彼福私鬼 〜あちらが福ならこちらは鬼で〜

日内凛

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第一章

第42話/震源地の家

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  2023年6月4日(日) 13:00 黒葛家へ



山を下り、午後は黒葛の自宅へ行くことにした。
地震の揺れで散らかったままになっている家屋の片付けが目的だ。

バスで国道を東方面へ向かい、駅を越えて沙須川にかかる鉄橋を渡る。ガラガラ公園からもよく見えたこの斜張橋はその名も宝月大橋というらしい。
車窓から見える、青芝が美しい土手の裾には緩やかな川の曲線に流れに沿って河川敷が広がっている。特に西側の河川敷のうち、橋のちょうど南側は野球グラウンドがすっぽり入る広さがあり、ちょうど地域の少年野球団が監督かコーチだかのノックを受けているのが見えた。スイングの度にキラっと光る金属バットは太陽光をバスの中にまで打ち返しているようだ。
河川敷で何が行われているか今まで気にしたこともなく、あまつさえ野球のルールも知らなかった黒葛だが、それが“野球のノックの練習”ということまで分かるようになっている。

——色々な人がこの町に暮らし、色々なことをして日々を送っているんだ。

黒葛がそう思うようになったのは、この町に生まれ育った唯や美月たちと同化したからかもしれないし、それとは逆に、今し方この町を俯瞰し眺めたことで自分と町とを相対化するような新しい視点を手に入れたからかもしれなかった。
橋を渡りきったバスは坂を下って次の停留所──黒葛宅最寄りのバス停で停車をした。


バスを降りた三人は通りの南側の住宅街へ入っていく。
美月は悪童時代、あまりこの辺りまで来ることはなかったが、もっと畑や田んぼが多かった区画だったという記憶がある。それがいつの間にやら家屋が増えて見慣れない景色になっているはずが、知っている景色のようでもあった。隣を歩く唯もそうなのだろうと思う。黒葛に案内されるまでもなく足が目的地へ向かいそうだった。

ふと、交差点も何もない場所で黒葛が足を止めた。
「どしたの?」
うっかりそのまま歩みを進めた美月が振り返り、声をかける。
「ここ……から、揺れた場所になる」
美月も唯もすぐに正面へ向き直った。
進行方向に見えるのは、何の変哲もない閑静な——閑静にもほどがある住宅街だ。
「祐樹くん以外、人がいないの……?」
周囲を見渡しながら黒葛と美月の側に体を寄せる唯は何か視界の端で動いたのを見たが、それは住宅前に取りつけられたミラーに映る自分たちの姿だった。
「ちょうどその時間外出してた人もいるみたいだから、多分何人かはまだ……。でも引っ越したり、別の場所に避難とかしてるのがほとんどじゃないかな」
「別に封鎖されてるわけじゃないんだね」
美月は唯の手を握り、平時と特段変わりない口調で話してみせる。想像では立ち入り禁止のテープがそこかしこに貼られているものかと思っていたが特にそのようなものはなく、黒葛に言われなけば例の地震があった場所だと気付かなかっただろう。
「うん、半月ほどかな。その間は入れなかったと思うよ。地盤とか調べて、特に断層とか地盤沈下とか……問題ないみたいで、今はもう」

黒葛の声を背中で聞く美月は風景の中にどこか違和感を覚えていた。
何かがおかしい。何が? むしろ小綺麗な住宅地だ。
「すごい揺れだったみたいだけどね……ニュースじゃさ、電柱が傾いたり、塀が崩れたりしてたけど」
揺れがあったのはだいたい300メートル四方だというから見えない場所で大変になっているのかもしれないが、今見える範囲では地震による被害らしきものは確認できなかった。それが違和感の正体なのだろうか?

