絶対お兄ちゃん主義!

桜祭

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1章

兄妹の距離

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1度帰宅した。
買い物したものを冷蔵庫の中へとギュウギュウに詰め、昼飯を軽く作った。
昼飯を作りながら、ケータイの無い恋の為に新しいケータイを買ってやろうかと考えていた。
家族になったのだし、サプライズでお祝い感覚で買ってやろう。
ついでに朝本気で悩んだデジカメも買ってきて昼を過ごすか。

俺の脳内で昼以降の予定を組み立てた。

「よし、お昼から君はお留守番だ」
「え~」
「今日に限り夕食時『あーん』何回でも可!」
「不審者・侵入者見つけ次第警察へ連絡します」

ぴしっと小さく敬礼する恋。
自衛隊のイメージガールにでも今度応募しようと決意した。
しかし、あーんの力すげーな。
俺しか得してない気はするが……。

「へへへー、実はお兄ちゃんが不審者でした」
「えい、捕まえてやる。えいっ、えいっ」

えいっと言いながら抱き着いてくる恋たそ。
とてもよく甘えながら遊んでくる。
まるでペットと戯れている感覚だ。

「お兄ちゃん捕まえたぞ~。よーし、たくさんいけないことしてやるぞ~」
「それは笑えない」

意味を全く理解していないだけに余計質が悪い。
いけないこと=警察に通報とか思っているのだろう。
そういう最低限やってはいけないことや言ってはいけない事を姉さんも彼女に教えてやれよ。

恋と遊び終わり、恋は自室で勉強をすると言って居間から出て行った。
あいつの成績はどうなのだろうか?
遊んでばっかりいられないのが家族。
助けあい、導いてやるのも家族ってものだろう。

靴を履き、靴ひもを確認。
右の靴ひもが緩んでおり一回ほどいてから結びなおす。

「行ってくるぞー」
「寂しいんだからはやくね、お兄ちゃん」

恋と数時間とはいえ離れる事になって、実際俺も寂しい。
シスコンではないにしろ、妹相手に寂しいと思うもんなんだな。
姉には全く思わないのにな。
光の言う通り年下に甘いだけか?

それからの行動は予定通りケータイショップへ向かい、中へと入ったのだが結構人が居るようであった。
カップル連れが多いみたいである。
その辺は考えるにカップルの季節クリスマスも近いので恋人同士の通話の安くなるプランを探したりしているのだろうか?
恋人の居ない俺には縁のない話で爆発しろと心の中で呟いていた。
しかし、『この時期恋人は出来なくても妹は出来ました』なんて言っても信じてもらえないだろうけど。

順番待ちの紙を発行する。
機械から顔を出したレシートのような紙に印刷された数字は『42』。
次の数字は『34』番のお客様をご案内しますとモニターに表示されていた。
しばらく暇だな。
店員さんのオススメの機種を買うつもりでいたが少し見ていた方が良いのかな、時間があるので少し迷っていた。
迷って数分立ち往生していると俺の名前を呼ばれ、顔を呼ばれた方向に向けると見知った男が話しかけてきていた。

「なんだやっぱり達裄じゃん」
「爆発しろ!」
「え?何急に?」

おっと、カップルに向けて爆発しろと呟くどころが叫んでしまっていた。
目の前に居たのは星丸と雨の幼馴染カップルであった。

「んだよお前ら。どうせ遊ぶなら俺も誘えよ」
「なんでデート中にお前を誘うんだよ!どう考えたってお前邪魔じゃん」
「気を利かせて俺が雨と2人で消えるからさ」
「寝とる気満々じゃねーかよ」

やけに知り合いのエンカウント率が激しい1日だな。
なんか呪われているのだろうか?

「雨だって俺じゃなくて星丸で妥協したんだよな」
「もうたっくん。そういうのは星丸の前では『シッ』だよ」
「後で家空いてるから」
「星丸を撒いたら行くね」
「ちょっと待って。聞き捨てならないんだけど!お前らホントなんなんだよ!」

そんな話は置いといてどうしてこいつらはケータイショップに居るのだろうか?
こいつらも通話プランの変更だろうか?

