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第一章
第27話/唯と美月:4
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2023年6月2日(金) 19:30 唯の部屋
※性描写注意
またもや取り残された唯は、しかし今度は前のような不安に襲われることなかった。
穏やかに眠る美月に布団をかけ、唯もその中に潜り込み、美月の腕に身体を寄り添わせながらその横顔をじっと鑑賞していた。
額の緩やかな曲線が眉間を過ぎて谷へと落ち込み、すぐに急峻な鼻筋の坂道。
頂上である鼻の頭からの崖を滑り降りると鼻下の人中を通って上唇までひとっ飛び。
豊満で瑞々しい唇の丘を越えれば、なだらかなおとがいの砂丘の向こうに世界の崖がある。
そういう風景に、見えてくる。
日本のどこだかに横たわった妊婦の形をした島があるそうだが、この世界一の絶景は、私しか知らない、私だけの風景。
いつまでもその風致に見飽きることのない唯は、眉間の谷に近い場所にある世にも美しい花が開花するのを見た。
「ただいま、唯」
目を覚ました美月は起き抜けに唯の額にキスをする。
「美月ちゃん……おかえり。どうだった?」
「うん、話してきたよ。……祐樹と」
黒葛に対する呼び方にはこれまでにない親しみが込められていた。
美月は目を閉じ、腹部をさすると胎内で黒葛が活動を始めた様子を感じ取ることができた。
「うん……ふふ……溶けてくれてる」
美月が身体を起こすと、同じく身体を寄り添わせていた唯も自動的に起き上がる。
「じゃ、あとは、私が唯に……私をあげなきゃね。……ほら」
唯を一旦身体から引き離そうとするも、腕にくっついたまま離れない。
「唯?」
「……なんかここ好き」
お気に入りの枝か幹を見つけたコアラのようだった。
美月の上質な筋肉を包む柔らかな皮下脂肪と滑らかな肌。そして何やら肩の方からいい匂いがするのか鼻をスンスンさせている。
「ちょっと、唯?」
唯の体重くらいなら今の美月の腕力であれば何ということもないが、いくらプラプラさせても恐ろしい力でしがみついてきて離れる気配がない。
自分が寝ている間にくっついてみて味をしめたのだろうか。
苦笑しながらもため息をついた美月はコアラがくっついた腕を胸の前に出し、その耳に息を吹きかける。
「あふん」と言って力が抜けた瞬間に唯を引き離し、後ろ手に拘束する美月はコアラではない、何かそういう害獣を駆除している気分になった。
先刻、抵抗する美月を唯が拘束していたのと同じ構図になる。
異なるのは、身体の大きな美月が後ろにまわることで、唯を包み抱擁するような拘束になっていることだった。
「さっき、私すごいドキドキしてたんだよ、これ……」
「はぁっ……」
耳元での情のこもった熱くねっとりとした声に全身をわななかせる唯。
背中に押し当てられているゴム毬の感触の中に、ボールの空気注入口を思わせる突起の感触を覚えた。
「唯……私のこと……ほんとに好きだったんだね」
甘く優しい言葉とともに美月はその舌を耳の中へと侵襲させる。
黒葛からも受けなかった耳の中への愛撫に、唯の中で新たな快感が芽吹く。
「いつも、私で“オナニー”してくれてたんだ」
美月が生まれて初めて口にする言葉だった。
ついさっきまで知らなかったその言葉が何を指すのか、何のために、どのようにするのかも全てが理解できる。
「みっ……みつきちゃ……あっ」
唯の腰がピクと跳ね、宙に向かって精を放った。
性に初心だった美月の口から繰り出される淫語、熱い吐息、耳腔を掘るぬめる舌。そして愛しい人による拘束という抱擁に感極まっての絶頂だった。
ずっとつかまえたかった人が、今は自分をつかまえ離さない。こんな幸せがあるだろうか。
ビクビクと数回にわたる射出のあと、まだ敏感な肉棒の先端を美月の指が撫でた。
その体液という体液をまといぬらぬらと光る指先は、口を開けて物欲しそうな唯の顔の横を通り過ぎ、美月の唇へと吸い込まれた。
