ギャルゲーのヘイトを溜めるクズでゲスな親友役として転生してしまいました。そして主人公が無能すぎて役にたたない……。

桜祭

文字の大きさ
上 下
9 / 136
第2章 禁断の恋愛

2、『アンチギフト』

しおりを挟む
「よぉ、お前いつも独りで行動してるけど何してんのっ!」

小学校の入学から数日後、いつも暇して眠る振りをしている俺に興味を持ったバカみたいな男がやって来た。
友達ができないとかどうでも良い。
俺のギフトさえあればどんな奴ですら、意思を絵美みたいに曲げることができるのだから。

「うるせぇな……、【自分の席に戻れよ!】」
「そんな冷たくするなって。お前、顔かっこいいのにもったいねーぞ」
「あ?」

ギフトの能力『命令支配』が効かない!?
おかしい、確かに俺はこの男に能力を使用した筈。
まさか、能力が効かなくなる回数制限とか存在するのか?

「おい、ちょっといいか」
「え?どうしたんだい明智君?」

慌てて近くを通りかかった男を呼び止める。

「【目の前の男を席に戻らせるように説得してくれよ】」
「ほら、明智君迷惑してるでしょ。席に戻ろうよ十文字君」
「いいじゃん、いいじゃん。俺、こいつとだけまだクラスで喋ったことないんだもん」
「でも迷惑してるしさあ」

おかしい、確かに発動はしている。
効果が無くなったという意味ではなさそうだ。

「【いや、いい。もうどっか行っていいぞ】」
「……」

目の前の男を説得する素振りを失い、通りかかった男子生徒はそのままどこかへ歩いて行った。

「チッ……、【俺に1000円渡せ】」
「ちょ、いきなりカツアゲは酷いっての!面白いなお前」
「……」

何が面白いもんだ。
こいつ無自覚だがギフトの能力が効かない!?
2度連続も動かないということはそういうことなのだろう。

強いていうなら『アンチギフト』という能力だろうか。

「へえ、面白いなお前」
「お前には負けるって」

お互いに『ははは』と笑い合う。

「なあ、俺と友達になってくれよ」
「おお、さっきまでめっちゃ拒否ってたのに。いいぜ、これから俺らは友達だ!俺の名前は十文字タケルな」
「明智秀頼だ、よろしくタケル」

ああ……。
つまんねえと思ってた学校生活も楽しくなってきたじゃねーか。

このギフトが効かない男の人生を俺のギフトで滅茶苦茶にしてやりたい。
俺のギフトが効かない、こんなに俺のプライドがズタズタにされたこと、これまであったかよ!

せいぜい、楽しませてくれよ。
自称友達君(笑)。


―――――


「はあはあ……」

定期的に俺は、秀頼本人の夢を見る。
今回は俺とタケルとの出会いの話であった。

ゲーム本編で、タケルとヒロインの人生を滅茶苦茶にする惨劇の序章。
この邂逅さえ起こらなければ、『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズの事件は発生しなかったかもしれないのに……。

本当に十文字タケルという男は無能である。
ファンの間でも、タケルという男の役立たず振りは異常と呼ばれる。
明智秀頼に話しかける。
自分から災害を呼び寄せるなんて、なんてことを仕出かしてくれたんだ……。

明日から小学校入学が始まる。
多分原作通りであるならタケルと俺は同じクラスになる筈だ。


―――――


「秀頼君、最近元気がないよー」
「わかるか……?」
「わかるよ」

明日を入学に控えて、絵美が当然の様に俺の家に居座っていた。
3日に1回くらいのペースで会っている気がする……。
絵美のお母さんからも『仲が良いのねえ』なんて微笑ましい目で見られていてめっちゃ恥ずかしい……。

「学校生活不安……?」
「不安だよ……」
「わたしも不安だなぁ……。秀頼君と違うクラスだったらなと思うと眠れなくて」
「しょーもないなお前……」

こっちは10年後の命の危機を回避させるために悩んでいるのに、そんなくだらないことで悩む絵美に驚いた……。

「しゃーもないは酷いよ秀頼君!だって違うクラスってことは、違うクラスってことだよっ!」
「そりゃあね。何を言っているんだお前は……?」

『リンゴの皮が赤いってことは、リンゴの皮が赤いってことなんだよ!』と同意義なことを言われると俺もなんて返したらいいのかわからない。
絵美のその辺の語彙力はまだまだ子供だと思う。

「最近気付いたんだけど、秀頼君はわたしのことを全然大事にしてくれないよね!おこですよ、おこ」
「そんなことないさ。絵美が大人になっても結婚相手が居なかったら俺が結婚してやるよってくらいには大事にしてるさ」
「え?本当?じゃあ今、結婚しよう」
「今は年齢的に無理でしょ……。大人になる頃には……」