「なんでここに居るんだ?」
「えーとだな。……ってお前のせいだよ!」
「は?」

「はて?心あたりが全くない。
腕を組んで考えてみるが昨日は壊れてなかったし、今日は初めて会ったのだから壊すもなにもないだろう。
バカだな、星丸バカだな。今まで考えない日は無かった。だがあえて言おうバカだ」

「お前の心理描写口から出てんだけど」

星丸が何故俺のせいにしたのか。
その理由を語り始めた。

「まずお前朝に電話したよな?」
「は?してねーよ。お前に用なんかあるわけねーじゃん」
「嘘付けよ!『ちょっとうちのアイドルについて事務所まで来てもらおうか』とかわけわかんねー留守電残しやがって」
「……」

そういえば流亜と話していた時星丸の話になったな。
あれ?本当に星丸に通話したんだっけ?
あの辺はノリでやった行動が多すぎた為記憶が薄い。
とりあえず話も進まないので頷いた。

「で掛けなおしたら怖い女の声で『オイ、んだよお前ぇ?存在を消されたくなかったらさっさと存在消えろよ!存在の消し方が知らなきゃうちの兄さん(あにさん)が直接向かうぞコラ!』とか脅されてさ。つーかあの女誰だよ」
「俺の目覚まし時計」

そそのかしたのは俺だが実行犯は恋だがなぁ。
いや、恋に悪意は無かったから俺が悪いのか。
ついでに恋の存在は落ち着いてから話すので今は伏せておいた。

「悪趣味な目覚ましだなぁ。で、俺がびびって落として壊れちゃったの」
「ははははは。俺関係ねーじゃねーか!」
「間接的にはお前だろうが!」

悪いのはどっちだ?
五分五分か?
そういえば今日から光と星丸と姉さんには優しくしようと決めたんだった。
ここは謝ろう。

「ごめんな星丸君。俺が悪かったよ。今度俺のおごりでクレープ食べよう。うん、苺たっぷりのやつ」
「え?何そのキャラ?」
「今日光さんと話して決めたんだ優しくなろうと。星丸君ごめんね。さあ俺と一緒にクレープデートにしよう。雨を入れて3人か。星丸君ったら両手に花だね」
「余計な事しやがって!光の馬鹿野郎!」

土下座して元に戻してと頼んでくるので普通の態度に戻した。
なんで俺が悪いみたいな空気から星丸が土下座しているのかよくわからんが。

「ところでお前流亜の事どう思ってる?」

完全に流亜が星丸に興味がある話を忘れていたが、電話の話で思い出したのでそれとなく聞いてみた。
後輩の恋は俺にとってメリットもないのになぁ。

「つーかあの子お前に溺愛してんじゃん。俺の意見いらんやん。俺は雨一択だ」
「うーん。……うれしーなー」
「なんで棒読みなの?」
「いや、私バカップルはちょっと……」

俺に溺愛?
星丸は男女間を恋愛に見る傾向があるから参考には全くしない。
しかし、好きな相手を一途に言えるのはすごい奴だと思う。
そこは認めたくないがかっこいいな。

星丸は流亜に興味なしと。
がっかりするかな。
しかし立ち直らせて次の恋を流亜には探してもらって欲しいという先輩の願望。

「俺らもう少しで学年上がるだろ?もし俺とクラス変わったらどうする?」

次は光の話の質問をしてみた。
こいつの事だから俺のクラスまで遊びに行くとか言いだすかもだが。
まず進級出来るのか?
それ以前の話だが。

「達裄とクラス変わる……?うわ、もう少しじゃん。くぅっ、達裄も雨も光も誰か1人でも欠けてたら学校に火を放ってやる」
「家に帰ったら犯罪で検索してみ?幸せになれるよ」

すごく重く考えてた!
たまにこいつは友達が俺らしか居ないんじゃないかって思う。
こいつは親以外でだが、どんな約束が友達と入っていても俺達を優先してくれる。
向こうが大事、こちらはただの人数集めだったとしても。
向こうが1週間前から約束してても、こちらは1分前に約束しても。
向こうが大人数、こちらは俺らではなく俺だけだったとしても。
俺を優先してくれる。
色々と昔はあり、犬猿の仲だったが……。
いつの間にか桃太郎の登場人物の犬と猿の様に協力しあっていたな。
1人で何人分もの親友だ。
いつまで仲良く入れるかわからない。
だったらせめて長く一緒に居たいよな。

「ところで達裄の順番待ちの数字いくつだ?今『40』だけど」
「『42』だ。結構長く話したな」
「俺、死神って42人居ると思うんだよね。『42神』ってな」
「雨、この男を退場させてくれ」
「帰るよー星丸」

