131 / 136
第6章 偽りのアイドル
32、偽りのアイドルは捨てられる
しおりを挟む朝、偽ゲーベルドンの姿はなかった。
生贄を渡す役割の本物のゲーベルドンが死に、その事をさっそく、仲間である紫の海賊に伝えにでも行ったのか。
看守らの姿に、特別いつもとは違った行動は見られない。僕を見る目も、いつも通りだ。
僕は、いつも通り、カインハッタ牢獄内の回廊を歩き、異変がないかどうかを、見回った。
囚人部屋001の二重人格者であるアタフ、リョウバを小窓から覗き、前と変わらずおかしな言葉を使うアタフがいる。
こういう状態になれば、もう以前の様に何かの情報を訊き出す事はできないだろう、そう思った。
そして、僕は何も気にせず、再び歩き出したんだ。
次に囚人部屋の小窓を覗いたのが、0053だった。
貴族階級で罪名不明で、常に瞑想していた中年男。でも、その瞑想しないるはずの男の目が開き、こちらを見ている。
僕は、彼の目に違和感を感じ、声をかけてみた。
そうしたら、もうじきに、私はこの場所を去る事になるだろう、そう言ったんだ。脱走宣言、そんなものが許されると思っているのか、と。
悪しき魔石をよく破壊したな、そう言っていた。
この男の目は、罪人の様な目ではなく、とても澄んだ目をしている。
彼は、僕に一言告げたら、再び瞑想に入り、口を開く事はなかった。
何を考えているのか、よくはわからなかったけど、目を離すべきではないだろう。何故、魔物化したゲーベルドンの心臓部の宝石破壊を知っているのかも、気になる。
でも、この男の言葉を訊いた後、僕は急いでアタフの元へ向かったんだ。
額に何か描かれ、消した様な跡があったアタフ。それ以降、意味のわからない事ばかり言う様になった。
アタフがまた何かを語る。
もう一度、語り出す言葉をよく訊く。
お母様から昔、各地方に出向いた時に、持ち帰り、僕に与えた本。
その1冊に、忌まわしい島として記されていた、ケツァル島の特殊言語だ。
ただ一度だけ、お母様が本に記されていた文章を一部、読んでくれた事があって、そこから幼少時、僕なりに解読した事があった。
だけど、遥か遠くの記憶だ、はっきりとその言葉の意味が思い出せなかったんだ。
次に、僕が思い出したのは、囚人部屋に記されていたあの象形文字だった。
ベリオストロフ・グリーンディの部屋。
あれも、ケツァル島の特殊言語だ。
間違いなく、このカインハッタ牢獄内にケツァル島の者がいる。
誰に何かを伝えようとしている。
誰にだ。
各囚人部屋から出て、他の囚人と交流する機会はない。だとしたら、看守か、囚人アタフの仲間か。
アタフは盗賊団ガリンシャにいた、その仲間か家族か。でも、ここに来て、アタフは誰一人面会に来た者はいないはずだ。
囚人部屋で唯一、出入りができる囚人は、ベリオストロフ・グリーンディ。
彼にアタフのケツァル島の特殊言語を伝えるには、あまりにも回りくどい。
看守に伝えようとしているのか。
まさか、
僕が、ベリオストロフ・グリーンディのいない時に、彼の囚人部屋に入って、壁の象形文字を見入っていたその姿を見た者が、
僕を試そうとしているのか。
ジスマリアの25日
カインハッタ牢獄内にて
_________________________
生贄を渡す役割の本物のゲーベルドンが死に、その事をさっそく、仲間である紫の海賊に伝えにでも行ったのか。
看守らの姿に、特別いつもとは違った行動は見られない。僕を見る目も、いつも通りだ。
僕は、いつも通り、カインハッタ牢獄内の回廊を歩き、異変がないかどうかを、見回った。
囚人部屋001の二重人格者であるアタフ、リョウバを小窓から覗き、前と変わらずおかしな言葉を使うアタフがいる。
こういう状態になれば、もう以前の様に何かの情報を訊き出す事はできないだろう、そう思った。
そして、僕は何も気にせず、再び歩き出したんだ。
次に囚人部屋の小窓を覗いたのが、0053だった。
貴族階級で罪名不明で、常に瞑想していた中年男。でも、その瞑想しないるはずの男の目が開き、こちらを見ている。
僕は、彼の目に違和感を感じ、声をかけてみた。
