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第5章 鳥籠の少女

23、明智秀頼は自己開示をする

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「前世ねぇ……、やっぱり君中学生だね」
「もういいや、萎えたわ」

『前世を信じるか?』、それを尋ねた反応がこれだった。
俺だって『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズがなければ前世なんか信じないだろうしな。

「良いじゃない、そのまま続けなよ。僕もそういう話題好きだし。そんで、そんで?」
「俺さ、前世の記憶あるんだよ」
「…………はぁ」

マスターは既に俺の話題が飛躍しすぎていてポカーンとしていた。
常にリアリストだった俺から突然世界観の変わった話をされたからであろう。

「ははは……、今日はやけに変なことを語るね」
「その世界ではさ、ギフトなんか存在しない場所で俺は高校生をしていた。高2の夏、俺さ信号無視してきたトラックに跳ねられた……。右肩より上に上がらないケガをして受け身取れなかったから即死したんだろうな……」
「ちょ、ちょっと?秀頼君……?」
「そういう記憶が、叔父さんに虐待されていて5歳の頃頭の中に入ってきた。そのまま腹を蹴られて……」
「ほ、本当なの?それ……?」

俺の身の上話が、あまりにも異質だったのか、ドン引きしながらもマスターは話を聞いていた。
十分におかしい話だと、我ながらそう思う。

「ギフトが覚醒した。……そして、将来俺は高校生で死ぬ自分の末路を目の当たりにする」
「…………はは。えっと、どうしよう。何から聞けば良いんだろう?」
「明智秀頼という男は悪魔だ」
「え?」
「色々な人を罠にかけて、自分のやりたい欲に衝動的に動く。ギフトを用いて人を騙し、犯し、殺害。そういう人間の皮を被ったクズでゲスな悪魔だ」
「……待ってよ、そんな君の父親みたいな」
「マスターの話を聞いてすぐにピンときたよ。あぁ、性根が腐ってるのは親子の血なんだ。遺伝なんだって。はじめて父親について聞いたけど、なんだよそれ……。未来の俺の方がやばい存在じゃねーかってな」

マスターは俺の未来の姿に父親と重ねているようだった。
『そんなのあり得ない』、そうやって笑うこともできるはず。
でも、父親の話を持ちだされると、マスターも茶々を入れなくなってきた。

それから俺のこと、全部明かした。
ここがゲームの世界。
俺がクズゲスな悪役で、人を不幸にする存在があてがわれることなど。
ゲームで起こる出来事。
色々、はしょったところはあるがきちんと聞いてくれた。


ーーーーー


「この世界がギャルゲーって……。しかも、君や咲夜の友達でも前世持ちでこの世界がゲームと知っている子がいる……?……やばいな、色々と信じられない」
「でも、あながち嘘とも言いきれない」

そう言うとマスターが考え込む。

「……僕は小学生の時から君をずっと見てたけど、君全然成長してないよね」
「バカにしてんのか?」
「そうじゃなくてさ。君の自我が昔から既に完成されてたんだよね。子供は成長するけど、大人は成長しないからね。こんな子供っぽくない内面の子供いる?って疑問だったけどそっか前世持ちか。確かに、そこは腑に落ちるね」
「内面的にマスターと同じ心が廃れた大人だからな。マスターを親ではなくて兄弟に思うし、咲夜ら同級生は妹とか娘とかそういう目で見ちゃうんだよな」
「誰が廃れた大人だよ!(……でも、あぁ。同い年を女として見てないから無自覚すけこましなのか……。咲夜も厄介者を好きになったねぇ)」

突っ込み、そして小声でボソボソとマスターは何か呟いていた。
徐々に俺の話を信じていることがわかる。

「色々と大変だねぇ……」
「わかってくれるか、マスター!?」
「咲夜も」
「なんでだよっ!?」
 
突然、咲夜を同情し始めた。
今の会話のどこに咲夜が関わる要素があったのかまったくわからない。

「で、君のギフトが『命令支配』だって…………?冗談じゃないレベルでかなり危険なギフトじゃんよ……」
「あぁ。マスターに咲夜を殺せってギフトで命令したら誰も逆らえないくらいにはやばい。俺を信じないなら今すぐにそれを実行する」
「脅すんじゃないよ君は!」
「ゲームでは、俺が中学に上がる前に叔父さんとおばさんを自殺に見せかけて殺害した描写があったな」
「…………、うん。前世を思い出してくれて良かったよ」

