上 下
123 / 136
第6章 偽りのアイドル

24、遠野達裄は託す

しおりを挟む
後日、俺は達裄さんと会う機会があり彼とスタチャについて尋ねてみた。
スタチャのライン友とかマジ?とか色々謎が多い。

「スターチャイルド?あぁ、姉が見出だしたアイドルだね」
「え?噂のギャルマスターの?」
「……姉さんをギャルマスターとか呼ばれると笑うからやめて」

耐えきれないという表情で笑いを堪えていた。
顔が半笑いになっている。

「俺の妹ってスタチャの元ネタのリーフチャイルドなんだよ」
「り、リーフチャイルド!」

それはもうジャパン中で知らない人はいないと言われているソロアイドル歌手。
当然ながら名前の通り、スターチャイルドはリーフチャイルドのリスペクト元として知られる。

リーフチャイルドの美しさは神話レベルとファンの間では語り継がれている。
チケット販売から完売まで数秒レベルと言われている。

「そ、それって5人の妹の1人?」
「うん。唯一俺の本当の妹なんだ」
「ん?は?……え?」

達裄さんは特に表情を変えるまでもなく普通に座っている。
冗談ではなさそうだ。

「ウチ、結構複雑なんだよね。ギャルマスターの姉も本当は俺の従姉弟だし、血すら繋がってない三つ子の妹がいるし」
「…………」

遠野家がドロドロのぐちゃぐちゃなのが伝わってきた。
それでも血が繋がってない妹を自分の命より大事と言い切れるこの人を格好良いし、尊敬できる人だなと思った。

「そういえば日曜日の夜にライン来てたね。『明智君と会ってきました』って。ははっ、中々凄い行動力だね彼女も」
「なんでファンなだけの俺に家に行くようにけしかけたんですか?」
「けしかけたつもりなんかないよ。俺は背中を押しただけ。自発的に動いたのは彼女の方さ」

俺と似た考え方をする人である。

そして、達裄さんはスマホを取り出し操作する。
何をしているんだろう?と思いつつ数秒間待機する。

「彼女また君に会いたいんだって」
「は?またそんな冗談ばっかり……」
「いや、ガチよ。『明智君にまた会いたいんですがどうしたら良いでしょうか?』ってラインがきた」

プライベートなメッセージは手で隠しつつ、スターチャイルドと書かれたトークのチャット画面を見せてくれる。
『会えばええやん』と返信して、変なスタンプを達裄さんは送っていた。

「マジだ……」

本気で俺に会いたいってスタチャから達裄さんへ連絡が行っていた。
それと同時に彼女が本物のスターチャイルドだとわかり、ちょっと顔の体温が高くなる。

「でしょ。そうだな、じゃあ君と出会った喫茶店でも貸し切りにして俺が彼女を連れて来てあげる。貸し切り代は俺持ちで。次の日曜日でいっか。確か彼女の予定も大丈夫だ」
「ま、マジっすか……?」
「男の頼みなら蹴りとばすけど、女の頼みなら頑張るよ俺は。あと、知り合いでスタチャに会ってずるいずるいとかならなかったかい?」
「…………なりました」

理沙と和が特に凄かった……。
兄さんを呼んで自分を呼ばないの酷いって色々責められた。
結果論とはいえ、本当に来ると思わんだろ……。

「ははっ、中学生は元気だね。じゃあ連れて来ると良い。……ただし」
「ただし?」
「君が信用と信頼できる人しか呼んではダメだよ」
「え?」
「彼女はアイドルだからね。間違ってもSNSに晒すバカいたら殺すよ?」
「は、はは……」
「店の確保だけお願いね。いつもあんなに客いないんだ。金払ったらマスターだって喜んで貸してくれるでしょ。コーヒーおいしい店なのにもったいない」
「言い方……」

本気で人を殺せる人が言うと説得力がやばすぎた。
この人『アンチギフト』なしでギフト効かないからな……。
とりあえず理沙とかならそんなこともないだろうし、大丈夫だろう。

またスターチャイルドに会える。
そう思うと俄然、今週のつまらない授業も乗り切れそうだ。







「彼女の『想い』に応えるのは俺や姉さんではダメなんだ……。……秀頼、君が彼女を認めてあげないとあの子は前に進めないんだ」
「……どういうことっすか?」
「偽りのアイドルの秘密だよ」

達裄さんはそういって俺を期待の目で『想い』を託した。
何がなんなのか全然わからないが、俺は『想い』を受け取っておいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

処理中です...