上 下
119 / 136
第6章 偽りのアイドル

20、スターチャイルド降臨

しおりを挟む
俺、絵美、タケルの3人の空気は凍りつく。
だってその視界にはアイドルであるスターチャイルドが一般市民の家に来ているのだから。

年齢は俺たちより1つ下でありながら、その顔付きは既に高校生くらいに大人びた顔付きである。
それでいて纏う空気は柔らかく幼い風に見える。

なんだこの存在感は……?

髪全体を金髪にして黒いメッシュを入れている。
普段は髪型をツーサイドアップにしているのだが、今日はオフだからか下ろしていた。



まさに星と形容するに相応しいスター。



「明智秀頼さんですよね。いつもお手紙読ませていただいています!」
「は、はい!ありがとうございます!」
「すいません、お昼前には来る予定でしたが、道に迷ってしまい少し過ぎてしまいました」
「は……ははっ、大丈夫ですよ」

き、気まずいし心臓がバクバクしている。
え?なんでスタチャが家にいるの?
来るって書いてたけど本当に来るの?

わからない、頭がグルグルと回る。

「あ、上がりますか……?」
「い、良いんですか!?」
「はい……」
「ありがとうございます。明智さん」

頭をペコリと下げて礼儀正しく靴を並べた。
違和感しかない。
自分の家の玄関にスタチャのコラ画像でも置いたのか不安になるくらいにミスマッチな絵になる。

「あ、あと……友人の佐々木絵美さんと十文字タケルさんです……」
「え?……は、はじめまして!佐々木です!」
「は?は?……よろしくお願いいたします、十文字っす!」
「はい!はじめまして!スターチャイルドで活動しています!」

状況が理解できない絵美と、緊張しているタケル。
なにがどうなっているのか?
そんな波乱に満ちたスターチャイルドの来訪であった。




「ちょっと十文字君!?な、なんでスタチャがここに!?」
「お……俺にもよくわからないんだ。秀頼にそそのかされて無理矢理連れられてきたんじゃない?」

そそのかされたとしても普通は来るわけないだろ……。

俺だってこれからどうすれば良いのかわからない。
とりあえず居間に連れて来て彼女を座らせた。

「あ……あの……、お昼家で作りますけど一緒に食べますか……?」
「良いんですか!?ありがとうございます!いただきます!」
「ちょっとー!?」

絵美に服の首元を掴まれて呼ばれる。
痛かったけど、ぐっとこらえる。

「え?え?わたしの料理をアイドルが食べるの!?」
「俺と秀頼より佐々木のが適任だ」
「確かにな」
「押し付けじゃん……。アイドルって何食べるの?」
「ふ、ふぐの刺身とかじゃない?」
「明智家にふぐなんかあるわけねーだろ。リクエストするしかないだろ……」

絵美が緊張した表情である。
料理上手だから胸を張っても良いと思うけど。

「す、スターチャイルドさんは何食べたいですか?」
「ラーメンが食べたいです」

庶民的だった……。

「良かった……、ふぐなんか切ったことなかったもん……」
「ふぐの刺身って言われたら出すつもりだったのか……」
「やっぱりスターはふぐの刺身のイメージあるよな」
「タケルのイメージはどんなやねん」

絵美が台所へ行き、俺とタケルはお茶とお菓子の準備をした。
タケルにクッキーを渡し、俺はコップに全員ぶんのお茶を注いだ。

「どうも、こちら粗茶ですが」
「そんなにかしこまらなくて大丈夫です」

何をするにしてもドキドキして緊張してしまう。
準備を終えて、俺とタケルがスタチャの相手をすることになる。

「あと、別にスタチャはふぐの刺身を食べたことはありません」
「普通に聞かれてるじゃねーか……」

コソコソしていた会話が無駄であった。

「スタチャは高級な料理よりも庶民的な料理の方が好きですよ。明智さんも十文字さんも気になさらないでください」

スターチャイルドの一人称はスタチャである。
こんな時もキャラを通してくれると本物って感じがする。

「俺、公式ファンクラブナンバー11の十文字タケルです!妹と秀頼で毎日応援してます!」
「わぁ!公式ファンクラブのメンバーさんなんですね!応援ありがとうです☆」

スタチャの可愛い演技が突き抜けている。
いわゆる言葉に星が付くくらいに可愛い笑顔は、通称・スタチャスマイルと呼ばれる。





スターチャイルドのキャラクターについて前世を思い出す。

スカイブルーというゲームメーカーの作品にちょいちょい出てくるスターチャイルドというキャラクター。
『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズでは直接的な登場はまったくしない。
しかし、主人公・十文字タケルが応援しているアイドルとしてサラっと触れられるくらいの存在。
スカイブルー作品のマスコット的キャラクターやスターシステムキャラクターとして名前が出るのだ。