「局所的地震、なんだよね? うちは全然揺れなかったからわかんなかったなぁ」
唯は改めて当時のことを思い出す。
それはちょうど寝る前の時間だった。枕元で本を読んでいた唯は遠くで雷鳴を聞いた覚えはあるが、ただそれだけだった。カーテンもしっかり閉めていたので稲光にも気が付かなかった。翌朝のニュースで流れたのは断片的な視聴者投稿の映像のみで、同じ町のことながらどこか人ごとだった。被害の全容が明らかになるにつれてその様相に気味の悪さを覚えたが、それも日々更新される新しい話題の波にいつの間にか流されてしまっていた。

「また……揺れがあるとか、ないのか、ねっ」
美月は両腕を頭の後ろに組んだまま腰を捻り、ストレッチ運動も兼ねたその動きで周囲を見渡して独りごちた。美月にしてみれば地震の原因が特定できてない以上、その災害に再現性がないとも言い切れないので黒葛がこのまま自宅に住んで大丈夫か、不安がないと言えば嘘になる。
「僕も退院するタイミングで別の場所すすめられたんだけどね……補助は出るし」
黒葛は再び歩みを始め、美月と唯も追従する。
「でも、そんなすぐ一人で避難もなんか、できなくて。とりあえず自宅の倒壊はないみたいだから許可されたって感じ」
美月はその口調から黒葛の心情を窺おうとするがどうにも掴めなかった。自分たちを慮っているのか、事の割には軽く、どこか諦観じみていて他人事のようですらあった。

子どもの頃から美月は不思議だった。
なぜ津波が来ることが確約している場所に人は住むのか。なぜ津波が襲った場所にまた人が住むのか。なぜ山の斜面の下に家が建ち並んでいるのか。なぜ活火山のカルデラの中に街が作られ、そこで今も生活が営まれているのか。
水害について言えば。人間は往々にして、水がその偉大な力学でもって耕した跡地に繁栄しているので、またそこへ水の偉大な力学が作用するのは必然だ。そうした場所こそが人々が社会を形成し、栄え営む上で有用な土地だったりもするのだが、この現代においてもそうした場所に多くの人々が住み続けるというのは、なぜだろうか。自分だけは大丈夫だろうと信じられるから?

黒葛も同様の事情にあった。
原因の不明な地震、そしてそれに伴う家族を含めた人々の消滅。
それでも黒葛が自宅に住み続けるのは、自棄ヤケでもなければ引っ越し自体が面倒だから、というわけでもない。あるにはあるかもしれないが、それも含めて様々な事情や感情が複雑に絡み合い、結果、黒葛はひとり自宅に残ることを選んだのだろう。いやもしかしたら、選ぶことさえもできないのかもしれない。
美月は客観的にはその判断に合理性は見出せない、と思う。しかし、“今”ならその黒葛の胸の内にある、割り切れなさというものが少しは理解ができる気がした。
仮に自分が何らかの自然災害に罹災したとして、では素直に別の場所に移り住めるのかと言えば、そうではないのかもしれない。
あらゆる割り切れなさの中で人々は、そしてきっと自分も日々の生活を送っているのだろうと思う。
それは単に正常性バイアスだとして判じていいものではない。

ふと、一昨日に唯と自分の部屋の本棚前で交わした会話を思い出した。
──天災は忘れた頃にやってくる──
忘れなくてもやってくるし、身構えていようといまいと、天災はやって来るのだ。それがゆえに天災というものなのだろう。
今日この国において、いやこの世界の中で全く安全な場所というのは、どこにもないのかもしれない。


「ここです、うち」
黒葛が指したのは、二階建の一軒家だった。
3年前、引っ越して来た折に購入した中古の住宅。それまで関東一円のアパートを転々としていた黒葛一家が父親の転勤を機に一念発起して購入したのがこの家だった。

