100日後に〇〇する〇〇

Angelique Fries

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4 映画撮影

17日目 1週間ぶりの平穏

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1時35分


 ジェニオさんから連絡が入ったのは、ベネチアを出て1時間が経った頃のことだった。
 組織のメンバーを全員逮捕したらしい。
 ジェニオさんが彼らの頭を探ったところ、今回のことは、他の組織には漏れておらず、外部組織の件は気にしなくて良いとのこと。
 というわけで、ぼくたちは、ミラノを通過して、12時間の列車旅を終え、パリに戻ってきた。
 日付はすでに変わっている。
 ぼくとアナちゃん、7人の子どもたちは、アパルトマンの屋上に戻ってきた。
「ペット飼ってるの?」オドレイちゃんは、屋上の隅の犬小屋を指さした。
 アナちゃんは、オドレイちゃんをぎゅっと抱きしめて、その頭にキスをした。「ニワトリだよ。明日連れてくるね」カミーユとコキーユは、アナちゃんのご実家が預かってくれていた。
「屋上が好きなんだな」ゲイリーくんは、中央にある焚き火の跡を見て、空を見上げた。
「なんか開放感あるし、路上よりは安全だしね」ぼくは、手の平から魔力を放出して、それらをリクライニングチェアの形に練り上げた。新たに生まれた7つのリクライニングチェア。今夜はこれで寝てもらうことにしよう。「バスルームとクローゼットはあっち。明日には、下の階の部屋に入れるから、今夜はここで我慢して」
「学園には、いつ行けるの?」イネスちゃんは、リクライニングチェアに腰掛けて言った。
「入学に必要な書類を記入して、面談も受ける必要があるから、来週かな」指を弾いて人差し指の先に火を灯し、指を振って、中央に積まれた薪に放り込む。ぼくは、脇に抱えていたパンフレットを、イネスちゃんに手渡した。「見学も出来るから、気になるところがあったら言って」
 イネスちゃんは、パンフレットを開き、隣にいるジャンナちゃん、ジャスミンちゃんと一緒に見始めた。
「フランスじゃないとだめなの?」イリーナちゃんが言った。「北欧とか行ってみたい」
「今のところはフランスにしかツテがなくてね。学園は世界中に校舎があって、教育カリキュラムも一緒だから、まずはフランスで始めて欲しい。希望を出せば、北欧でもアメリカでも好きなところに行けるよ」ぼくは、大きめのヤカンを作り出し、人差し指の先に作り出したハンドボールサイズの水の球を中に放り込んで、焚き火に当てた。
「俺、勉強嫌いなんだよな」ゲイリーくんが言った。
「ぼくも」エドワードくんが言った。
「ラグビーとかで超有名選手になれば勉強しなくて良くなるかも」
「ぼくは本とか書いて奨学金狙おうかな」
「普通に勉強したほうが楽だよ」イネスちゃんが言った。
「お前はそうだろうさ。俺達は、なあ?」
「そうだ。勉強したくないから別の方法を探してるのさ」
 ゲイリーくんは右手の拳をエドワードくんに突き出し、エドワードくんはその拳に自分の右の拳を当てた。
 ぼくは、9つのカップに、カモミールティーを注いで、子どもたちとアナちゃんに渡した。「とりあえず、今日はもう寝よう。アナちゃんは、家に帰らなくて良いの?」
「明日帰るよ。連絡はしたし」
「そ」ぼくは、9枚の毛布を作り出し、子どもたちに渡した。カモミールティーを啜り、リクライニングチェアでくつろいでいるうちに、気がつけば、眠ってしまっていた。


