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第1章 覚醒

3、公園に現れた女の子

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確かに叔父は殺害してしまっていたかもしれないが、前世の記憶を思い出してしまった以上人殺しなんかできるわけもない。
姿形は秀頼になっていても、心は前世の俺である。
小心者であった俺は、ゲーム本編の秀頼みたいに好き勝手できるほどの度胸はない。

「た、対策を打たねば……」

ノートとペンを取り出し、『悲しみの連鎖を断ち切り』の情報を思い出しながら紙に書きまくった。
目下、ゲーム通りにならないためには……。

「ゲームのキャラと出会わなければ問題はないか!」

ゲームの主人公である十文字タケルをはじめ、ヒロインの名前も憶えている。
大丈夫だ、俺はゲーム本編をなぞらないでギフトの力を利用しつつ楽に生きていくんだ!

こうして俺は、ここがゲームの世界だという興奮と、自分が秀頼になったことにより死ぬ運命が待っているのではないかという恐怖の2つがせめぎ合いロクに眠れなかった。


―――――


「おはよう、秀頼」

次の日の朝、おばさんが起きた俺を出迎えた。
いつも俺の姿を不機嫌な顔で見ている叔父の姿がなかった。

「なんかあの人、昨日から変なのよ……。今日から働きに出るとか言い出して朝から職探しに行ったわ」
「心を入れ替えたんですよ。俺が説得しました」
「え?そうなの?」
「うん。【あと、この話は終わりにしましょう】」

『命令支配』を使い、会話を打ち切った。
ボロを出して、俺がギフトを授かったと知られたら面倒になる。
この世界でのギフトに対しての扱いは尊敬の目と、畏怖の目のどちらの目でも見られる。
実際にギフトの能力に苦しむヒロインとかも出てきては秀頼の毒牙に掛かって不幸な目になるルートとかもあった筈だ。

ただ、ギフトの有無以外は、前世とはあまり変わらない感じのする世界である。

「そういえば、今日ようやくお隣さんが引っ越ししてくるのよ」
「へえ」

お隣さんねえ。
もしこれがギャルゲーの主人公ならヒロインが隣に住むことになるベッタベタな王道展開になるであろう。

しかし、残念ながら俺はクズでゲスな親友役。
ヒロインに嫌われることはあれど、好かれるなんてことはないだろう。
前世の年齢=彼女いない歴で死んだ俺を思い出し、一人でダメージを受けた。


―――――


おばさんの元を離れて近所の公園へ来ていた。
俺は保育園や幼稚園にも通っていない。
理由は当然叔父のせいである。

そして、来年から小学生に上がる。

「こんな子供にギフトを授けるとかこの世界はさぁ……」

『人を自由自在に操る』なんて能力を子供が身に付けてしまうのは教育上良くないよ。
人を操るということは、世界を操ることも簡単になる。

この国のトップに対して【俺にその座を譲れ】と一言口にするだけで叶う危険な力。

あれ?逆に主人公の周りを不幸にする程度で済ませていたゲーム本編の秀頼が常識的なんじゃないかとか思い始めてきたぞ……。

ブランコに揺られながら空を見つめる。
前世の空と同じ青い色を見つめたまま、このまま普通の人生を歩めるようにと祈っておく。

『あ……、こんにちは……』
「ん?」

突然挨拶の言葉が投げ出された方向に目を見やると、1人の女の子が立っていた。
左目の下に小さい黒子があり、髪を左右に結ばれたツインテールにした幼い女の子であった。
まあ、幼いのは今の俺もそうなのだが……。

「こんにちは」

いやあ、女の子は可愛いねえ。
前世のガキの頃には、女子と話すのは恥ずかしいと、ずっと男子同士でサッカーとかドッジボールとかしていた頃が懐かしい。
如何に早く女子を射止めることができるかを子供は考えるべきだったなと、成長してから痛感するのである。

「ブランコですか?」
「ブランコは遊具の名前であって、俺はブランコではない」
「でも、ブランコで遊んでます」
「なんでもいいや」

子供だからよく言葉が通じていないが、まあなんでもいいや。
女の子は俺の隣のブランコに座り始めた。

「ブランコたのしーです!」
「いや、今座ったばかりで面白くもなんともねーだろ!」

子供の感性がよくわからな過ぎて突っ込んだ。

一応警戒をして、このブランコに座っている女の顔をよく見てみる。
泣き黒子という要素がいかにもヒロインっぽい感じがするではないか。
俺も大好きだし、泣き黒子キャラ。
男が泣き黒子キャラだと『わかってねーな……』とため息が出る。
泣き黒子は女キャラだからこそ映えるんだというこだわりを持つ俺である。
前世の俺の持論である。

しかし、『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズのヒロインにおいて泣き黒子ヒロインは皆無だった筈。
つまり、俺のフラグとは無関係の人間で間違いないだろう。
昨日の今日だが、本編が始まるまでまだ10年もある。
そんなギフト覚醒の次の日にゲームキャラとの遭遇とかあるわけないよな。
驚かせやがって。

「ブランコの字面ってブラコンみたいだよな」
「ブラコン……?ブラ?」
「通じないか……」

ブラで止めるのはやめて欲しいものである。

「漕がないとブランコは面白くないって」
「こぐ?」
「ほらこうやって」

俺が見本を見せる感じでブランコに勢いを付けて揺らす。
ここ何年もブランコなんて乗っていなかったが、久し振りに乗ってみると楽しいもんだ。
風を直接受ける感覚が気持ち良い!

「おお!たのしー!」
「いや、だから君は楽しくないでしょって……。君もやってみな。足を動かしてブランコを漕ぐんだ」
「う、うん。と、とおっ!」

ブラブラっと10センチ程度揺れている。

「たのしー」
「なんでも楽しいんだな……」

子供の感覚がわからなくなる。
なんでもかんでも楽しいと思える感性がなくなり、俺もついにおっさんの一歩を歩み始めているのかもしれない。

「次あれ、次あれ!」

女の子が滑り台を指した。
どうやら次は滑り台に興味を示したのであった。
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