絶対お兄ちゃん主義!

桜祭

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1章

遠野達裄という男

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冷たい温度が部屋を満たしていた。
朝のこの温度は何日、何年経っても慣れない。

「うわっ、さみぃ……」

ぼやける眼でケータイを開く。
若干暗い部屋でのケータイの画面の光が目に痛かった。

現在5時30分。
我ながら早起きだ。
確か寝たのが3時過ぎなので2時間30分以下の睡眠。

「あー……、眠い……」

スマホの待ち受け画面に小さく今日の日にちが書かれてある。
今日は12月1日。
1年最後の1ヶ月である12月の始まり。
――そして。

「今日から16歳かー」

まぁ睡眠を取る前から16歳になっていたのだが、気分的に呟いてみた。

「もうちょっとで高校1年終わるなー」

今年1年を振り返る。
……………………特にない。

「……自分の記憶力の無さにびっくりだ」

成績は良いのだが、こればかりはしょうがない。
多分親友の星丸とかいじれば思い出すんだろうけど。

「一人暮らしってのは寂しいねぇ」

家族も居なければ、恋人もなし。
あるのは一人暮らしするには無駄過ぎる広さの家とそれなりのお金と親友の影響で集めてしまったオタク系のマンガやゲームと記憶力がなく無駄に勉強が出来る脳と健康な体ぐらい。

「別に人間関係に飢えてるわけじゃねぇ……」

誰に呟いたのかはわからない。
とりあえずそれが俺であり、とにかく俺の全てで大事な物など何一つない。
多分無理させてる自分ですら俺は大事にしていないであろう。

それが俺、遠野達裄という人間を語るには充分過ぎた自己紹介であった。
ゆったりとした時間を満喫した俺は、登校時間に間に合う様に少し早く家を出る。

スカスカの軽いカバンを持ちながら家に鍵をかける。
物騒な世の中の為(意識はしてないけど)ロックを二重にしておく。

「って、達裄先輩は被害妄想の激しいOLですか!?」
「朝から騒がしいぞ流亜」

 西川流亜ニシカワルア
近所に住む中学生の後輩で、来年に俺の通っている学校に入学してくれたら良いな(願望)。
金髪ツインテール、幼い顔、高くて凛々しくも可愛い声、やや低めの身長。

俺の特別な異性の友達No.2である(といっても3人しか居ないわけなんだが)。

そんな彼女が俺の家の門の前に立っていた。

「おはようございます達裄先輩」
「おはよう流亜」

いつも一緒に学校に通っているわけではない(ある程度方向は同じ)。
たまに待っていたり通りかかったりする。

「今日私は達裄先輩の誕生日を祝いに来たんです」
「おっ、覚えていたんだ。へっ、可愛いじゃないか」

頭を撫でる。
俺にとって彼女は特別な仲であり褒めたり可愛がる時に撫でたりする。

「触らないでくださいよ」
「…………」

ただ何故か嫌がる。
可愛くない可愛い後輩だ。

「というわけでおめでとうございます達裄先輩。これプレゼントです」
「おぉ。まさかお前からプレゼントもらえるなんて思ってなかったぜ」

箱らしき物に白い紙が巻かれ、リボンで飾り付けされていた物を手渡された。

「ただそれ微妙に高かったんでお金返してもらえます?」
「それプレゼントって言わない」

まさかプレゼント渡されてから金の要求なんて求められると思わなかった。
ただ話すと面白い奴なので大好きである。

「よし、金は出さないがまた頭を撫でてやる」
「嫌がってんのわかんないんですか達裄先輩?」
「じゃあしないよ」
「するって言ったんなら嫌がってでもするべきですよ達裄先輩」

ただ難しい奴で頭を撫でないと撫でないで怒られる。
面白いがよくわからん奴だ。

「よしよし、可愛いなお前」
「……お世辞じゃなく本心言ってくださいよ」

何やらぶつぶつ呟いているんだが……。

「いや、お前本当に可愛いぜ。お世辞とかじゃなく」
「って聞こえてたー!?」

恥ずかしがりながら赤い顔して突っ込まれた。
あれ?なんで本心言ったのに怒られたんだ?
「なんでぶつぶつ言ったのに聞こえてんですか!?普通こういうのは『何言ってんだ?まぁいっか』っていう心理描写になるんですよ!」