「おいし……唯の精子……」
ゾクリとするほどに淫靡な美しさだった。
クチュクチュと口内で味わった挙句にそれを嚥下し、うっとりと目を細めた美月はふいに頭をもたげて何かに別のものへと意識を向けた。
「美月ちゃん……?」
「ん? ううん、大丈夫」
唯に返事をしたあと、美月はまた視線を遠くに向けて穏やかに微笑んだ。
「うん、心配しないで。約束した通り、安心して続けて。祐樹」
美月が虚空に向かって話しかけていた相手は、体内にいる黒葛だった。
美月のあまりの淫蕩な仕草に心配になった黒葛が話しかけてきたのだった。
「今は……唯とね、ゆっくり話したいんだ。ちょっとだけ、待っててね」
普段どおりの口調に黒葛も安心したのだろう、美月は自身の中にまたさらさらと砂が降り積り始める音を聞いた。
唯は一連の様子から二人が首尾よく邂逅したのだと悟る。
「ちゃんと、祐樹くんとお話ししてくれたんだね。さっき」
「祐樹、ずっと唯のこと想ってたよ。あとでちゃんと、謝りな?」
自分の暴走を止めようとしてくれた黒葛を逆に眠らせたこと、あの一部始終が美月にも共有されていることを知り居た堪れなくなる唯だが、耳を甘噛みされたことでその意識が飛びかける。
「大丈夫……私も祐樹も、唯の味方……恋人だから」
「こっ……こい……」
「私は唯のものだよ……身も心も、ぜんぶ」
「ぁっ……」
耳元で、今唯が欲する言葉を想像よりもずっと甘く優しく、そして淫らに囁かれる。
脳が焦げるほどの劣情は唯の肉棒の怒張をさらに太らせるが、美月には解くべき唯の呪いがあった。
「これ、一回しまえる?」
美月はいきり盛る肉棒を指した。
「う、うん」
唯が目を閉じる意識を集中させるとその屹立物がシュルシュルと縮まり、もとの蕾に戻った。
「ありがとうね……私を変えてくれて……」
その様子を慈愛の目で見届けた美月は、背後から両腕で唯の上体を包み込んだ。
「唯は、私にいっぱい甘えたかったんだね」
「は、はずか……しいよ……」
「こうして欲しかったんだよね。ぎゅーって」
長い足も使い、唯の全身を拘束する。
哀れな小さな羽虫が女郎蜘蛛に捕縛され、今まさに噛みつかれんとするように。
しかし唯は恐怖ではなく、興奮に支配されていた。
なぜなら、この格好は──
「こういうの想像して……何やってたのかな?」
耳元の囁きに唯はその肩をピクと震わせる。
ばれている。全部。
「う……ん……ご、ごめ……」
「私に見せて」
「えっ」
「私にも教えて? ……オナニーのやり方……」
「し……知ってる、くせに……ずるいよ……」
その声だけで絶頂してしまいそうだった。色を知った美月の、妖艶な声。
美月にはどう声帯を震わせれば唯を惑わせ、劣情を引き出せるかが分かってしまっていた。
「手伝ってあげるって言ってるの。ほら……ここ?」
「ひゃ」
背後から伸ばした手で唯の両胸を掴む。
「おっぱいって……気持ちいいんだ」
乳首を指の腹で押さえたり、つまんだり、乳房を揉みしだいたり。
ポイントも、力加減も、分かる。指が知っているのだ。
「あっ……そこ……そうやって、美月ちゃんに触られながらぁ……っ」
夜な夜な妄想している通りだった。
美月に後ろから抱かれ胸を触られる妄想を譜面としながら唯は自身の胸を愛撫し、火照る身体を慰めていた。
「こんなにエロい胸にしたのはなんで?」
「みっ美月ちゃんになりたかったって……い、言った、じゃん」
「整えたげよっか」
「と、整え……?」
「唯、キスしよ」
言われるまま甘い吐息のする方へ首を回し、受け口を作る。
「私をいっぱいあげるから……全部飲んで」
蜜を滴らせながら美月の唇が唯の口へ被さった。
唯と同じく人でなくなった美月は、自分というものを体液に溶かし込み、それを他者に移すことができるようになっていた。誰かと溶け合うため。そして、自分と同じモノにつくり変えるため。
経口で侵入したそれに唯は熱を感じた。
