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第3章 賑やかし要員
13、豊臣光秀の母
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電車を乗り継いで、目的地の住所をさまよう。
スマホのアプリで検索して、すぐに豊臣君の家を見付けた。
インターホンを押すと、女性が中から出てきた。
おそらく豊臣君のお母さんである。
「は、はじめまして!来栖由美と言います。豊臣……光秀君のクラスメートです……。お、お線香をあげにきました……」
「そう。いらっしゃい。光秀も喜ぶわ」
「お邪魔します」
悲しくて、本当は部屋で泣きじゃくりたい。
でも、現実に向かい合わないといけない。
始めて訪れた好きな人の家。
でも、そこに彼だけが居ない。
お線香をあげて、お参りをする。
豊臣君が亡くなったことをようやく現実として向き合えた気がする。
やることも終わり、帰ろうとすると豊臣君のお母さんに引き留められた。
「来栖さん、少しお話をしてくれないかしら?」
「は、はい……。私なんかで良ければ」
「あなただから良いのよ。光秀にお線香をあげにきた同世代の子は来栖さんが唯一だったから」
「そ、そうですか……」
豊臣君は浮気とか、別に他に好きな子がいたわけではなかった。
私が、夏休み中ずっと勘違いしていたと安心感を得た。
「光秀が、好きな子がいるって言っていて。来栖さんを見てもしかしてと思って」
「はは、そうなんですね……。私も豊臣君が好きでした……。ごめんなさい間違えました、大好きです」
そう言うと豊臣君のお母さんは嬉しそうに笑い、泣き出した。
「あの子、自分の生き甲斐だった剣道ができなくなって脱け殻みたいな日々を送っていたの」
「わかります。……豊臣君を惚れた切っ掛けは剣道でしたし、その後のケガの時は輝きを失っていましたね……」
「でも、そこであの子が立ち直れたのは1人の女の子が切っ掛けだったみたいなの」
「え……?」
豊臣君が再び明るくなったのは、時間が解決したものかと思っていた。
落ち込んでいた時期も短かったので、あんまり未練がないんだとそんな風に見えていた。
「病弱なんだけど毎日学校来ていて楽しそうに笑っている女の子の強さが輝いていて、美しくて、格好良いとか言い出したのよ」
「そんな……」
豊臣君からは同じクラスになるまで認識されていないと思っていた。
だって、立ち直ったのは去年の出来事で……。
「『剣道ダメになったから違うことするわ!モテる趣味なんだと思う?』とか普通親に言わないでしょそんなの。私が『ギターか手品じゃない?』とか言うと『じゃあ手品覚える』とか言い始めて……」
辛くなったのか、ハンカチを取り出し涙を拭く豊臣君のお母さん。
「あの子は、あなたに手品を見せられたでしょうか?」
「見ました。魅入ってしまうくらい格好良かったです。私、はじめて剣道部で豊臣君を発見した時から気になっていて。いつの間にか好きになっていて……。もっと早く、気持ちを伝えて彼女になりたかったです……」
やり残したことばっかりになった学校生活。
私はもう心の底から笑えそうにない。
ーーーーー
『なぁ、俺さ豊臣の葬式に出たんたけどすげーかわいそうなこと聞いたんだわ』
『お前、小学生の時からの友達なんだったな』
学校の廊下で豊臣君に関する話題の雑談を耳にする。
豊臣君の友達については認識ないけど、葬式に出たのなら仲良かったのだと思う。
本当にたまたま耳に入っただけだった。
こんな会話、本当は聞かない方が良いのに、耳をすまして聞いてしまった。
ーー激しく後悔をすることも知らずに。
『もしかしたら受け身さえ取れていれば助かったかもしれないって診断されたらしい。……酷い話だよな、豊臣自分の肩より上に腕伸ばせなかったのによ』
『うわー……、ケガしてなければ助かってたかもしれんのか。可哀想だな』
……え?
スマホのアプリで検索して、すぐに豊臣君の家を見付けた。
インターホンを押すと、女性が中から出てきた。
おそらく豊臣君のお母さんである。
「は、はじめまして!来栖由美と言います。豊臣……光秀君のクラスメートです……。お、お線香をあげにきました……」
「そう。いらっしゃい。光秀も喜ぶわ」
「お邪魔します」
悲しくて、本当は部屋で泣きじゃくりたい。
でも、現実に向かい合わないといけない。
始めて訪れた好きな人の家。
でも、そこに彼だけが居ない。
お線香をあげて、お参りをする。
豊臣君が亡くなったことをようやく現実として向き合えた気がする。
やることも終わり、帰ろうとすると豊臣君のお母さんに引き留められた。
「来栖さん、少しお話をしてくれないかしら?」
「は、はい……。私なんかで良ければ」
「あなただから良いのよ。光秀にお線香をあげにきた同世代の子は来栖さんが唯一だったから」
「そ、そうですか……」
豊臣君は浮気とか、別に他に好きな子がいたわけではなかった。
私が、夏休み中ずっと勘違いしていたと安心感を得た。
「光秀が、好きな子がいるって言っていて。来栖さんを見てもしかしてと思って」
「はは、そうなんですね……。私も豊臣君が好きでした……。ごめんなさい間違えました、大好きです」
そう言うと豊臣君のお母さんは嬉しそうに笑い、泣き出した。
「あの子、自分の生き甲斐だった剣道ができなくなって脱け殻みたいな日々を送っていたの」
「わかります。……豊臣君を惚れた切っ掛けは剣道でしたし、その後のケガの時は輝きを失っていましたね……」
「でも、そこであの子が立ち直れたのは1人の女の子が切っ掛けだったみたいなの」
「え……?」
豊臣君が再び明るくなったのは、時間が解決したものかと思っていた。
落ち込んでいた時期も短かったので、あんまり未練がないんだとそんな風に見えていた。
「病弱なんだけど毎日学校来ていて楽しそうに笑っている女の子の強さが輝いていて、美しくて、格好良いとか言い出したのよ」
「そんな……」
豊臣君からは同じクラスになるまで認識されていないと思っていた。
だって、立ち直ったのは去年の出来事で……。
「『剣道ダメになったから違うことするわ!モテる趣味なんだと思う?』とか普通親に言わないでしょそんなの。私が『ギターか手品じゃない?』とか言うと『じゃあ手品覚える』とか言い始めて……」
辛くなったのか、ハンカチを取り出し涙を拭く豊臣君のお母さん。
「あの子は、あなたに手品を見せられたでしょうか?」
「見ました。魅入ってしまうくらい格好良かったです。私、はじめて剣道部で豊臣君を発見した時から気になっていて。いつの間にか好きになっていて……。もっと早く、気持ちを伝えて彼女になりたかったです……」
やり残したことばっかりになった学校生活。
私はもう心の底から笑えそうにない。
ーーーーー
『なぁ、俺さ豊臣の葬式に出たんたけどすげーかわいそうなこと聞いたんだわ』
『お前、小学生の時からの友達なんだったな』
学校の廊下で豊臣君に関する話題の雑談を耳にする。
豊臣君の友達については認識ないけど、葬式に出たのなら仲良かったのだと思う。
本当にたまたま耳に入っただけだった。
こんな会話、本当は聞かない方が良いのに、耳をすまして聞いてしまった。
ーー激しく後悔をすることも知らずに。
『もしかしたら受け身さえ取れていれば助かったかもしれないって診断されたらしい。……酷い話だよな、豊臣自分の肩より上に腕伸ばせなかったのによ』
『うわー……、ケガしてなければ助かってたかもしれんのか。可哀想だな』
……え?
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