庭には乗用車が一台駐まっているほか、煤けた自転車が置いてある程度で植木もなくサッパリとミニマルだ。
家の外壁に寄り添うように置いてあるプランターには土だけが盛ってある。世話をする暇もない日々だったのだろうと心を痛める美月だったが、「私は祐樹くんち2回目~」とVサインを向けてくる唯の笑顔にいくらか気が紛れる。
そして不思議なもので、初めての訪問のはずがどうにも懐かしく感じる。
旅行先から戻ったときの、現実に引き戻される哀愁と安心感の入り混じったあの複雑な感情に近いものが喚び起こされる気がした。
そこにあるクルマのエンジンの音も、ドアの重さも、車内の匂いも何となく分かる気がする。
そう、ここは自分にとって桜永家、茜川家に続く3軒目の自宅になるのだ。

「ただいま~!って……うわっ……」
唯に倣い笑顔の凱旋をしようした美月は、玄関に足を踏み入れた途端その笑みを引きつらせた。
「改めて見ると……なかなか壮絶な……」
隣の唯も半笑いのまま立ち尽くしていた。
「前はなんか頭フワフワしてて、ちゃんと気にして見てなかったなぁ」
「全然片付けてなくて……恥ずかしい限りで……」
頭を掻きながら恐縮する黒葛。しかし、これこそが唯と美月がここに来た目的なのだ。そして、幸いにして二人とも片付けや掃除が得意ときている。
「じゃあどうする? 私と唯で1階やる感じ?」
そう唯に目配せをする美月は家主でこそないが、この場を取り仕切るのは自分になるのだろうと判断した。
「助かります……僕は、じゃあ2階を」
「……こっち、リビングか……。ねぇ、リビングって」
階段を上がろうとした黒葛を美月の声が呼び止める。
「あ……うん。両親が……ごめん、そうだよね気味悪いよね」
美月はリビングの入り口で手を合わせる。唯もそれを見て並んで手を合わせた。
そうだった。黒葛はこれまでの異常な状況もあり今の今までちゃんと意識をしていなかったが、ここは自分の両親が命を失った場所なのだ。
そして自分はまだ、手を合わせていない。
それをしてしまうと、両親の死を認めることになるからだと思っていたのかもしれない。

「……やさしい人だった? お父さんとお母さん」
手を合わせ、目を閉じたまま美月が問う。まぶたの裏に、きっと記憶の中にあるはずのその二人の姿を浮かべようとしているのだろうというのは、黒葛にも分かった。
「う、うん……。怒ったりとかはなかったかな。まぁ、どっちも静かな人だったよ」
唯と美月がそれぞれに頷く。
「うちは……仕事で二人とも帰り遅くって……特に母さんがいつも深夜だった」
あの日も、日付が変わろうかというその時間に二人で夕食を食べた後だった。
2階にいた黒葛はその場面を見てはいないが、二人は最後に何を思ったのだろうか。きっと何かを思う間もなかっただろうが。せめて苦痛に気付かぬままであればと、黒葛はそう祈るだけだ。

「唯ちゃん美月さん、ありがとう。リビングはじゃあ僕がやるよ」
「ああ、そういうんじゃないよ。ただね……」
唯はそう言いながら美月の両親を思い出していた。およそ自分の両親とは真逆ともいえる快活なあの二人。小さな頃からよくしてくれた二人ではあるが、それ以上の特別な情が芽生えているのが分かる。良い悪いといった一次元的な情ではなく、もっと複雑で多元的な感情。それは自身の本当に家族に対して抱く“感じ”に似ていた。
「ほら、私たち……混ざっちゃってるから。私にとっても美月ちゃんにとってもね、……お父さんとお母さんなんだと、思う」
「ってことで1階は私らの担当。……またちゃんとお弔いはしないとだね」
黒葛の行手を阻むようにして美月がリビングに押し入り、唯も続く。
「うん……ありがとう……。じゃ、ふたりなら平気だと思うけど、ガラスとかまだあるかもだから気をつけてね」
「了解~! ……とはいえ、キッチンもなかなか大変だなぁ」
2階へ上がる黒葛を見送った美月はリビングからキッチンにかけての有様に肩をすくめる。
入り口から冷蔵庫までの動線が確保されているくらいで、それ以外は地震当時のままになっているらしかった。倒れて破損した家具類も少なくない。2階もきっとひどいことになっているのだろう。
「容赦なく粗大ゴミ出していいって言われたけど……どっから手をつけたらいいんだろね?」
唯も改めて見る惨状に頭を抱える。一度このキッチンに足を踏み入れてはいるものの、あのときは暗闇の中、黒葛の身体の記憶を頼りにしていただけなのでしっかりとこの状況を把握できてはいなかった。