激しく運動し、積極的に明確な意志を持っているようにも思えたその熱は喉から胸へと移動し、乳腺を伝って乳房全体へと広がっていった。
そして美月が唯の胸を揉むごとにその造形が変化していく。
「あ……むね……」
「私の……ちょっと前の胸とおんなじ形にした」
張りのある乳房を構成する、優美な曲面が収束する先にはつんと上向いた乳首がその存在を主張している。
「これが……美月ちゃんの……おっぱい」
恐る恐るではあるが、膨らんだ双丘を掴んでみる。
柔らかさと弾力のある膨らみに少し指を埋めただけで感じる、瑞々しい生命の脈動。
確かに、美月の胸に触れたときに感じたそれだった。
「ありがとう……美月ちゃん、うれしい……っ」
美月と同じになっていくのがたまらなく嬉しく、そして誇らしい。
さらに感触を確かめたく胸を刺激しようとした右手に美月の手が添えられる。
「左手は……? おっぱいを触って、左手はどうしてたの?」
「……ここ」
おずおずと陰部のどことはなしに手を伸ばすと、美月の指がその手の下に滑り込む。
「そうだね。唯はクリトリスでオナニーするのが好きだもんね」
そして、突き出た赤い蕾を指の腹で優しく愛撫する。
「やああぁ……」
滔々と耳元で紡がれる淫語は唯を昂らせ、またその身体を痺れさせ自由を奪っていく。
いつの間にか右胸も美月の手の中に奪われており、唯はなす術がなく五体の全てを美月に預ける格好になった。
そしてそれは唯が自慰するときに思い浮かべるそのままの構図だった。
唯のことを大好きになった美月が、後ろから羽交い締めのような格好で唯の胸と、陰部を愛撫する。そして愛の言葉を囁き続ける。
唯は永遠に叶わぬその情景を思い浮かべては自身の手で指で己を慰めていたのだった。
美月はそのイメージを自分の中に溶け込んだ唯から読み取り、実践をしている。
「ふーん。私のエッチなとこ想像してたんだ……。唯の中の私……エロいね」
「ごめんなさいごめんなさい」
唯の目からこぼれる涙は様々な感情を由としつつもやはり喜色の成分が多分を占める。
「唯がエロいこといっぱい教えてくれて……私もスケベになっちゃったね。唯のことが大好きな……エロい女」
耳元で熱い吐息とともに囁かれるその背徳的な淫語で一気に唯の身体が絶頂に近づく。
快活な太陽の申し子は、夜行性の淫らな生き物へとその姿を変えてしまった。
その生物はどこまでも唯を求め、唯につがいとしての営みを要求する。
「もっとエッチになろ? 唯も私も……。いっぱいエロいことしようよ」
親指の腹でクリトリスを愛撫しながら、中指と薬指では膣入口付近を探る。不器用な唯では思い至らなかった方法を美月は自然に開発した。
子どもの頃、新しい遊びをいくつも発明したように、唯とまた淫らな遊びに興じ、愉しむ。
「はあっだめっ……いっちゃうそれっ」
動作の度に目に見えて練度が上がっていく美月の愛撫。
ほどなく唯は絶頂に至り、縛られた身体を可動の限りに震わせた。
「これからは……ひとりでしなくても大丈夫だよ」
汗が吹き出た首筋を美月の舌が伝う。
「私を使って? 私はもう唯のものだから……」
「やぁぁ……」
舌は上下に往復しながら首から肩へ、そして背中へと伝っていく。
舌の軌跡の跡にはローションを塗られたのかと思うほどに豊かな唾液がぬらと光る。
唯の肌が甘く痺れるのは絶頂の余韻か、それとも美月の唾液によるものだろうか。
「ああおいし……唯好き……私の唯……」
「きもち……いいっ……それっ」
押し寄せる新しい快楽に脳が焼かれ、都度修復されてはその快楽の味を堪能できるよう脳が変質していくようだった。
しかしこの美月の行為がもたらすのは、ただ快楽だけではない。
肌表面の唾液の光沢がすっと引き、急速な蒸発にもかかわらず気過熱による体温の消失はなく、むしろ熱感の軟膏を塗られたようですらある。
「変えるね……唯も。私にしちゃうね」
塗りたくられた唾液は蒸発したわけではなく、唯の皮膚から体内に吸収されていたのだった。