4時


 いつも通りの時間に目を覚ましたぼくは、謎の重みと温もりを感じて、眉をひそめた。
 半ば、ぼくの身体に乗っかるような姿勢で、隣で眠っていたのは、イリーナちゃんだった。
 ぼくは指を振り、小さくなった焚き火に、薪を3つ放り込んだ。
 アナちゃんはオドレイちゃんと添い寝をしていたし、ジャスミンちゃんとジャンナちゃんも同じリクライニングチェアで眠っている。
 ゲイリーくんとエドワードくんは、それぞれ、別々の椅子で眠っていたけれど、まるでミノムシのように、毛布に包まって眠っていた。
 ぼくは、体を起こした。
 今朝は少し冷える。
 ぼくは、イリーナちゃんの身体を2枚の毛布で包んだ。
 生活習慣を改善するためのリストは、未だに続けているけれど、子どもたちを放って街に繰り出すわけにもいかないだろう。
 ぼくは、屋上の隅で、ストレッチをすることにした。
 軽い運動を終えたぼくは、シャワーを浴び、新しい服に着替えた。
 ヤカンに水を入れ、お湯を沸かす。
 コーヒーを飲みながら、ぼくは焚き火に視線を落ち着けた。
 揺らめく火を見つめ、薪の弾ける音に耳を傾ける。
 こうして、落ち着ける場所に戻ってくると、思ってしまうが、今さらながら、ぼくはなにをやっているんだろう。
 孤児の保護?
 その名目が成り立つのは、ぼくがインターンとはいえ、インターポールのバッジを持っているからで、事情を知らない人が見れば、これは誘拐だ。
 なんだか、胃が重たくなってきた。
 7人のことは、それなりに良い子だと思うけれど、早いところ学園に預けてしまおう。
 早朝の静けさの中、聴こえてきたバイクの音に、ぼくは立ち上がり、1階へと降りた。
 郵便配達のおにいさんに挨拶をして、ポストを開けると、そこには、頼んでいた学園の資料と、屋上の下の階にある一室の鍵、手紙が一通。
 手紙の差出人は、映画監督のヤコ。
 ぼくの幼馴染だ。
 学園の資料を脇に挟み、階段を上りながら手紙を見てみると、レイキャビクの夜景の写真の裏に、ヤコの手書きのメッセージが記されていた。
 明日から1週間、撮影でパリに行くから泊めて欲しいとのこと。
 ぼくは、屋上の下の階にある一室のドア、その鍵穴に鍵を差し込んで、扉を押し開けた。
 スタジオタイプのアパルトマン。
 子ども7人が一週間暮らすには、十分な広さだ。
 子どもたちにはここに移ってもらうとして、ヤコには屋上で過ごしてもらうことにしよう。
 あいつは変人なので、屋上で寝泊まりすることくらい、なんとも思わないだろう。
 ぼくは、部屋を出て、屋上に戻った。
 アナちゃんは起きていたけれど、7人の子どもたちはまだ眠っていた。
「おは」アナちゃんはコーヒーを啜りながら言った。
「おはよ」ぼくは、リクライニングチェアに腰掛けた。「資料来たよ」封筒を開けると、入学届に加えて、フランス各地にある学園のパンフレットが入っていた。
「そっか。この子達と過ごせるのも、あと1週間くらい?」
「そうだね。とりあえず、フランス中の学園の資料を見てもらう」
 アナちゃんは眉をひそめた。「リヨンにした方が良いよ。あそこの方が安全」
「それもそっか」ぼくは、リヨンのパンフレットを脇に挟み、それ以外のパンフレットは焚き火に放り込んだ。「子どもたちにはなんて言おうか。今は、リヨンの学園しか空きがないとか?」
「それで良いんじゃない?」
「今日はどうする?」
「走りに行ってきたら? 子どもたちは見とく」
「お願い出来る?」
 アナちゃんは頷いた。
 ぼくは、トレーニングウェアに着替えて、屋上から飛び降りた。
 セーヌ川のほとりまでランニングをして、河岸に腰掛けたぼくは、1週間ぶりに訪れた1人の時間の心地良さを噛み締めながら、プロテインで喉を潤した。
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