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第6章 偽りのアイドル

5、明智秀頼は覚えてない

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「打ち合わせをする前になんだけど……」
「ん?」

津軽が津軽妹が出て行ったドアに視線を送る。

「あんた結構和に気に入られたわね」
「どこがだよ?目腐ってるんじゃないか?」
「鈍感で心が腐ってるあなたに言われたくないわ」
「え?」

鈍感って察しが悪いということか?
結構前世の両親の教えを守り、観察眼を育ててはいるつもりだが。

「だって和に笑顔で毒を吐かれたんじゃない」
「……よくわかってるな。流石姉者」
「姉者言うな。和は嫌いな人には笑顔なく毒を吐くわ」
「ただの姉者じゃないですか」
「姉者言うな。和レベル的にクラゲランクくらいには印象が高いわね」
「だからピンと来ないんだよ!」

ハムスターもクラゲも良いのか悪いのか全然わからない。

「因みに津軽妹の最高ランクは?」
「ホ●ミスライムよ」
「ホ●ミスライム……」

津軽が指を指したところにホ●ミスライムのぬいぐるみがあった。
クラゲが好きだからホ●ミスライムが好きなのか。
ホ●ミスライムが好きだからクラゲが好きなのか。
そういうのを聞いてみたいところだ。

「話を打ち合わせに戻すけど、絵美にギフト適正がありというなんか予想外な結果になったわけよね」
「そうだね」
「一応原作でもギフトは陽性だったけど、明智秀頼による常時ギフトの力を浴び続けるという影響だったんだよね」

2人してうーんと唸る。

「単に明智秀頼がそういう考察をしただけだったんじゃないの?」
「まぁ考察ってだけで決定ではなかったしな。もしかしたらボツになった絵美ルートでギフトについて書かれたかもしれねーな……」
「原作の絵美ルートね。私は見てみたかったけど……。絵美がセカンドで出番無くなって、明らかにセカンドに代替えヒロイン出たわよね」
「あぁ、詠美な」

ユーザーから絵美嫌いって意見多過ぎてヒロインになっても攻略したくないって言われまくったからな……。
悲しい事件だったね。
絵美が好印象に残るイベントがほとんどないからな。

ギャグ描写とはいえ、タケルを見て舌打ちするからね原作の佐々木絵美。
そこで嫌いってなるユーザーが多かったはずだ。
秀頼に操られていたとはいえ、性格が悪い悪女で描かれていたしな。
人間だし舌打ちくらいするし、許してやれよとは思う。
俺は好きでも嫌いでもないキャラだった。

しかし実際問題、前世でコンビニ行った時、知らんギャルから『退けよ』って感じに舌打ちされた記憶ある。
誰でも舌打ちはするよね。

……あ、でもめっちゃ傷付いたな……。
…………舌打ちはやっぱり印象悪いわ。
ヒロインからされたら攻略しねーわ。
絵美アンチの気持ちが今なんとなくわかった気がする。 

そりゃあ貴重なヒロイン枠を小物の悪役より、違うヒロイン置きたいよね……。
でも、今の絵美なら間違いなくヒロインに置いても良いくらいには魅力的だと思う。
『悲しみの連鎖を断ち切り』ユーザーにそれが伝えられないのが悔しい。

なんやかんや明智秀頼が1番不快だから消えろっていう意見から見れば、絵美アンチなんか優しいものだ。

明智秀頼のサジェスト汚染凄いからな。
『死ね』『ゴミクズ』『竿』『NTR』『かませ』『地獄に落ちろ』『キ●ガイ』『リストラしろ』など、見ているだけで気が滅入る単語ばかり並べられていた。
『悲しみの連鎖を断ち切り』を知らない人からなにこれ?とか驚かれる単語だ。

「そうだ、津軽に言っておきたかったことがあるんだ」
「なによ?」
「初代はかなりプレイしまくったから大丈夫だけど、実はセカンドとファイナルはもうそんなに覚えてない」
「……は?」
「大まかな流れは覚えてるし、ノートにある程度残してるよ。……ただ、既に体感で15年弱も前にプレイしたゲームの内容はほとんど覚えてない」
「…………」

もはや物理的に覚えてない。
ゲームをまとめたノートを見ると「あー、あったな」くらいには思い出せるけど、すっかりこっちの世界の記憶ばかりで、前世の記憶が薄くなりつつある。

「ど、ど、ど、ど、どうすんのよあんた?」
「大丈夫だよ」
「なんだ、大丈夫か……」
「津軽が覚えてるでしょ?」
「…………」
「円ちゃーん?なぜ目を反らす?僕だよー、明智だよー?姉者?」
「…………」 

みるみる内に津軽の顔に汗が浮かんでいる。
これは焦りの顔だ。

「ち、因みに明智君が1番印象に残ってるシナリオは?」
「鳥籠の少女」
「ですよねー」

永遠ちゃんが1番に決まってるじゃないか。
何を言っているんだこの女は?

「でもさ……、宮村永遠って中古……」
「中古じゃありませーん!中古とか言うな」

永遠ちゃんアンチが言ってくる単語。
『中古』。
要するに使われた後という意味だ。

「CEROがDのゲーム(対象年齢17歳以上)にそんなあーるじゅうはち要素があるわけないだろ!」
「だって二番煎じとか」
「初恋の気持ちはゴミクズに向いてたのはしゃーない。でもそれまでだから!身体は無事だから!」
「胸を触っておいてそれは……」
「さてはタケ×トワアンチだなオメー」

絶対タケル×永遠ちゃんのカップリングしかあり得ない。
秀頼×永遠ちゃんとか想像するだけで気持ち悪い。

また、秀頼が永遠ちゃんに下した最後の命令の【■■】のシーン。
2文字ということで、もっぱら『黙れ派』と『ヤレ派』に別れる。
タケ×トワアンチは必ず『ヤレ派』を推すという害悪行為をしてくる。
プロデューサー兼シナリオライターの桜祭は『想像にお任せします』とぶん投げたせいで、未だに終わらない秀頼の最後の言葉論争。
『黙れ』でしょ、絶対最後『大丈夫だよ、嫌なこと全部忘れさせてやるから。【黙れ】』って言ったはずだ!
流石にそんなに救いのない展開はない!
絶対にありえないから!

「でもかなりバズってたヒデ×トワの同人誌は背徳感がリアルでちょっと興奮した記憶ある」
「あぁ、絵美入れて3人でするやつね。あの作家はエイエンちゃんを曇らせることで有名な人だから……。でも絶対タケ×トワだから!」
「わかったわよ」

ヒデ×トワは滅べ。
秀頼が永遠ちゃんに近付くだけで許せない。
そういうのもあって、ちょっとリアル永遠ちゃんに近付くのは遠慮してるところがある。

逆にタケルと永遠ちゃんが喋っているところを教室で見掛けるとほっこりする。
末永く幸せになって欲しい。

「そんなエイエンちゃん信者の明智先生ですが……」
「明智先生言うな」
「あんた、エイエンちゃんを恋愛対象としてはどう見てるの?」
「はぁ……。愚問だな……」

本当に愚問な投げ掛け過ぎて笑ってしまう。
そんなの、俺の中ではとっくに答えが出ている。
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