絶対お兄ちゃん主義!

桜祭

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1章

絶対お兄ちゃん主義!

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そして、恋と俺の2人だけになった。
留守番ではなく家族になったのだ。
戸籍上とかではなく共に暮らす家族として。
それは誕生日に与えられた人を育てる課題のようなものなのだろうか。
今までずっと1人でやってきた俺に今更何をしろということなのだろうか。

「さて」

恋に目を向けた。

「こ、これは……アウトォ」

赤面して混乱していた。
この子赤くなりやすいらしい。

「なぁ恋」
「な、なんですか達裄さん?」

本を取り上げながら声を掛けた。
これが家族として最初の一言だ。











「なるべく俺に関わりを持つな」





自分として出せる冷たい声を発した。
関わりを持つな。
それは俺が自分で掛けた呪いの様なものだ。
本当の両親やその他もろもろ。
俺は多くを失い過ぎた。

今俺の周りの親友の星丸や光、流亜でも俺は『親友』と言いながら、引き返せる一歩手前をキープしているつもりであった。
星丸の廃墟探索に自分も出向かわなかったり。
光に惹かれていてもそれ以上に踏み込まなかったり。

だが、家族となると関わりが強くなるのではないか。
失うのが怖かった。





「どうして冷たい振りをして優しく言うの?」
「え……?」
「さっきは答えられなかったけど本当は話を少し聞いてるよ。辛い事溜めてるって聞いたよ。でも大丈夫だよ」

恋が俺の腰を包む抱擁をしてきた。
恋の暖かな体温が伝わってきた。

「私は、あなたを癒しにきたから」

ああ。
確かに恋はとても強い子だ。
俺より遥かに強く、守りきってみせなきゃならない。














「つーか俺も君も何言ってんだろうな?」
「はぅ、酷いです……」

別に星丸と廃墟探検に出向かうなんてするわけも無し。
光とは付き合いが長くて親友から発展する事が想像出来ないし。
両親の死ももう長すぎて吹っ切っている。

急にどうしたんだろうな。
ただ単に恋をからかいたかっただけなのかもしれない。

「まぁ今言った事は何でも無いから忘れてくれ」
「うぅ……、なんか恥ずかしい事言った気がします」
「羞恥プレイやね」
「……穴があったら埋めたいです」

妹と一番最初に会話をした内容は羞恥プレイでした。
こんな酷い内容の会話をしたのは初めてでは無いだろうか。
というか『穴があったら埋めたい』ってなんだ?
入りたいじゃなく埋めたいね。
物事を穴を埋める力仕事をして忘れたいという現実逃避の事だろうか。
普通にありそうな説明になってしまった。
むしろ本来の穴があったら入りたいの、穴があったら入って身を隠したい程恥ずかしいという意味よりよっぽど現実的だ。
どっちにしろ物事が解決していないのは両者共変わらない。
しかし逃避で忘れてしまえば、隠れるよりよっぽど自分は恥ずかしさが紛らせられるだろう。
なんだこの子は?
そんな事まで考えていたのか!?
あなたが天才か!?

「すみません、ただのミスです……」
「…………」

うん。
あるよね、そういう事。

「ところで俺は君の事を恋と呼んでしまっているがそれで良いのか?」
「え?良いですけどなんでですか?」
「初対面の男に呼び捨てでイラっとこない?」
「イラっとはしないですけど……」
「しないけど?」

少し口ごもってしまう。
イラっとしないけどからの言葉を探しているみたいだ。

「た……」
「たたき……」
「たたき……」
「たたきのめし……」
「叩きのめしたいです」
「よしやりあうか」
「いつの間にか私喧嘩うってました!?」

からかいがいのある子だ。
ついついS心をくすぐる子である。

「達裄さんとの距離感が気になります。もっとお姉ちゃんと会話していた時みたいに自然な感じで話せたらなって」
「……」

何回かからかっているくらいでは壁は壊せないらしい。
しかし姉さんとも実はそんなに会った事は無いので難しい問題だ。

「それで呼び方から変えて良いですか?」
「おぅ、兄妹で1つしか変わらないんだ呼び捨てで構わないぞ」
「お、お兄ちゃん」
「……俺の名前はおにいじゃないぞぉ。達裄だから。はいリピート」
「お兄ちゃん!」
「…………」
「絶対お兄ちゃん主義です」