一応初代のビジュアルファンブックにスターチャイルドの解説があったのを思い出す。
ゲーム本編には登場しないのに、わざわざ書き下ろしスターチャイルドの立ち絵姿を公開するという大盤振る舞いだ。
プロデューサーである桜祭のコメントには『設定は考えています。ただ蛇足になるのを危惧して登場はさせませんでした。もしかしたら続編で登場するかもしれません』と書き記してあった。

ただ、セカンド以降はスタチャについて触れられることもなく出番がお蔵入りになったキャラクターである。

『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズが反映されているこの世界だが、津軽和などが設定されてる以上ゲームやビジュアルファンブック以外にも、スカイブルーの運営会社しか知らない設定も反映されている可能性は極めて高い。

ユーザーに公開されていない情報が俺の死亡フラグに繋がるとしたらちょっと冗談じゃ済まされない……。




それにしても……。




「スターチャイルドは可愛いです!」
「え?」
「どうしたんだ突然?」

スタチャとタケルにとても驚かれた。
でも、せっかく目の前にスタチャがいるんだ。
手紙じゃなくて、直接スタチャに『想い』を伝えたかった。

「いつもスターチャイルドから元気をもらっているから本当に会えて嬉しいです!」
「あ、ありがとうございます!明智さん!」
「俺、初期からスタチャ応援してました!タケルとかタケルの妹とかに布教しまくっていて、親友たちとより仲良くなれました!会話するネタがなかったらとりあえずスタチャの話題を出すくらいに語りあえるんですっ!」
「…………」

スターチャイルドが俺の顔を見ていた。
「……そうですか」と呟く彼女。

「それはとても光栄ですね☆」

スタチャスマイルで俺の言葉を返してくれた。
なんか夢のような出来事だ。

「こないだこいつスタチャのファンレター読みながら『好きぃぃぃ!大好きぃぃぃ!愛してるぅぅぅ!』とか叫んでいて、俺とかあっちで料理している佐々木に見られてたんすよ」
「言ってねーよ!?誇大表現やめろよお前っ!」
「うぉぉ!?や、やめろ秀頼!?ギブギブ!最近のお前鍛えてるからシャレになんねぇ!?」

チョークスリーパーホールドでタケルの首を閉める。
スタチャ本人にそんなドン引きさせる情報を入れるな。

「ははははっ!おふたりは仲が良いのが伝わってきますね」
「本当に2人は仲良すぎなんですよ……」
「佐々木!」

呆れた声の絵美がお盆に4人前のラーメンを持ってきた。

絵美がスタチャの隣に座り食事の時間になる。
俺、絵美、タケルの3人の食事は何回かあったが、スタチャを入れて食事なんてことは人生で考えたこともなかった。

しかも、ラーメン食べるとか考えられるか……?

「生麺のやつですね!スタチャ大好きです」
「うわぁ!?凄いよ秀頼君!?彼女はわたしたちと同じ人間なの!?」

特にスタチャファンというわけでもなく、俺から勧められたら曲を聴く程度の絵美すらアイドルの輝きに負けていた。

「スタチャも人間です☆」

スタチャスマイルで俺たち庶民3人は全員顔を赤くした。
彼女の虜に落ちていく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

ここは乙女ゲームの世界でわたくしは悪役令嬢。卒業式で断罪される予定だけど……何故わたくしがヒロインを待たなきゃいけないの?

ラララキヲ
恋愛
 乙女ゲームを始めたヒロイン。その悪役令嬢の立場のわたくし。  学園に入学してからの3年間、ヒロインとわたくしの婚約者の第一王子は愛を育んで卒業式の日にわたくしを断罪する。  でも、ねぇ……?  何故それをわたくしが待たなきゃいけないの? ※細かい描写は一切無いけど一応『R15』指定に。 ◇テンプレ乙女ゲームモノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

処理中です...