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第一章
<一> 未知の世界へ
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「あの日、あのとき、何してた?」
たとえばあの地震のとき、たとえばあの事件のとき。
同じ国に住んでいれば、あのとき何してたなって思い出せると思う。
ぼくはあの大震災のときは大阪にいて、スポーツジムのプールに泳ぎに行っていた。急にさざ波がたってプールの水がプールサイドにあふれてきた。何かただならぬことが起きたのだと思った。
ではあのときはどうだろう?
「家にこもってたとき、何してた?」
外出しづらくなり、移動制限がかかり、色んなイベントが中止になった、あのとき。マスク会食など新しい生活様式が推奨された。多くの人にとって大変な時期だっただろう。
ぼくはどうだったか?
飲食店を経営しはじめて10年、結婚して2歳のこどももいるぼくは、あのとき本当に苦しかった。誰もいない街を見て、これからどうなるかって不安だった。それ以上に、流通が回らず、自分の店だけじゃなくて、飲食店に人がいないことがショックだった。
「今まで当たり前やと思っていたものが当たり前じゃなかった」
そう気付いてぼくが始めたのは、「勉強」だった。幸い、時間は山のようにあった。急に暇になったからだ。不安を追い払うようにいっぱい本を読んで、今までのこと、これからのこと、ひたすら考えた。
結論――――この世界は問題が山積みだ。
「この社会に、この世界に、いっぱい問題があることはわかった。じゃあ、ぼくは何をすれば良いんやろう……?」
こういう時、ぼくはいつも幼なじみのカッちゃんに相談する。
今回も会えないけど電話してみた。
「最近どうしてるん?」
「仕事は全部リモートワークなんさ。家族と過ごす時間は増えたんやけど、外に出かけることがないからストレスたまるなあ。うーちゃんは飲食店やったら大変なんちゃう?」
「そうなんよ。お客さんも全然来ないし。色んなこと考えたら不安になって、今は色んな本を読んで勉強してるよ」
「うーちゃんは相変わらず勉強が好きなんやなあ」
「だって不安ちゃう?こんなことになって、これから自分も家族もちゃんと生きていけるんやろか、って思ってしまう」
カッちゃんは親身になってぼくの話を聞いてくれた。
ぼくは本で仕入れた知識をカッちゃんにぶつけてみる。
「今のつらい時期はたぶんいつか終わる。でもいっぱい本を読んでわかった。この世界には色んな問題があるってことを。」
例えば、地球温暖化という問題がある。
毎年十二月に各国の首脳が集まって気候変動を食い止めようと会議をしているけれど、うまく行くのだろうか。日本も化石賞という不名誉な賞を与えられている。
また、日本は少子高齢化が進んで、これから人口は減少していくと言われている。一方で、世界の人口はまだまだ増えてもうすぐ80億人を突破し、100億人に向かっているとのことだ。
「このままでは地球が持たないよなあ。カッちゃんはどう思う?」
「うーちゃんの気持ちはわかるわ。でもそんなこと言ったってぼくらに何ができるんやろ?」
頭の中を色んなことがグルグル回る。
ぼくらに何ができるか……?
答えが見付からないぼくに、カッちゃんは手を差し伸べてくれた。
「でもさ、人が生きていくための基本はやっぱり食べることなんやないかな。ぼくもうーちゃんと同じように小さいこどもがいるけど、何を食べさせたら良いんやろうっていつも思うんさ」
カッちゃんも奥さんも、食べものには人一倍気をつかっているらしい。
たしかに、食べるってとこから考えてみるのも良いなと思った。
「ありがとう、ちょっとわかった気がする、考えてみるよ」
「あんまり悩みすぎない方がええで」
カッちゃんはそうやってぼくを気づかってくれた。
改めて考えてみる……。
ぼくだって仕事で食べものを扱っている。誰だって毎日食べずには生きていけない。
でも食べもののこと、どこまで知っているだろうか?
こどもに安全な食べものを食べさせられているんだろうか?
「食べものについてわかってないこと多いな」
食べものについて知りたい。そして一次産業、農業のことをまず知っていきたいと思った。
考えてみたらぼくは農業のことを何も知らずに今まで生きてきた。
「安全な食べものを自分の手で作れるようになりたい……」
それが一つの突破口になるかも知れない。
そこで考えついたのが、有機農業の学校に行くことだった。
でもみんなに言ったらわかってくれるだろうか?
妻や親戚や友達に、打ち明けてみた。
「えっ。その年から農業始めるん?」
「いや、とりあえずどんなのか知りたくて」
そりゃみんなびっくりするだろう。
でもぼくは覚悟を決めた。安全な食べものを自分の手で作りたい……!