なんの普通だそれは?
よくマンガで見るパターンじゃないか。
いや、実際ぼそぼそ言われたって聞こえるだろ。

「うぅ……。責任取ってよ達裄先輩……」
「よし、責任取って幼なじみの恋人という設定になろう流亜」
「過去は変えられませんよ!」
「ハハハ、赤い顔で言ったって照れてるとしか思えねーよ」
「あぁ!?勘違い辞めろよ先輩?」
「…………」

何故か後輩にドス効いた声で睨まれた。
調子に乗った挙げ句がこれか……。

「別に先輩の事嫌ってないんですよ!本当ですよ!……そ、その。嫌いな人に誕生日プレゼントとか贈らないし……」

別に社交辞令とか要らねーよ……。
泣きたくなってきた……。

「じゃ、そろそろ失礼しまーす」

気まずいまま別れてしまった。
まぁ、どうせ次会えばコロリと忘れる仲だし。










「相変わらず仲良いわよね、年下と。やっぱりロリコンね。ですよね『達裄先輩』?」
「…………」

奴だ!
この声の主は1人しか存在しない。
一応俺とこの人は赤の他人です。
今始めて話した仲です。

「いやいや、なにふざけてんのよ」
「今日は寒いけど良い天気だなー」
「目を合わせなさい達裄」
「…………んな顔見れるか」
「あっそ」

あっ!?
ちょ!?
首締めは……ちょ、息出来ねーよ……。
あ……。

不意打ちの如く首締められた。
言うならばこいつはジャイアンキャラ。

「あえてやり続ける」
「……ぁ…………」

死んだ両親が見える……。
顔全然覚えてないし、両親の記憶もさっぱりだが。

「もう何も恐くない……」
「お?死亡フラグが乱立、だがまだやり続ける!」

いつまでやってんだよー。
意識無くなるから。
いや、マジ……。
…………。

「おはよー、光に……達裄か?なんか死にそうじゃない?」

なんかバカみたいな声が聞こえる……。

「まぁ、どうせ達裄は死なないだろ」
「死ぬわ、助けろよバカ!」
「うぐっ!?」

光の首締めを両手で瞬発力で開き、もう捕まらない様に姿勢を低くし、しゃがみ込み、立ち上がるその勢いでバカの位置まで跳んで頭をチョップしたという場面である。
「死ぬところだったじゃねーかよ!普通親友の命は助けるだろ!だからバカなんだよお前!」
「……い、今の場面見るとすんごい余裕に脱出出来たよね?」
「じゃあお前首締められてみ?俺が助けてやるからさ。頼む光」

俺を首締めにした奴にバカを渡し、また首を締めてもらう。
彼女には躊躇いなくやってもらう事にした。

「アッー!ちょ、強いって!?おおおお……」

本当に躊躇いなく首を締める彼女にはガチで惚れそうである。

今首締めをしている彼女は 星虹光ホシニジヒカリ
短いショートカットの髪、鋭い目つき、細いのに力溢れる腕、曲線が素晴らしいという体、大きな胸、凛とした声、男女に隔たりない性格。
口は悪いけど普段は暴力とかしない子な筈です。
酷い事を口では言いつつ、実は最高に大好きな親友である。

俺の特別な異性の友達ぶっちぎりNo.1である(異性では多分光が1番好きかもしれない)。


そして今首を締められて苦しんでいるバカは親友の 海谷星丸カイタニセイマルであり、男の友達には不要スキルの幼なじみという事が該当する。
茶髪で天然パーマで少しチャラい(チャラく見せてるだけ)奴で、若干美形らしく(そうか?)俺とこいつで気持ち悪い想像をする奴が居るとか。
不愉快で、相方がこいつなのも嫌だ。
因みに俺が攻め、星丸が受け。
もう嫌だこんな事思われるの。