『……お互い死んでないといいな』、と言ってしまうところだったのをグッと飲み込んだ。

「……絵美にも運命的な出会いが待っているさ」
「…………きちゃったよ」
「何が?」
「なんでもないよ!」

絵美はおませさん的なところがある。
俺が恋愛ゲームをよくプレイしているせいなのか、絵美もまだまだ若いのに恋愛の話になるといつもより饒舌になる。

おそらくだけど俺とタケルが同じクラスになるのは確定しているんだよなぁ……。
もしかしてタケル×絵美というカップリングも生まれたりするんだろうか?
セカンドの没案では絵美も昇格ヒロインの予定があったとか確かビジュアルファンブックにそんなことが記載されていた気がする。

ユーザーが望んでいなかったこと、スタッフが絵美を嫌いだったこと。
この2つが重なり絵美の昇格ヒロインに格上げされるどころか、セカンドでは絵美の登場すらカットされる事態に発展する。

ついでにセカンドでも秀頼は当然の様に続投である。

「……なんか秀頼君ってわたしに隠してることあるよね?」
「そうか?」

バチバチに隠してることだらけだけどね。

「言いたいことがあるならハッキリ言ってよ」
「そうだな……」

とりあえず、この世界の神様である製作スタッフに嫌われない様に過ごせとか言いたいけど、通じるわけないしなぁ……。

「学校に通っても人に酷いことをしたり、泣かせたり、裏切ったりするのはやめておけよ」
「秀頼君はわたしをなんだと思ってる?そんなにわたしってクズゲスな人間かな?」
「冗談だよ」

俺に操られていたとはいえ、全部絵美がやらかしたことだからな。
ゲームの強制力や運命力でそんな事態にならないことを祈るばかりだ。

「ところで……、秀頼君のアレみたいなー」
「アレ?」

凄い嫌な予感がする……。

「もう1回ギフト!『手品』のギフトが見たい!」
「……おう。……なんで?」
「秀頼君が……、運命的な出会いとか言うから……」
「?」

それがなぜギフトに繋がるのかよくわからないが、見たいのであれば見せてやるか。
定期的にギフトを使わないと、俺の『命令支配』の能力が消えていたなんて自体に気付かないとかになったらヤバイしな。

「では、今日はビー玉を使います」
「待ってましたー」
「ちゃらりらりー」

セルフBGMを口ずさみながら、ビー玉を手に握り指で隠す。

「では、これよりこの手の中に収めたビー玉を消しゴムに変えていきます」
「そんなの無理だよー」
「ではいきますよ、ギフトを使っていきます。ちゃらりらりー」

同じセルフBGMを口にしてから、すぐに絵美にギフトの能力を掛ける。

「【今この瞬間から、俺が『OK』と口にするまでの時間の間の記憶を全て忘れろ】」
「……」

絵美の目が虚ろになる。
すっげー罪悪感がある。
とにかく急いで仕込みを終わらせるか。

ビー玉を絵美のポケットに仕舞い込み、机の上にある新品の消しゴムを掴み手に握る。

「【OK】」
「ッ……。えー、本当にビー玉が消しゴムに変わるわけないよー」
「もう変わってるぞ」

そう言って、ビー玉を握っていた手を離すと中から新品の消しゴムが出てきた。

「ええ!?ウソ!?なんで!?ビー玉は!?」
「じゃあビー玉は絵美のスカートのポケットにワープさせます」
「それは無理だよー」
「もうワープしたぞ」
「えー……、そんなわけ……あった!あったよビー玉!」

『命令支配』のギフトを『手品』のギフトを言い張る罪悪感がとても凄い。
絵美を廃人にさせることも可能であるのだからむやみやたらに使うべきではないな。

「てじなーにゃ」
「なにそれ?」
「……」

やはり伝わらんか……。
ジェネレーションギャップというものがヒシヒシと伝わってくる。

「すごい、すごーい!秀頼君は魔法使いみたいでカッコイイ!!」
「へ、へへーん」

魔法使いというかやってることは呪いに近いものだけど……。

「この消しゴムとビー玉貰っても良い?」
「あ、ああ。……いいよ」

新品の消しゴムは俺が学校で使う用で持っていかれると困るものだが、『命令支配』を掛けたという罪悪感がそれくらいは許してしまおうという結論になってしまう。
俺は絵美に優しくし過ぎてしまうな……。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故

ラララキヲ
ファンタジー
 ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。  娘の名前はルーニー。  とても可愛い外見をしていた。  彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。  彼女は前世の記憶を持っていたのだ。  そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。  格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。  しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。  乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。  “悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。  怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。  そして物語は動き出した…………── ※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。 ※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。 ◇テンプレ乙女ゲームの世界。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

処理中です...