上 下
26 / 136
第3章 賑やかし要員

8、豊臣光秀のケガ

しおりを挟む
豊臣君へお礼を言って1ヶ月後、それは突然だった。

「……豊臣君」

しばらく学校を休んでいた豊臣君。
私の病弱が彼に移ってしまったのか焦ったけど、そうではなかった……。

「豊臣君、退部したんだ……。もう剣道自体ができない……」
「…………」

豊臣君は、生き甲斐だった剣道ができない身体になった。
痛々しい包帯が視界に嫌でも入るし、豊臣君の生き生きした目の輝きが完全に失われた。

「どうしてこんなことに……?」
「表向きは部活でのケガになってる。でも、本当は……」
「本当はなに?おかしいよね、こんなの!?」
「新しい部長らに右肩を潰された。活躍全部かっさらう豊臣君に部長らは恨んで故意的にドアで肩を潰した。もう肩より上に腕が上がらないんだって」

病弱な私ですら簡単にできることが豊臣君にはできない。
そんな、ショックな話ある?

「……、なにそれ?雑魚なのが悪いんじゃん。豊臣君の将来を潰して良い理由にならないよね?しかも、なんで部長らは咎められないの?」
「こんなのバレたら部活が廃部になるか、活動停止になる。彼、部活を守るために真実を語らないんだよ」
「潰れろよ、剣道部……」
「その発言、私にも剣道するなってことよ」
「…………ごめん」
「見殺しにしている私も最低だよね。でも、豊臣君は『俺のぶん頑張って大会で結果残して欲しいから、俺の不注意でケガしたことにする』って言い残した。あいつの意思で黙ってるんだよ」

豊臣君が剣道をしている姿を数回しか見たことなかったけど、彼の動きが格好良かった。
その勇姿が見れないことに私も深く落ち込んだ。

しかし、時間は流れていくもの。
徐々にではあるが、豊臣君は明るさを取り戻す。
剣道が出来ないけど、違う生き甲斐を見付けたのかもしれない。

そして、春になり。
私は豊臣君と同じクラスになった。


ーーーーー


「ほら見ろよ、豊臣!このグラビア!おっぱいやばくね?」
「バカ、このアングルに注目するべきは腋だよ腋」
「ふぁー」

年相応の豊臣君も素敵っ!

「いや、そうはならんでしょ!」
「え?」
「豊臣君、めっちゃ腑抜けたじゃん……。剣道一筋の糸が切れて、キモオタになったし……。格好良さ全部消えたよ」
「うわー、剣道部残してもらってる分際でなんか言ってる……」
「あんた、豊臣君が落ちぶれていくと共に口悪くなったわね……」

同じクラスになったものの、豊臣君に話しかけられない毎日が続く。
時折目が合っても私から離してしまう。

「よし、今日は席替えをするぞー!」

担任の先生の発言にビビンと電源が走る。
これだ!
私がくじ引きで豊臣君の隣を引き当てれば良いんだ!

「これだーっ!」

そうです。
これで豊臣君の隣を引き当てたんです!














「ごめんねぇ、由美」
「うわぁぁぁぁぁん!」

美奈子の隣が豊臣君の席でした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

愛されなかった私が転生して公爵家のお父様に愛されました

上野佐栁
ファンタジー
 前世では、愛されることなく死を迎える主人公。実の父親、皇帝陛下を殺害未遂の濡れ衣を着せられ死んでしまう。死を迎え、これで人生が終わりかと思ったら公爵家に転生をしてしまった主人公。前世で愛を知らずに育ったために人を信頼する事が出来なくなってしまい。しばらくは距離を置くが、だんだんと愛を受け入れるお話。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~

りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。 ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。 我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。 ――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。 「はい、では平民になります」 虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。

処理中です...