もう引っ張らないでくれ……。

「その、お兄ちゃんがずっと欲しくて。お兄ちゃんって呼びたくて。義理とはいえお兄ちゃんが出来たって聞いた時にずっと会ってみたくて。やっと今日夢が叶ったんです。お兄ちゃんが良いです……」

遠野家では家族バラバラで過ごしている。
それは親の仕事の都合上しょうがない出来事であった。
おそらく恋は父親とも会う事は少なく、姉さんが言っていた様に男兄妹への憧れが強いのだろう。
でも、俺が憧れだったとしたら……。
憧れに失望した瞬間彼女はどうなってしまうのだろう。

「俺は君の憧れるお兄ちゃんじゃないかもしれない。君を傷つけるかもしれない。それでも君は良いのか?お兄ちゃんという存在に俺を当てはめて良いのか?」
「そんなに私の事を考えてくれた時点で既に私のお兄ちゃんです。
――お兄ちゃん、よろしくお願いします」
「……お兄ちゃんで良いよ。遠慮とかも要らない。自分の姉と接する感じでよろしくするわ」

お兄ちゃん。
まだまだ歯がゆい気持ちが無いではない。
でもまずはそれに慣れるのが第一歩だろう。
こうして、俺と恋の義理の兄妹の生活が始まった。










「絶対お兄ちゃん主義!、憧れます」

というかもうそのフレーズを使いたいだけなのね……。
しかも作者が自分の姉のエロ同人誌のタイトルってだけだよ……。

「とりあえずここまで歩いて来たみたいだから腹減ったろ?なんか作ってやるよ」

少し夕飯には早い時間だろうか。
だが、部屋の案内とかなんなりで時間がかかるだろうから特に問題はないだろう。

「いや、今日は私が腕を揮いますよ。私こう見えても料理得意ですから」
「初日くらい客人感覚で良いからさ」
「尚更ダメです。私は家族としてお兄ちゃんに食べてもらいたいです」
「俺は妹に頼れるってところを見せたいから」


結局。
両者譲る事はなく妥協案としてご飯を炊くのは俺、味噌汁を恋、おかずを2人で一品ずつ作る事になった。
……のだが。

「……おい」
「ミラクル、ですかね……」

2人してハンバーグとサラダを作ってしまっていた。
しかも2人共ハンバーグを2つ作っていたので計4個のハンバーグが皿に並んだ。

「いただきます」
「いただきます」

気にしないで食事を始めた。
恋も気にした様子はない。
多分相性が良いんだろう。

「まずお兄ちゃん、私の食べてみて」
「わかった」

箸を手にし、恋のハンバーグに手を伸ばすが、そこに恋から「待って」と声がかかった。

「あーん」
「…………」

自分の箸でつまんだハンバーグをこちらに向けてきた。
おいおいおいおいおい。
流石にベタ過ぎるんじゃないか?

「こ、これはどういう意味かな?」
「さっきお姉ちゃんと接する感じでってお兄ちゃんが言ってたから」

いつもこんなことさせてるんか。
あの姉はどこに向かっているんだろうか?

「自分がしたいなーってやつだけで良いから」
「お兄ちゃん、あーーーん」

キラキラ輝いた瞳であった。
つまり自分がしたいという意味であった。

「あ、あーん……」

これも羞恥プレイの1つなのだろうか。
自分がさせてしまっただけに断りにくかった。

「うん、うまいな」

外側がカリッとして、中は肉汁が詰まっていた。
ソースも自前なのだろう。とてもよく絡み合っていた。

「えへへ~、一番の得意料理だもん」

とても嬉しそうだ。
その顔はとても天使という言葉に近い微笑みであった。

「ほら、お兄ちゃんのもどうだ」
「おいし~」

俺も恋に箸を伸ばし、あーんってして食べさせた。
恋は躊躇いもなく口に入れた。

「お兄ちゃん、あーん」

恋はこんなに食べられないからと俺に何回もあーんってしてきた。

8回目を過ぎた辺りから恥ずかしさが無くなった。
余談ではあるが食事がまったく進まないため遠野家では夕食時のみ『あーん』は5回までという決まりが出来た。

それはさておき、ここからは俺のターンである。
恋に「わーん」と無茶ぶりをする。
その無茶ぶりの結果によって今後俺がシスコンになるかどうか占ってみよう。
恋と呼びハンバーグを箸で掴む。

