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第5章 鳥籠の少女

12、鳥籠の少女は夢を見る

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谷川咲夜さんと会ってから数日、明智さんと絵美は日々色んな計画を練っているらしい。
私は着々と父からの言い付け通り、門限を守るしかできなかった。

「永遠……」
「ごめんなさい、早く帰る必要があるの」

せっかく仲良くなった円からにも何も言えずに、友達と関われないのが辛かった。
楽しかった買い物以降、みんなとの絆がなくなっていくみたいで心が落ち着かなかった。

「大丈夫だよ、もうちょっとだよ。あと数日だけ耐えて」
「絵美……、ありがとう……。ありがとう」
「それはすべてが終わってから聞くよ」

絵美から抱きつかれて、泣きそうになるのをぐっと堪える。
多分2人がいなかったら、私はもう潰れていた。
それくらい、心の支えになっていた。

家の中は、早く帰ってもギクシャクなまま。
息が詰まる家で1秒でもこんな家にいたくないと思いながら必死に勉強する。













そして……。

「よく耐えたね。宮村さん、今日全部を解決させよう。父親との束縛も終わりだ」
「明智さん……」

昼休みの図書室で、明智さんからその言葉が聞けた。
絵美も嬉しそうに笑っている。

「ふふふ……、今日の作戦を発表するね」
「まず、今日は門限をぶっちぎりで過ぎよう」
「え……?な、なんでそんなこと?」
「子供が遅く帰って心配しない親なんかいないでしょ?そこに漬け込み私と秀頼君が説得するよ」
「そっか。なるほど、2人が説得してくれるなら安心だよ」

こうして、2人の作戦に乗った。
まずは私の家近くにある公園へ3人で訪れて時間を潰す。

「じゃあ最後にアドバイスをするぜ」
「うん、わかった明智さん!」
「【■■■■■■■■】」

そのままこれから実行することの流れを確認する。
私だけが単独行動、2人が一緒に別行動になる。

「あと、家に着いてインターホンを鳴らしても家族が永遠ちゃんを入れてくれない場合はこの封筒の通りに従ってね」
「う、うん……」
「じゃあ、また後で合流な!」

そのまま家まで歩き、玄関に辿り着く。
灯りの着いた家に入ろうとするも鍵が掛かって入れない。
インターホンを押して、声を掛ける。

「お父さん、お母さん、入れてください!」
『ふざけるなっ!こんな時間まで外に居やがって!お前は1日入ってくるな!』
「っ!?」

インターホン越しで相当怒っているのを実感し、ちょっと震えるも、絵美からの指示通りに封筒を開ける。

本当に彼らの言う通りになっていて凄いと思う。
封筒を開けると紙が入っていてそれを抜き取る。

『これを使って家に侵入してね!』

そして、封筒の奥にあったものに驚愕する。
それは銀色の小物が2つ出てきたであった。
その2つの内の1つが……。

「か、鍵?」

なんで絵美が私の家の鍵を持っているの?
意味がわからない。
震える手で鍵を回すと本当に扉が開く。

頭が混乱してきた。
あれ?なんで私こんなことをしているのだろう……。

「た、ただいま……」

そう言うと待ち構えていたみたいにお父さんが立っていた。

「おと……」

ーーパシッ。
また強いビンタを頬にくらい後ろに倒れ込む。

「お前という奴は……!?昨日父さんから鍵を盗んだのはそういうことか!?」
「し、しらーー」
「うるさいっ!」

パァァン!、と今までに1番強いビンタを食らって頭が真っ白になる。
そのまま、私の意識は暗い闇に落ちていく。





























「っ……」

あれ?
私何してたんだろ?

あぁ、そっか。
父さんに叩かれて気絶してたのか。

まったく、そんなに酷いことしなくても良いじゃん。
私だって友達と水着買いに行ったり、プール行ったりしたいよ……。

はぁぁ、やっちゃったなお父さん。

……え?
…………え?

やったって何?
……私は何をやったの?

「もうお父さん、……なんでこんなとこに寝て……」

私に寄りかかるお父さんをどかそうとすると、手に不快な液体が付着した。
ぬるっとした、鉄のにおい……。

あれ?
どうしてお父さんが血塗れになっているの? 
なんで、腹に何発もナイフで抉られたみたいな穴が空いてるの……?

「お、お父さ……」

腹が鮮血に染まっている。
そして、私の身体中は不快な液体でまみれていた……。


血血血血、血血。
血、血血血。

「い、イヤァアアァァァ!?いやあぁァァ!?」

わからない、何が?
どうしてお父さんが死んでいるの?

おか、お母さんは……?
どうなっているの……。

ねぇ、絵美。
明智さん……。

私の身に何が起きたの……?

部屋の奥を歩く。
おかしい、家に入る前には灯りが着いていたはず。

なんで、こんなに、家の外が暗いの……?

