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第6章 偽りのアイドル

7、明智秀頼は読ませたい

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津軽がじろじろとUSBメモリを見ている。
フフフ、これを聞いたら驚愕するぞ……。
ちょっとニヤニヤしてしまう。

「その顔キモい」
「はい……。ごめん」

顔が不評だった。

「で?なにこれ?」
「USBメモリ」
「そんなこと聞いてないわよっ!中身について尋ねたのよ!」
「原作を知っている津軽にしか見せられない貴重なデータだ」
「……なんですって!?……これ、とてもヤバいデータじゃない……」
「とてもヤバいデータだ。機密度マックスのピ●チュウレベルだ」
「怖い、怖い……。え……?明智君、これに何を入れたのよ……?」

前世について明かしたマスターにさえ見せられないくらいに機密情報を詰め込んでいた。

「まさか、原作を忘れた私のために原作のデータをまとめてくれたの!?」
「え?そんなわけねーじゃん」
「……え?」
「津軽がセカンド以降を覚えてるの前提としていた俺がそんなデータ作るわけないじゃん」
「あ……。はい、そうですか……。…………じゃあこれの中身何?」

USBメモリを突き出してくる津軽。
よほど中身が気になるらしい。

「安心しろよ、別にウイルスなんかじゃない。ワードのデータだ」
「ワード?」
「あぁ」
「で、何の文章が詰まってるのよ……?」

津軽は気になって気になって仕方ないみたいだ。
横文字を使っても全然驚かない。
しょうがない。
俺がみんなに黙っていた情報を開示する時がきたのだ。





























「……タケ×トワのイチャイチャSS(サイドストーリー)だ」
「は?」
「『鳥籠の少女』シナリオのIFを詰め込んだ俺オリジナルのSSがこれに入ってる。なんと、ワードのテキスト100ページ以上の超ボリュームだ」
「バカじゃないのあんた!」
「構成1年。ちびちび書いてようやく先週書き上げた新作だ」
「くたばれ、今すぐにくたばりなさい!」

津軽の暴言が凄まじい。
よっぽどタケ×トワアンチと見える。

「まぁ、待てって。俺はこう見えても前世では『悲しみの連鎖を断ち切り』のSS職人で有名なんだぜ」
「知らないわよそんなの」
「なん……だと……?」

『悲しみの連鎖を断ち切り』ユーザーでありながらSSを知らない……?
なんだこの女?
にわかか?

「私SS職人はリアル本能寺さん、テトテトさん、みなーさんくらいしか知らないわ」
「知ってるじゃん」
「なにが?」
「俺がリアル本能寺だよ」
「……ぅええ!?」

なんだ、やっぱり知ってるじゃないか。
タケ×トワ信者の希望の星、リアル本能寺のSS職人を。

「うそっ!?やばっ!私、『病弱の代償』のアフター好きでした!あれ書いてあれ書いて!」
「……いや、あれは思い入れがなくて……。タケ×トワしか興味ないし」
「使えねー」

津軽ががっかりした声を出す。
まさか『病弱の代償』アフターとか、タケ×トワ以外のマイナー3作について触れる奴がいるとは思わなかった……。
あれは黒歴史だ。

「でもリアル本能寺さん、私が死ぬ1年くらい前から活動してなかったのよね」
「じゃあ君が死ぬ1年前に俺が死んだんでしょ」
「あ、なるほど!…………え?」
「どうした?」
「いや、え?私が死ぬ1年前に君死んだの?」
「変な干渉はやめてくれ。死んだ記憶とか思い出したくないし」
「あ、……ごめんなさい。…………ないない」