美月の舌に全身を犯された唯は、結果全身にあまねく感じる美月の存在に身震いをする。
自分の形を規定する皮膚。それが変化をしていく感覚に唯は自分の存在を見失いそうになる。
無数の愛しさが自分の外殻をつつき、自らの存在を変質させようとしている。
外殻を溶解させ、中に侵入したそれは唯を感応させ、変化を促す。
唯は細胞を分裂させながら、新たな唯に生まれ変わっていく。
美月の舌が再び唯の首筋へと戻る頃には唯の意識は溶解し、ただ朦朧としていた。
その唯の耳に狙いを定め、美月は熱く粘ついた吐息とともに愛の言葉を囁く。
「唯は私の恋人」
唾液とともに耳腔に流し込まれるそれは、解呪でありまた新たな呪いの言葉だった。
唾液が鼓膜を浸透しその奥にある脳に吸われるや、次の言葉が紡がれる。
「すき」
言葉と唾液が脳に吸われる。
「すき」
脳に吸われる。
「私の唯」
吸われる。
「ありがと。こんなにエロい私にしてくれて……」
その間、唯は白目を剥き、細かい絶頂を繰り返しながら脳の血管か神経が切れるような音を聞いていたので、意識して美月の言葉を認識できていなかった。
しかし、その言葉と融解した美月の一部は確実に唯の脳を犯し、すなわち洗脳をした。
シーツの上に倒れ込んだ唯は白目を剥いたままうわ言のように美月の名を呟いている。
「あらら。やりすぎたかな」
徐々に脳が再構築されるにつれ、唯は意識を取り戻しその目に放蕩の色を浮かべた。
「はぁ……美月ちゃん……すきぃ……」
脳を書き換えられ、アップデートされた唯は潤んだ目に桃色の星をいくつも湛えながら、膝に擦り寄ってくる。
唯の中で底なしに根を張り成長する美月への思いとともに、その根が意識の底に沈殿し凝固しつつあった罪悪感や後悔の念を押し割り、溶かしていった。
自分が変えた美月が、今度は自分をつくり変えている。
美月の中で育まれた唯への思慕の情もまた唯から美月に向かう情に合流し、唯の“好き”がより立体的に、豊かな感情に変わっていった。
※性描写注意
またもや取り残された唯は、しかし今度は前のような不安に襲われることなかった。
穏やかに眠る美月に布団をかけ、唯もその中に潜り込み、美月の腕に身体を寄り添わせながらその横顔をじっと鑑賞していた。
額の緩やかな曲線が眉間を過ぎて谷へと落ち込み、すぐに急峻な鼻筋の坂道。
頂上である鼻の頭からの崖を滑り降りると鼻下の人中を通って上唇までひとっ飛び。
豊満で瑞々しい唇の丘を越えれば、なだらかなおとがいの砂丘の向こうに世界の崖がある。
そういう風景に、見えてくる。
日本のどこだかに横たわった妊婦の形をした島があるそうだが、この世界一の絶景は、私しか知らない、私だけの風景。
いつまでもその風致に見飽きることのない唯は、眉間の谷に近い場所にある世にも美しい花が開花するのを見た。
「ただいま、唯」
目を覚ました美月は起き抜けに唯の額にキスをする。
「美月ちゃん……おかえり。どうだった?」
「うん、話してきたよ。……祐樹と」
黒葛に対する呼び方にはこれまでにない親しみが込められていた。
美月は目を閉じ、腹部をさすると胎内で黒葛が活動を始めた様子を感じ取ることができた。
「うん……ふふ……溶けてくれてる」
美月が身体を起こすと、同じく身体を寄り添わせていた唯も自動的に起き上がる。
「じゃ、あとは、私が唯に……私をあげなきゃね。……ほら」
唯を一旦身体から引き離そうとするも、腕にくっついたまま離れない。
「唯?」
「……なんかここ好き」
お気に入りの枝か幹を見つけたコアラのようだった。
美月の上質な筋肉を包む柔らかな皮下脂肪と滑らかな肌。そして何やら肩の方からいい匂いがするのか鼻をスンスンさせている。
「ちょっと、唯?」
唯の体重くらいなら今の美月の腕力であれば何ということもないが、いくらプラプラさせても恐ろしい力でしがみついてきて離れる気配がない。
自分が寝ている間にくっついてみて味をしめたのだろうか。
苦笑しながらもため息をついた美月はコアラがくっついた腕を胸の前に出し、その耳に息を吹きかける。
「あふん」と言って力が抜けた瞬間に唯を引き離し、後ろ手に拘束する美月はコアラではない、何かそういう害獣を駆除している気分になった。
先刻、抵抗する美月を唯が拘束していたのと同じ構図になる。
異なるのは、身体の大きな美月が後ろにまわることで、唯を包み抱擁するような拘束になっていることだった。
「さっき、私すごいドキドキしてたんだよ、これ……」
「はぁっ……」
耳元での情のこもった熱くねっとりとした声に全身をわななかせる唯。
背中に押し当てられているゴム毬の感触の中に、ボールの空気注入口を思わせる突起の感触を覚えた。
「唯……私のこと……ほんとに好きだったんだね」
甘く優しい言葉とともに美月はその舌を耳の中へと侵襲させる。
黒葛からも受けなかった耳の中への愛撫に、唯の中で新たな快感が芽吹く。
「いつも、私で“オナニー”してくれてたんだ」
美月が生まれて初めて口にする言葉だった。
ついさっきまで知らなかったその言葉が何を指すのか、何のために、どのようにするのかも全てが理解できる。
「みっ……みつきちゃ……あっ」
唯の腰がピクと跳ね、宙に向かって精を放った。
性に初心だった美月の口から繰り出される淫語、熱い吐息、耳腔を掘るぬめる舌。そして愛しい人による拘束という抱擁に感極まっての絶頂だった。
ずっとつかまえたかった人が、今は自分をつかまえ離さない。こんな幸せがあるだろうか。
ビクビクと数回にわたる射出のあと、まだ敏感な肉棒の先端を美月の指が撫でた。
その体液という体液をまといぬらぬらと光る指先は、口を開けて物欲しそうな唯の顔の横を通り過ぎ、美月の唇へと吸い込まれた。
「おいし……唯の精子……」
ゾクリとするほどに淫靡な美しさだった。
クチュクチュと口内で味わった挙句にそれを嚥下し、うっとりと目を細めた美月はふいに頭をもたげて何かに別のものへと意識を向けた。
「美月ちゃん……?」
「ん? ううん、大丈夫」
唯に返事をしたあと、美月はまた視線を遠くに向けて穏やかに微笑んだ。
「うん、心配しないで。約束した通り、安心して続けて。祐樹」
美月が虚空に向かって話しかけていた相手は、体内にいる黒葛だった。
美月のあまりの淫蕩な仕草に心配になった黒葛が話しかけてきたのだった。
「今は……唯とね、ゆっくり話したいんだ。ちょっとだけ、待っててね」
普段どおりの口調に黒葛も安心したのだろう、美月は自身の中にまたさらさらと砂が降り積り始める音を聞いた。
唯は一連の様子から二人が首尾よく邂逅したのだと悟る。
「ちゃんと、祐樹くんとお話ししてくれたんだね。さっき」
「祐樹、ずっと唯のこと想ってたよ。あとでちゃんと、謝りな?」
自分の暴走を止めようとしてくれた黒葛を逆に眠らせたこと、あの一部始終が美月にも共有されていることを知り居た堪れなくなる唯だが、耳を甘噛みされたことでその意識が飛びかける。
「大丈夫……私も祐樹も、唯の味方……恋人だから」
「こっ……こい……」
「私は唯のものだよ……身も心も、ぜんぶ」
「ぁっ……」
耳元で、今唯が欲する言葉を想像よりもずっと甘く優しく、そして淫らに囁かれる。
脳が焦げるほどの劣情は唯の肉棒の怒張をさらに太らせるが、美月には解くべき唯の呪いがあった。
「これ、一回しまえる?」
美月はいきり盛る肉棒を指した。
「う、うん」
唯が目を閉じる意識を集中させるとその屹立物がシュルシュルと縮まり、もとの蕾に戻った。
「ありがとうね……私を変えてくれて……」
その様子を慈愛の目で見届けた美月は、背後から両腕で唯の上体を包み込んだ。
「唯は、私にいっぱい甘えたかったんだね」
「は、はずか……しいよ……」
「こうして欲しかったんだよね。ぎゅーって」
長い足も使い、唯の全身を拘束する。
哀れな小さな羽虫が女郎蜘蛛に捕縛され、今まさに噛みつかれんとするように。
しかし唯は恐怖ではなく、興奮に支配されていた。
なぜなら、この格好は──
「こういうの想像して……何やってたのかな?」