ずかずか入り込み、電気のスイッチを付ける。

その真ん中に、吊るされていた。

「おか、……お母さんっ!?ねぇ、何が……?何が起きているの!?」





















「やぁ、ようやく鳥籠が壊れたねおめでとう」
「え……?……あ、けちさん……」

誰も居なかったはずの玄関口の方から明智さんが拍手をしながらケラケラ笑いながらやって来た。
どういうこと……?

「あれ?全然嬉しくなさそうね?俺らめっちゃ急いで宮村さんの鳥籠をぶっ壊したんだぜ?なあ、絵美?」
「そうだよ、1ヶ月以内に鳥籠を壊したいっていうからせっかく急ピッチで永遠を解放したんだよ?」

絵美も明智さんと同じ場所からノコノコと歩いてくる。
まるですべてがこうなることが決まっていたみたいに。

「うそ……、うそ、うそ……?何これ?ドッキリ……?夢……?」
「真実」
「……絵美?」
「目を背けるなよ、永遠がお父さんを殺害したんだよ」


ーーーーー


私が、叩かれた最中、玄関にある小物をお父さんに投げつける。
そのまま走って逃げる。

「と、とわぁぁぁ!この親不孝者めっ!?」
「ひっ!?」

そのまま足を掴まれて倒れ込む。
お母さんは!?
お母さんはこの異常事態に何をしているのっ!?

そこに手に握られた銀色のものが目に入る。
ナイフだ。
さっき鍵と一緒に封筒に入れられていたナイフだ。
そのまま私はそのナイフを振り下ろす。

「…………」
「がっ!?とわっ!?……ッ!がっ、がっ!?」

無我夢中でナイフでお父さんの腹を抉る。
抉る。
抉る、抉る、抉る、抉る抉る抉る抉る抉る。


「はぁはぁはぁ…………」
「と、永遠……!?」
「お、お母さん……!?」
「大丈夫よ、全部お母さんが悪いことにするわ」
「え?」

そのままお母さんは居間まで走る音がして、椅子が倒れる音、縄の揺れる音がする。

そのまま、ゆっくりと私は、気を失っていく。


ーーーーー


「はははっ……、そうだ……。私がころ、したんだ……。ごめっ、なさい、せっかく2人がんば、……たのに……。でも、あれ……?なんで封筒にナイフなんか……?そんなのなければ……」
「そりゃあ永遠にお父さんを殺害してもらうためだよ」
「え……?」
「鳥籠を壊したいなら他人に頼っちゃダメ!自分の手でやらないとねっ!でもやりきった、偉いね、永遠」
「触らないでっ!?」

絵美がいつもみたいに抱き付いてこようとしたが跳ね返す。
明らかに絵美のニュアンスが意図的にそうなる誘導をしたとしか考えられない。

「おかしい!?こんなのおかしいよ!?仕組んだの……?ねぇ、どうして!?友達じゃなかったの!?」
「友達だよ。友達だから鳥籠壊しのお手伝いをしたの。これから毎日遊べるね永遠」
「無理よ、……私、逮捕されるよ。遊びどころじゃ……」
「じゃあこんなのはどうだ?【母親が父親を殺害した。母親は殺害後、自殺をした。そう思い込むんだ一生な】【母親による父親殺害の現場を一部始終目撃した】【母親にも襲われそうになったが、そのまま母親はお前を見て首を吊って死んだ】【この現場にいた生存者は宮村永遠のみ。明智秀頼、佐々木絵美は現場に不在だった】」

畳み掛けるように知らない記憶が次々と捩じ込まれていく。
私の記憶が捏造される。
おかしい。
記憶が、ぐちゃぐちゃにされる。
脳がおかしい、立っていることすらできなくなり、床に膝を付いてしまう。

なんでお母さんが突然お父さんを殺したの?
あれ?私は一体誰を殺したんだっけ?

「【証拠を全部隠滅しろ、中学校入学時から今日まで関わった生徒による記憶をすべて忘却させろ】」

私が楽しかった、虹色に輝いていた思い出が一瞬にして消えていく。

絵美と出会い。
十文字君と出会い。
理沙と出会い。
円と出会い。
谷川さんと出会い。



そして。
私にはじめて声をかけて笑ってくれた明智さんと出会った記憶がすべてデリートされた……。
















「さようなら鳥籠の少女。今回は中々楽しい茶番だったよ」

知らない男の声が1つ過った。

















鳥籠は破壊された。
そして、鳥そのものも羽根をもがれてそのまま死んでいった。



















ーーーーー


「ん?……なんだったんだろう、あの夢……?」

とても、とても大事な夢を見ていた気がする。

輝いていた夢であり、とても悲しい夢。
私のすべてが踏みにじられたようなそんな悪趣味な夢。

『永遠、起きなさい!朝よー!』

お母さんの声を聞いて酷く安心する。




鳥籠の中の人生はまだ終わらない。

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