ギャルゲーのヘイトを溜めるクズでゲスな親友役として転生してしまいました。そして主人公が無能すぎて役にたたない……。

桜祭

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第6章 偽りのアイドル

32、偽りのアイドルは捨てられる

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矢を手に取って走る。矢を刺す場所は背中だ。もちろん普通にしてたら刺さらない。

「ありがとう笠松……お前のおかげで弱点はわかった」

化け物が俺に気づいた。残っている右腕で俺を追撃しようとハサミを振り上げた。

俺はスライディングをしてハーデストの股の間をすり抜けた。それと同時にハーデストのハサミが地面を叩き砕いた。体を捻ってハーデストの方に向く。

握りしめていた矢をようにして刺した。思った通りに矢は突き刺さり、ハーデストの肉の奥にくい込んだ。

「え!?刺さった!?」

マヤが驚いている。なんで刺さったのかわかっていないのだろう。まだ確定してはなかったから言わなかったが今ので確信に変わった。教えてあげないとな。

「こいつはカニのように見えるが本質はアルマジロみたいなものだ。アルマジロの装甲が全身にあるって思った方がいい」
「……それは分かったけどなんで刺せたの?尚更無理じゃない?」
「ミツオビアルマジロって丸くなるために隙間があるんだ。でもただ普通に隙間があるだけだと外敵から狙われた時にそこをやられてしまうだろ?」
「うん。それで?」
「写真で見た方が分かりやすいがあの甲羅って、上にちょっとずつずらして置いている紙のようにできてるんだよ。それで丸くなれば隙間は無くなる」
「逆に言えば丸まらなければ隙間がある?」
「そういうことだ。ましてやアルマジロより何倍も大きいこいつなら隙間が大きいはずだ。そして刺さった」

膝の裏に関しては恐らく足が曲げられるギリギリの所まで甲羅がついていたのだろう。腕は笠松が力を抜いた時にたまたま滑って切り落とせたんだ。たまたまとはいえ笠松の死は無駄じゃなかった。

「弱点が分かれば戦えるぞ……逆襲の時だ……」

矢を1本握りしめる。右目は見えないため弓は撃てない。近接戦しか俺はできない。死なない覚悟はできてる。桃を助けるまではまだ死ねないぞ。

「俺が多少時間を稼ぐ。ワイトとマギーの応急処置を頼んだよ」
「……わかった」

マヤが2人の元に走っていった。これでいい。できれば死人は少ない方がいいからな。1対1か。いつも通りだな。





ハーデストに向かって走った。ハーデストはまた追撃しようとハサミを左側に伸ばして力を溜めている。

ハーデストが横凪にハサミを振った瞬間に体を縮こめて地面に落ちる。髪の毛のてっぺんが切れた。

そのまま体を持ち上げると同時に矢をハーデストの膝に下から矢を突き刺した。やはり近接戦だと俺の方が強いんだ。

もう一本矢を取り出す。さっきのお返しだ。矢をハーデストの目に突き刺した。緑色の血がドバっと出てきた。まるでB級映画みたいだ。

突然腹に衝撃が走った。後ろに体が飛ばされる。柱に背中がぶつかった。口から唾液が反射的に出てくる。内蔵の位置がズレた気分だ。ハーデストの方を向くと、膝を前に上げていた。俺の腹に膝蹴りをしたのか。膝の全面は硬い甲羅だから威力は当たり前のように高いということか。

「ガルルルルァァ!!」

横からヒルが出てきた。鉄の破片を咥えてハーデストに走っていった。

「お前、なんかいないと思ったらそれ取ってきてたのか!」

ヒルがハーデストの切れた腕の断面に鉄の破片を突き刺した。破片はかなり尖っていて硬そうだ。

ハーデストがヒルを睨みつけた。ヒルも負けじと威嚇する。

「グルルルルルル……」

どっちも俺の事を無視してんな。チャンスではあるがなんか悔しい。

矢を新たに握りしめて、ハーデストの後ろに回りこむ。狙うは首元。こいつに頸動脈があるかはわからんがダメージはでかいだろう。今はヒルに注意が行ってる。やるなら今だ。

矢を首に差し込んだ。中の肉は柔らかいのかかなり奥まで刺さった。

「ガシュ……」

ハーデストがようやく声を出した。やっと生物らしさを出したな。つまりそこまで追い詰めているということだ。


ハーデストから距離をとった。ヒットアンドアウェイ戦法を使えばこいつは倒せそうだ。最初はこいつやべぇって思ってたが結構楽そうだな。

「行くぞヒル!」
「ワン!!」

笠松の恨みだ。さっさと地獄に行ってもらうぞ。


ハーデストがなぜかハサミを後ろに下げた。……どうゆう事だ。走ろうとした足を止める。なんで後ろに下げた。ハーデストの腕がミシミシという音をたてている。嫌な予感がする。俺の野生の勘が言っている。

「ヒル!逃げろ!こいつ何かしてくるぞ!」

走り出そうとしたヒルを怒鳴りつけて足を止めさせる。ヒルも何かに気がついたのかハーデストと距離をとった。俺も距離を取らないと。

















バックステップをしたその瞬間だった。ハーデストがまるでボクシングでのストレートをするかのように腕を伸ばした。溜めていた力を解放したようだ。距離は約10mは離れている。ハーデストの腕はせいぜい2mぐらいだ。まず当たるはずがない。そうだ、普通は当たるはずがないんだ。

しかし俺の目に映ってきたのは目の前にまで来たハサミであった。ハーデストの足は遅い。近接戦闘は速いが足は遅いはずなのだ。だから俺が瞬きをした一瞬で移動するなんてできるはずはない。

なのになぜかハーデストのハサミが俺の胴体を切ろうと至近距離にまで迫っていたのだ。

あぁやばい。これ死んだわ。俺はゆっくりと流れゆく時間の中でそう思った。







「楓夜!!」

体に衝撃が走った。重力が横に向いたかのように吹き飛ばされる。意識の時間が戻り地面に転けた。

横を見ると手を前に出したマヤがいた。俺が居た場所だ。ハサミは俺でなくマヤを切ろうとしている。助けようと体を起こすがもう遅かった。

「マヤ!!」

俺がそう叫んだ瞬間、顔に血飛沫がかかった。赤い血だ。俺の血と同じ色だ。人間の血だから当たり前か。

目の前にはマヤの首が胴体と離れている姿が見えた。切れた首からはシャワーのように血が溢れている。頭が無くなったマヤの胴体は地面に崩れ落ちた。

ハーデストの腕はゴムのように伸びており、さっきの位置から10mは離れていたマヤの首を切り落としたのだ。

「……ハーデスト!!!!!!」

俺はハーデストに向かって怒りをあらわにした叫びを放った。









続く
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