雨に引っ張られて星丸と雨は外に出て行った。
前言撤回。
別に長く居たくないわ。

そんなこんなはあったがようやく順番が俺にまわってきて窓口のメガネを掛けた姉ちゃんと一対一になった。
難しい話や、料金プラン、両親への電話などの面倒な手順を大体やってもらい、機種も人気最新モデルのものを進められたままピンクの物を購入した。
でもどうしても譲れないものが1つあった。

「フィルタだけは必ずお願いします」

無いとは思うけど。
出会い系とかいかないと信じている。
でも万が一の為にこれだけは付けといた。

その後は普通にデジカメとSDカードを購入して、帰路の道を徒歩で帰るのであった。


―――――


「ただいまー」
「おかえりですお兄ちゃん」

帰宅した音を聞きつけるとすぐに目の前に現れた恋。
まるでスタンばっていたかのような素早さだ。

「お風呂にしますか?ご飯にしますか?それとも……」

ゴクリ。
男子ならざるもの一度は言われてみたいであろう話の流れだ。
くるか?
『それともわ・た・し?』ってなるパターンか?
言われたら俺はすぐさま『恋!』と言える自信がある。







「それともお昼寝になられます?」
「恋!」
「え?……どういう事ですか?」
「…………」

そんなオチになるのはわかってたよ……。
恋はいきなり落ち込んだ俺を見てあわわあわわと慌てはじめた。
仕草がいまにも泣き出しそうなくらいで申し訳ない罪悪感が支配したので普通に元気を出し居間へ向かう。

「まだ何もしなくていいよ。普通に話そう」
「わかりました」

居間へ入り、テーブルの周りに腰かける。
隣には恋が座り込んだ。

「今日はお前にプレゼントを買ってきたぞ」
「え?そんな恐れ多いです。お兄ちゃんにリリースさせていただきます」
「変に畏まらなくていいから」

まあとある有名ケータイ会社のロゴの入った紙袋を持っていたから予想なんて出来まくりだろうけど。

「最新のスマホだ。軽くいじってもう充電しないとほとんど使えないけどな」

恋の最初の電話帳には俺の電話番号とメアドの登録をしておいた。
俺の電話帳の最初のNO,0にあった自宅の番号を削除して恋の番号と店員に作ってもらったアドレスを登録したのであった。
俺のキュートシスターグループの初登録である。

恋は充電の残り15パーセントのスマホを扱いながら画面をいじりだした。
スマホからはこの時間に放送してあるだろうニュースのアナウンサーの声が聞こえた。

「すごいです。テレビ見れました!今のスマホはすごいです」
「結構前のケータイでも映るけどな」

何故かワンセグ機能に感動したようだ。
それからワイワイと使っていたが5分しない内に充電は無くなり恋は本当はスマホを使いたいだろう衝動を我慢してスタンド型充電器をコンセントに挿しスタンドにスマホを置いた。
スタンドからは青いランプが付き、どうやら充電が始まったらしい。

「ありがとうです、お兄ちゃん」

恋は微笑みながらお礼を言って頭を下げた。
俺は笑いながら恋の頭を撫でた。

「お兄ちゃん……」
「大事に使えよ」

恋の髪はフサフサしていて撫でる度に甘い香りが鼻をくすぐる。

2人無言の時間が流れた。
1人で居る時も無言の時間が流れるが、側に人が居るってだけでこんなにも落ち着けるものなんだなぁ。
恋の存在を俺に刻み付ける。
俺の新しい家族だ。
もう二度と……。
もう二度と家族と離れたくない。
忘れていた感覚が、懐かしい感覚が俺に舞い戻った。

「……葉子」
「ん?」
「ごめん。なんでもないよ」

今頃お前はどこに居るんだろうか?
というか俺の事まだ覚えているのかな……?
記憶力のない俺でもまだ覚えてんだけどな。

「お兄ちゃん?」
「…………」
「頭を撫でながら寝ちゃうなんて。お兄ちゃんも可愛いね。私もお兄ちゃんと一緒に眠ろう」





数時間したらふと目が明いた。
恋が俺に抱き着きながら寝ていた。
なんでこんなことになったのかはわからないが、俺は恋の手を放そうとも考えずそのまま恋の好きなようにさせた。
恋の為。
そう言えば聞こえは良いのだが、これは私欲の為であった。
――人の温もりを胸に残していたかったから……。
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