上 下
93 / 136
第5章 鳥籠の少女

48、宮村永遠は素で突っ込む

しおりを挟む
「ごめんなさい……、絵美はまだ準備ができてないの……」
「はあ……」

次の日、一向に現れない絵美を心配して佐々木家へ訪れると申し訳なさそうな絵美ママが対応してくれていた。

『ごめんなさいいいいいいいいい、昨日楽しみで寝れなかったんですううううううううう』
「その喋り方どうにかならない?」
「はは……、絵美らしいですよね」

絵美の叫んだ喋り方はもう見慣れているので苦笑する。
絵美ママは止めて欲しいのかなとちょっと詮索したりする。

「娘を待たないで先に行ってて大丈夫よ」
『すぐに向かいますうううううううううううう』
「だからやめなさいって!」

佐々木家親子の口喧嘩に巻き込まれない様に、気配を消して玄関を後にした。
待ち合わせ時間にはとても余裕がある。
お言葉に甘えて俺は駅の方へと向かっていく。

「いつの間にか夏になってたんだなぁ……」

ちょっと前まで中学に入ったばかりだったのに、気付けば夏。
また、俺が死んだ夏が始まっていた。

信号無視をしてくるトラックとか怖いよね、とか思いながら横断歩道を渡る。
『悲しみの連鎖の断ち切り』の世界に巻き込まれて約10年ほどか……。
まさかこんなことになるなんて……。
ゲームをプレイするぶんには楽しかったけど、明智秀頼とかいうキャラクターを生み出したスカイブルーとかいうゲームメーカーは恨むぜこの野郎……。
プロデューサーでシナリオライターを務めた桜祭とかいう謎の男はとんでもない鬼畜男だぜ……。

いつかリアル本能寺の変を起こすぞ桜祭とかいうプロデューサー。
でも永遠ちゃんというキャラクターを生み出したことは感謝するぞ桜祭の野郎!

くだらない感傷に浸りながら待ち合わせ場所の駅に向かうと1人の人影があった。

「おはようエイエンちゃん」
「お、お、おはようございます秀頼さん!」
「ああ、そんな頭を下げないで……」

ペコペコと頭を下げてくる永遠ちゃん。
俺みたいなゴミクズに頭を下げる必要はないんだ……。
むしろ俺が頭を下げるべきなのに……。

まだ誰も来ない待ち合わせ。
永遠ちゃんと二人っきりでちょっと気まずい空気になっていると、永遠ちゃんがこの空気を壊そうとしたのか口を開いた。

「秀頼さんって付き合っている人は居るんですか?」
「お、俺?……俺は居ないよ。……た、タケルも居ないぜ!」
「聞いているのは秀頼さんです」
「あはは……」

先回りしてタケルがフリーというのを伝えたんだけど、ちょっと早すぎたかも……。
いまなら主人公空いているんですよ。

「き、気になる人とかは居るんですか……?」
「気になる人……」

気になる人?
そんな相手は明智秀頼に存在するはずがない。
……けど、豊臣光秀としてなら。

「気になる人は居た……」
「え?……そうなんですか……?」
「といっても片思いだよ。それにもう会うこともできない古い錆びれた想いだし……」
「そうなんですね……。いまは特にそういう人は居ませんか……?」
「いまは……、そうだね。恋愛とかを考えてる余裕はないかな……」
「そうなんだ!」

ちょっと嬉しそうにはにかむ永遠ちゃん。
ああ、この幸せそうな顔がずっとゲームで好きだったんだ。
たぶん俺を恋愛できないゴミクズって笑っているんだろうけど、その笑顔は素敵だ。

いまだに前世の恋愛引きずってるはキモイよな……。
来栖さん、俺が居ない世界で幸せになれたのかな……?
俺は大好きだったゲームの後日談より、俺が元生きていた世界の後日談が知りたいよ。

「なーに辛気くさい顔してんのよ、あんた」
「津軽……?」
「円!おはようございます!」
「どもども」

俺と永遠ちゃんとの2人っきりというシチュエーションも終わり、津軽という邪魔が入ってきた。

「あちゃぁ……、邪魔しちゃいましたかな明智君?」
「うっぜ……」

永遠ちゃんのファンであることを知っている津軽からからかいの目で見られている。
こいつは悩みとか無さそうでうらやましい。
同じ前世持ちとしてズルすぎないか?

「相談事があるなら恋愛マスターな私にどーんと任せなさい!」
「わー、頼もしいですね」
「でしょう!」

ピースサインを永遠ちゃんに向けている津軽。
こいつ、前世が俺と同じ世代と仮定しても30前後だぞ?
これが30前後の女のする仕草か……?

「あんたスゲームカつく顔を向けるわね……」
「尊敬しているんですよー。トーマス・アルバ・エジソン並みに尊敬してます」
「こいつ後でしばこう。あと、関係ないけど急に『トーマス・アルバ・エジソン』とかいう単語が出て驚いたわ」
「じゃあ横文字NGだね」

津軽と2人っきりになったら背後に気を付けようと心に誓う。
本当にもうちょっと彼女にはおしとやかさが欲しいね。
それこそ来栖さんみたいなね。

「でも確かに円は恋愛経験豊富そうです!」
「ふふーん!任せなさいよ!」
「えー、彼氏とかいるんですかー?」
「居ないけど」
「居ないんかい」

素の永遠ちゃんの突っ込みが入る。
あのおしとやかな永遠ちゃんが素の突っ込みを見せてかなり新鮮で笑いそうになった。
これゲームでも見たことないレアなシーンだ。
あわわ、録音してPCに入れておきたい。

「私はちょっと過去の恋愛を引きずっているだけよ」
「そ、そうなんですか……?」
「想い人が居たんですよ!……でも、もう会うこともできない古い錆びれた想いだけど……」
「は、はぁ……。あれ?なんかデジャブ……。でも新しい恋愛はしないんですか?」
「いまは……、そうね。恋愛とかを考えてる余裕はないかな……」
「秀頼さんと同じこと言ってるじゃん」
「え!?この男と!?なし!私バリバリ彼氏と毎日やってる」
「ウソじゃないですか!」

シリアスな空気を壊してまで俺と同じ境遇を否定する津軽。
よっぽど俺は彼女に嫌われているんだなと自覚する。
やっぱり初対面の時のあれ、未だにキレているんだろうな……。

「あっ、!見て兄さん!明智君たち見付けた!」
「お手柄だぞ理沙!」

続々とメンバーが揃って来る。
絵美もその後すぐに合流。
最後に谷川親子が合流してきた。

「よーし、プール行きますよ!」

絵美が提案し、永遠ちゃんが行きたがっていたプールの待ち合わせが全員そろったのであった。
暑い1日を沈めてくれることを祈るばかりだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜

k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」 そう婚約者のグレイに言われたエミリア。 はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。 「恋より友情よね!」 そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。 本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~

りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。 ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。 我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。 ――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。 「はい、では平民になります」 虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。

処理中です...