そうしたら、もうじきに、私はこの場所を去る事になるだろう、そう言ったんだ。脱走宣言、そんなものが許されると思っているのか、と。
悪しき魔石をよく破壊したな、そう言っていた。
この男の目は、罪人の様な目ではなく、とても澄んだ目をしている。
彼は、僕に一言告げたら、再び瞑想に入り、口を開く事はなかった。
何を考えているのか、よくはわからなかったけど、目を離すべきではないだろう。何故、魔物化したゲーベルドンの心臓部の宝石破壊を知っているのかも、気になる。
でも、この男の言葉を訊いた後、僕は急いでアタフの元へ向かったんだ。
額に何か描かれ、消した様な跡があったアタフ。それ以降、意味のわからない事ばかり言う様になった。
アタフがまた何かを語る。
もう一度、語り出す言葉をよく訊く。
お母様から昔、各地方に出向いた時に、持ち帰り、僕に与えた本。
その1冊に、忌まわしい島として記されていた、ケツァル島の特殊言語だ。
ただ一度だけ、お母様が本に記されていた文章を一部、読んでくれた事があって、そこから幼少時、僕なりに解読した事があった。
だけど、遥か遠くの記憶だ、はっきりとその言葉の意味が思い出せなかったんだ。
次に、僕が思い出したのは、囚人部屋に記されていたあの象形文字だった。
ベリオストロフ・グリーンディの部屋。
あれも、ケツァル島の特殊言語だ。
間違いなく、このカインハッタ牢獄内にケツァル島の者がいる。
誰に何かを伝えようとしている。
誰にだ。
各囚人部屋から出て、他の囚人と交流する機会はない。だとしたら、看守か、囚人アタフの仲間か。
アタフは盗賊団ガリンシャにいた、その仲間か家族か。でも、ここに来て、アタフは誰一人面会に来た者はいないはずだ。
囚人部屋で唯一、出入りができる囚人は、ベリオストロフ・グリーンディ。
彼にアタフのケツァル島の特殊言語を伝えるには、あまりにも回りくどい。
看守に伝えようとしているのか。
まさか、
僕が、ベリオストロフ・グリーンディのいない時に、彼の囚人部屋に入って、壁の象形文字を見入っていたその姿を見た者が、
僕を試そうとしているのか。
ジスマリアの25日
カインハッタ牢獄内にて
_________________________
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

王太子に転生したけど、国王になりたくないので全力で抗ってみた
こばやん2号
ファンタジー
とある財閥の当主だった神宮寺貞光(じんぐうじさだみつ)は、急病によりこの世を去ってしまう。
気が付くと、ある国の王太子として前世の記憶を持ったまま生まれ変わってしまうのだが、前世で自由な人生に憧れを抱いていた彼は、王太子になりたくないということでいろいろと画策を開始する。
しかし、圧倒的な才能によって周囲の人からは「次期国王はこの人しかない」と思われてしまい、ますますスローライフから遠のいてしまう。
そんな彼の自由を手に入れるための戦いが今始まる……。
※この作品はアルファポリス・小説家になろう・カクヨムで同時投稿されています。
みんなで転生〜チートな従魔と普通の私でほのぼの異世界生活〜
ノデミチ
ファンタジー
西門 愛衣楽、19歳。花の短大生。
年明けの誕生日も近いのに、未だ就活中。
そんな彼女の癒しは3匹のペット達。
シベリアンハスキーのコロ。
カナリアのカナ。
キバラガメのキィ。
犬と小鳥は、元は父のペットだったけど、母が出て行ってから父は変わってしまった…。
ペットの世話もせず、それどころか働く意欲も失い酒に溺れて…。
挙句に無理心中しようとして家に火を付けて焼け死んで。
アイラもペット達も焼け死んでしまう。
それを不憫に思った異世界の神が、自らの世界へ招き入れる。せっかくだからとペット達も一緒に。
何故かペット達がチートな力を持って…。
アイラは只の幼女になって…。
そんな彼女達のほのぼの異世界生活。
テイマー物 第3弾。
カクヨムでも公開中。

オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる