100日後に〇〇する〇〇

Angelique Fries

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4 映画撮影

22日目 入国

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19時5分


 入国審査を受けたのは、ぼくと浄、ヨハンナさん、そして、アーヴィンさんの4人だけだった。
 シェルナーさんとステファノさんは、少し離れたところからこちらを見ている。
「こんばんは」入国審査官は2人。1人は人間、1人は万能の魔法使いだった。どちらも、軍服に身を包み、大きな銃を持っている。人間の男性は、運転席のアーヴィンさん、助手席のヨハンナさん、後部座席のぼくと浄を見た。万能の魔法使いは、少し離れたところからこちらを見ている。「パスポートを見せてください」
 ぼくと浄は顔を見合わせた。
 ヨハンナさんは、アーヴィンさんを見た。
 アーヴィンさんは、入国審査官の男性を見た。「パスポート? どうして」
「ここから先はカラディシアです」入国審査官の男性は言った。
 アーヴィンさんは、窓枠に肘を載せて、ゲートの先を見て、入国審査官の男性を見上げた。「カラディシア?」
 ヨハンナさんは、地図を取り出した。「ウクライナに行きたいんだけど」
 入国審査官の男性は、ヨハンナさんを見た。「それでしたら、まだかなり先ですね」
 ヨハンナさんは後部座席のぼくたちを振り返った。「ごめんね。もう少し先だって」
 入国審査官の男性は、眉をひそめた。「みなさんは、ご家族で?」
 アーヴィンさんは、入国審査官の男性に微笑んだ。「うちにホームステイをしている子達だ。2人は日本人だ。私と妻はドイツに住んでいる」アーヴィンさんは、ゲートの先に見える街を見た。「良さそうな街だな。カラディシアか。初めて聞いたよ」
「去年独立を果たしたばかりです。新しい国ですよ」
「そうか。すまない、タロー、ハナコ、パスポートをくれ。今夜はここに泊まろう」
「ねえ、ムッシュー・バラデュール。おなかすいた」ぼくは、パスポートを差し出しながら、アーヴィンさんに、小さな声のつたないフランス語で言った。
「疲れたよ。なんでも良いから早く寝ようぜ」浄も、アーヴィンさんにパスポートを差し出した。
 入国審査官の男性は眉をひそめた。「ご出身はドイツで?」
「私はフランスだ。妻はドイツ」アーヴィンさんは入国審査官の男性に、4冊のパスポートを渡した。
「ありがとう」入国審査官の男性は、コピーを取ってから、パスポートをこちらに返してきた。「どうも」
「ありがとう」
「滞在日数は?」
「1日かな。2日かも。見るところはあるかい?」
「それでしたら、美術館がおすすめです」
 車内が、後ろから照らされた。
 後続の車両。
 ここに来るまでの長い間、前を走る車は1台も見かけなかった。
 入国直前から監視がついたと、シェルナーさんが言っていた。
 たぶん、これのことだ。
「まだやってるかな」
「あいにく。翌朝の9時に開館です」
「美味しいお店はあるかい?」
「申し訳ありません。ホテルで聞いてください。後続が控えておりますので」
 アーヴィンさんは、背後を振り返った。「あぁ、すまない。良い一日を」
 入国審査官の男性は微笑んだ。「そちらも。ようこそカラディシアへ」
「ありがとう」アーヴィンさんは車を出した。
 




 カラディシアの中は、以前訪れた東欧の首都のような感じだった。
 広々とした道路、均一な高さの、巨大な建物。
 人々の住居は主にアパートだろう。
 一軒家は見当たらない。
 建物の1階には店が収まっている。
 建物の2階より上にはアパートが収まっているようだ。
 道路は3車線ずつの合計6車線。
「あの店良さそうだな」浄が言った。
 アーヴィンさんは小さく笑った。「まずは、安いホテルを探そう」
 ぼくたちは、入国の直前から、演技を始めていた。この演技は、作戦を始める直前まで続ける予定だ。
 入国審査の際に、車やパスポートに盗聴器や発振器を仕込まれるかもしれないからだ。
 ぼくは、日本からやってきた田中ハナコ。
 浄は、兄の田中タロー。
 役に入り込むこと、つまりは、別人になるということだ。
 万能の魔法使いはこちらの心を読もうとしているようだったが、彼が読んだのは、ぼくの心ではなく、田中ハナコの心。
 長旅で疲れており、座りっぱなしでくたびれていたハナコの頭の中には、おなかすいたなー、疲れたなー、早くシャワー浴びて寝たいなー、ということしかなかったので、不審を抱かせるようなこともなかったはずだ。
 ぼくたちは、ネットでホテルを探し、まず初めに高級ホテルに入った。
 料金は、日本円で1万円ほどだった。
「ちょっと高いな」アーヴィンさんは、そう言った。
 ぼくたちは、車に戻った。
 それからいくつかのホテルを周り、最後にたどり着いたのは、目的のホテル。
 それは、中心部から離れたところにあった。
 ユライさんが泊まっているホテルだ。
 まず初めにアーヴィンさんがホテルに入り、チェックインを済ませる。
 ぼくたちは、車で待機。
 アーヴィンさんが戻ってきたところで、ぼくたちは、荷物を持って、ホテルに入った。
 受付にいるおばあさんは、ぼくたちに優しい笑顔を向けてくれた。
 アーヴィンさんの取ってくれた部屋は、最上階4階の、スイートルーム。
 ぼくたちは、シャワーを浴びて、ユライさんの待つレストランへ向かった。



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