そのためにまずは有機農業の学校に一年通いたいんだ……。
結局最後は妻が折れてくれた。
「もう決めたんやろ? やったらいいやん」
なんやかんや言いながらも妻はぼくのことを応援してくれている。
「やってみよう。農業のことは何も知らへんけど、だからこそ、ワクワクする……」
――――こうやって、農業という、ぼくにとって未知の世界に足を踏み入れることになった。
でもそのときのぼくはまだ知らなかった。有機農業の学校はほんの序章だったってことを。
このあと好奇心に突き動かされて、ぼくはより深いところを求めていく……。
たとえばあの地震のとき、たとえばあの事件のとき。
同じ国に住んでいれば、あのとき何してたなって思い出せると思う。
ぼくはあの大震災のときは大阪にいて、スポーツジムのプールに泳ぎに行っていた。急にさざ波がたってプールの水がプールサイドにあふれてきた。何かただならぬことが起きたのだと思った。
ではあのときはどうだろう?
「家にこもってたとき、何してた?」
外出しづらくなり、移動制限がかかり、色んなイベントが中止になった、あのとき。マスク会食など新しい生活様式が推奨された。多くの人にとって大変な時期だっただろう。
ぼくはどうだったか?
飲食店を経営しはじめて10年、結婚して2歳のこどももいるぼくは、あのとき本当に苦しかった。誰もいない街を見て、これからどうなるかって不安だった。それ以上に、流通が回らず、自分の店だけじゃなくて、飲食店に人がいないことがショックだった。
「今まで当たり前やと思っていたものが当たり前じゃなかった」
そう気付いてぼくが始めたのは、「勉強」だった。幸い、時間は山のようにあった。急に暇になったからだ。不安を追い払うようにいっぱい本を読んで、今までのこと、これからのこと、ひたすら考えた。
結論――――この世界は問題が山積みだ。
「この社会に、この世界に、いっぱい問題があることはわかった。じゃあ、ぼくは何をすれば良いんやろう……?」
こういう時、ぼくはいつも幼なじみのカッちゃんに相談する。
今回も会えないけど電話してみた。
「最近どうしてるん?」
「仕事は全部リモートワークなんさ。家族と過ごす時間は増えたんやけど、外に出かけることがないからストレスたまるなあ。うーちゃんは飲食店やったら大変なんちゃう?」
「そうなんよ。お客さんも全然来ないし。色んなこと考えたら不安になって、今は色んな本を読んで勉強してるよ」
「うーちゃんは相変わらず勉強が好きなんやなあ」
「だって不安ちゃう?こんなことになって、これから自分も家族もちゃんと生きていけるんやろか、って思ってしまう」
カッちゃんは親身になってぼくの話を聞いてくれた。
ぼくは本で仕入れた知識をカッちゃんにぶつけてみる。
「今のつらい時期はたぶんいつか終わる。でもいっぱい本を読んでわかった。この世界には色んな問題があるってことを。」
例えば、地球温暖化という問題がある。
毎年十二月に各国の首脳が集まって気候変動を食い止めようと会議をしているけれど、うまく行くのだろうか。日本も化石賞という不名誉な賞を与えられている。
また、日本は少子高齢化が進んで、これから人口は減少していくと言われている。一方で、世界の人口はまだまだ増えてもうすぐ80億人を突破し、100億人に向かっているとのことだ。
「このままでは地球が持たないよなあ。カッちゃんはどう思う?」
「うーちゃんの気持ちはわかるわ。でもそんなこと言ったってぼくらに何ができるんやろ?」
頭の中を色んなことがグルグル回る。
ぼくらに何ができるか……?
答えが見付からないぼくに、カッちゃんは手を差し伸べてくれた。
「でもさ、人が生きていくための基本はやっぱり食べることなんやないかな。ぼくもうーちゃんと同じように小さいこどもがいるけど、何を食べさせたら良いんやろうっていつも思うんさ」
カッちゃんも奥さんも、食べものには人一倍気をつかっているらしい。
たしかに、食べるってとこから考えてみるのも良いなと思った。
「ありがとう、ちょっとわかった気がする、考えてみるよ」
「あんまり悩みすぎない方がええで」
カッちゃんはそうやってぼくを気づかってくれた。
改めて考えてみる……。
ぼくだって仕事で食べものを扱っている。誰だって毎日食べずには生きていけない。
でも食べもののこと、どこまで知っているだろうか?
こどもに安全な食べものを食べさせられているんだろうか?
「食べものについてわかってないこと多いな」
食べものについて知りたい。そして一次産業、農業のことをまず知っていきたいと思った。
考えてみたらぼくは農業のことを何も知らずに今まで生きてきた。
「安全な食べものを自分の手で作れるようになりたい……」
それが一つの突破口になるかも知れない。
そこで考えついたのが、有機農業の学校に行くことだった。
でもみんなに言ったらわかってくれるだろうか?
妻や親戚や友達に、打ち明けてみた。
「えっ。その年から農業始めるん?」
「いや、とりあえずどんなのか知りたくて」
そりゃみんなびっくりするだろう。
でもぼくは覚悟を決めた。安全な食べものを自分の手で作りたい……!
そのためにまずは有機農業の学校に一年通いたいんだ……。
結局最後は妻が折れてくれた。
「もう決めたんやろ? やったらいいやん」
なんやかんや言いながらも妻はぼくのことを応援してくれている。
「やってみよう。農業のことは何も知らへんけど、だからこそ、ワクワクする……」
――――こうやって、農業という、ぼくにとって未知の世界に足を踏み入れることになった。
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