児童養護施設〜光の家〜

ほたる

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かくれんぼ

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吸入が終わり近くを通りかかった女性職員の水田先生に声をかけ職員室を出た。
夕方から晩御飯までは、職員が幼児達のお風呂や夕飯作り、それから宿題を見たり遊びに付き合ったりと忙しく動いているため必然的に職員室の周りは手薄になる。
物陰に隠れるようにして職員室から離れた。

鷹木先生は別宅に行ったのか、職員用の下駄箱には内履きが置いてあった。
光の家の別宅は、ここよりもうんと少人数の子供たちが生活していて、精神的なダメージを抱える子や大人数に馴染めない子がいる建物だ。
本宅のここは学校のように広く大きいが、別宅は一軒家のような建物で、今は7人の子供たちと職員が3人住んでいる。

俺は隠れ場所を探して洗濯室に来た。
ここはお風呂場から近いが、今の時間帯はほとんど人が来る事はない。
昼過ぎに乾燥機から洗濯物を回収した後は、小中学生のお風呂が終わる8時以降に次の洗濯物を洗う。
たまに個人で洗っている高校生が来るけど、まだ帰って来てないため隠れるには最高の場所だ。

ドアを開けると乾燥機の熱気が抜け切っていないため少しむわっとした湿度を感じた。
5台の洗濯機と3台の大型乾燥機が置かれた洗濯室は、洗剤や柔軟剤のいい匂いがしている。
部屋の隅に置かれた丸椅子に座り、窓から入って来るそよ風を受け少し微睡む。
小学生が野球をしているのか、バットにボールが当たる音が聞こえる。

ガチャ……

「うおっ…と、ビビったぁ……來、何してんだ?」

高校生のてるあきが、洗濯物を抱えて入って来た。

「しっ!…早くドア閉めて!」

「…誰も居ないと思って来たら、お前が居るからビビったわ。珍しくね?こんな所にいるの。」

「……そーいう気分だったんだよ。それよりてるくん学校から帰って来るの早いね。」

「あ~…。まぁな?さっきまで児相の面談があったからな。…児相と面談した所でなんの解決にもならねぇんだけどな。アイツらは上辺だけしか知らない。」

「…………」

それは俺にも分かる…。
一緒に生活している職員ですら、信頼できない所があるのに児相の人は、年に数回しか会わない。
それなのに面談として困ってる事がないかと聞いてくる。
でも…その困っている事を相談しても一緒に生活して居ない児相の人間に本当の事は分からないだろって事だよな…。
だからこそ児相は信頼できない。

「……來は、また里親が見つかったらその家庭に行くか?」

「行かない。俺は前回でもう懲りたよ。」

「そっか…。後2年…俺はどう過ごせばいいんだろうな。」

「ここ出た後は一人暮らし…それか社員寮がある会社に就職出来ればいいよな。」

「……なるほどな。お前、しっかり将来の事見据えてんだな。」

「まぁ…それなりに。」

「少し気持ちが軽くなったわ。サンキューな。」

洗濯物を回して、てるあきは洗濯室を出て行った。
この時期は、新生活が始まった事もあり、児相が度々児童の面談にやって来る。
その事で逆に悩まされている子供も少なくはない。
面談をする事で良くも悪くも、現実を直視させられるからだ。
光の家で生活している子の多くは、長期休暇に親元に帰れる。
だけど俺やてるあきのように親と疎遠の子は、里親の元へ行くか独り立ちする。
普段は考えないようにしている事を児相は聞いて来るのだ。
それが児相の仕事だから仕方ないけど、俺らは古傷を抉られるような気持ちになる。


ガチャ……

静まり返った洗濯室のドアが再び開いた。

「來、注射するぞ。」

「うわっ!工藤先生…見つけるのはぇーって。」

「さっきてるが教えてくれたからな。」

「……マジか。」

確かに口止めはしてなかったけど…。
注射が嫌でここに隠れてるって、知らないんだから仕方ないか。

「注射が終わったら排尿も済ませとこうか。今日の夜は映画鑑賞会あるぞ。」

「よっしゃ!早めに風呂入っとかないと!何観るって?誰のリクエスト?」

「なんだったかなぁ…。後でプレイルームで確認しといて。」

「…知らねぇーのかよ。」

映画鑑賞会は夕飯後に度々開催されていた。
月一の外出しかできない光の家では、なかなか映画館に行く事ができない。
そのためリクエストを募り、その中の1作品をポップコーン片手にみんなで観るのだ。
中には新作の物もあったりして結構楽しい。


職員室に連れ戻された俺は、再び鷹木先生の前に居た。

「どこでかくれんぼしてたの?」

「……洗濯室。」

「そっか。暑くなかった?」

「ちょっと蒸し暑かった。」

ベッド周りのカーテンを閉めて、鷹木先生と雑談しながら、工藤先生にTシャツを脱がされ、上半身裸にされた。

「來、ここ寝て。」

工藤先生がベッドに座り膝に寝そべるように指示してくる。

「…見える所に打てないの?」

「背中は怖いよね。だけど腎臓に打つお薬だから、背中に注射させてね。」

後退る俺を鷹木先生がひょいっと抱え上げると、工藤先生の膝にうつ伏せで寝かせ、バタつかせ抵抗していた両足も身動きが取れないように抑えられた。

「やめろ!離せって!」

「背中冷たいよ。」

消毒液の染みた脱脂綿を腰の少し上辺りで滑らした。

「來、チクッとするよ。」

その言葉に上半身を抑える工藤先生と足を抑える鷹木先生の力が強くなる。

「っっう"…ぃッッてぇ!痛ぇぇ!!」

腎臓に向けて深く進んで来る注射針。
襲って来る激しい痛みに腰を捩って逃れたいのに2人の拘束の力の方が勝っていて、少しの身動ぎも許さない。

泣きたくねぇのに…。
ポタポタと涙が床に落ちていく。

「お薬入るよ。」

ググッと押される痛みから、薬が注入され熱いような痛みが広がる。

「ぅぅ゛……ッ!待って!待って!」

「どうした?もう少しで終わるからね。」

俺の叫びも虚しく拘束が解かれる事はない。
注射の痛みに耐えようと、体にめいいっぱい力を入れていたため下半身がじわじわと湿っぽくなっていく。

最悪だ…。
導尿しないと出なくなっていたのに漏れた。

「…ぁ、後で着替えような。」

それに膝の上で俺を抑えていた工藤先生が気がついた。
注射器を抜き止血されている間に頭を撫で宥めてくれるけど、注射の痛みよりも失禁してしまった羞恥から涙が止まらなかった。

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