耳元の囁きに唯はその肩をピクと震わせる。
ばれている。全部。
「う……ん……ご、ごめ……」
「私に見せて」
「えっ」
「私にも教えて? ……オナニーのやり方……」
「し……知ってる、くせに……ずるいよ……」
その声だけで絶頂してしまいそうだった。色を知った美月の、妖艶な声。
美月にはどう声帯を震わせれば唯を惑わせ、劣情を引き出せるかが分かってしまっていた。
「手伝ってあげるって言ってるの。ほら……ここ?」
「ひゃ」
背後から伸ばした手で唯の両胸を掴む。
「おっぱいって……気持ちいいんだ」
乳首を指の腹で押さえたり、つまんだり、乳房を揉みしだいたり。
ポイントも、力加減も、分かる。指が知っているのだ。
「あっ……そこ……そうやって、美月ちゃんに触られながらぁ……っ」
夜な夜な妄想している通りだった。
美月に後ろから抱かれ胸を触られる妄想を譜面としながら唯は自身の胸を愛撫し、火照る身体を慰めていた。
「こんなにエロい胸にしたのはなんで?」
「みっ美月ちゃんになりたかったって……い、言った、じゃん」
「整えたげよっか」
「と、整え……?」
「唯、キスしよ」
言われるまま甘い吐息のする方へ首を回し、受け口を作る。
「私をいっぱいあげるから……全部飲んで」
蜜を滴らせながら美月の唇が唯の口へ被さった。
唯と同じく人でなくなった美月は、自分というものを体液に溶かし込み、それを他者に移すことができるようになっていた。誰かと溶け合うため。そして、自分と同じモノにつくり変えるため。
経口で侵入したそれに唯は熱を感じた。
激しく運動し、積極的に明確な意志を持っているようにも思えたその熱は喉から胸へと移動し、乳腺を伝って乳房全体へと広がっていった。
そして美月が唯の胸を揉むごとにその造形が変化していく。
「あ……むね……」
「私の……ちょっと前の胸とおんなじ形にした」
張りのある乳房を構成する、優美な曲面が収束する先にはつんと上向いた乳首がその存在を主張している。
「これが……美月ちゃんの……おっぱい」
恐る恐るではあるが、膨らんだ双丘を掴んでみる。
柔らかさと弾力のある膨らみに少し指を埋めただけで感じる、瑞々しい生命の脈動。
確かに、美月の胸に触れたときに感じたそれだった。
「ありがとう……美月ちゃん、うれしい……っ」
美月と同じになっていくのがたまらなく嬉しく、そして誇らしい。
さらに感触を確かめたく胸を刺激しようとした右手に美月の手が添えられる。
「左手は……? おっぱいを触って、左手はどうしてたの?」
「……ここ」
おずおずと陰部のどことはなしに手を伸ばすと、美月の指がその手の下に滑り込む。
「そうだね。唯はクリトリスでオナニーするのが好きだもんね」
そして、突き出た赤い蕾を指の腹で優しく愛撫する。
「やああぁ……」
滔々と耳元で紡がれる淫語は唯を昂らせ、またその身体を痺れさせ自由を奪っていく。
いつの間にか右胸も美月の手の中に奪われており、唯はなす術がなく五体の全てを美月に預ける格好になった。
そしてそれは唯が自慰するときに思い浮かべるそのままの構図だった。
唯のことを大好きになった美月が、後ろから羽交い締めのような格好で唯の胸と、陰部を愛撫する。そして愛の言葉を囁き続ける。
唯は永遠に叶わぬその情景を思い浮かべては自身の手で指で己を慰めていたのだった。
美月はそのイメージを自分の中に溶け込んだ唯から読み取り、実践をしている。
「ふーん。私のエッチなとこ想像してたんだ……。唯の中の私……エロいね」
「ごめんなさいごめんなさい」
唯の目からこぼれる涙は様々な感情を由としつつもやはり喜色の成分が多分を占める。
「唯がエロいこといっぱい教えてくれて……私もスケベになっちゃったね。唯のことが大好きな……エロい女」
耳元で熱い吐息とともに囁かれるその背徳的な淫語で一気に唯の身体が絶頂に近づく。
快活な太陽の申し子は、夜行性の淫らな生き物へとその姿を変えてしまった。
