう。
 気が付いた唯は、どこか知らない図書館らしき空間にいた。
 その図書館の通路の交差する地点にて果てない高さの本棚を見上げていると、上方から知らない女性の声を聞く。親しげに話しかけてくるその女性のシルエットは、悪魔としか形容しようのないものだった。
 唯はしかし恐怖は感じず、黒葛や美月をもよく知っているらしいその女性に親しみを覚える。女性は、さらに潜ると戻れなくなると警告をしながら、どこか嬉しそうだった。唯は自分自身を知りたいし、大切な二人ともっとこの世界を見てみたいと告げる。すると唯の体は床の中に埋没し沈みはじめる。そこで最後に聞いたのは、女性からの「姉さん」という呼びかけだった。

 一方、黒葛と美月は突然意識を失った唯を案じていた。黒葛は以前そうしたように体を融解させて唯の体内に入ろうとするが、うまくいかない。
 その時、唯を中心に風が集まり黒い繭を成した。その風の繭が解けると中から大きく姿を変えた唯が現れる。衣装も変化し、背中に黒い翼や尾を発生させたそれは扇情的な悪魔のような姿だった。恐れ慄く黒葛と美月だが、唯には変わらず自意識があり、以前のような暴走をするような雰囲気は見られなかった。
 浮遊したり天井に張り付いたりと物理法則から逸脱した能力を身につけた唯は以前よりも身体のコントロールが効くようになっており、同化した際に失われたバイオリズムも意図して復活させることもできるようだった。
 それを聞き、美月も唯と同様の変化を志望する。何より唯の覚悟を見たことと、唯と同じ存在になりたいと思ったからだった。
 唯からアドバイスを受け、美月も自身の中に潜航を試みる。



●第54話_3/誕生日(後)

 2012年の夏祭り会場、そこに6歳の美月はいた。両親とともに三人で記念撮影をした後、気がかりなのは迷子の“ういちゃん”の行方だった。美月は母親の制止を振り切ってういちゃんを探しに行く。
 うっかり転んだ美月が顔を上げると、そこにはネコの面を被ったういちゃんらしき女の子が立っていた。美月は名前を呼ぼうとして、思わず「唯」と叫んでしまう。美月の記憶では、ういちゃん=唯であり、この夏祭りが唯との初めての出会いだった。いつの間にか2023年現在の姿になっていた美月は「唯」と呼びかけるも、少女の声は幼い頃の唯の声とはどこか違っていた。
 少女から意味深な言葉を告げられ、戸惑う美月。そして少女は一瞬の間に大人の女性へと姿を変えていた。そしてその姿やいでたちから、やはりどうも唯ではなさそうだった。面をとった女性の目は不思議な色をしており、その目はやはりあの夏祭りで見た、ういちゃんの目だった。
 その女性から「美月姉」と呼ばれ、そして美月は睡魔に襲われ意識を失った。

 現実に戻った美月は、自身の姿の変化に驚く。白い装束を身に着け、キツネの要素を取り入れた妖狐というべき姿になっていたのだ。黒を基調とした唯の姿とは正反対に白く、また和様の姿だったが美月には特に心当たりのない姿だった。以前唯がキツネのお面をくれたことが関係しているのかと推測するが、唯にはそのような記憶はないと言う。美月と唯が夏祭りに行ったのは確かだが、その時に美月が手に入れた面は女児向けのアニメのキャラクターのものだったと記憶しており、証拠の写真も残っている。
 美月はその夏祭りで唯と出会ったと思っていたが、正確にはその前年、唯が美月の通う幼稚園に転園したときが最初の出会いだった。そう言われて美月もその時のことを思い出すが、いつの間にか記憶に混乱が生じていたことに戸惑う。
 黒葛は二人の姿に見惚れ、自身も変身を試みるがうまくいかないようだった。
 それぞれの懸念のいくらかを払拭し、またいくつかの謎を残して黒葛の誕生日会は幕を閉じた。
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