「は、は……早くたすけ……て……」
「ん?自力で抜け出せよ」
「おまっ、さっきと言ってる事違うじゃねーかよぉぉ」

誰だよ「死ぬところだったじゃねーかよ!普通親友の命は助けるだろ!」とか言う奴。
助けたら巻き添えくらうじゃん。

「気持ち悪いから離すね」

と光から気持ち悪がられた星丸が光の首締めから開放された。

「別に窒息させても良かったんだぜ光?」
「私が手を下さなくても星丸はもっと酷い死に方するわよ」
「……君達の友情には俺は涙が止まらないよ」

と平和な日常が繰り広げられていた。

「どこが平和だかわからんけどな……」
「そういえば今日達裄の誕生日だったわねー」
「そうだな。今年もまた祝うか」
「じゃあ今日は光の部活終わるまで待つか」

なんやかんやみんな仲は良い。
いや、まぁ当たり前なんだよなこんなの。

「ところで達裄にスペシャルな俺からプレゼントがあるぜ!」
「今日の1校時なんだっけ光?」
「確か英語じゃなかったかなー」
「いや世界史さ」
「知ってるならなんで聞いた?」
「…………さっきから俺ばっかりこんな扱いか?」

結構シカトされる事も多い星丸。
うん、可哀想とは思わない。

「ほら達裄の大好きな義妹もの同人誌」
「…………勝手に変な趣味の設定を付けるな!同人誌読まねーから」

表紙が明らかにロリな物語じゃないか。
しかしこれはコスプレものに近いな。
それを誕生日に渡す星丸のセンスに引いた。

「嘘だよ。冗談だって本当はこっち」

カバンに同人誌をしまい込み、違う物を俺に手渡した。
また薄い本みたいなやつである。

「もっと濃いやつさ!」
「……!」

明らかに『18禁』ってなってやがる。
同人誌の角で叩いておいた。
永遠と同人誌ばかり出し続けると察知した故の行動。
光は苦笑しながらの傍観であった。

「ふっ、……そうやって余裕ぶってんのも今の内だから……な……」
「一生倒れていろ」

星丸はひれ伏した。
まぁ本人殴られたり蹴られたりするのに慣れているから復活も早いだろ。

「たっくんは相変わらず強いね……」
「よぉ雨、お前の彼氏死んじまったが満足して逝ったから墓参りしておこうな」
「うん。1年に1回ぐらいをキープして墓参りするよ」
「……死んでねー」

星丸の彼女の 深海雨シンカイアメ
俺の特別な異性の友達No.3である(別に光や流亜の様に気に入っているわけではないが星丸関連で付き合いがあるだけ)。

こう寝癖みたいなのが常に立っていて(本人曰わく直らない)、身長は平均、声や性格は本当に優しい、はっきり言って星丸には不釣り合いな彼女。

「たっくん誕生日おめでとうね。私の彼氏のS丸のぶんまで生きてね」
「おぅ!SMのぶんまで強く生きてあいつの死は無駄にしない!」
「死んでねーし!しかもS丸とかSMってなんだよ!?星丸だからな!」

別にバカップルみたいな感じはなく、俺が星丸をからかう時は絶対に俺の味方の雨。
ナイス過ぎる。
「ところで達裄?どうしてSMなの?」
「なんだ光わかんないのか?星→S、丸→Mってことだよ」
「なるほど、ありがとう達裄」
「……詳しい解説に腹立つな」

――賑やかな朝はまだまだ続くのであった。

とか言ってもう放課後。

写真・新聞・文芸部である部室には俺と星丸の2人で光を待っていた。
基本的にはサボリ部の様だが稀に活動はする。

普段は授業終わったら直帰するのだが、テニス部のエースの光を待つ時にはこうして光待ちの教室に使われる。

「少し来年の話をするが来年はどんな活動を部活でする達裄?」

部長俺(ほぼ幽霊部員)、副部長星丸(ほぼ幽霊部員)で活動をしている。
実は雨もこの部の部員(ほぼ幽霊部員)である。
とりあえず最低限な力で成り立っている部活である。
来年は誰か入れてガードを固めないとな。