津軽が俺の顔を見て何かを否定していた。
なんかすげー失礼な感じに見下されたのだけは伝わってきた。

「タケ×トワで100ページ書くなら『病弱の代償』書いてよ」
「3ページくらいで良いなら」
「やる気のなさが凄い!」

そんなにシチュエーションが出てこないし。

「ほら読んでくれよ。めっちゃ気合い入れたんだ」
「……いや、よく親友2人のシチュエーションでSS書いたわね……」
「このIFの見所は、明智秀頼と佐々木絵美が悪人じゃなかったらの『もしも』の物語なんだぜ」
「ただの現実いまよ、それ」
「……え?」
「あんたも絵美も悪人じゃないでしょ!バカなんじゃないの!?」
「はっ!?しまった!?」

確かに……!?
タケルと秀頼おれが普通の親友だったらって感じに書いてしまった!
…………あれ?
リアル永遠ちゃんの鳥籠問題にタケル全然関わってなくね……?

俺の妄想シチュエーションと同じでありながら、過程が全然違うぞ?
あいつリアルでゲーセン行ったくらいだぞ!?
なんもしてねーじゃん!

というかこの物語に登場する明智秀頼って俺みたいなもんか!?
うわぁ、めっちゃ恥ずかしい!

「……仕方ない。次はタケ×まどで新作作るか。書いたら読んでよ」
「絶対嫌」
「なんで?君じゃなくて、原作の姉者よ?」
「自分と同じ顔、同じ声してる女のカップリングSSとか誰読むのよ気持ち悪い……。脳ミソにウジ虫でも湧いてるんじゃないの?」
「お前文句ばっかりだな。逆になんのカップリング見たい?」
「とよ×くる!」
「な、な、な、……何それ?なんのゲーム」
「ごめん。欲望が出て間違えた……。『悲しみの連鎖を断ち切り』にそんなカップリングはないわね……」

津軽が赤い顔になる。
俺も赤い顔になりそうだった。

なんの作品のカップリングが知らないけど、まるで豊臣×来栖みたいでちょっと恥ずかしいし、照れる。

「わかったから!読んであげるから!もう帰って!」
「絶対読めよ。俺の機密SS。世界で読者はお前しかいないんだから」
「わかったから!最低5ページは読んでやるわよ」
「わかった最低5ページは読めよ」
「わかったわよ。5ページだけ読んでめちゃくちゃ批判してあげるわ」
「クリエイターとして悪い意見も受け止めてやる」
「クリエイターの鑑みたいな男ね」

こうしてUSBメモリを津軽にあげて、そのまま俺は帰宅した。
カップリング妄想を語り合うのはやっぱり楽しいな。
津軽とはそういうのを言い合える仲なのが好きだ。























「あああ!良い!このシチュエーション良いですよ!私にはない発想ね、流石明智君……

……あれ?これ十文字君を豊臣君に変えて、永遠を来栖わたしに書き変えたら……

きゃあああああ!良いっ!なにこれ!?最高過ぎか!無理っ、死ぬ!好きすぎ!豊臣君ったら、もう!恥ずかしがりやか!

うはあああああ!うへへへへ、きゃああああ!いひひひひひひ!

そ、そんな……、豊臣君ったら……。そうそう、はじめてなのっ!」



「…………姉者がまた処女拗らせてる。やはり明智秀頼のせいか……」


SSの登場人物の名前をすり替えし、嬉しい悲鳴を上げていた円。
その姿を呆れた目で見ていた和。
妹に情けない姿を晒していたことを姉は知らない。





ーーーーー


「最高だったわ明智君!」
「だろ?」
「もっとたくさん書いて!タケ×トワでもタケ×まどなんでも良いからあなたの引き出しを全部文章に込めなさい」
「はいよっ!書きまくってやるよ!」

後日、興奮した姿の津軽が現れて、大絶賛の意見をもらった。
そして、またタケルとヒロインのカップリング妄想SSをご所望させる。
津軽と新しい秘密ができた出来事であった。
















優しい世界

この話に登場する3人、全員頭狂ってると思う。

「じゃあ君が死ぬ1年前に俺が死んだんでしょ」
常人はこんな返し方しません。
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