二人はとりあえず不要なものを処分していく作戦に出ることにした。
完全に破損しているものはともかく、捨てていいものかどうか、そのモノに対して“トキメキ”を覚えるかどうかで判断するメソッドがあるらしく、そして黒葛と同化した二人にはその“トキメキ”なるモノサシが多少なりとも有効に利用できそうだった。何となく、黒葛のモノへの愛着の具合が分かるような気がしなくもない。そして厄介なことに黒葛はモノを捨てられないタイプの人間であるということも何となく分かる。
あまりモノに執着しない──黒葛とは真逆のタイプである美月は、庭のスッキリ具合に比べて室内には意外とモノが多いな、と思う。

「ね、祐樹くんのお父さんとお母さん……どんな人だったんだろうね」
戸棚からゴミ袋を取り出しながら唯が美月に聞いてみる。自分の家ではないはずなのに、どこに何があるか直感で分かるのが不思議だ。
「どんな……んー、私たちの記憶にもきっとあるんだろうね。思い出せないけど……」
そう言って美月は天井を見上げた。この家の構造は美月にも分かっていた。初めて来るにもかかわらず、2階に黒葛と両親の寝室があることを理解していた。
「美月ちゃんちのご両親とは……全然タイプが違う感じなんだろうね」
「うち? 超うるさいからね。お隣さんから苦情が来ないのが奇跡だよほんと」
美月もその騒音に大いに寄与している自覚がないのだろうか。唯が訪ねた先日の夜は、一戸丸ごと防音室に入れられてもおかしくない騒がしさだった。

「まぁ、美月ちゃんちはかなり特殊な……。うちもどっちかっていうと祐樹くんちの感じに近いかもね……妹ともそんな話すことないし、そういうのが普通なのかも」
「あ、双葉ふたばちゃん?」
唯の妹だ。子どもの頃は仲睦まじい姉妹という感じだったが、反抗期的なものだろうか。あの姉妹の間で会話がないというのはなかなか想像がつかない。
「唯の真似ばっかしてたの覚えてるよ。唯と同じ本読むとか駄々こねてさ……あのときすごかったな……衝撃だったよ」
「お母さんが本を割って無理矢理上下巻にしたやつ?」
美月の肩がくっくと震える。
「そうそう。唯がガチギレして……後にも先にもあんな唯、見たことなかったな」
それは唯のお気に入りの本のうちの一冊だった。それだけに唯が繰り返し何度も読むものだから双葉が読めないというので、唯が留守の間に母親によって本の背を割って2分割され、丁寧に上下巻のシールをそれぞれ貼られたということがあった。
当然納得しない双葉は『そういうことじゃない』と泣き喚き、ちょうど美月を連れて自宅に戻った唯も変わり果てたお気に入りの本の姿に号泣しながら怒号を撒き散らしたのだった。

「まあまあ、子どもの頃ですから……。妹は今や私より背高いし、しっかりしてるし……私の方が妹に見えるよ絶対」
確かに、美月が最後に見た双葉は小学校に上がる前だったかと思う。今は中学生だと思うがそれだけの時間があれば人は変わるのだろう。美月が見る唯も昔から変わらないようで、自分の両親からすると見違えるほどだったという。
では、この家のヌシはどうなんだろう?
知らぬ間に好き合い、それどころか存在を同じくしたその人物の幼い日の姿はどのようなものだったのか。中学2年のときにこの町に引っ越して来た彼は、どのような表情で、気持ちでこの家に足を踏み入れたのだろうか。