その生物はどこまでも唯を求め、唯につがいとしての営みを要求する。
「もっとエッチになろ? 唯も私も……。いっぱいエロいことしようよ」
親指の腹でクリトリスを愛撫しながら、中指と薬指では膣入口付近を探る。不器用な唯では思い至らなかった方法を美月は自然に開発した。
子どもの頃、新しい遊びをいくつも発明したように、唯とまた淫らな遊びに興じ、愉しむ。
「はあっだめっ……いっちゃうそれっ」
動作の度に目に見えて練度が上がっていく美月の愛撫。
ほどなく唯は絶頂に至り、縛られた身体を可動の限りに震わせた。
「これからは……ひとりでしなくても大丈夫だよ」
汗が吹き出た首筋を美月の舌が伝う。
「私を使って? 私はもう唯のものだから……」
「やぁぁ……」
舌は上下に往復しながら首から肩へ、そして背中へと伝っていく。
舌の軌跡の跡にはローションを塗られたのかと思うほどに豊かな唾液がぬらと光る。
唯の肌が甘く痺れるのは絶頂の余韻か、それとも美月の唾液によるものだろうか。
「ああおいし……唯好き……私の唯……」
「きもち……いいっ……それっ」
押し寄せる新しい快楽に脳が焼かれ、都度修復されてはその快楽の味を堪能できるよう脳が変質していくようだった。
しかしこの美月の行為がもたらすのは、ただ快楽だけではない。
肌表面の唾液の光沢がすっと引き、急速な蒸発にもかかわらず気過熱による体温の消失はなく、むしろ熱感の軟膏を塗られたようですらある。
「変えるね……唯も。私にしちゃうね」
塗りたくられた唾液は蒸発したわけではなく、唯の皮膚から体内に吸収されていたのだった。
美月の舌に全身を犯された唯は、結果全身にあまねく感じる美月の存在に身震いをする。
自分の形を規定する皮膚。それが変化をしていく感覚に唯は自分の存在を見失いそうになる。
無数の愛しさが自分の外殻をつつき、自らの存在を変質させようとしている。
外殻を溶解させ、中に侵入したそれは唯を感応させ、変化を促す。
唯は細胞を分裂させながら、新たな唯に生まれ変わっていく。
美月の舌が再び唯の首筋へと戻る頃には唯の意識は溶解し、ただ朦朧としていた。
その唯の耳に狙いを定め、美月は熱く粘ついた吐息とともに愛の言葉を囁く。
「唯は私の恋人」
唾液とともに耳腔に流し込まれるそれは、解呪でありまた新たな呪いの言葉だった。
唾液が鼓膜を浸透しその奥にある脳に吸われるや、次の言葉が紡がれる。
「すき」
言葉と唾液が脳に吸われる。
「すき」
脳に吸われる。
「私の唯」
吸われる。
「ありがと。こんなにエロい私にしてくれて……」
その間、唯は白目を剥き、細かい絶頂を繰り返しながら脳の血管か神経が切れるような音を聞いていたので、意識して美月の言葉を認識できていなかった。
しかし、その言葉と融解した美月の一部は確実に唯の脳を犯し、すなわち洗脳をした。
シーツの上に倒れ込んだ唯は白目を剥いたままうわ言のように美月の名を呟いている。
「あらら。やりすぎたかな」
徐々に脳が再構築されるにつれ、唯は意識を取り戻しその目に放蕩の色を浮かべた。
「はぁ……美月ちゃん……すきぃ……」
脳を書き換えられ、アップデートされた唯は潤んだ目に桃色の星をいくつも湛えながら、膝に擦り寄ってくる。
唯の中で底なしに根を張り成長する美月への思いとともに、その根が意識の底に沈殿し凝固しつつあった罪悪感や後悔の念を押し割り、溶かしていった。
自分が変えた美月が、今度は自分をつくり変えている。
美月の中で育まれた唯への思慕の情もまた唯から美月に向かう情に合流し、唯の“好き”がより立体的に、豊かな感情に変わっていった。
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クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
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