「わーん」
「わんっ!(パクッ)」

尻尾があるなら振り回していそうなくらい可愛かった。
しかも反応と反応への適応がとても良い。
恐らく2割ぐらいの低確率でシスコンになるかもしれないなぁ。
なんてバカな事を考えていた。

他にどこまでの要求を呑むのか。
ふと頭によぎった。

「お手」
「アン」

素早く右手を出し忠実に犬のマネをする恋。
そろそろおふざけタイムだ。

「おねだり」
「クウゥ~ン」

キラキラした目でみてくる恋犬。
これはいける!
家に犬耳が無いのが悔やまれた。

「すりすり」
「ン~~(すりすり~)」
「!?」

馬鹿な!
躊躇いなく初対面の男に頬をすりすりしてきた。
やばい、可愛い。

「こら!流石にこれはダメだろ!」
「クゥ~ン……」

上目づかいで見上げる恋犬。
『どうする?ワイフル~』なんて古臭いCMのフレーズが思い浮かんだ。

「ごめんな」
「ワン!」

『ワイフルです!』
やかましいわ!
恋は最高の妹だった。


―――――



風呂に入るか。
そう思い俺は立ち上がった。
恋はおそらく不在。
恋の部屋へとさっき案内したからまだ部屋に居るだろう。

バスタオルと着替えの下着やスエットを持ち、脱衣所のドアを開けた。

「お、お兄ちゃん!?」
「れ、恋!?」

部屋に居ると思った恋の脱衣所でのエンカウントであった。
しかしお約束の着替えの途中とか、裸での状態とかではなく、脱ぐ直前で腕を伸ばしていたがまだ服は完全に着たままだった。
セーフ。
べ、別にエンカウントしたからといって裸が見たかったとかの下心はないから。

妹の恋は驚いている。
そして、服を脱ぎだした。

よし、俺も脱ぐか。

「じゃねーよ、なんで服脱ぎだすんだよ!?」
「えへへ、お兄ちゃんとお風呂一緒に入ろうと思って」
「それで良いのか君は!?恥ずかしくないの!?」
「だってお姉ちゃんとも一緒に入るし普通だよ」

確かにこれもあーん同様、姉の様に接しろと言ったが流石に限度があるだろう。

「恋はどのような時恥ずかしいの?」
「日記を見られたり、アルバムを見られたり。今日お兄ちゃんと初めて話した時も恥ずかしかったかな」

照れているのか、本当に恥ずかしいのかはよくわからない反応だった。
というか、初対面の会話>風呂ってどうよ?

「お兄ちゃんも早く~」

とても白い肌。
鼻にくすぐる甘い女の子特融の匂い。
上目づかい。
小さい手と足。

これは初日からあかんでしょ。
間違いが今起こっても不可抗力じゃないのか?






「お、お兄ちゃんって高いね~」





















「――しんちょう」





以下、割愛。




残念ながらお風呂の事は見ない様にしていて記憶にない。
お互い体を洗い合い、頭も洗い合い、お湯に浸かりました。
恥ずかしいからか体温が高くてのぼせそうになりました。
お風呂は今後混浴禁止になりました。

「さて、寝るか」

ベッドの毛布を開けると丸くなり眠そうにしている大きな猫がいました。

「にゃー……」

か、可愛い!
こんな可愛いぬこって世界一番なのではないか!?
と、思ったらぬこではなく、ぬこのぬいぐるみに抱き着いていた恋だった。
ちなみに何故ぬこと見間違えたかというと結構大きなぬいぐるみだったからである。

「なにしてんだ?」
「うん、まだ部屋に物が無くて寂しくてお兄ちゃんの部屋で寝たかったの」

恋の荷物は後日姉さんの家から届くらしい。
つまり恋の部屋には物がほとんど無い。

「わかったよ、温かくして寝ろよもう冬なんだから冷えるぞ」
「うん、お休みお兄ちゃん……」

見知らぬ家での生活はやはり疲れるのかすぐにすやすやと眠りに落ちた。
まったく可愛い寝顔で幸せそうに眠ってさ。
俺にも恋の幸せをわけてもらいたいよ。

「お兄ちゃん、行かないで」
「え?」

聞こえたのか、脳内に響いたのか。
女の子の声だったのはわかる。
って、恋の寝言に決まってるか。

「行かないで……か」

なら今日はずっと恋の側に居てやるか。
どうせ明日は休みだ。
徹夜の一回ぐらい俺にはよくある事だ。












「絶対、お兄ちゃん、主義」

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