「……祐樹ってさ……普通に、やさしいよね」
ガムテープでガラスの欠片を集めていた唯は美月の唐突な問いかけを背中に聞く。
「やさしい……気が弱い……うーん、私が言えることじゃないけど。……元々がどんな性格か、正直わからんところはある、かな」
「……というと?」
「うー。確かにやさしくて意外に気が利くんだなぁみたいなのはあるけど、それって美月ちゃんの影響が大きいんじゃない?」
「背筋が伸びたみたいに?」
美月がそう訊ねると、唯は手を止め2階の方を仰いだ。
「私は最初、ここに無理矢理連れ込まれて……ベッドに縛りつけたりされたからねぇ……超好意的解釈だと不器用なんだろうけど」
「……それでいうとさ、唯も大概だったじゃん。あれも不器用?」
美月への積年の想いを募らせていた唯は、手に入れた人外の力をもってして美月を手籠めにした。その手段は普通ではなかったし、唯本人も終始軽い興奮と陶酔状態にあった。

「あーね、ほんと……なんだろね……ごめんないさい! 反省してます……」
あまりにバツが悪いのか、唯は割れた食器類をガムテープで過剰包装する。
「や、そうじゃなくて、祐樹もそういうさ、唯みたいになんかこう……変な感じになってたんじゃない? まぁ、祐樹がもともとヤバいやつで、唯に同化したときにヤバさが感染したのか分かんないけど……」
「それを、美月ちゃんが中和してくれたんじゃないの?」
「分かんない。今の唯は……、多分前よりは喋るようになってるけど、基本的には元の、私の知ってる唯だよ。だから、同化してもさ、基本的な……性格みたいなとこは変わらないんじゃない?」 
カチャカチャと割れ物を集める音が響く中、二人は互いに反芻をする。
元の自分とは、本当の自分とは何なんだろうか。では今の自分は?

「唯さ……私なんか性格変わったとかある?」
「一切変わってないと思う」
即答する唯。唯の正直な意見だが、以前であればもう少し逡巡してから答えていたかもしれない。
美月はゆっくり、深めに頷く。
「だから今の祐樹の感じがさ、本来の性格なのかな、って思ったわけ。気弱というかまぁやさしくて……不器用はそうかもね。ただ素直になって、元の性格が出やすくなったのかもね」
その意見に感心し納得する唯は、しかしある部分では納得がいかない様子だった。
「美月ちゃん……“作者の気持ちを述べよ”ができないのに……そういうとこ……ズルい!」
頬を膨らませる唯に美月は苦笑する。
「分かんないけどね。私も祐樹のこと全然知らなかったしなぁ……でも、ほら」
美月はリビングのサイドテーブル下に落ちていた写真立てを直す。
伏せてあったその写真立てに入っている写真は、美月には何となく何が写っているかの想像が——いや、分かっていた。
そして、それはやはり黒葛家の三人が写った写真だった。
人の良さそうな両親の前でおどけたポーズをとる、子どもの頃の黒葛の姿。前髪もなければ、猫背でもない。乳歯の欠けた歯をむき出して笑っている、どこにでもいる一人の少年だった。
それを見る美月の目に、ふと涙が光った。
「あれっ……」
なぜ自分が泣いているのか、理解できない美月に構うことなく涙は溢れ込み上げてくる。
「ははっ……あれっ……ごめっなんか……」
ごまかそうとした美月は隣の唯も同じく大粒の涙をボロボロと流しているのを見て、涙と感情の堰を決壊させた。

「ううううぅぅ……父さん……母さん……」
写真立てを握りしめたまま、床に泣き崩れる。美月は生まれてこの方、両親のことをパパ、ママとしか呼んだことはなかったが、どうしてか、そう呼んだ。
そして去来する、在りし日のその二人の面影。
車の後部座席から見た父の横顔と、その向こうに流れる電線の風景。母の背中に負われて見た青空と、その空に儚く消えていく歌声。
知らないはずの、しかし確かに記憶にある“両親”の姿だった。

美月と唯は会ったこともない”両親”の写真の前で抱き合い、声を殺して咽び泣いた。
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