唖然として、苦笑いをするマスター。
カウンターに常備された水をコップに注ぎ、一気飲みをしていた。
『ふーっ』と、ため息を付く。

「それで、ゲームの主人公というのが……、咲夜の友達の1人なんだね」
「あぁ。十文字タケルっていう俺の親友だ。『アンチギフト』という、ギフトの効果を打ち消す能力だ」
「うわー、主人公っぽい」
「だろ?俺のギフトはあくまで主人公のかませ犬なんだよ。だから悪役の俺にチートにさせて、それを主人公が打ち破ってざまあさせるのがゲームの流れだ」

まだタケル本人は『自分がギフトを所持している自覚がない』なども教えておいた。


「で、当然ギャルゲーの主人公だからモテる」
「羨ましいねぇ。君はその……残念だね……」

オブラートに包もうとして失敗したってニュアンスのマスター。
俺も、どうせならタケルに生まれたかったよ。

「それを言うなよ……。で、咲夜もどうやら主人公のタケルに片思いしてるみたいなんだよ」
「は……?」
「凄いよなぁ。タケルは咲夜と関わりが薄いと思ったのに無自覚にたらし込むんだからな。親父のあんたもタケルから『お義父さん』って呼ばれる日がくるかもな」
「凄いな」
「あぁ、タケルは凄いよ」
「いや、秀頼君が凄いよ」
「え?」

さっきからちょいちょい俺と違う意見になるマスター。
大人の視点と、俺の視点に少しズレがあるようだった。

「ところで咲夜はゲーム的にいうとパッケージヒロインだよね?」
「あり得るはずがないだろ……。咲夜とマスターはゲームに登場しないよ」
「そうなん?」
「うん。だからこそ、マスターと咲夜はゲームの流れから外れているはずなんだ。だからこの話を相談できたのも、マスターがゲームの登場人物じゃないからだ。原作キャラにこんな相談できないよ」

幸せが約束された2人だ。
多分2人でささやかに喫茶店を運営しているとかそんな役割なんだと思う。

「マスター、……俺はまた若くして死にたくない。きちんと大人になってから死にたい……。だから相談役としてだけで良い……。力になって欲しい」
「……」
「結局、口悪いのもおちゃらけるのも、すかしているのも俺に自信がない現れなんだ……。本当は毎日怯えている。高校に入ったら、色々なことに巻き込まれるかもしれない」
「わかったよ。なんでも相談しな。可愛い弟の頼みだ。話くらいならいくらでも聞くよ」

マスターからしたら『何言ってんだこいつ?』案件だが、渋々納得はしてくれた。
津軽も相談役みたいなもんだが、どうしても男女の壁、遠慮の壁を感じる。

そういう意味ではそれらを取っ払らえるマスターとの関係はやりやすい。

「あと、この話題は人に言うなよ」
「言うわけないでしょ。ただ、これからも咲夜だけはよろしく頼むよ。それだけ約束してくれたらいくらでも相談乗るからさ」
「交換条件というやつだな。俺が咲夜を相手するから、マスターが俺を相手にするという」
「…………条件なしで咲夜と関わって欲しいところだけど」

今日は色々と喋り過ぎたし、マスターも頭の整理が必要だろう。
そろそろ打ち切ろうと俺は立ち上がる。

「ありがとうマスター、すっげー気が楽になったよ」
「はいはい、じゃあまたねー」
「信じてくれてありがとうな!」

まさかマスターに全部ぶちまけるとは思ってなかったけど、ギフト持ちがバレていたし良いかとなる。
そのまま、喫茶店を後にして自宅へと戻って行った。


ーーーーー

「最近の女の子は年上好きが流行っているとか言うけど、本当なのかもねぇ……。まぁ年齢が10とか20上を連れてくるとショックがデカイけど、精神年齢が20弱程度年上で同い年か…………。ありだな」

マスターは誰もいない店内で1人考え込んでいた。

「このまま娘とどうやって結婚までさせよう……。妹か娘としてしか見ていない同い年を落とすのは大変そうだ」

無人になった喫茶店内に1つ、大きいため息の音が響いたのであった。
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