「もちろん廃墟探索を新聞記事にするんだ!」
「……またすんのあれ?」

我が部の恒例化企画、廃墟探索であり、全国の廃墟を巡っては事件に巻き込まれる事である。
全校で人気も高く、少人数での部活を許可されている理由である(充分目は付けられてはいる)。

「今年、心霊体験に巻き込まれて怖いんだよ達裄!」
「罰ゲームで探索がお前に当たるからだろ」

星丸は運が悪く、前回1人で廃墟探索をしている。
だがこいつは凄い。
人気の秘密はこいつの探索なのだ。



―――――



それは星丸が1人で廃病院でまわっていた時の話。

『ちょ!?メスぐちゃぐちゃに散らばってるぞ達裄!?』
「当たり前だ、病院だろ」

因みに俺はケータイ越しでの会話である。

『ベッドシーツなんか爪で引っかかれた痕あるし!?』
「ネコだよネコ」
『いや、多分ネコじゃねーぞ……』
「じゃあ、ライオンじゃね?」
『そっちもこえーよ!』

ジャリ、ジャリ、ジャリ、ジャリ、ジャリ。
明らかな変な怪しい音がスマホから漏れていた。

スマホを耳から離すと何も聞こえない。

通話中のケータイに耳を付けるとやはりジャリ、ジャリとした引っ掻く音が聞こえた。

これはヤバいな……。
「どうした星丸?」
『ちょ!?ベッドシーツがビリビリに勝手に切り刻まれているんだけどー!?ビデオカメラ越しで見ると中心がぼやけるんだが』
「ふーん」
『な、なんで落ち着いていられるんだよー!?』
「いや、ホテルで雨とトランプしてるし」

目の前の雨から左から2番目のカードを取られる。

「あっ、またジョーカーだ……。運悪いなー……」
「今俺の手札4枚だぜ」
『ババ抜きの報告要らねー。つーか今窓ガラス割れたぞ!?助けろよ達裄』

よし、スペードとクラブのJが揃ったぜ。
残り手札3枚だ。
星丸を助けるつもりはある。
実はボディガードを数人配置している。

『うわっ!?血まみれの女だ!?』

ついに幽霊が現れやがったらしい。
ビデオカメラが楽しみだぜ。

『メッチャ好みや!ヘイ、死因はなんだい?俺が死んだら愛人にならない?』

びっくりするどころがナンパをしていた。
幽霊にナンパをしたのは世界中でお前が初だよ。

と、急に雨が手を伸ばして勝手に俺のスマホを盗み取り、電話に変わった。

「星丸サイテー、もういいよ私なんかよりそっちの幽霊とチュッチュッしてなさいよ!」
『ちょ、おまっ!?』
「死んで愛人と寝てろ」

雨が勝手に電話を切ってしまい38分42秒の長電話が終わってしまった。

いや、こればかりは星丸が悪い。

「ねぇ、たっくん」
「ど、どうした雨……?」

多分幽霊に会った星丸より、キレた雨と一緒に居た俺の方に死亡フラグが立っていた。

この事件をきっかけに星丸と雨のカップルが破局しそうになったのであった(現に1ヶ月くらい口聞いてなかったし)。

因みに星丸が見た血まみれの女は確かに結構美人であった。



―――――



と、まぁこんな事が前にあった。
二度と星丸がナンパはしないと誓った事件でもあったり、なかったり。
てか、たまにまた隠れてナンパしてる。

「それからも毎回お前が廃墟探索になるのな」
「どうせ幸運はEですよ。宝具は中学時代の動画研究部から使っていた『今は古き録画機械(ビデオカメラ)』だな」
「どこのサーヴァントだお前は?もう聖杯を手にしたら良いんじゃないかな?」

とりあえず廃墟探索は決定事項。
決定事項自体未定話だけど。
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